殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#129 強固なプライド

 

 

 

 

 

 ――――エンジェルから体の主導権を変わって繁華街を小走りで進む俊介。

 

 

 走る方向はエンジェルが厭勝を殴り飛ばした方角。

 エンジェルがモロにパンチをぶち当ててしまったということで、念のため厭勝が死んでいないかを確認するために追いかけているのだ。

 

 しかし北区から出て、繁華街の中央に位置する看守タワーを越えても厭勝の姿は見当たらない。

 俊介は速度を少し緩めて横にいるエンジェルに話しかける。

 

「エンジェルお前、どんな力で殴ったんだよ……! 殺さないよう手加減したんだよな?!」

『軽かったものですから……つい……』

 

 彼女の言葉は半分ホントで半分嘘である。

 厭勝の体が軽かったのは事実だが、俊介がわりと苦戦させられた怒りで力を入れすぎてしまったのだ。

 しかしそれにしたって吹っ飛びすぎだろう、とは彼女自身も思っているが……。

 

 そんな会話をしつつ走っていた時、俊介は周囲が見覚えのない景色になりつつあるのに気づき、足でブレーキをかけた。

 人気(ひとけ)が少ないのに異質な雰囲気を放ち、嗅ぎなれない臭いが漂うその場所。

 俊介は顔をしかめながら声を出す。

 

「おいおい、このままだと()()に入っちゃうぞ……」

 

 

 ――――『南区』。

 

 

 それは刑務所内の繁華街にある東西南北の区画で、唯一俊介が未だに立ち入ったことのない場所。

 

 比較的マトモな精神の囚人が集まるが、そのせいで裏組織のボス格が多く収監されるA棟。

 年齢が10歳前後、もしくはそれに相当する小さな体格の持ち主が集まるC棟。

 

 そして、精神に問題を抱えたいわゆる『()()()()』が集まるB棟。

 南区はそのB棟の出入り口と面した区画であり、必然的にB棟の囚人達が大量に集まる場所となった。

 

 重人格犯罪者が集まるこの刑務所で更に『ヤバい奴ら』が集まる場所だから、治安の悪さも折り紙付き。

 おかしな薬が普通に流通していたり、B棟の囚人が突然物陰から襲い掛かってくるのは日常茶飯事だそうだ。

 

 そして、南区にある食べ物を不用意に食べたりすると混ぜ物のせいで体が痺れたりするらしく。

 そうなると男の俺でもどうなるか分からないとジャンは言っていた。怖すぎる。

 

 ……そんな風に、とにかくヤバい噂にこと欠かないのが南区なのである。

 

 

 しかしジャンが言うに、南区で真に警戒すべきなのはB棟の連中ではなく。

 『魔法少女☆きゃるとる~ぜ』の『ライブ』に巻き込まれるのが一番危険なんだそうだ。

 

 一体そのライブがどんな内容なのかは分からないが、巻き込まれた者が生きて帰ってきたことはないらしい。

 B棟の囚人達は南区の構造を熟知しているので、ライブの範囲外の細道を通っているとのこと。

 

 

 知り合いにB棟の囚人がいれば道案内を頼むのだが、あいにくB棟の知り合いなんて存在しない。

 いや、よく考えればシスター・イートは知り合いと言えば知り合いだが……仲良く協力できるほどの関係性はまだ築けていない。

 

 つまり、南区に入るならきゃるとる~ぜのライブに巻き込まれる覚悟をしなければならない。

 

 南区の外からではライブが行われているような音はしないが、相手は魔法使いだ。

 魔法の効果でライブの外には声を漏らさないなんてことをしている可能性は十分ある。

 

(…………)

 

 エンジェルが厭勝を吹き飛ばしたのは確実にこの方向。

 そして今まで走ってきた道のりで厭勝の姿がなかったことから、南区に厭勝が落下したのはほぼ確実……。

 

 いや、どう考えても吹っ飛ばされすぎだろ。

 ……まさか自分から衝撃を逃すために後方に勢いよく飛んだのか?

 だとしても飛びすぎだけど。

 

(いやいや、こんなこと考えてる場合じゃない。厭勝がエンジェルの攻撃でホントに死にかけてる可能性もあるし……)

 

 ハッキリ言って厭勝は今まで見てきた人間の中でも最悪の部類に位置する悪人だ。

 殺人に対して一欠片の躊躇もなく、ダンク・パンカーズという人身売買組織を運営して数えきれないほどの人を不幸のどん底に叩き落した。

 そして最終的には夜桜さんまでその悪牙にかけようとした。

 

 ……徹底的に俺とは相いれない人間だ。

 

 しかし。

 たとえそんな悪人だったとしても。

 殺人鬼のみんなが俺の体にいる限り、人殺しはさせたくない。

 

 『殺人』というのは俺にとって絶対に越えてはならない最後の一線なのだ。

 

 その一線を越えるときは、もし越えてしまったときは、多分……。

 

 

 

「…………ふぅ。よし!」

 

 想像する価値もない未来を頭の中から振り払い、俊介は軽く頬を両手で叩く。

 そして腹の中で覚悟を決めてから、南区の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 ――――ABC棟の囚人全員が入り乱れる他の区とは違い、基本的にB棟の囚人しかいない南区はかなり寂れている。

 

 大通りに足を踏み入れると、腐臭の混じる冷えた空気が鼻を刺した。

 区画全体に木造の建物が並び、その殆どが建てられた当初の形を保っていない。痛々しく壁が崩れたものは序の口、酷い物では柱が崩れて完全に屋根が地面に落ちてしまっている。

 

 そして、建物の隙間に広がる暗がりの路地には更に異様な気配が漂っていた。

 全体的に黒ずんだ路地は、単に光が入っていないから薄暗いのではない。誰かが流した血の乾いた跡がびっしりと残っているせいで更に黒く見えるのだ。

 

 路地の入口傍には黒いゴミ袋が置かれており、そこからは強烈な腐臭が漂っている。

 袋の中身は予想できるが想像したくはない。

 南区全体に腐臭が薄く漂っているところを鑑みるに、至る所にこのゴミ袋が置かれているのだろう。……もしくは、ゴミ袋の中身がそのまま道に転がって腐っているかだ。

 

「……いやな場所だな……」

 

 半壊した建物の隙間や、路地の暗がり。

 そこから時々こちらを窺うような視線が体に刺さるのを感じるが、その方向に顔を向けるとすぐに視線が消える。

 

 もしかしてB棟の囚人達がこちらを襲おうと画策しているのだろうか。

 ヘッズハンターと同調しているおかげで勘が発達しているため襲われても大丈夫だとは思うけど、少し心配だ。

 

『一度闘技場で大暴れしたから警戒されてるのではないですか?』

 

 エンジェルがそっとそう言う。

 ……それもあるかもしれない。

 

 まあなんにせよ、あまり長居したくない雰囲気の場所だ。

 さっさと厭勝を見つけてしまおう。

 

 

 と、そんな風に考えながら小走りで進んでいたところ。

 完全に崩れて瓦礫と化した木造建造物の上で、厭勝が立っていた。

 

「っ!」

 

 血濡れになった囚人服の上着を脱ぎ、惜しげもなく自身の上半身を晒している。

 その整えられた上半身の筋肉は素人の俊介でも恐ろしい鍛え方をしているとすぐに分かった。陰影がクッキリと付いたその体を作ろうとするなら並大抵ではない努力が必要だろう。

 

 俊介は厭勝の体に瞠目しつつも、彼の右手に目を向ける。

 ……なぜか、厭勝の右手には男の囚人の首が掴まれていた。

 

「…………」

 

 厭勝は握力だけでゴキゴキと男の首の骨を砕く。

 白目を剥きながら口から血の泡を吹くB棟の囚人。厭勝が手を離すと、力なく地面に倒れ落ちた。

 医術の心得がない俊介でも一目で『死んだ』と判断できる傷だ。

 

 軽く息を吐いたあと、厭勝は俊介の方に心底苛立ったような視線を向ける。

 

「来ましたか。それにその目は……ふん、甘い宿主の方に戻ったようですね」

「……厭勝、その人は……」

「私がここに落ちた瞬間、襲い掛かってきたのですよ。結果は御覧の通りですが」

 

 そう言いながら厭勝は今しがた自分が殺した男の死体を蹴り飛ばした。

 死体はゴロゴロと転がり、ちょうど厭勝と俊介を挟む距離の中間あたりで止まる。

 

 

 厭勝はその死体に二度と目線を向けることなく、疲れの混じった息を吐きながら瓦礫の山から下りてきた。

 エンジェルの一撃はかなり効いたらしく、足取りが少しおぼつかなくなっている。

 

 そしてゆっくりと瓦礫から下りたところで、厭勝が口を開いた。

 

「ふーっ。それにしても……今日は実に、思い通りにいかない日です」

「…………」

「この刑務所に来てからというもの、ストレスが溜まることばかりですよ。その中でも今日は最悪です」

 

 爪を立てるようにカリカリと頬を掻く厭勝。

 次第に指の力が増していき、顔の薄い肌を爪が突き破って血が滲みだす。

 

「本当に、実に、死ぬほどッ!! …………不愉快ですよ」

「…………」

「私は苛立つのが嫌いでしてね。好きな人間もいないでしょうが。……こういう日は雨音のする静かな部屋で、一杯のコーヒーをもったいぶるように飲みつつ、言語学の本でも読みたいところですが……」

 

 頬から出た僅かな血を手のひらですくうように拭う厭勝。

 その血をワックス代わりに、乱れた髪の毛を再びオールバックに整えながら話しかけてくる。その顔にわずかな微笑みを携えて。

 

「ところで、言葉というのは覚えるとなかなか面白いですよ。あなたは何ヶ国語ほど話せますか?」

「……日本語だけだ。英語は高校レベルの読み書きしかできない」

「それはもったいない。私は言語を習得するのが趣味でしてね、既に100ヶ国語ほど話せるんですよ。まあスラングや訛りまで完璧なのは60ヶ国語ほどだけで、あとの40はビジネス会話が限度の簡単なものですが」

「100……!?」

 

 俊介があまりの数に声を漏らす。

 英語の習得だけでも頭を悩ませるほど大変なのに、それを軽く吹き飛ばすような圧倒的な数だ。それだけの言語を習得しているのなら世界中の何処でも大抵は話が通じるんじゃないだろうか。 

 

 その習得済みの言語数に俊介が驚くのも厭わず、厭勝は話を続ける。

 

「前の世界から好きなのですよ、色々な国の言葉を覚えるのが。だから『外交官』になった訳ですし」

「……え? 『()()()』?」

「この世界にもあるでしょう。私の世界のとは少し違いますが、大体同じようなものです」

 

 いきなり何の話だ?

 外交官って、まさか厭勝の前の世界の職業か?

 どうしてそんな話を突然始めたんだ……。

 

 そんな俊介の疑問を無視するように。

 髪を整え終え、手を下ろした厭勝が言葉を紡ぐ。

 

「こう見えて外交官としては優秀だったんですよ。25歳にしては破格すぎるほどの出世街道を歩ませていただきました」

「…………」

「しかしまあ優秀な分、私は外国を飛び回ってばかりでして。国に残してきた()()()に会えるのも年に数度だけと言った状況でした」

「……婚約者?」

「まだ片手で足りる年齢からの幼馴染ですよ。しかし私が国にいられる期間が短すぎて結婚式も挙げられず、25になっても籍を入れられなかったのですが……」

 

 と、そこで。

 厭勝が思い出したように言葉を付け足す。

 

「おっと、この国では役所に紙を出すだけで籍を入れられるんでしたか。文化の違いですね」

「……お前の世界ではそうじゃないのか?」

「ええ。私の世界では『結婚式』と『籍を入れる』のがセットでしてね。簡単なものでも式を挙げないと夫婦になれないのです。それだけ婚姻関係が重視されていまして、その前段階である『婚約』もかなり重い物でした」

 

 ……どうやら厭勝の世界では、この世界よりも婚姻関係が重要視されていたらしい。

 結婚式と籍を入れるのがセットというのはなかなか不便そうではあるが、それはこちらの世界の文化で育った俺の意見だ。

 厭勝の世界ではそれが当たり前なんだろう。

 

 それにしても……結婚式には家族とかを呼んだりするわけだろう。

 大々的に家族に結婚を祝ってもらったあと、もし離婚するとなったら、かなり気まずくなる気が……。

 それは邪推しすぎか。

 

 俊介がそう考えていると、厭勝が目を細めながら言葉を投げかけてきた。

 

「……色々考えているようですが、所詮二度と戻れない私の世界の文化ですよ。婚約ですらこの世界より重い物だとふわりと理解すれば十分です」

「あ、ああ」

「よろしい。まあそんな婚約者だったんですが……あれは半年ぶりに国に帰ったときのことです。なぜか()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね」

「…………は?」

 

 ちょっと待て。

 いきなり登場人物が増えた上にサラッととんでもないことをしていった。

 

 婚姻関係がとても重要視された世界で、ニートの弟が婚約者を奪うって……。

 それはかなりまずいことなんじゃないのか?

 話を聞いている限り、厭勝は婚約者に会う回数は少ないものの、エリート街道を先頭で走る公務員だ。それに地頭も引くほどいい。

 

 そりゃニートが悪いとは言わないけど、既に厭勝と結ばれた婚約を捨てるほどの魅力はない気もするが……。

 

「私の弟は、私に勝手に劣等感を抱いて不貞腐れる面倒な奴でして。私からは一切魅力を感じませんが、あの女には何か惹かれるものがあったのかもしれませんねぇ」

「…………」

「まあもっと驚いたのは……()()()()()()()()()に、弟と元婚約者が結婚式を挙げたことですがね。私の両親と相手の両親も参加していました」

 

 …………。

 明らかに何かおかしいだろ。

 婚姻関係が重要視された世界で、当人同士はともかく家族まで義理の欠いた行動を祝福するなんて……。

 

「なあ。こんなこと言いたくないんだけど……本当に婚約を結んでいたのか? 知らないうちに解消していたとか」

「そんなミスをするほど愚かではありません」

「……もしくは、元の世界からお前が人を殺しまくってたとか」

「殺すのは()()()なので、それもありませんね」

 

 『今から』、か。

 話の流れからなんとなく予想はしていたけど……。

 

「まあお察しの通り、私はその結婚式会場に火をつけて皆殺しにしました。私の家族もあの女の家族もね」

「…………」

「しかし私が逃げ切れるわけもなく、そもそも逃げるつもりもなく、あっさりと捕まって死刑になりました。そして世間から割と同情視されながら2年後に死刑執行、それでこの世界に来たわけです」

 

 話の流れに不自然すぎるところはいくつかあるが。

 かいつまんで話すと、厭勝は弟に婚約者を奪われた怒りで皆殺しにしたってことらしい。

 

「お前の行動や思惑は理解できた。……まさかお前が女嫌いなのも、その婚約者絡みか?」

「そうなるんでしょうね。元々女でも男でも無能は嫌いでしたが、この件で女が特に嫌いになりました」

「……でもたとえ婚約者と弟を恨んでも、関係のない女性を殺す理由にはならないだろ」

「それは違いますね……」

 

 厭勝はそこで、背筋がぞわりと底冷えするような殺気を放ち始めた。

 重く低い声と共に、言葉に狂気を乗せて空気を震わせる。

 

「仕事上会う回数が少ないこと以外、客観的に見て私を裏切る要素は殆どなかったはずです。特に、あのクソ無能の弟相手に乗り換えるなんて何を考えているのか理解できません」

「…………」

「私は男だから、弟が異常なのはわかる。しかし女は全て婚約者と同じようなものなのでしょう? 理解できない生物を理解しようと努力する優しさは私にはない。そして理解できないものを見ると腹の底から苛立ちが湧き上がる……」

 

 そこで厭勝が一拍、呼吸をし。

 その後に言葉を吐く。

 

 

「故に、私は一匹でも女を多く殺すように心がけているのですよ。認知可能範囲に女が存在すると私の心の平穏が乱れますのでね」

 

 

 ……厭勝は邪悪さの化身みたいな男だ。

 しかし、その邪悪の中から浮き出してきた人間味を見て、俊介はふっと鼻で笑う。

 

「……厭勝。お前、かなり子供っぽいんだな」

「は?」

「お前の言ってることは自分勝手でプライドの高い子供と同じだ。女は嫌いだって言ってるくせに、『弟は異常だから』って男は都合よく見逃してるところとか、特に子供っぽいぜ」

「…………」

「女に一度プライドを傷つけられて、それ以上傷つけられるのが怖いから話を聞く前に全員殺してるんだろ? そうすりゃお前のちんけなプライドは二度と傷つかないもんな……! 厭勝ッ!」

 

 俊介が厭勝を睨みつけながらそう吠える。

 自身の言葉に対して真っ向から反するような言葉を吐いた俊介に対し、厭勝は顔を俯け……。

 

 

 

「くっくっく……」

 

 

 

 不気味な笑い声を歯の隙間から漏らした。

 そして俊介を舐めた笑みを浮かべながら顔を上げる。そのこめかみには青筋が全く浮かんでおらず、まったく怒っていないことが一目でわかる。

 

 てっきりキレてくるかと思っていた俊介は、予想外の反応に少し目を見開く。

 しかしすぐに冷静さを取り戻して言葉を吐いた。

 

「怒らないのか。乗ってくるかと思ったけど」

「別に、私をプライドの高い子供と思ってくれても構いませんよ。おそらくそれは事実でしょうし」

「……じ、自分で認めるのか?」

 

 あまりの潔さに再び困惑する俊介。

 核心を突かれてどうにもならず、苦し紛れに開き直っているというわけではない。

 むしろ『とっくに分かっていることをもったいぶって言われた』から笑っているような……そんな様子だ。

 

 厭勝は俊介の方に視線を向けつつ、笑み交じりに言う。

 

「前の世界の私なら躍起になって反抗したかもしれませんが、私もこの世界で変わったんですよ」

 

 

 そう言ったあと、手を首の後ろに回してコキコキと音を鳴らす。

 そしてナイフの調子を何度か軽く回すことで確認し、厭勝は俊介に再び言葉を吐いた。

 

「それでは、楽しい身の上話はここで終わりにしましょうか。私もある程度回復しましたし」

「……回復のための時間稼ぎだったのか」

「当然でしょう? でなければ自分の身の上話などしませんよ。あなたが乗ってくるような話のレパートリーはこれしかなかったもので、恥をさらす羽目にはなりましたが」

 

 人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる厭勝。

 先ほどまでのおぼつかない足取りは消え、力強い踏み込みと共に手のナイフを構える。

 それを見た俊介も自己流の構えを作り、厭勝を睨む。

 

「もうさっきみたいに、人混みまで逃がさないぞ」

「それは手厳しい。さて、私の勝ち筋を探させていただくとしましょうか」

 

 厭勝が構えたナイフを持ちながら、前に踏み出そうとした瞬間。

 それよりも早く接近した俊介が回し蹴りを放ち、厭勝の体を左側の建物に吹き飛ばした。

 

 バガァン! と厭勝が背中から壁にぶつかり、肺の中の空気を全て吐く。

 それを見た俊介は油断せず、拳を構えながらゆっくりと近づく。

 

「俺の得意を押し付けさせてもらうぞ。身体能力では圧倒的にこっちが有利だからな、お前が攻撃する前に全部潰してやる」

「く……。ふっ、これは困りました…………ん?」

「ん?」

 

 ボロボロと、厭勝がぶつかった壁が音を立てて崩れる。

 恐らく元々脆くなっていたところに厭勝がぶつかったことがトドメを刺したのだ。

 

 二人はガラガラと崩れていく壁を見つめ。

 自然と、その建物の中にいた人物の姿も観測した。

 

 

 

 

「…………む゛え゛っ」

 

 

 

 

 パイプ椅子に座る、赤色の芋くさいジャージを着た少女。

 耳にイヤホンを付けて音が漏れるほどの大音量で何かの音楽を聴いている。

 そして口には細長い()()()()()を数本咥え、右手には銀色の外装をした缶チューハイが握られていた。

 

「ご、ほっ、誰…………ごええっぷ」

 

 恐らくイヤホンのせいで外にいた俊介と厭勝に気づかなかったのだろう。

 焦りながらするめいかと缶チューハイを隠そうとした瞬間、彼女の口から大きなげっぷが漏れ出た。

 男友達同士でも憚られるほどの大音量と汚さだ。思わず顔が引きつってしまうほどだ。

 なんか机の上につばも飛んだ気がする。

 

「…………」

「…………」

 

 思わず無言になった二人だったが。

 厭勝が冷めた表情で彼女を指さし、俊介の方を向いた。

 

「なんですか、このクソ無様な生物は?」

「いや……無様ってのは……うん……」

 

 俊介はその言葉を否定しきることができなかった。

 

 

 

 一体誰なんだよ、この女の子は。

 

 

 

 

 







わりと戦闘シーン書いてたけど、全部次の話に回りました。
かなC

ちなみに無様な少女の正体は次の話で普通に出ます
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