殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#148 話し合い

 

 

 

 

 俊介は読み終わった手紙を自身の横に置く。

 そして大きく疲れ混じりの息を吐いてから、横でずっと一緒に文章を読んでいたヘッズハンターの方を見た。

 

「ヘッズハンター。悪いけど、中からみんなを呼んできてくれ」

『ダークナイトもだよな?』

「もちろん……ってか、一番色々聞かなきゃいけないしな」

 

 俊介がそう答えると、ヘッズハンターは軽く頷いて姿を消す。

 そして三十秒ほどが経った後、殺人鬼達がぞろぞろと部屋の中に姿を現し始めた。

 

 狭い監房内に十数人も入るのはかなり窮屈で、何人かは知雫のベッドに勝手に上っている。

 まあ人格が何をしたところで現実に影響はないし別にいいだろう。

 

『何とかして知雫の枕に嫌がらせできぬものかのう……むむむ』

『人格体なんだから何もできやしねーだろ。狭いんだから動き回んなよ』

『むむ……そうじゃ! ハンガー、お前の尻を枕に擦り付けてやるのじゃ! 普段から下着すら履いておらぬお前の尻ならちょうどいい具合に汚れとるじゃろ!』

『絞め殺すぞテメー』

 

 ……何やってんだあの二人は。

 

 そんなことを思いながら、膝の上に潜り込んできたドールの相手をしつつ全員が集まるのを待つ。

 そしてさらに一分ほどが経過した頃、ヘッズハンターと共に最後の一人であるダークナイトが姿を現した。彼女は監房の扉のあたりのスペースに力づくで身をねじ込み、壁にもたれかかって腕を組む。

 

 ヘッズハンターは木の机の上に腰を置き、俊介の方を向いて言葉を放つ。

 

『俊介。とりあえず全員集めたぞ』

「おう、ありがとう」

 

 彼に頷きながら感謝の言葉を言い、監房内に集まった殺人鬼達をぐるりと一瞥した。

 それから先ほど横に置いた手紙を持ち、全員に聞こえるように少し大きめの声色で言う。

 

 

「今朝に夜桜さんから受け取った手紙なんだけど……内容が濃すぎるせいで、ちょっと一人じゃ処理しきれなくてな。大事な情報も大量にあったし、全員に共有した上で話し合いたいんだけど……」

『俊介、少しいいか? 『全員に共有する』という話だが、そこは()()問題ないと思う』

「……? どういうこと?」

 

 ガスマスクが軽く手を上げながらそう言う。

 首を傾げた俊介が疑問気な声を放つと、彼は落ち着いた声色で言葉の続きを紡いだ。

 

『俺達は()から俊介の視界を通して手紙を読んでいたんだ。だから手紙の内容も一通り理解している。一から内容を共有する必要はない』

「あぁ、そういうことね」

 

 納得がいった俊介は、ガスマスクのその言葉に軽く頷く。

 横で読んでいたヘッズハンター以外のみんなも、全員で中から手紙を読んでいたらしい。

 

『ただ、ダークナイトだけは手紙の内容を見ていない。アイツは少し離れた所でずっと剣を振り回していたからな』

「そっか……」

 

 付け加えられた言葉を聞き、俊介はチラリとダークナイトの方を見る。

 彼女は俊介の視線に瞬時に気づき、数秒ほどじっと視線を合わせてからこてんと首を傾げた。

 

 

 ……それにしても、ダークナイトって女性だったんだな。

 まあ別に性別がどっちだろうと今までと何も変わらないけど。

 なんていうか、元々男女差のあれやこれやをぶっちぎりで超越してる存在だし。性別云々よりも突然の遊び癖と暴れ癖の方が遥かに厄介である。

 

 

 俊介はダークナイトから目を逸らし、顎に手を当てて考える。

 

「ダークナイトには大量に聞きたいことはあるけど……手紙の内容を今からダークナイト一人だけに説明するのも、ちょっと……って気がするな」

『うーん。ダークナイトを少しの間だけ仲間外れにしちゃうけど、説明や事情聴取含めて後回しにするのはどうかしら?』

「……まあそれが分かりやすいかな?」

 

 顎から手を離してクッキングの言葉に同意する。

 マッドパンクやトールビットなどの頭が切れる面々も小さくだがコクリと頷き、同意の姿勢を見せていた。

 

 俊介はダークナイトの方に再度向き、顔の前で手を立てながら申し訳なさげに言う。

 

「ダークナイト。悪いけど、話がひと段落するまでそこで待っててくれないか? 後で全部説明するからさ」

『(・ω・)b』

「……OKってことだよな?」

『b(^・ω・^)b』

 

 彼女が鎧の腹部にガリガリと顔文字を刻み、自慢気に見せてくる。

 顔文字の表情や今すぐ暴れださないのを見るに、しばらくはここで待ってくれるらしい。

 尤も、待たせる時間が長すぎると飽き始めて何かやらかす可能性は十分にあるが。

 

 

 俊介は手に持った手紙に視線を移し、先ほど読み終わった文章に目を落とす。

 そして文字をなぞるように目を動かしながら言葉を吐いた。

 

「しかし、ダークナイトの件以外と言っても……一体どの情報から話したもんかな」

 

 情報が多すぎて話す順番に悩むなんて、嬉しいのか苦しいのか分からん。

 けど幸いなことにこの後の予定は特に何もない。時間には比較的余裕がある。

 それぞれの情報についてある程度深く話し合っても大丈夫だろう。

 

『グルル……ゴォッ』

 

 強いて言うなら、壁際で睡魔に襲われているダークナイトが話し合いに飽きて暴れだすまでがタイムリミットだ。

 なんとも嫌なタイマーである。

 

 俊介はダークナイトタイマーの拳で死人が出る前にさっさと話し合いを始めることにした。

 どの情報から話すかの順番を悩む時間がもったいない。

 なので、超シンプルに手紙に書かれている時系列通りに話すことにする。

 

 

「えっと、それじゃあまず……夜桜さんが榊浦美優をとっ捕まえて監禁してる件についてかな?」

 

 そう言ったあと、俊介は手紙に向けていた視線を上げる。

 それと同時にキュウビが手に持っていた扇子をパチン!と音を鳴らして閉じ、口を開く。

 

『ふむ……改めてじゃが、榊浦美優をキッチリと生け捕りにしたのは夜桜のお手柄じゃのう』

 

 キュウビの口から飛び出したのは何の皮肉もないまっすぐな賞賛の言葉だった。

 殺人鬼達が各々、微かに驚いたような仕草を見せる。キュウビが夜桜に対して敵対心を抱いているのは周知の事実だからだ。

 サイコシンパスがベッドの上にいる彼女の顔に目を向け、言葉を放つ。

 

『キュウビ。あなたが夜桜を真面目に褒めるとは、明日(あす)は空から槍でも?』

『やかましいぞサイコシンパス。……内心では恋の嫉妬がメラメラ炎上中じゃが、それはそれとして、これほどの手柄は見事と認めざるを得ぬ』

 

 彼女は閉じた扇子でポンポンと手のひらを叩きつつ、そのままの声色で話の先を紡ぐ。

 

『榊浦美優の身柄と、テロ組織の幹部として活動していた証拠。これらのカードを適切なタイミングで切れば、榊浦豊の社会的権力をゴッソリと削ぐことができる』

「……まさに『切り札(カード)』ってことか?」

『うむ。まあ心配なのは、榊浦美優の暗殺による口封じじゃが……刑務所にいるわらわ達にはどうすることもできぬ。榊浦美優の護衛は夜桜に任せるしかないのう』

 

 そこでキュウビは扇子をパッと開き、『これ以上語ることはない』と言わんばかりに口を隠した。

 たしかに、刑務所にいる自分たちが暗殺からの防衛策について話し合ったところで机上の空論に過ぎないだろう。

 

「キュウビの言う通り、ここばっかりは夜桜さんにまだ頼り続けるしかないか」

 

 自分達が今やるべきことは、この刑務所から出ること。

 一刻も早く脱獄するのに注力することが巡り巡って夜桜の一番の助けになるだろう。

 

 

 俊介もキュウビの言葉に納得し、話を次に進めようとしたとき。

 膝の上に座っていたドールが小首を傾げつつ、疑問気な声を出した。

 

『……それにしても、どうやって榊浦美優を運び出したんだろうね?』

「ん? どういうことだ、ドール?」

『だって、未来革命機関の拠点は海に落っこちたでしょ? 人対に捕まる前に陸地がチラッと見えたけど結構離れてたし。拠点の中からどうやって榊浦美優を警察に見つからずに運び出したのかなぁって』

 

 ドールのその言葉に、ニンジャが妙なバタフライの仕草を交えて声を返した。

 

『そりゃあもう、『Swimming』でござるよ』

「なんでちょっとネイティブ風に言ったんだお前」

『華麗なるバタフライで陸地までザバザバとッごブぇっ!!』

 

 バタフライの仕草をしていたニンジャの手が、横にいたエンジェルの頬にペチンと当たる。

 その瞬間、ニンジャの脇腹に高速の肘打ちが突き刺さった。

 ノーガードでエンジェルの攻撃を食らって無事な訳もなく、勢いよく膝から崩れ落ちる。……南無。

 

 

 瀕死のニンジャに一瞥もくれず、ガスマスクが腕を組みながら言葉を吐く。

 

『俺の記憶からざっと計算すると……墜落した機関の拠点と陸地の距離は約2000mと言ったところだろうな』

「2000m……かなり遠いな。俺、波のないプールでもその距離泳ぎ切れるか分からないぞ」

 

 そもそも水泳自体ががそんなに得意じゃないしな。溺れない程度に最低限泳げるってだけで。

 小さい頃から水泳教室に行ってたりすればまた別だろうけど。

 

 俊介の思案を他所に、ガスマスクは話を続ける。

 

『夜桜はニンジャの言った通り、榊浦美優……40kgは確実にある人体を持って陸まで泳いだんだろう。警察に見つからないよう、バタフライではなく殆ど潜水したままでな』

「え……えっ、す、凄すぎないか?」

 

 驚いたようにそう言う俊介に、ガスマスクはコクリとすぐに頷く。

 

『水難救助隊が直々にスカウトに来るレベルだ。俺も同じことはできるが、それは前世で相当な訓練を積んだ結果の賜物だからな』

「いや、そこで『同じことができる』ってすぐ言い切れるガスマスクも凄いけどな……。普通できそうにないけど」

 

 ガスマスクに感嘆の声色でそう言うと、彼は嬉しさと誇らしさが混じった息を『フッ』と口から漏らす。

 殺人鬼の中では冷静沈着で大人っぽいガスマスク。

 だが俊介に直情的に尊敬されるのはかなり嬉しいようだ。案外単純である。

 

 

 満足げに腕を組むガスマスクから視線を逸らし、他のみんなの意見がないことを確認する。

 俊介は手元の手紙に目を落とし、議題を次に進めるための言葉を吐いた。

 

「……他に何もないなら、これで榊浦美優の件は終わりかな。次は、未来革命機関にいたっていう榊浦豊の手の者についてだ」

 

 手紙の文章に目を滑らせ、夜桜の記載した情報を確認しながら言葉を紡ぐ。

 

「夜桜さんが榊浦美優を捕まえようとしてるとき、『榊浦豊の手下で実の娘』を名乗る人物が榊浦美優を殺しにきたらしい。殺そうとした理由はキュウビが言っていた通り、口封じだと思う。夜桜さんも同じような予想をしているらしいし」

 

 そこまで語ったところで、俊介は手紙から目を離して顔を上げる。

 

「そして機関の拠点に来た自称娘のこの女が、『俺の母さんを狙いに来てた奴』の可能性が高いとも書いてある」

 

 

 ……最近の出来事が濃すぎて遠い昔のように思えるが……実時間としては、つい10日ほど前のことである。

 榊浦豊の研究所に訪れた際、俊介は榊浦豊にひとつの脅しを受けた。

 

 それは、俊介の母親を手下に狙わせるというごくシンプルな物。

 榊浦豊は憎たらしいことに、母に電話を繋いだ状態で、母の近くにある物を手下に撃たせるという行為まで行ってきた。手下がいつでも母の頭を撃ち抜けると暗に示してきたのだ。

 

 手下が榊浦豊の指示を受けて銃を撃つより早く、10キロは離れた場所にいる母の元に駆けつけ、銃弾から守る……。

 ……いくら俊介と言えど、それは不可能だ。

 ヘッズハンターのおかげで時速600キロ以上で動けるようになった今でも無理だろう。 

 

 その時の俊介は、どうすることもできず、苦虫を噛み潰すような思いで榊浦豊に従ったのだが……。

 

 

「…………」

 

 嫌な記憶が脳裏に思い浮かび、無言のまま思わず顔をしかめる。

 口の中に当時の苦い味が蘇ってきたような気分だ。

 

 甘い物でも食べて打ち消したい気分だが、生憎この刑務所で甘味が手に入るところをまだ知らない。

 純粋に金もないしな。

 

 と……そんなことを考えていると、フライヤーが咥えていた煙草をぷっと足元に吐いた。

 フィルターギリギリまで吸われた煙草を足先で潰しつつ、彼女が声を出す。

 

『仮に夜桜の予想通り、『母親を銃で狙ってた奴』と『機関にいた自称娘の女』が同一人物だとすると……』

「すると?」

『その手下は榊浦豊によっぽど信頼されてるんだなと思ってよ。もし俺があの男なら、俊介が絡んでくる重要そうな仕事は一番信頼できる奴に任せるし』

 

 ぶっきらぼうに言いながら新しい煙草を一本取りだし、フライヤーが口に咥える。

 懐から取り出したライターを軽くこすり、10センチ程度の火柱を吹き上がらせて煙草に火をつけた。明らかに小型のライターから出る火力ではないが、彼女の火力強化体質は全員の知るところなので、誰も特には驚かない。

 

 俊介がフライヤーの言葉について頭の中で考えていると。

 木の机に座っていたヘッズハンターが足を組み替えつつ、言葉を吐いた。

 

『でもよ、榊浦豊が信頼できる手下にしちゃ随分と弱くないか? 酷い言い方だけど、夜桜に完敗する程度の実力だろ? 俺なら一発で仕留められるぞ』

『お前馬鹿かよ。時速600キロで動ける奴と比べりゃ誰だって弱いっつーの』

 

 二段ベッドの上に座るハンガーが肩をすくめ、呆れるようにそう言った。

 彼女の言葉には内心で同意する。新幹線の倍近く速いヘッズハンターと比べれば、格闘技の世界チャンプだって赤ん坊同然だろう。

 

 ヘッズハンターがベッドの上に視線を向け、ハンガーに言葉を放つ。

 

『だったらハンガー、お前ならどうなんだ? フル武装の夜桜相手に勝てそうか?』

『俺が素手なら確実に無理だな。頑丈な縄持った状態で、入り組んだ屋内に誘い込めれば……五回に一回は勝てるかもだ』

 

 指を折り数えながら、悩まし気な顔でそう言うハンガー。

 

 

 ……いや、ハンガー相手にかなりの確率で勝てるってめちゃくちゃ凄くないか?

 だって普通に武闘派の殺人鬼だぞ。屈強な男が束になって襲ってきても皆殺し……にはしないけど、何の支障もなくボコボコにできるんだぞ。

 

 夜桜さん……。

 まさか俺と一緒に何某の騒動に巻き込まれるたび、戦闘系の才能がメキメキ成長してるのか?

 もしそうだとしたら、なんかヤバい才能を成長させてしまっているような……。

 

 

『俊介、ぼーっとしてどうした?』

「ん……ああいや、何でもない」

『そうか。ならいいんだが』

 

 ヘッズハンターに心配されてしまった。

 俊介は頭の中から先ほどの思考を消し去り、話し合いの進行に意識を傾ける。

 

「それで、えっと……榊浦豊の手下が弱いんじゃないかって話だっけ?」

『ああ。夜桜の強さがヘッズハンター以下とかいう何の参考にもならない結果が出たところで終わってる』

『私だって夜桜を倒せますが?』

『……参考にならない結果がまた一人分増えたな』

 

 首を突っ込んできたエンジェルに対し、ハンガーが呆れたような物言いをする。

 うん、エンジェルとヘッズハンター以下の強さとか範囲が広すぎて何の参考にもならんな。むしろこの二人より強かったら大問題だ。

 

 というか、夜桜さんが強いとか弱いとかは話し合いの本題じゃないんだ。

 話が妙な方向に脱線しかけてる。

 さっさと元に戻さないと。

 

 そう考えていると、背中を壁に預けて静かにしていたトールビットが静かな声色で口を開いた。

 

『……さっきから夜桜の強さに対して話がズレているけど、本題は榊浦豊の手下の方だろう? さっさと話を元の方に戻そうじゃないか』

「お……」

 

 さすがトールビットだ。

 話がズレてるのを察知して助け舟を出してくれた。

 やっぱり頼りになるな……。

 

『ダークナイトが私のすぐ横にいるから、こいつが飽きて暴れだすと私が真っ先に殴られるんだよ。だから早く話を終わらせよう。マジで私死ぬから』

 

 …………。

 助け舟を出してくれたというより、助け舟に乗って全力で漕いできたって感じだな。

 ダークナイトタイマーの被害を真っ先に受けるのが嫌らしい。そりゃそうだ。

 

「よし、それじゃあ話を戻すとして……誰かなにか意見ある?」

『……じゃあ拙者から』

 

 俊介が意見を募ると、ニンジャがゆっくりと手を挙げた。

 

 いつの間にエンジェルの小突きから復活してたんだ?

 あ、いや……よく見るとまだ膝が微かに笑ってる。結構キツそうだな。

 

『さっきから手下が強いだの弱いだの色々言ってるでござるが……。別に、強さが一番大事な項目ではないでござろう』

「?」

『拙者はぶっちゃけそんなに強くないでござる。しかし、こと『隠密』に限っては殺人鬼の中で一番を誇れるでござる。大事なのはそういう『一点特化の強み』なのではないでござるか?』

 

 押し黙る俊介。

 ニンジャの言ったことは何の反論も浮かばないほどにまっすぐな正論だった。

 そしてそれは、俊介が一番に気づかなければいけない答えだったのだ。

 

 普段から殺人鬼達の強みを活かす戦い方をしている俊介ならば、すぐに気づけるはずだった答えだ。

 唇を噛んで少しの恥を押し殺すと共に、心の中で反省する。

 

(最近、刑務所の中で戦ってばかりだったからか? 知らないうちに『強いことが一番大事』みたいな良くない思考に染まっちゃってたかな……)

 

 無意識の思考の偏り。

 これはちゃんと是正しなければ。

 それを心の中に深く刻み込むと共に、ニンジャの言葉について話すために口を開く。

 

「強さじゃなく、一点特化の強みか。……その手下の強みってなんだろうな?」

『手紙に書かれていた、『顔を思い出せない』という内容の文章。これがかなり臭いでござる』

 

 俊介は手元の手紙に目を落とす。

 その手紙には、夜桜の美麗な文字でこう書かれていた。

 

 

【そいつの顔は、不思議なことにもやがかかったように思い出せないの。

 一度見た顔は殆ど忘れないんだけど、あの女の顔だけは、不自然なくらいに……。】

 

 

 ……こうして抜き出すと、確かに不自然だ。

 

 銃を持って襲ってきた人物の顔を忘れるだろうか?

 心を守るために恐ろしい記憶を脳が勝手に忘れるって事例を聞いたことあるけど、夜桜さんはその手下を普通に返り討ちにしてるしな。

 

 俊介は顎を抑え、眉間にしわを刻みながら考えこむ。

 

「なんだろう……幻覚の魔法的な奴か? キュウビ、何か思いつかない?」

『分からぬ。直接会ったことがない故、どうにも言えぬ』

「まあ、それはそうか……」

 

 一度でも会ったことがあるなら、もう少し正体を特定できたかもだけど。

 なにげに俺達、この手下に一度も対面したことないんだよな。

 

 

 ……ここいらがこの情報で話し合える限界かな。

 まだ話し合うべき情報は残ってるし、そろそろ次に進もう。

 

「とにかく、その手下が妙な()()を持ってるってことは分かったな。顔を思い出せないって、すごく限定的な強みだけど……」

 

 幻覚の魔法使い?

 そうじゃないとすれば、光学迷彩的な科学装備を使ってるとか?

 記憶を弄ったりしてくる魔法?

 

 ……さっぱりわからん。

 

 でも、これ以上考えても判明しないだろうし、今は次に進む!

 

 

 

「よし、じゃあ次の情報に進むぞ。えっと、時系列的に……次は折川旅館の殺人事件の奴か」

 

 折川旅館で女将が起こした殺人事件。

 俊介も巻き込まれ、マオと出会い、大変な目に遭いかけたあの事件だ。

 

 知雫という第三者が関わっているのは分かったものの、結局犯人が女将だという結論は変わらず。

 そのまま事件は真の終わりを迎えたと思ったが……。

 

「女将の娘さん……マオの宿主、折川結城さんが怪しい人物を見たって話だったな」

 

 殺された被害者の推定死亡時刻の前。

 折川結城は、被害者の部屋に入っていく人物の姿をたまたま見かけたというのだ。

 

 それは……。

 

「『()()()()()』さんが、被害者の部屋に入っていくところを見たって……」

 

 時々目の前に現れる明らかにコスプレっぽい探偵の格好をした謎の女性。

 遭遇率が結構高いし、多分同じ町に住んでるんだろう。

 でもそれ以外は殆ど何も分からない。

 

「…………」

 

 この話が本当だとしたら、かなり不自然な話である。

 折川結城は十歳、だが年齢以上に聡い女の子だ。

 

 落ち着いて論理的に話せる彼女の言葉を、警察が一切聞き入れなかったというのはかなり妙だと思う。

 加害者の娘だから、母親を助けるために嘘の証言をしたと思われたとか?

 

 いやいや、だとしても流石に少しは聞くだろ。大事な証言だぞ。

 

 

 俊介は顎を押さえて考えていたが、一向に良い答えが出る気配がない。

 顔を上げ、一番最初に目が合ったマッドパンクに問いかける。

 

「なあマッドパンク。お前も折川旅館の事件の時、外に出てただろ。坂ノ下風華さんのことをどう思う?」

『……どう思う? 何が?』

「いやだから……坂之下風華さんが、被害者が死ぬ前に部屋に入っていった件についてだよ。かなり怪しいと思わないか?」

 

 俊介の言葉を聞き届けたマッドパンク。

 しかし興味なさげに視線をぐるりと明後日の方向に向け、気だるげな声色で適当に言葉を吐いた。

 

『……折川の娘がそういう景色を見たっていうなら、その坂之下って奴がぶっ殺したんじゃないの? 冤罪で気の毒だねー、残念残念』

「軽っ……いや軽すぎだろ」

 

 思わず突っ込む俊介。

 マッドパンクは視線を俊介の方に向け直し、肩をすくめて言う。

 

『だって心底どうでもいいし。関係ない奴が関係ない奴殺した事件に興味なんか持てないよ』

「…………」

 

 チラリ、と他の殺人鬼達を見る俊介。

 全員がマッドパンクと同じような、心底興味なさげでどうでも良さそうな反応を示していた。

 ヘッズハンターですら手の指をくるくると回して時間つぶしをしているほどだ。

 

 どれだけ俊介に優しくとも、ここにいるのは全員生粋の殺人鬼。

 知らない人間が一人死んだくらいの殺人事件には微塵の興味や関心も持たないのだ。

 俊介が深く関わっているならば、話はまた別だろうが。

 

 

『折川旅館の事件を今更ひっくり返しても、榊浦豊との戦いに有利な情報なんか出てくるか? 話し合う意味をあんまり感じないけどね』

「むう……」

 

 マッドパンクの言葉に納得しかけてしまう。

 謎の残る事件ではあるが、もう事件現場の旅館そのものが取り壊されてしまっている。

 再捜査なんてもう不可能だ。何もかもが手遅れなのである。

 

「うーん……」

 

 今すぐ地下施設やダークナイトの話に移った方が効率が良いのは分かるが……。

 なんかこう、気持ち的なところがもやもやしてすっきりしない。

 

「坂之下さん、坂之下さん………………あっ。そういえばさ」

 

 腕を組み、うんうんと唸って悩んでいた俊介。

 しかし何かを思い出したようにパッと顔を上げ、マッドパンクと目を合わせるように顔を向けた。

 

「マッドパンクと……ガスマスクだっけ? あの言葉聞いたの」

『え? 僕?』

『俺もなのか。……あの言葉とはなんだ?』

 

 ガスマスクが俊介の方を向き、声を放つ。

 内心では折川旅館の事件に心底興味がないが、俊介に気を遣い、それを声色に出さないようにしている。

 

「あれだよ、ほら」

 

 俊介がこめかみに手を当てながら、かなり昔の記憶を引っ張り出し。

 当時の彼女が言った言葉をゆっくりと口に出す。

 

 

『分かりました!! この旅館に、人殺しは15人居ます!!』*1ってやつ。坂之下さんが大声で言ってたじゃん。覚えてない?」

 

 

 俊介の喉にずっと小骨のように引っかかっていた言葉。

 探偵を自称する彼女の勘の良さを表す言葉でもあるが……俊介はどうにも少し、引っかかっていた。

 

 あの時、旅館の中には客や従業員を含めてたったの6人。

 一体何処から人殺しが15人なんて数字が出てきたのか?

 そして、俊介の中にいる殺人鬼達の人数に割と近かったのはどういうことか?

 

 当時の俊介はなぜかこの言葉を軽く流してしまった。一緒にいたガスマスクとマッドパンクが下らなさそうに流していたので、それと同じような対応をしてしまったのだ。

 しかし坂之下さんに対する疑惑が浮かび上がったことで、この言葉をふと思い出したのである。

 

『……ああ。そういえば……そんなことを言ってたような気もする、かも?』

『だな。殆ど覚えていないが……』

 

 マッドパンクとガスマスクはほぼ記憶に残っていないようである。

 俊介は更に小首を傾げ、問い詰め続ける。

 

「15人って勘で言ったにしては、殺人鬼のみんなの人数と近すぎる数字だけど……」

『ふうん。まあ、偶然じゃない? ちゃらんぽらんっぽかったし』

『……………………ただの、偶然だろう。……他の奴らにも聞いてみたらどうだ?』

 

 興味なさそうなマッドパンク。

 ガスマスクは顎を押さえて言葉を溜めた後、他のみんなに質問するように促した。

 

「……他のみんなはどう思う? 坂之下さんのこの言葉について」

 

 俊介がガスマスクとマッドパンク以外の殺人鬼に問いかけた。

 彼ら彼女らはお互いに顔を見合わせ、二言三言言葉を交わす。

 

 そして、一斉に俊介の方を向き。

 

 

『『『『…………別に何も?』』』』

 

 

 と、声を合わせるように言った。

 ダークナイトは声こそ発していないものの、こてんと小首を傾げている。

 

 

「……………………」

 

 

 俊介はその言葉を聞いた後、口を固く閉じて押し黙る。

 殺人鬼達はなぜ俊介が黙ったのか分からず、怒らせてしまったのかと不安になった。

 

 それと同時に理解もできなかった。

 なぜ既に終わった事件に俊介がここまで固執するのか、と。

 坂之下の言葉に一体どんな不明点があるのかと。

 

 

 実時間にして10秒ほど経った後。

 俊介は眉間に深いしわを刻みながら、殺人鬼のみんなを見つつ口を開いた。

 

 

「いや……明らかにおかしいだろ、これ」

 

 

 

 

 

*1
#16 それでも俺は(全面的には)悪くない

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