殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#136 ブレーキ緩みすぎ

 

 

 

 

「よぉ、よぉ、よぉっ……!?」

 

 暗い路地裏の奥。

 山吹色の囚人服を着た彼女が俊介を力強く抱きしめ続ける。その力強さと温もりから、決して幻覚や妄想の類でないことが分かる。

 

 しかし、俊介は未だに目の前の夜桜紗由莉の存在を受け止めきれずにいた。

 

 ここは一般には存在すら公表されていない人格犯罪者の刑務所。

 社会的な権力が強い一部の人物は『人格犯罪者専用のそういう刑務所がある』とだけは噂程度に知っているが、それ以上のことは政府によって完全に秘匿されている。

 

 当然、夜桜が国有数の富豪一家と言えどもこの刑務所の場所を知っているはずがない。

 

 

 ……なら……。

 

 

「なっ、な、なんでここに……?!」

 

 未だ困惑が抜けきらないまま、俊介は上ずった声で夜桜に問いかけた。

 

 この刑務所に来る方法は二つ。

 何らかの方法で刑務所の場所を突き止め、侵入する方法。

 もう一つは……犯罪を犯し、囚人となって収監される方法。

 

 俊介は後者の選択肢の可能性を思い浮かべ、顔を青くする。

 

「ま、まさか、警察に捕まって……!!」

「ううん、違うよ。……ごめんね、そんなに長く話してる余裕がないの」

 

 夜桜は俊介の問いに首を横に振って問いかける。

 そしてチラチラと後方……路地裏の更に奥へと振り返りながら、少し語気を抑え、しかしハッキリとした声色で言葉を放った。

 

「今すぐ()()よ。ついてきて、日高君」

「……で、る……?」

 

 『出る』?

 

 夜桜さんは『警察に捕まった』って質問に『違う』って言ったし……。

 なら、夜桜さんは何らかの方法でこの刑務所に忍び込んだってことだよな?

 そしてその侵入ルートを逆にたどれば、おのずとこの刑務所から外に逃げることができる。

 

 じゃあ『出る』ってのは、とどのつまり……。

 だ、脱獄……ってことか?!

 このタイミングで!?

 

「急いで、本当に時間が……!」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 俊介の腕を引っ張って路地の奥に連れて行こうとする夜桜。

 そんな彼女の体を逆に引っ張り返し、夜桜の顔を自分の方に力づくで向ける。

 

「あっ……」

「その、夜桜さん。よく聞いてほしいんだ」

 

 詳しい話をしたいが、万が一にもリングの盗聴器に話を聞かれるわけにはいかない。

 リングを腰の後ろに回し、夜桜と出来るだけ顔を近づけて声を話す。若干夜桜の顔が赤くなっているが俊介は気にせず、声量を抑えて話す。

 

「俺はまだ……ここから出られないんだ」

「え?」

「体内に囚人殺害用の機械が入ってて、刑務所から脱獄すると自動的に作動しちゃうんだ。それをどうにかしないと俺は出られない」

「そ、そんな……!」

 

 希望に満ちていた夜桜さんの瞳が急速に絶望の色に染まっていく。刑務所から俊介を助け出せる直前まで来たのに、最後の最後でそれが阻まれてしまったのだ。

 そんな彼女を安心させるように、俊介は小声ながらも強い決意の籠った言葉を吐く。

 

「大丈夫。俺もその機械をどうにか対処する方法を必死に探してる。……俺は、絶対に脱獄して夜桜さんに会いに行く」

「…………」

「脱獄方法も……脱獄後に、普通に暮らせるかもしれない目途も付いてるんだ。だから、安心して」

「…………」

 

 夜桜は無言のままこくりと深く頷く。その目にはうっすらと涙が滲んでいた。

 そして惜しむように俊介の体から離れたあと、懐から取り出した白い封筒を押し付けるように渡す。

 古風なレターセットに入っているような、横向きの長方形をした封筒だ。蓋は赤色の丸いシールで留められている。

 

「? なにこれ……手紙?」

「その中身、しっかり読んでおいて。……伝えたいことが全部書いてるから」

 

 手に持った封筒はかなり厚く、中に入っている手紙の量は多いことが窺える。

 一体どんなことが書いているのかは分からないが、人目に付かない所でじっくり読むべきだろう。

 

 そして夜桜さんが踵を返そうとしたその時。

 フッと何かを思い出したように足を止め、再び懐の中から新しい封筒を取り出した。

 

「あ。それと」

「?」

「これ。日高君の部屋にいた女性に渡しておいて」

「えっ、う、うん……」

 

 そういって渡された封筒は先ほどの白い物とは全く異なり、深い闇を思わせるようなどす黒い色をしていた。

 よく目を凝らしてみると、黒い色地の中にパタパタと赤黒い色が鮮血のように飛び散っているのが見える。この封筒を作った人は一体何を考えて黒に赤黒い色を散らしたんだ。

 

 手に持っているだけで呪われてしまいそうなそれを、白い封筒と共にポケットに入れる。

 中身は見たくも知りたくもない。さっさと知雫に渡してしまおう……。

 

 

 二枚の封筒を渡し終わり、夜桜は今度こそ踵を返した。

 そして路地裏の奥まで少しだけ進み、すぐそこにあった一つ目の曲がり角の前で再び振り返る。

 

「それじゃあ……。……また、ね」

 

 彼女は目をギュッと固く閉じながら、曲がり角の向こうにふっと姿を隠した。

 そして次の瞬間、曲がり角の向こうに消えた夜桜の気配が消える。ヘッズハンターと同調しているおかげで第六感が鋭敏になっているのだ。曲がり角の向こうどころか、この周辺の路地裏から人の気配が消えているのが分かる。

 

「……夜桜さん……」

 

 念のため、俊介は路地裏を進んで曲がり角の向こう側を確認する。もしかしたらまだいないかな、という淡すぎる期待も込めて。

 ……しかしそこには案の定、夜桜の姿はなかった。木のボックスや角材が山積みになって行き止まりになっており、とてもではないが人の隠れられるスペースはない。

 

(どういうことだ? こんな繁華街の真ん中で、どうやって気配を消して……。それも、ヘッズハンターと同調した俺の感覚にも引っかからず……)

 

 俊介は周囲に注意を張り巡らせるが、どこにも夜桜の気配はない。

 一体全体どうやってこの場から消えたのか。皆目見当がつかないが……。

 

(姿を消した方法も、脱獄方法も、全ては手紙の中……か。……夜桜さん……)

 

 ポッケに入れた封筒を手でさするように触れる。

 夜桜は手紙に『伝えたいことが全て書かれている』と言っていた。ここで薄い情報を頼りに考察を巡らせるよりは、さっさと監房に帰ってこの手紙を読んでしまうのが得策だろう。

 

 

 俊介はポッケの中に手を突っ込み、万が一にもスられないようにしながら急いで監房に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俊介は何のトラブルにも巻き込まれることなく、自身の監房に辿り着いた。

 扉を開けて中に入るが、知雫の姿はない。どうやら何処かに出かけているようだ。

 

(まあ今回は、一人の方がいいか。読むのに集中できるし)

 

 そう呟きながら俊介は自身のベッドの枕を持ち、ファスナーを開けて中に手を突っ込んだ。

 ガサゴソと音を鳴らしながら探り、中から目当ての物を引っ張り出す。

 

 それは普段、秘密の会議室で話すときに使っているリングの盗聴器の通信を阻害する装置であった。

 同室の知雫が仲間になったとき、『もしかしたら監房で使うこともあるだろう』とゼロツーが余分に作った物をこっそり渡してくれていたのだ。

 

(これを使えば、手紙を読んでるときにうっかり独り言を言っても問題なし。サンキュー、ゼロツー)

 

 俊介は内心で彼に礼を言いつつ、装置をリングに巻き付ける。

 そしてポッケから白い封筒を取り出し、ベッドに腰掛けた。

 ……呪いが籠ってそうな黒い封筒は怖いので机の上に置いておく。

 

 

 白い封筒を開き、中から手紙を取り出した。

 結構な文量の便箋が何枚も入っている。とりあえず便箋の上に小さく書かれたページ数を頼りに、一枚目の便箋をパラリと開く。

 

「さて、一体何が書いてあるのかな……」

 

 期待半分、若干の恐怖半分が入り混じったような感覚だ。

 

 しかしよくよく考えてみれば、これは思い人からの初手紙なのである。なんだかラブコメチックな気がする。

 ここが刑務所でなければ文句なしに最高だったのだが。刑務所で手紙を受け取るって本当に囚人になった気分だ。いや本当に囚人なんだけどね。

 

「……それにしても、あぁ~、やっぱ悲しいなぁ……。夜桜さんともうちょっといっぱい話したかったなあ……」

 

 俊介はちょっとだけキモイことをひとりごちながら、手紙の文章に目を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――日高君へ。

 

 

 私は今、刑務所に侵入する前日にこの手紙を書いています。

 

 この手紙を読んでいるということは、何かの理由で、日高君は私と脱獄できなかったんだと思います。

 できればこの手紙を渡さずに済むと良いのですが、万が一のため、筆を走らせています。

 

 

 ……日高君と会ったとき、口数が少なかったらごめんね?

 多分その時の私はすごく急いでいると思うから。

 脱獄はともかく、その後の逃亡生活のことを考えると一刻も早く国外に出る必要があるし。

 

 でもまあ、この手紙が読まれている時点で、そんなことを気にする必要もないですね。

 ちなみに国外逃亡先はヨーロッパを予定していました。

 

 

 …………。

 

 

 唐突に話が変わりますが、父・宗次郎と久しぶりに腰を据えて話しました。

 バクダンが宿ってからはマトモに話すことがなかったので、約7年ぶりのきちんとした対話でした。

 

 話した内容は……まあ、取り留めもなく。

 最近の様子とか、未来革命機関のこととか、日高君のこととか……。

 

 そして話の最後には、あの父にしては珍しく頭を下げて謝罪してきました。

 『今まで邪険にしてすまなかった』と。

 

 

 完全に留飲が下がったわけではないですが、なんとなく、今までの親子関係に区切りがついたような気がします。

 これから後は、日高君の力を借りずに私がどうにかしてみせます。

 

 ……最初の一歩をくれて、ありがとう。日高君』

 

 

 

 

 

 そこまで読んだところで、俊介は一度文章から目を離した。

 どうやら夜桜さんと宗次郎さんは関係を改善するための一歩目を踏み出せたようだ。

 

 本当に仲が改善するのか、それとも前のように戻ってしまうのかは分からないが……。

 関係改善の可能性を作り出せたことに対してだけは、ちょっとだけ自分で自分が誇らしい。

 

 と言っても、そんなに大したことしてないんだけどね。

 『俺が未来革命機関から娘さんを助け出したあと、ちゃんと会話してあげてください』って宗次郎さんに言っただけだし。

 で、結局夜桜さんを助けることはできたけど俺すぐに捕まっちゃったし。

 

 あそこで人対に捕まってなければ、もうちょっとカッコついたのかもしれないのにな。

 

 もしかしたら夜桜さんに好きになってもらえたかも……なんて未来もあったかもなのに。

 ま、そんなのありえないけど。

 

 

 そんなことを思いながら、俊介は文章の続きに目を落とす。

 

 

 

 

 

『……個人的なことをつらつら書いちゃってごめんね。

 ここからは、色々と大事なことを書いていくからよく読んでほしい。

 

 まず、『榊浦美優』について。

 

 あの女は私の所有する建物で監禁してる。

 ……でも監禁って言うより、隠居のほうが近いかも?

 

 榊浦美優が暴れるようならガチガチに監禁するつもりだったんだけど、本人は暴れるどころか生きる気力すら失ってる状態でね。

 強化ガラスと鍵付きの扉の部屋にいても、トイレ以外でベッドの上から動いてる痕跡がないの。

 

 仕方ないから、私や信頼できる執事が無理やり食事を口に突っ込んでるんだ』

 

 

 

 

 

 な、なんじゃそりゃ?

 あの悪辣極まる榊浦美優が、生きる気力すら失ってるだって?

 一体何があったらそんなことになるんだ。

 

 というか、食事を取らせる手段が口に無理やり突っ込むって……かなりパワープレイだな。

 そんなことを思いながら、はやる気持ちに身を任せるように文章の続きを読む。

 

 

 

 

 

『未来革命機関で榊浦美優と会ったとき……実は、榊浦豊に従う人間と出会ったんだ。

 

 そいつの顔は、不思議なことにもやがかかったように思い出せないの。

 一度見た顔は殆ど忘れないんだけど、あの女の顔だけは、不自然なくらいに……。

 

 しかも、その手の者は『榊浦豊の実娘』を名乗ってたんだ。

 自称していただけで、それが本当かは分からない。

 一般に公開されてる榊浦一家のデータを漁っても、もう一人の娘の情報なんて何も出てこなかったし……。

 実力はそれなりだけど、霧のように掴み切れない感覚がする女だった。

 日高君のお母さんの職場にいた榊浦豊の手下も、きっとその女だと思うんだ。

 

 

 ……ごめんね。

 話がちょっと逸れちゃったね。

 

 

 話を戻すけど、未来革命機関で榊浦豊の手の者が榊浦美優を殺そうとしてたんだよね。

 殺す理由はいくらでも考えられるから、そう不思議なことじゃないと思う。

 

 娘がテロ組織と関わってた、なんて世間にバレたら榊浦豊の社会的信用は失墜するから。

 そして、その手の者は榊浦美優の研究資料を持ってた。……榊浦美優の研究資料を回収して、その内容を独占するために娘を消そうとしたって理由もあるかもね。

 

 軽く考えただけで二つも思いつくから、深く考えたら他にもいろいろ思いつくと思う。

 

 そして、榊浦美優は自分の父親に殺されかけたのが相当ショックだったみたい。

 それこそ廃人寸前になるくらいに。

 このままだといつか自殺するかもしれないくらいの落ち込みようだよ。

 

 

 ……でも大丈夫、安心して。

 

 

 日高君が刑務所の外に出てきて、適切なタイミングであの女を告発するその時まで。

 絶対に私が守り抜いてみせるから。

 ……本音を言うと、アイツのことはすごく嫌いだしムカつくけどね』

 

 

 

 

 

 ……未来革命機関の拠点に、榊浦豊の従者が来てたのか。

 たしかニンジャがそんなことを予想してたっけな。第三者がいた可能性があったって。

 

 その第三者が榊浦美優を殺そうと、今も探し回ってる可能性があると。

 単純に榊浦美優が自殺する恐れもあるし。

 

 ……ちょっぴり不安だな……。

 夜桜さん、アイツを無理に守ろうとして怪我しないと良いんだけど。

 

 そんなことを思いながら次の文章に目を落とすと、文字のサイズが少しだけ大きくなっているのに気づいた。止め跳ね払いも若干だが甘い。

 文字から感じられる印象が、先ほどの榊浦美優の話とは違って明るいのが分かる。

 何か良いことが書いてあるのだろうか……そう思いながら、俊介は目を滑らせた。

 

 

 

 

 

『そして、次は嬉しい報告!

 

 日高君が連れていた橘さんは、今は病院で無事に療養してるよ!

 骨は相変わらず折れてるし、少しだけ怪我もしてるけど、命には全然別状ないって!

 

 未来革命機関で作られた兵士だから、戸籍がないのがネックだけど……。

 その辺りは私が()()()()()で偽造するから大丈夫。あと一か月もすれば、怪我も治って無事に外で暮らせるようになると思うよ!

 

 最初は……いや今でもかなり警戒してるけど、橘さんって良い人だね。

 怪我が治ったら、未来革命機関の被害にあった人たちを助ける活動がしたいって言ってたよ。

 

 日高君が刑務所から出られたら、隠れてお見舞いしに行こうね』

 

 

 

 

 

 ……そうか……!

 橘さん、無事だったのか!

 

 『戸籍を偽造する色々な伝手』とか恐ろしいことが書かれてたけど、そういうのはひとまず無視して喜ぼう!

 

 ……それにしても、今思うと。

 

 あんな危険な未来革命機関の拠点に、両腕が折れた橘さんを連れて行くって……かなり無茶なことさせちゃったよな。

 夜桜さんが誘拐されてて、あの時は俺もあんまり冷静じゃなかった節がある。

 今度会ったときに土下座でもして本気で謝らないとな。

 

 

 

 

 

『そして、日高君の両親ですが……。

 

 今、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「は?」

 

 とんでもない文章が目に飛び込んできて、思わず口から声が漏れる。

 

 よ、ヨーロッパ?

 Europe?

 

 ……なんでそんなとこにいんの?

 俺が行方不明になって心配くらいはしてくれてると思うけど……なんでヨーロッパ?

 英語も喋れない俺が外国にいるわけないだろ。どこ探しに行ってんだ。

 

 

 

 

 

『日高君が刑務所にいる間、榊浦豊は確実に日高君の両親を狙ってくると思ったの。

 次に日高君と出会ったときに自分の言うことを聞かせるためにね。最悪両親を人質に刑務所まで会いに来るかもしれない。

 もし私があの男なら絶対にその手段を取るから。

 

 だから私が先制して()()()()()()

 結果的に誘拐に近い形になってしまいましたが、ご両親にはちょっとしたカバーストーリーの下で何不自由のない生活を送ってもらっています』

 

 

 

 

 

「よ……夜桜さんッ!? そ、それは流石に……何かのラインを越えてるよ夜桜さん!」

 

 思わず手紙を持ったまま立ち上がってそう叫ぶ。

 榊浦豊の手から逃れるのに、物理的に距離を取るのは結構良い策だと思うけど……方法がヤバすぎるって!

 外国まで拉致は一歩間違えれば犯罪……いや普通に犯罪だよ!

 ヤバいよ夜桜さん!

 

 

 

 

 

『あ、心配しないでください。

 日高君のお母さんとお父さんの職場は夜桜グループが買い取ったので、帰って来てからの仕事の不安もありません。

 それどころか、給与や福利厚生を含めた待遇も改善してると思います。

 というかもうしました。今は私が社長なので』

 

 

 

 

 

 一番の問題はそこじゃない……ッ!

 大事なことではあるけど、ずれてるって……!

 

『ブレーキ緩んだ奴が金と権力を持つとこうなるんだな……。こわっ』

 

 手紙を覗き込むように読んでいたヘッズハンターがぼそりとそう呟いた。

 

 あんまり夜桜さんのことを悪く思いたくないけど、今回ばかりはちょっと同じ意見だ。

 俺のことを思ってくれた行動なんだろうけど、手段がさぁ……!

 

 そう思いながら次の文章に目を落とすと、一番に目に飛び込んできたのは、彼女からの謝罪の言葉だった。

 

 

 

 

 

『……ごめんなさい。

 多分、日高君はこの手紙を読んでとても怒ってると思います。

 自分でも、行き過ぎた行動だと反省しています。バクダンにもとても引かれました。あたりめーだろbyバクダン

 

 でも、父と話して()()()()()()()

 私は今まで『()()()()()()()()』って。

 

 私の本当の力。

 夜桜グループっていう『お金の力』と『権力』を全然上手く使ってなかったって。

 父と話すのが嫌で、自分の家の力に頼るのを嫌ってたばっかりに……。

 

 日高君には返しきれないほどの恩があるのに、私の小さな()()()()一つのせいで、全力を出し切れてなかった。

 もっと早く夜桜グループの力を使っていれば、もしかすると、日高君が刑務所入りせずに済んだ世界があったかもしれないのに。

 

 ……本当に情けない話だよね……。

 

 

 ……でも、これからは違う。

 私は榊浦親子を倒すため、私の才能も、夜桜グループも、使える物は全部使う。

 

 そうして、何もかも出し尽くした上で日高君の力になれた時。

 

 本当の意味で、私は『日高君の隣に立つ資格』を持てるようになると思うから。

 

 なんかいいこと書いてるけど、絶対日高の奴、まだ拉致のことで頭いっぱいだぞbyバクダン

 

 

 

 

 

 宗次郎さん?

 あなた一体夜桜さんと何を話したんですか? 何を気づかせちゃったんですか?

 

 何をどうしたらあんな現世の天使みたいな夜桜さんが、俺の両親を拉致するほどの『ハイテンション暴走族』になるのかって聞いてんだよ!

 

『いや、夜桜がハイテンション暴走族になったのは元の気質の面が大きいような……。ぶっちゃけ前からちょっと(?)ヤバい奴だと思ってたし……』

「そんなことない! 今回が異常なだけで、夜桜さんはヤバい人じゃないッ!」

『……こ、これが恋は盲目ってやつか。いや、真昼のために殺人鬼になった俺が言えることじゃないんだけどさ』

 

 ヘッズハンターが困ったような顔をしながらそう言った。

 

 ……ていうかさ。

 俺の隣に立つ資格って……ぶっちゃけ夜桜さんには今すぐにでも立ってほしいところと言うか。

 

 どっちかっていうと、『夜桜さんの隣に立つ資格』を俺が手に入れなきゃいけない側だと思うんだけど。

 社会的な地位含めた全ステータスは彼女の方が遥かに上だし。

 一体どれだけスペックを高めたら夜桜さんの恋心を手に入れられるんだろうか? 石油王にでもならんといかんとちゃうの。

 

 そんなことを考えていると、ヘッズハンターが少し細めた目でこちらを見ながら言葉を吐いた。

 

『……お前らの関係、傍から見てるとちょっとやきもきするな。ずっと完結先延ばしにしてる恋愛漫画みたいでさ』

「ん、どういうこと?」

『いや、別に。……俺達がいる以上、俺と真昼みたいなことにはならないだろうし……自分で気づかせてあげるべきだよな』

「?」

 

 ヘッズハンターの小声の部分は聞き取れず、俊介は小首を傾げる。

 しかし彼の懐かしむような表情を見てそれ以上問い詰めるのは野暮だろうと、思考を頭の隅に追いやって手紙に目を落とした。

 

 

 

 

 

『……それで、日高君が一番気になってることのは、多分。

 私が『刑務所に忍び込んだ方法』だよね?

 

 ……と言っても、私が刑務所の場所を特定して忍び込む方法を得られたのは、本当に偶然が重なった上での産物なの。

 マトモな方法で刑務所を特定して忍び込もうとしたら、多分あと2週間はかかってた。

 

 

 ……そして……。

 私が偶然にもその『方法』に辿り着いた過程は……きっと、日高君にも関係してる重要なことだと思うの。

 

 封筒に何枚か『写真』を同封してるから、それを取り出してくれないかな?』

 

 

 

 

 

「……『写真』?」

 

 そう呟きながら封筒の中をもう一度見る。

 よく見ると、封筒の端に引っかかって出てこないままの写真が何枚か入っていた。太ももの上で封筒を軽く振り、写真を全て取り出す。

 

 そして足に落ちた写真を一枚、ぺらりと表に向けた。

 

「写真って言っても、一体なん……の…………ッ?!」

『こ、これは……?! な、なんで『アイツ』が写ってるんだ……!!』

 

 俊介とヘッズハンターが同時に目を大きく開く。

 それは7()()()から二人が良く知っていると同時に……ごく最近、絡まった因縁を解消するために激闘を交わした人物の姿。

 

 

 

 

 

『……私もよく知ってるよ。

 だってこの姿をした人に顔をぶん殴られて、()()()()()()()()()()()()んだから。

 

 ……そして……。

 私がこの刑務所に侵入できたのも、この『鎧の人』を見つけたからなんだよ』

 

 

 

 

 

 夜桜が託してくれた写真の一枚目。

 そこには。

 

 あらゆる隙間から細い管を突っ込まれ、透明なガラスカプセルに入れられている……。

 ……『2メートルを超える大きな黒い鎧』の姿が写っていた。

 

 今まで数えきれないほどに見て来ているのだ。間違いない。

 これはダークナイトの着ている鎧である。

 そして……ピュアホワイトも、これと全く同じ鎧を身に纏っていた。

 

 しかしピュアホワイトの鎧は、確か未来革命機関での戦闘で壊れたはずである。

 ヘッズハンターと同調した俊介がつなぎ目をぶった斬った上、ピュアホワイトの魔法に巻き込まれて鉄くず同然になっていたはずだ。そして最後には軍艦に入り込んだ海水によって何処かへ流されていった。

 

 ならばこの、ほぼ無傷同然の鎧は一体……。

 

「……な、何がどうなってんだよ……!?」

 

 俊介は事態の急変ぶりに顔を困惑でゆがめる。

 そしてその黒い鎧の真相を知るため、焦るように手紙の続きを読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









ヤンデレタグをつけるか目下迷っています。



――――



次話からはちょっと夜桜視点の物語に移ります。
手紙形式で話を進めるのは作者も書くのが大変だし、読み物としてもちょっと読みにくいかなと思ったからです。

それにしても、刑務所編が長すぎて飽きられてないか少し不安ですね……。
元の想定ではこの話数辺りで人対と戦っててもおかしくなかった(話数管理×)
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