殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#151 アレの危機

 

 

 

 ――――――――『MRK』。

 

 

 『マジ・リア充・キラー』のイニシャルを取って名付けられた、バクダンのリア充への怨嗟と憎悪が練り込められた爆弾。

 冗談のような名前だが、爆発物に関しては夜桜を完璧に上回る天才のバクダンが『()()()()()()』と豪語するほどの代物である。

 

 

 MRKが持つ、他の爆弾と隔絶した特徴は二つ。

 

 一つ目は、圧倒的な爆破距離。

 MRKは半径百キロ以内全域を爆破できる。小さな県なら完全に覆えてしまうほどの効果範囲だ。

 ただ水爆等の超強力な爆弾ならば、MRKの効果範囲に匹敵するものもあるだろう。

 

 そして二つ目。

 これこそが、バクダンがMRKを『他の爆弾とは次元が違う最高傑作』と呼ぶ所以たる特徴。

 それは『()()()()()()()()()()()()』なことである。

 

 ……例えば。

 

 MRKを、果物の中にある種だけ爆破するように設定して起爆する。

 すると効果範囲内にあった果物からは、果肉部等がまったく綺麗なまま、種だけが魔法のように消え去る。

 選択したものを爆破し、消し去っただけ。

 とても単純な話だ。

 

 

 ()()()()()()()を、MRKは人間の()()()に設定して行うことができる。

 

 

 

 ……この二つ目の特徴こそがMRKが超戦略級兵器と呼ばれる理由であり。

 爆弾の概要を提出しただけで、バクダンが国認定の人格になった故であり――――。

 

 

 

 

 

 

 

「…………どうしよう」

 

 

 

 

 

 ――――俊介が両手で頭を抱えて困惑している原因でもあった。

 

 

 

 手紙の内容を聞いていた(眠っているダークナイト以外)殺人鬼たちも全員、程度の差はあれど一様に困惑の表情を浮かべていた。

 キュウビが眉を八の字にし、扇子で口元を隠しながら言葉を発する。

 

『……あの女、とうとう完全にブレーキが壊れてしまったようじゃな。有効に使えば役に立つ、と言って劇物を送りつける阿呆がいるか』

 

 酷い物言いをするキュウビだが、監房内の俊介を含む全員が異論の声を発さなかった。

 MRKの設計図ですら未来革命機関が夜桜を誘拐するほど欲しがっていたのに、それを超えるMRKの現物を送ってきてどうする。しかもこんな危険な刑務所に。

 

(マオが気を利かせてくれなきゃ、確実に全部の話題がこっちにかっさらわれてたな……)

 

 俊介が内心でマオに向けて感謝の念を送る。

 同時に、夜桜の思考を読んだマオの心情がありありと思い浮かぶ。MRKのスペックと、そんな劇物を刑務所に送ったことを知った彼女の内心は穏やかではなかっただろう。

 頭を抱えていた両手を顎の下に移動させて組み、俊介が重い声色で言う。

 

「MRKが刑務所に来てるかもしれない以上、今すぐ回収に動かないとまずいよな……」

 

 その言葉にマッドパンクが頷き、言葉を放つ。

 

『もし悪用でもされたら普通に死ぬだろうしね。MRKって理論上人間の内臓だけを爆破させられるんだろ? ……エンジェルって内臓爆破とか耐えられたっけ?』

 

 彼の発言に、俊介含む殺人鬼達(寝ているダークナイトを除く)は一斉にエンジェルの方を向いた。

 もしMRKを誰かに悪用され、どうしても内臓爆破に耐えなければならなくなった場合。

 ダークナイトならば内臓を爆破されてもケロッとしているのは想像に容易い。だがこの刑務所内でダークナイトと体を交代するのは、すなわち俊介を除いた囚人全員の死を意味する。

 

 俊介が脱獄して平和なその後を送るためにはゼロツーの力が欠かせないのでダークナイト交代は論外。

 つまり、二番目に耐久性の高いエンジェルが内臓爆破に耐えられるかがもしもの時の命綱になるのだが……。

 

『残念ながら、私も内臓の爆破に耐えるのは無理です。なにせ、前世の死因が体内での爆弾爆発なので』

 

 内臓爆破を実体験済みのエンジェルは首を振りながら冷静にそう言う。

 いくらヘッズハンターと同調しても瞬時に半径百キロの範囲外へ逃げることはできない。そもそもこの刑務所から脱獄することも未だできないのだから、どう頑張っても範囲外に出るのは不可能だ。MRKを悪用されたら割と本気でまずいことが確定してしまった。

 

 

「……ちょ、ちょっとダークナイトの件についての話し合いは延期! 一旦MRKの回収に注力するぞ!!」

 

 俊介が焦った様子で全員に向かってそう言う。

 ダークナイトがどうしてこの世界にいるのかは非常に気になるが、今は命の危険があるMRKについて対処するのが先だ。……どうして味方側の彼女からの贈り物に命の危険を感じさせられているんだろう?

 

 

『ただ、MRKを回収ってもな……何処にどう送ったとか書いてないのか? ノーヒントで刑務所中を探すのはしんどいぞ』

 

 ヘッズハンターが困った顔を浮かべながら夜桜が書いた手紙を指さす。

 それに対し、俊介はゆっくりと顔を横に振った。手紙に書いていたのはMRKを送ったことの報告のみで、どんな風に送ったかまでは書いていない。一番大事なことだから書いておいてほしかった。

 

 一体どう探したものかと悩んでいると、トールビットが自身の仮面の額部をコツコツと指で叩きながら声を出した。

 

『たしか昔、バクダンが自分の死因について語ったときに『MRKは一辺1メートルの立方体型』だって漏らしてたね。現物を見たことがないからどんな外見なのかまではわからないけれど』

 

 一辺1メートルの立方体型……。

 ああ、そういえばそんなことを言ってた気がするな。MRKを真冬の野外で操作してたら凍死したとかいう話をしていたときに……。*1

 

 俊介が記憶を漁る中、キュウビが扇をパチンと畳みながら言葉を吐く。

 

『一辺1メートルの立方体か。なかなかに大きいのう。人目につかずこっそり運び込む、というのは難しそうじゃな』

『看守がムショに運んでくる物品に紛らわせてんじゃないの? 見た目をちょちょっと誤魔化してさ』

『十中八九そうでござろう。残念なことに、そのちょちょっと誤魔化した見た目すらわからないのが現状でござるが……』

 

 キュウビ、マッドパンク、ニンジャの三人が矢継ぎ早に言葉を進める。

 この刑務所は看守が外から拳銃や手りゅう弾を持ってくるぐらいには、心の底からどうかと思うほどにセキュリティが緩い。天才の夜桜ならば外から輸入される物品にMRKを忍ばせるくらいできるだろう。

 

 ただニンジャが言った通り、『MRKを()に誤魔化したのか?』ということすら分からないのが現状である。

 切実に、誤魔化した見た目くらいは手紙に書いておいて欲しかった。MRKの危険性を鑑みて、手紙が盗まれた時を想定して敢えて明記しなかったのかもしれないが……そんな危惧をするくらいならそもそもMRKなんて劇物を運び込むんじゃあない!

 

 

 俊介が重い息を吐きながら、三人の話を要約する。

 

「……まあ、ともかく。看守の運んでくる物品にMRKが紛れてる可能性がとても高いってことだな」

 

 その言葉を聞いたドールが俊介の顔を見ながら言葉を出す。

 

『なら今から、最近の看守の動きをいっぱい調べてMRKを探すの?』

「うーん。刑務所に来て日が浅いし、看守の動きを調べるツテがないんだよね……」

『そっか……じゃあゼロツー達に聞くのはどうかな? 刑務所に来て長そうだし、色々ツテとかありそう!』

「…………まあそれが安パイなんだけど、ひとつ懸念点があってさ……」

 

 ドールの言った提案に、俊介が苦い顔を浮かべる。

 数人の殺人鬼は俊介と同じ思考に至っているのか、静かに首を上下に揺らした。

 しかし未だにピンと来ないドールは小首を傾げ、俊介に対して疑問気な声を出す。

 

『その懸念点って何なのお兄ちゃん?』

「……ゼロツーにMRKのことを相談すると、ほぼ確実に()()()が首を突っ込んできそうなんだよね。どれだけ隠しても、どこかから聞きつけてさ」

『アイツ?』

「『()()()()()』だよ」

 

 俊介の簡潔な言葉に、ドールが合点がいったように顔をしかめる。

 

 

 未来革命機関の元ボス・ウィザード。

 

 MRKの設計図が欲しいがために夜桜を誘拐した超ド級の危険人物。

 今は脱獄計画の仲間として協力しているが、決して全幅の信頼を置けるような相手ではない。

 ゼロツーやジャンにMRKについて相談しようものなら、ウィザードがどこかから聞きつけて首を突っ込んでくるのは目に見えている。

 

「ウィザードさえ何とかできればゼロツーに相談するんだけどな……。MRKは危険だけど実際脱獄に役立つ物だから、ゼロツーも色々協力してくれそうだし……」

『……ウィザードを何とかすりゃいいってだけなら、適任なのがいるじゃん』

「え?」

 

 俊介の背中にしがみついたままのハンガーがぶっきらぼうにそう言う。

 そして切れ長の目をキッと細め、壁際にいる一人の人物を見つめた。

 

『そこで気配を消して黙ってる()()を使えば、ウィザードもそれなりに言うこと聞くだろ』

『チビ言うなお前と五センチくらいしか変わんねーよハンガー!! …………あっ』

 

 脊髄反射的に声を荒げ、少し後に『しまった』と言わんばかりの顔を浮かべるマッドパンク。

 殺人鬼達の視線が一斉に彼の方に向き、マッドパンクは冷や汗を垂らして目を泳がせる。

 

 

『そういえば、ウィザードはしきりにマッドパンク()に会いたいって言ってたね』

『…………』

『マッドパンクが外に出て適当に囁いてやれば、ウィザードもそれなりには大人しくなるかも』

『……………………』

 

 トールビットが腕を組みながら吐く言葉に、マッドパンクはしかめっ面のまま無言を保った。

 何も答えない彼にトールビットは少し声色を落として問う。

 

『なにか言ったらどうだい? マッドパンク』

『……『()()()』――――痛ッ!!』

『くだらない返答で会話を乱さないように』

 

 小学生のような答え方をしたマッドパンクの脳天にエンジェルの拳が落ちる。

 頭を押さえて痛がるだけで済んでいるあたり、彼女なりに相当手加減したのだろう。もう少し力が強かったらマッドパンクは今頃ぶっ倒れて気絶している。

 

 マッドパンクは頭の天辺を労わるようにさすりつつ、困ったような声色で言う。

 

『いっつつ……。あっ、あのなあ、いくら兄妹って言っても何年会ってないと思ってるんだ。そんな都合よく僕の言うことなんか聞かないよ』

『だがウィザードが穏当に大人しくする可能性が最も高いのはお前の言葉だ』

『そりゃ……まあ、かもだけどさぁ』

 

 ガスマスクの簡潔な言葉にマッドパンクが反論の言葉を出せず、濁したような答えを吐く。

 敵対関係だった俊介より、何度も会いたがっていた実兄の方がウィザードも言うことを聞くだろう。否定できない正論だった。

 

『妹と再会……いやいや、うーん……それは……』

 

 マッドパンクはなんとかウィザードと会わないですむ理由を苦悩するが、一向に思いつかない。

 そんな彼の姿を見て、ヘッズハンターが優し気な目を浮かべて声を出す。

 

『まぁ……その、なんだ、マッドパンク。前世の親しかった人と無事に再会できるなんて奇跡みたいなものだから、一度くらいは会っておいた方がいいんじゃないか。その方が後悔も少ないぞ』

『……お前がそういう話すると重すぎるんだよヘッズハンター……ッ!』

 

 ヘッズハンターの言葉に、マッドパンクが苦し気な声を出した。

 未来革命機関のピュアホワイト、そして幼馴染の真昼の件は俊介を含む殺人鬼達全員が知るところにある。前世の思い人と再会したにも関わらず、五分も会話できなかったヘッズハンターに対し、さしものマッドパンクも話を茶化したり濁すような言葉は吐けなかった。

 そしてガシガシと両手で頭を掻きながら言葉にならないうめき声を口から漏らしたあと、観念したように重いため息を吐いた。

 

 

『はぁ~…………。MRKの話題が出た瞬間に嫌な予感してたんだ……こうなるかもって……』

「あの、マッドパンク。本当に嫌だって言うなら会わなくてもいいんだぞ?」

『俊介がそう言っても、他の奴らが『OK』ってなる雰囲気じゃあないし。そもそも自分で、僕がウィザードと会うのが一番効率いいってわかっちゃってるし……』

 

 そこまで言ったところで、マッドパンクが一度息を止めて顔を手のひらで覆う。

 そして再び大きなため息を吐いたあと、『でも』と口を開いて言葉を切り出した。

 

『クレア……じゃなくてウィザードと今更どんな顔して会えばいいのかわからないっつーか……』

「うぅん……」

 

 共感の声が口から漏れる。

 マッドパンクは前世にて、人殺しをしてから一度も妹であるウィザードと会ったことがないと言っていた。どういう感情と顔をして向かい合えばいいのかわからないのも仕方ないだろう。

 

『そもそも未だにウィザードに対して貞操の危機を感じるっていうか……』

「ううん……?」

 

 なんか話が変な方向に逸れたな。

 

『最悪俊介の尻が大変なことになるかもっていうか……』

「…………」

 

 なんかウィザードのことが別の意味で恐ろしくなってきた。

 というか、ウィザードは元女性なのに男性のマッドパンクが尻を傷める側なのな。いやどっちの尻が痛むかなんてどうでもいい話なんだけど。

 

「……まあ、ウィザードが妙なことを始めたらジャンに取り押さえてもらおう」

『お話がよくわからないんだけど……お尻が痛いってどういうことなのお兄ちゃん? 取り押さえるのに失敗したらどうなるの?』

『失敗したら俊介の尻に真っ赤なお花が咲くでござる。ああ、真っ赤なお花というのは――――』

「ドールの前でこの話はこれ以上やめようか」

 

 小首を傾げるドールを手で宥めながら、からかうように下ネタを吐くニンジャを睨む。するとニンジャは肩をすくめながら口を閉じた。

 

 ……まあ、何はともあれ、今後の方針は決まった。

 俊介は殺人鬼たちの顔を見渡し、ハッキリとした声で言う。

 

「よし。じゃあ今から監房の外に出てゼロツー達を探すぞ。どこにいるかわかんないけど、人海戦術で探せばすぐ見つかるはずだ」

 

 そう言いながら、腕輪に巻いた盗聴防止装置を外す。

 何十分かぶりに立ち上がって体の柔軟を軽く済ませてから、壁際にいるダークナイトに声を掛けて起こした。

 

 

 ゼロツー達の居場所は見当がつかないが、A棟の監房内にいないのならば、街のどこかを放浪していることだろう。

 自身から離れられる限界の100メートルギリギリまで殺人鬼達に広がってもらってから、ゆっくり歩いて刑務所中をしらみ潰しに探していく。こういう物探しや人探しのときにみんなに手伝ってもらえるのは本当に助かる。

 

 A棟内のどこにもゼロツー達がいないのを確認し、街へと探しに出てからおよそ15分後。

 商店が立ち並ぶ西区を歩いている最中、ガスマスクが俊介の元まで戻ってきた後、『見つけた』と言う言葉と共にとある方向を指差した。

 

 

 

 

「…………」

 

 ガスマスクに案内されるまま、西区の大通りから離れた路地の中に入る。

 刑務所の天井に施設された太陽代わりのライトの光もあまり届かない、薄暗い路地。そんな道を少し進むと、聞き覚えのある三人の声が僅かに聞こえてきた。

 

「ここの牛すじが僕様のお気に入りでさ。食べてみなよウィザード」

「ふうん、はんぺんが美味しいね」

「牛すじ食えよ」

「……生蟲おでん……」

「それ食うなら別のテーブル行ってくれる? 皿から這い出てくるから」

 

 路地の曲がり角を超えた先。

 とある店の中から橙色の古い電球の明かりが漏れ出している。

 ゼロツー達は狭い路地にはみ出すように置かれた木製の机と椅子に座り、円筒の白磁の皿に乗ったおでんを突いていた。

 

「ん……」

 

 はんぺんを箸で摘んでいたウィザードが、向かいの路地角から出てきた俊介の姿に気づいて顔を上げる。

 それに釣られるように、ジャンとゼロツーがウィザードの視線の先をたぐって俊介を見た。

 

「お。日高じゃん、どした?」

 

 ゼロツーが箸を持った手をあげ、軽い声で挨拶してくる。

 対してジャンは手をひらひらと揺らした後、すぐにメニュー表の方に目を戻した。生蟲おでんなる名前からしてあからさまに劇物な代物が気になるらしい。

 

「なんか用事? まあとりあえず飯食べながら聞くから座りなよ」

 

 ゼロツーは空いているウィザードの横の席を示した。

 しかし俊介は椅子には近づかず、ゼロツーの目を見据えながら自身の手首についた腕輪をトントンと叩き、口をパクパクと開いた。

 

「…………」

 

 腕輪を叩き、何かを喋るようなジェスチャー。

 それは、腕輪に仕込まれた盗聴器に聞かれたくない何かを話したい……そういう意味を含む仕草だ。

 

「……会計するか。行くぞ」

 

 ゼロツーは食べかけのおでんが乗った皿に箸を置き、立ち上がった。

 ジャンも名残惜しそうにメニュー表を置いて立ち上がる。

 

「…………」

 

 ウィザードは残っていた食事を優雅な動作で口に入れ、咀嚼しながら考える。

 先ほど看守が運んでいた『夜桜電機』の製品。夜桜と俊介の深い関係。そして俊介が突然盗聴器に聞かれたくない話を始めたいと言い始めた……。

 

「くくくっ。もしかすると、かな?」

 

 何が起きていて、俊介がどんな話が始めるのかはウィザードにも完璧な予測はつかない。

 しかし、とても愉快で面白そうなことが起こりそうだと、顔を喜色に染めながら悪意の混ざる笑い声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
#49 超兵器爆弾・MRK




お話があんまり進んでないな……
投稿スペースを頑張って上げたいです
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