殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#149 認識阻害

 

 

 

 

(明らかに変だ……)

 

 俊介はそう思いながら、殺人鬼たちの顔をぐるりと見渡した。

 彼ら彼女らはこちらを心配と困惑が入り混じった顔で見ていた。タチの悪い冗談でからかってやろう、なんて感情は一切感じない。

 

「なあ、さっきのやりとりの中で誰も『おかしい』とか思わなかったのか?」

『…………』

 

 俊介以外の全員が互いに顔を見合わせ、首を傾げる。

 誰も俊介の言葉にピンと来ていないらしい。

 

「そうか……」

 

 顔の前で手を組み、指の腹を擦り合わせるようにしながら思考を進める。

 

(俺の勘違いだって可能性も十分ある。だけど、俺以外の全員がまちがってるって可能性も少ないけどあるからな。……ここは慎重に話を進めないと……)

 

 頭の中でパズルのピースを組み立てるように、みんなを説得できるような話の流れを考える。

 そしてとある人物の顔を平静な視線でじっと見つめ、口を開いた。

 

「なあガスマスク。本当におかしいと思わないのか?」

『…………』

 

 俊介は頭が抜群にキレる人物ではない。

 ニンジャやキュウビのように、人を騙し操る能力にも長けていない。

 俊介に対してはゲロ甘い対応をする殺人鬼たちとはいえ、13人全員を一斉に説得するのは難しいだろう。

 

 だから、まずは一人に狙いを絞って説得する。

 一人だけでも違和感を覚えさせれば、連鎖的に全員を説得できるはずだ。

 

 俊介は身を乗り出すように体を傾け、言葉を続ける。

 

「ガスマスクは実際に聞いただろ? 坂之下さんのあの言葉を」

『…………ああ』

「15人の人殺しがいるって、あの旅館には6人しかいなかったんだぞ? しかも15人って……みんなの人数の13人にかなり近い数じゃないか。これで何も思わないってのはありえないだろ」

『それはわかっているんだが……』

 

 ガスマスクの目が濃いレンズ越しに泳いでいるのが見える。

 超真面目な性格で、坂之下さんの言葉を実際に聞いたガスマスクを説得するのが一番成功率が高いと俊介は踏んだのだ。

 

 彼は目を泳がせたまま顔を逸らし、絞り出すように言葉を吐く。

 

『ただ……15人と13人で、ピッタリ合った数字でもないだろう。坂之下という女は確か……知雫がいたデパートでレジ打ちのバイトをしていたな?』

「え……ああ、そういやそうだったな」

 

 俊介の脳裏に思い浮かぶ記憶。

 デパートで寄った駄菓子屋のカウンターに、坂之下さんが偶然にも立っていたのだ。

 彼女はとうとう父親に働くことを強制されたとかなんとか言っていたが……。

 

 そして記憶を掘り起こす俊介に対して、ガスマスクが遠慮気味に言葉を放つ。

 

『あの女は簡単なレジ打ちを何度も失敗していた、と言っていたな。だからその15人という数字も何かの失敗か、つまらない冗談で言い放っただけのものじゃないか?』

「いやちょっ……はぁ? 何言ってんだよ?!」

 

 どれだけ無茶苦茶な理屈だよ、と思わず声を荒げてしまう俊介。

 いくらなんでもバイトのレジ打ちを間違えるのと同列で扱うのはおかしいだろ。たとえあてずっぽうの失言だとしても決して無視しちゃいけないレベルの言葉なんだぞ。

 

 俊介はガスマスクの顔をしっかりと見つつ、少し声量が増した状態のまま声を出す。

 

「自分で言ってておかしいと思わないのか!? 言ってることが支離滅裂だぞガスマスク!」

『……む……いや……ぐっ…………』

 

 ガスマスクが顔を下に俯け、気まずそうにする。

 他の殺人鬼たちも居心地が悪そうな顔をしていた。

 

 

 俊介以外の放つ雰囲気がガスマスクに同情的なものに移り、俊介に冷ややかな視線が注がれる。

 場の空気が『さっさと次の話に進もう』と無言で訴え始めたのが何となくわかる。俊介が次に下手なことを言えば、殺人鬼の誰かが強制的に話題を次に進めるだろう。

 

(くっ……こ、ここまで厄介とは……)

 

 俊介は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 みんなと出会ってからの7年間、こんな冷たい目を向けられたのは初めてだ。

 

(……だけど、確信できたものもある……)

 

 先ほどまでは自分が間違っている可能性もほんの僅かにだが考慮していた。

 しかし、ガスマスクの先ほどの発言によって俊介の中でその可能性はゼロになった。

 

 ガスマスクは真面目でマトモで、割と理屈っぽい性格だ。

 彼の話は基本的に一本の筋が通っている。理屈を優先しすぎて感情面の考慮が薄く、俊介以外の万物に対して冷酷すぎる行動を提案することもあるくらいだ。

 そういう面はあるものの、常に冷静で頼れる人物だからこそ、俊介はガスマスクを深く信頼しているのだ。

 

 だがさっきの彼の言葉は明らかにおかしかった。

 小学生の言い訳よりも酷い言葉だった。

 

 俊介は眉間にしわを刻み、強く思う。

 

()()ガスマスクが無茶苦茶なことを言ってるのが、みんながおかしくなってるって何よりの証拠だろ……!)

 

 ガスマスクのことを()()()()()()からこそ、今の状況が()()だと確信できたのだ。

 

 

 

 ……しかし、依然として現状の改善策は思いつかない。

 

 7年間連れ添ったみんなが全く味方になってくれない、というのは初めての経験だったのだ。

 こちらの話を一片も理解してくれない、というのも初めてである。普段は何を言っても13人の誰かが肯定してくれたものだ。

 

 俊介が内心でうんうん唸って悩んでいたとき、ふと、思い出す。

 

(……そういや、夜桜さんが手紙で書いてたな。マオが坂之下さんについて庇うような言動をしてたとかなんとか……)

 

 手紙の中で、夜桜さんはこう書いていた。

 折川結城さんが坂之下さんの怪しい現場を見たと言うのに、マオは何かの間違いだとして一切信じようとしなかったと。

 

 今の俺の状況は折川結城さんがマオに信じてもらえなかったのと全く同じだ。

 

(折川さんと俺で、坂之下さんの『()()』が通じない共通点がある……?)

 

 俊介はそう考えるが、しかし、それ以上は思い浮かばない。

 共通点なんて考えようと思えばいくらでもあるのだ。そこから坂之下さんの『何か』が通用しない原因を特定するという器用なことができるわけがない。

 

 だが、別に原因を探る必要はない。

 一人だけでも説得できればいいんだ。一人だけでも。

 その説得の方法をどうにか思いつけば……。

 

 

「…………」

 

 

 マオもみんなも、どこか、認識がおかしくなってる……。

 認識阻害とか幻覚魔法とかわかんないけど、俺だけが正しい認識のまま……。

 

 

 誰か一人でも俺と同じ認識になれば、説得は容易い。

 認識を変える……いや、俺と同じにする……同じ……同じ…………。

 

「…………!」

 

 そうだ。

 『()調()』だ!

 

 ヘッズハンターの身体能力を俺が使えるなんてトンデモない技術なんだ。

 俺にここまでの影響をもたらす分、ヘッズハンターにも俺の認識とか精神とかが影響するんじゃないか……?!

 

 

 すぐさまヘッズハンターの方を向き、彼に向かって声を放つ。

 

「ヘッズハンター! 同調だ!」

『え……え、今? でもあんまり無暗に同調すると、デメリットの眠気が……』

「今だよ!」

『まあ、そこまで言うなら……』

 

 しぶしぶ、と言った風にヘッズハンターが木の机に座ったまま目を閉じる。

 俊介も目を閉じ、お互いの意識を練り合わせていくようなイメージを頭の中で浮かべる。

 

 そして十分に意識が重なったと思った瞬間、全身に超常の身体能力が一瞬で張り廻った。

 

 目を開け、手をほんの軽くだけ力を込めて振る。

 ブゥン!と大きく鳴った風を切る音と共に残像が残る。

 しっかり同調できているようだ。

 

 

 俊介はヘッズハンターの方に向き直り、強い声色で問いかける。

 

「改めてだけど……ヘッズハンター。坂之下さんの言葉についてどう思う?」

『ああ。坂之下が旅館で15人の人殺しがいるって言ってた話……だろ………………』

 

 言葉尻の声量が次第に小さくなっていく。

 ヘッズハンターが自身の顎を押さえながら何度か首を傾げる。

 そしてしばらくすると、ぽつぽつと顔中に脂汗の粒が出始めた。

 

 

『……は? な、何言ってんだあの女…………?!』

「!」

 

 

 パッと顔を明るくする俊介。たった一人とはいえいつものみんなに戻ってくれたのが嬉しかったのだ。

 それとは対照的に、ヘッズハンターは心底信じられないような表情でぼそぼそと呟き始める。

 

『ちょっと待て。な、なんで俺は今まで気づいてなかったんだ? こんなもん普通に考えておかしすぎるだろ……?』

『お、おい。一体何なんだ?』

『何なんだじゃねーよ! どう考えたっておかしいだろマッドパンク!!』

 

 ヘッズハンターが声を荒げる。

 それと同時にマッドパンクを含む殺人鬼達に再び動揺が走った。

 俊介一人だけの勘違いか何かで終わりかけていた話だったのに、突然ヘッズハンターが俊介側に回ったのだ。本当に自分達の方がおかしいのでは、とわずかながらに思い始めたのである。

 

 動揺が広がる中、キュウビが自身を落ち着かせるようにぺしぺしと扇子で額を叩きながら言う。

 

『……わらわにはまだピンと来ないのじゃが……坂之下なる女が一体どうしたと言うんじゃ? あんなのただの一般人じゃろ?』

『旅館での一言が明らかにおかしい……って言っても、わかんねーだろうな』

『その上から目線な言い方、なんかムカつくのじゃが』

『事実そうだから仕方ないだろ。さっきまで俺もそっち側だったから気持ちは分かるけどな』

 

 

 顔に浮かんだ汗を袖で拭うヘッズハンター。

 彼は一度落ち着くために深く息を吐いたあと、俊介の方に向き直り、軽く頭を下げた。

 

『俊介、これはどう考えてもすぐさま信じられなかった俺の落ち度だ。本当にすまん』

「いや……いいんだ。とにかく信じてくれてよかった」

 

 温和な笑みを浮かべ、ヘッズハンターにそう返す俊介。

 しかしすぐに表情を真面目なものに切り替え、彼に問いかける。

 

「それで、ヘッズハンター。この現象の原因について何か思いつかないか?」

『……悪いけどさっぱりだ。同調すれば治るってのは分かったが、俺以外とはできないんだろ?』

「そうだな。そもそもヘッズハンターと何で出来るようになったかもいまいち分かってないし」

 

 ヘッズハンターと同調できたのだから、理論上は他の殺人鬼のみんなともできるのだと思う。

 しかし、同調ができるようになる条件が未だによく分からない。ヘッズハンターと出来るようになったのも、未来革命機関でのアレコレが重なった上での偶発的なものだ。

 

 同調すれば治ると分かったのはいいものの、『ならば今から全員と同調しよう!』と言ってできるようなものではない。

 

 

 俊介はヘッズハンターの方に顔を向けながら、次の言葉を発する。

 

「夜桜さんの手紙の中で、マオがみんなと同じような感じになってたって書いてたんだ。そこにヒントがあるんじゃないかと思うけど……」

『……折川結城は確か、坂之下が()()()()だって認識できてたんだっけ?』

「手紙の内容通りならな」

『うーん。人格持ちの宿主なら効果がない……? いやでも、俊介は精神面が普通じゃないからあんまり比較にならんな……』

 

 今とてもディスられた気がする。

 俊介は何かツッコもうと思ったが『巡り巡って人格犯罪者専用の刑務所に入るような高校生はさすがに普通ではないのでは……?』と感じ始めてきたので、そっと言葉を胸の奥にしまった。

 

 そして、沈む俊介と悩むヘッズハンターの二人に対し。

 トールビットが肩をすくめるようにしながら声を掛けた。

 

『……二人の反応から、坂之下が怪しいってのは何とな~くわかったけどさ。でも、あんな女にできることなんてたかが知れてないかい?』

「『()()()』? ……なんでそう思うんだ?」

『確かに怪しい発言はしてたとしても、結局は自称探偵のフリーターだろう? 金なし身分なしの』

「いや……それは言いすぎだろ……」

『まあつまるところ、坂之下はごくごく平凡な『一般人』だよね。私たちの前で15人云々の発言をするとか、被害者の部屋に入るとか……そんなことをする理由がないと思うんだけど?』

「…………」

 

 俊介はその言葉に、口をつぐみ無言になる。

 それはトールビットに対して言い返す言葉が思いつかなかったからではない。

 彼女の話に、何か引っかかるものを覚えたからだ。

 

 

 静寂を保つ俊介とは対照的に、ヘッズハンターがトールビットに声を出す。

 

『トールビット。坂之下がホントに『一般人』なら、そんなことをする理由は確かにないな』

『そうだろう? ならば……』

『逆説的に考えろよ。坂之下があんな発言をしたのも、被害者の部屋に入ったのも……『一般人』なんかじゃない、()()()()()()()の人物だからってことだ。どんな立場なのかは分からないけどな』

 

 ヘッズハンターの言葉を受け、トールビットは兎の仮面の淵を指でなぞりつつ考えこみ始める。

 他の殺人鬼たちも各々個別の仕草を見せながら長考状態に入りかけていたとき。

 

 俊介が目を上げ、半信半疑の気持ちが籠った目で全員を一瞥してから声を発した。

 

「……………………あのさ。みんなに一応聞いておきたいんだけど……」

 

 

 

「もしかして、今までの話を全部聞いても尚……坂之下さんのことを『()()()』だと思ってるのか?」

 

 

 

 俊介の言葉に、ヘッズハンター以外の殺人鬼は互いの顔を見合わせる。

 そして一言二言だけ言葉を交わしたあと、一斉に俊介の方を向き。

 

 ()()()、と肯定の意を込めて深く頷いた。

 

 それを見た俊介は確信の息を深く吐き、額を手で押さえる。

 

「はぁ~っ……あぁ~、そういうことか……」

『な、何か分かったのか俊介?』

「うん。坂之下さんの謎の認識阻害の正体っていうか、カラクリと言うべきか……証拠のない憶測だけど、そう遠くは外れてないと思う」

 

 俊介はヘッズハンターの方を向き、そしてみんなの顔を一瞥してから、ゆっくりと語り始めた。

 

 

「坂之下さんが使ってたのは多分、自分を『非力な一般人』と思い込ませる類の強烈な認識阻害。その上で……みんなの『()()』を突かれたんだ」

『悪癖? 俺達の?』

「もっと詳しく言うと、()()()かな」

 

 息を吸い、俊介は話をする準備を整える。

 

 

「前提としてさ。ヘッズハンターみたいな超常人類ほどじゃなくても、みんなって普通の人間よりは圧倒的に強いじゃん。言い方はすごく悪いけど……前世で大量に人を殺してきてるわけだし」

『…………』

「だからこそ、前世で大量に殺してきたような『非力な一般人』を対等な相手と認識しない。吹けば飛ぶような相手だと思っているから、知覚範囲内に入れても警戒心を向けられないんだ」

『…………』

 

 誰もが痛いところを突かれたように、目線を逸らす。

 

 ……この一般人相手に侮る癖が最も顕著なのはハンガーだ。

 彼女は宿主の俺と、自分と同じ殺人鬼達以外の非力な人間を見下す傾向にある。それは相手を『いつでも殺せる』と思っているからだ。

 事実一般人程度ならいつでも殺せる実力を持っているから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。

 

 そして、ハンガーに次いでこの侮り癖の傾向が強い人物は……。

 

「最初は夜桜さんの名前もあやふやに覚えてたっけ? あの頃は天才って噂は知ってても、流石に殺人鬼のみんなと殺り合えるレベルだとは思ってなかったもんな。そうだろ、サイコシンパス?」

『うっ……そ、それは……』

 

 気まずそうに顔を逸らすサイコシンパス。

 高校二年生が始まったばかりのころ、俊介と夜桜の関係性は限りなく薄かった。

 俊介が彼女に対して片思いを抱いていただけだった。

 

 故に殺人鬼達は夜桜の本性を知らず、所詮は学生レベルの天才少女だと侮っていたのだ。

 実際は学生レベルの天才どころじゃ済まなかったわけで、殺人鬼達はすぐに認識を改めて名前を覚えたのだが。

 

 

 俊介は全員に目をやりつつ、話を続ける。

 

「具体例としてサイコシンパスのことを言ったけど、この侮り癖は大小あれどみんなの中に絶対ある。……みんなが優秀だからこそ、侮ってしまうんだと思う」

『……まあ七年間ずっと俺達を見てきた俊介が言うんだから、間違いはないだろうな』

 

 ヘッズハンターが腕を組みつつ、アシストするようにそう言った。

 内心で彼に対して親指を立てたハンドサインをしつつ、顔の前で手を組み、証拠のない憶測を紡ぐ。

 

「まあでもぶっちゃけ、俺の推理も全然完璧じゃないよ」

『え?』

「だって、坂之下さんを『普通の人間』だと思い込んで侮るのは分かるけどさ? でも、そこから坂之下さんを庇いまくるような言動をするのはどう考えたっておかしいだろ」

『…………まあな』

「だから多分、何かもっと別のカラクリがあるんだと思う。でもそんなにズレた推理とも思わないんだ。これが『遠くは外れてないだろう』って言った理由」

 

 ……そう。

 

 この推理は完璧じゃない。

 

 でも、この証拠のない憶測が当たっているのか?

 それとも全くの的外れなのか?

 

 それを確かめる術はある。

 

 

「……俺の予想が正しければ、坂之下さんの能力の影響が薄いのは『戦闘力が低い』上に『一般人をいつでも殺せる雑魚』と思ってない奴だ」

 

 最初にガスマスクを説得しようとしたのは失敗だった。

 ガスマスクは殺人鬼の中でも上から数えた方が早いくらいに強い。

 一般人を無駄に傷つける奴じゃあないけど、心の何処かで『無力な一般人程度ならどうにでもできる』と思ってしまう気持ちはあるはずだ。

 

「だから……俺が最初に説得すべきなのは、別の奴だったんだ」

 

 一般人でもそこそこ苦戦するレベルの強さしか持っていなくて。

 なおかつ、殺人鬼の中でも屈指の優しさを持つ人物は……!

 

 

「……『クッキング』! 一番認識阻害が薄いのはお前じゃないか?!」

『えっ! こ、ここで私なの?!』

 

 突然名前を呼ばれたクッキングが口で手を押さえ、驚いたように体を跳ねさせた。

 俊介は強い確信を持った目で彼を見続け、言葉を紡ぐ。

 

「戦うのが苦手で、めちゃくちゃ優しいお前なら『非力な一般人』をそこまで蔑ろにしない! 今までの話で坂之下さんが普通じゃないのはよく分かったはずだ! どうだ、何か変わらないか……?!」

『いや、そう言われても……』

 

 この予想が当たっているかどうか。

 それで、坂之下さんの正体に近づけるかどうかが変わる。

 

『クッキング、落ち着いて復唱しろ。『坂之下は普通じゃない』……。それをゆっくりと頭に刷り込むんだ』

 

 ヘッズハンターが落ち着いた声色で、壁際にいるクッキングにそう言う。

 彼はまだ困惑が隠し切れない様子を保ったまま、こくりと頷き、復唱し始めた。

 

『坂之下は普通じゃない……普通じゃない……』

「…………」

『……どう普通じゃないのかわからないけれども、普通じゃないのよね……。その理由はさっき俊介ちゃんが言ってた通り、旅館で15人の人殺しがいるって言ってたし、被害者の部屋に入って……?』

 

 そこまで言ったところで。

 クッキングが口元に当てていた手を顎に当て、眉間にしわを寄せながら小首を傾げた。

 

『被害者の推定死亡時刻の直前に、部屋に入ったの……?』

「!」

『……そ、それってつまり……坂之下が殺した可能性も十分ある、ってことよね……?』

「く、クッキング……!」

 

 パッ、と俊介の顔が明るくなる。

 それと対照的に、クッキングにかかっていた認識阻害が雪崩のように崩れていく。

 

『よくよく考えたら、15人って疑問に思わない方がおかしい発言じゃない……! 私今まで何を思ってたの……?!』

『俊介の予想が当たってたか!!』

「っしゃあ!!」

 

 思わずガッツポーズをする。

 かなり憶測交じりの推理だったが、どうやら大部分は当たっていたらしい。

 自分で言うのも何だが、俺の頭の冴えもなかなか捨てたもんじゃないようだ。

 

 俊介は喜びを隠し切れない表情のまま、拳を握りつつ言葉を吐く。

 

「よし……。クッキングのおかげで、坂之下さんの認識阻害を解く方法も大体見当がついたな。坂之下さんを普通じゃないってみんなに思い込ませれば解けるらしい」

『……どうするのかしら?』

「そうだな……。坂之下さんの正体を考えていけば、ヘッズハンターとクッキング以外のみんなもいずれ気づくだろ」

 

 クッキングの問いかけに対し、俊介が答える。

 それを聞いたヘッズハンターは腕を組んだ状態のまま、俊介に対し声を出した。

 

『坂之下の正体……か。俺の中じゃ凡その予想はついてるが……俊介はどう思う?』

「多分おんなじだと思うけどな」

『……私はまだ分からないから、教えてもらってもいいかしら?』

「ああ。つっても、予想だけどな」

 

 

 俊介は顔の前で手を組み、神妙な面持ちをする。

 そして低い声色で語り始めた。

 

「折川旅館を潰して最終的に得する奴はかなり絞られる。その上で、夜桜さんの手紙にも()()()が地下施設に来てたって書いてたしな……」

 

 何度も出会っていた彼女が、()()だとはあまり考えたくないが……。

 しかし、現状思い浮かぶ中で最も納得がいく坂之下さんの正体はこれしかない。

 

 

 一度大きく息を吸ってから、深く息を吐き。

 真面目な声色で、端的に言葉を放った。

 

 

 

 

「坂之下さんはたぶん……『榊浦豊の手下』だ」

 

 

 

 

 

 

 





話がややこしくて申し訳ないです。
坂之下の話だけで今話が終わるとは思ってもいなかった。
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