殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#15 面倒事

 

 

 

 

 

 軽く200キロは走っただろう。

 高速に乗っていたため、特に問題もなく温泉街に着く事が出来た。久しぶりの長い運転であったため、腰が少し痛い事以外は。

 

 マッドパンクとガスマスクが先に降り、最後に俺が降りて、鍵を取る。

 朝方に出発し、ちょうどおなかが空いてくる昼頃に着けたのは良かった。そこら辺にあったパンフレットを回収し、今日の宿と、どこか美味しい店がないかを探し始める。 

 

 そんな俺が歩く背後を、きょろきょろと辺りを見回しながら付いてくる2人。

 空から降り注ぐ日光で道の至る所に流れる温泉がキラキラと輝いているのを、物珍し気に見ていた。所々から湯気の上がっている温泉街独特の雰囲気は俺も結構好きだ。

 

『綺麗だなぁー……な、ガスマスク』

『…………ああ』

「えーっと……温泉まんじゅうじゃないんだよな、今は。もっとガッツリ食えるとこ……」

 

 そんな風に歩いていると。

 何処かから、歌声のような物が聞こえてきた。

 

 

「~~~♪ ―――♪」

 

 

 女性の声……。素人でも上手だと分かるくらい、魅力のある声だ。

 パンフレットから顔を上げると、少し歩いたところに人だかりが出来ているのが見えた。

 

 後ろの2人と顔を見合わせ、その人だかりに近づく。

 すると、恐らく地元民らしき老婆たちの中心で、『マオ』と手作り感満載のポップな看板を立てた小学校高学年くらいの女の子が歌っていた。

 

 

「ハッハッハ! 儂の歌声に、酔いしれな!!」

 

 

「きれいな歌声ねぇ~」

「ホント、上手~」

 

 老婆たちが和やかな顔で、歌に耳を傾けている。

 

 多分、地元アイドルか何かだろうか。

 結構綺麗な歌声だったし、後で調べてみよ。

 

 

 

 そんなこんなで、パンフレット片手に歩いていると、ちょうど良さげな食事処を見つけた。

 店の外に置いてあるかつ丼の衣が良い感じの狐色をしていて、とても食欲がそそられる。……まぁ、これはただの食玩サンプルだけど。

 

 白の布に黒い文字で『さくら』と書かれた暖簾をくぐり、中に入る。

 お客さんは俺以外にもちらほらと居る。カウンターの方から『お好きな席にどうぞ~!』と声が聞こえたので、適当に空いているカウンター席に座った。

 

 カウンターでいそいそと作業をしていた女性がこっちに振り返る。

 

「いらっしゃいませ! ご注文は―――……えっ!? 日高君?!」

「なっ……よ、()()()()!?」

 

 頭に赤い三角頭巾を巻いた、エプロン姿の夜桜さんがそこに居た。

 余りの驚きに椅子から落ちそうになるが、何とか堪える。すると夜桜さんが水を机の上に置きながら、ニコッと笑った。

 

「うわ~、すっごい偶然だね! どうしたの、家族で旅行?」

「あ、いや……その、一人で……」

 

 すっごい恥ずかしい。GWにやることがないから一人で温泉街まで来ましたとか、友達のいない寂しい奴だって言ってるようなもんだ。

 

 気恥ずかしさを払うように、話題を咄嗟に切り替える。

 

「それより、夜桜さんこそここで何を?」

「ちょっとした手伝い。このお店、おじいちゃんのやってる所なの」

 

 そこで、チラッと横を向き、暖簾の『さくら』という文字を見る。アレは夜桜さんの苗字の『桜』を取った物だったのか。クソ、先に気付いておけばもっと見た目を整えて入店できたのに。

 

 夜桜さんがパッとメモを取り出す。

 

「それで、ご注文は?」

「あ、かつ丼一つお願いします」

「はーい!」

 

 

 パタパタとカウンターの中でせわしなく動き始めた彼女を見る。

 そうしていると、いつの間にか右横の空いている席に座っていたマッドパンクが、にやにやした顔でこちらを見ていた。

 

『俊介、あの女の子が好きなのかぁ~? ちょっと手伝ってやろっかぁ~?』

「手出したらキレるぞマッドパンク」

『うわっ、マジ声……ごめんって』

 

 ドスを利かした小声で、横に居るイカレ研究者を脅す。

 こいつは強めに言っておかないと、頭が良い分何をしでかすか分からん。

 

『そうだ俊介、それでいい。油断ならない相手には遠慮するな』

 

 なぜかしれっと、俺の左隣に座っているガスマスクがそう言った。2人揃って空いた席に座って何やってんだよ。俺が飯食ってるところより、外の様子見てた方が楽しいだろ。

 

 

 程なくして運ばれてくるかつ丼。

 空腹と、夜桜さんが運んできてくれたからか、普段食べる物よりも十数倍は美味しく見える。近くにあった割りばしを取り、パチン!と割ったところで、夜桜さんが話しかけてきた。

 

「そういえば、今日泊まる宿は決まってるの?」

「え、いや……どこか空いてる所を、こっちに来てから探そうかなって」

「あー……それはちょっと難しいかもね。この時期、今の時間はまだ少ないけど、夜になると旅行客の人が一気に増えるから。何処も予約いっぱいだと思うよ」

 

 

 よく考えてみれば、そりゃそーだ。

 地理に詳しくない俺でさえ知ってるくらいのポピュラーな温泉街だ、GWになると人でごった返すことくらいは予測しておくべきだった。

 

 うーん。

 最悪泊まれないとなったら、家に帰ってもいいんだけど、結構面倒だよな……。

 

 

 眉間にしわを寄せて悩んでいると、夜桜さんが手を口に当てて笑いながら言った。

 

「ふふっ。日高君って真面目そうに見えて、ちょっと抜けてるよね。よかったら泊まるところ、紹介しようか?」

「えっ!! い、いいの?」

「おじいちゃんの友達が経営してる旅館なんだけどね。少し山を登った所にある、知る人ぞ知る宿って感じだから、この時期でも部屋は少し残ってると思うよ。後で電話してあげるね」

 

 

 夜桜さんはやはり天使だった。

 天使ってどこにでも現れて助けてくれるんだなぁ……。しゅごい……。

 

 

『おーい俊介、トリップすんなよー』

『薬物を吸った人間と同じ表情……この女、快楽物質を散布するタイプのB兵器かッ!?』

『ガスマスクもトリップすんなよー』

 

 

 かつ丼は天国に昇りそうなくらい美味しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜桜さんの紹介で、その山の上にある『折川旅館』の部屋を一室予約する事が出来た。

 バイクですら山の麓までしか行けず、そこから宿のある場所までは徒歩で登って行かなければならない。しかも結構急だ。これ、客がいない理由、知る人ぞ知る宿という以外に立地の問題もあるんじゃないか。

 

 

 そうしてしばらく、汗を拭いながら歩き。

 深い谷に木製の吊り橋が掛かっており、その先に、夜桜さんから紹介してもらった旅館があった。

 

「…………」

 

 なんかやたらと古い橋だな。

 人が渡る分には問題なさそうだけど、何かあったらプチンと切れそうだ。

 

 

 

 ツカツカと橋を歩き、旅館に辿り着く。

 夜桜さんは旅館と言っていたが、一般的に旅館と聞いてイメージする物よりは多少小さい。ちょっと大きめの民宿、と言った方が合っているだろう。

 

 橋を渡り終わったところで、旅館の引き戸がカラカラと開いた。まだノックもしていないのに……これがプロか。

 女将と思わしき和服を着た40~50歳くらいの女性が、綺麗な仕草でお辞儀をしてくれる。

 

「ようこそいらっしゃいました、日高様。私、当旅館女将の『折川 祐子(おりかわ ゆうこ)』と申します」

「あ……日高俊介です。よろしくお願いします」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。では早速ですが、お部屋の方にご案内させていただきます」

 

 

 中に入り、スリッパに履き替え、トコトコと女将の後ろをついていく。

 途中、温泉の暖簾も見えた。夜桜さんは、ここの旅館の温泉は色々な成分が入っており体にとても良いと言っていた。後で入ろう。

 

 

「ここが日高様のお部屋でございます。鍵は紛失されますと、弁償していただく決まりになっておりますので、管理にはお気をつけください」

 

 チリリンと渡されたのは、鷹のレリーフが彫られた飾りのぶら下がった鍵。

 俺の目の前にある部屋の扉には『鷹の間』と書かれている。なるほど、分かりやすい。 

 

 

 女将が去っていくのを後ろ目に、部屋の中に入る。

 荷物を置く……と言っても、元々一泊分の着替えと財布と携帯しか持っていなかったため、背負っていたバッグを下ろすだけだ。

 

『俊介、窓の外見てみろよ! いい景色だぜ!!』

「え、ホント?」

 

 マッドパンクの言う通り、窓の外を見てみる。

 本当に、息を呑むほどいい景色だ。山に登っているうちにいつの間にか時間が経っていたようで、赤い夕陽が地平線の向こうへと沈みかけていた。

 

 この景色だけでも、今日この旅館に来た価値はあると思ってしまう。

 だが本番はこれからだ。食事に風呂と、まだまだ楽しむことはある。

 

 

 と、そんな事を考えていると、早速扉がノックされる音が聞こえた。

 食事は部屋に運んできてくれるとかそんな事を女将さんが言っていたな。部屋食か……まぁ、中の人格との話し声を気にすることなく食べられるし、そっちの方がいいかな?

 

 

「失礼します」

 

 

 そんな風に言って部屋の中に入ってきたのは、小学校高学年くらいの女の子。

 ……ん? なんか見覚えがあるな。

 

『さっきの歌ってた子じゃないの?』

 

 マッドパンクが言う。ガスマスクもその言葉に頷いた。

 そうだそうだ、確かに同じ顔だ。でも、人前で歌っていたあの時とは全くテンションが違う。物凄く落ち着いているというか……若干おどおどとした感じだ。

 

 

 ……公私でキッチリ分けるタイプなのかな。

 まあいいか。

 

 

 

 彼女が夕餉を運び終え、部屋から去る。

 俺の財布から出せる金額で食っていいのかというほど、とても豪華な食事だ。豪華すぎてどうやって食べるのが正解なのかいまいち分からないくらいだ。

 

 こういう時はうってつけの人物がいるな。

 首元に手を当て、恐らく中で寝ていたであろうその人物の名を呼ぶ。

 

「キュウビ!」

『なんじゃなんじゃ、ふわぁぁ……んぁ? おお俊介、なかなか良い物を食べておるの』

 

 彼女は国王を惑わせて国を傾けたと豪語するほどだ。

 当然、こういった豪華な食事を口にする機会も幾度もあっただろう。異世界とこっちの世界の食べ方が同じかは分からないが、全く知らない俺よりはマシなはずだ。

 

「豪華すぎて食い方が分からない! ちょっと教えてください!」

『ほーう? いいじゃろう。まずは右腕の主導権を渡せ、それからあ~んで食わしてやろう』

「食い方を教えてほしいのに何であ~んになるんだよ!!」

 

 

 そんな感じでギャースカギャースカ騒ぎながら食べていると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――キャアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、女性の甲高い悲鳴が旅館中に響いた。

 一瞬で殺人鬼達と俺が立ち上がり、部屋の外に飛び出して、声のした方に走る。

 

 すると、廊下の途中にある部屋の一つの扉が開けっ放しになっていて。

 

 その部屋の中には、胸に包丁が深々と刺さった死体と、扉の近くで腰を抜かし顔を青ざめさせた女将さんがいた。

 

 

「ッ」

 

 

 殺人鬼達と長く一緒に居るが、本物の死体を見るのはこれが初めてだ。

 異常な光景に顔をしかめるものの、女将さんほどのショックはない。悲鳴で何かあると先に分かっていたからだろうか。

 

 

「……女将さん、大丈夫ですか。とりあえず部屋を出て、みんなを集めましょう」

「え、えぇ、はい……」

 

 腰の抜けた彼女の肩に腕を回し、立たせる。

 その際にキュウビに目配せして、部屋の前で待機するように暗に伝えた。誰かが勝手にこの部屋に近づいた時、分かるようにだ。

 この旅館の敷地内くらいなら余裕で100メートル圏内であるし、何も問題ない。

 

 

 せっかくの旅行が、何やら厄介な事に発展しそうだ。

 女将さんに肩を貸したまま、部屋の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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