殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#23 優秀な人格

 

 

 

 

 

 

 榊浦美優と会話をした、数日後。

 

 夜桜さんが学校を休んだ。

 

 

 ……かなり珍しい事だ。

 俺を含め、彼女に好意を抱く何人かの男子生徒が落ち着かない様子でそわそわとしている。

 授業の内容も、夜桜さんが休んだ事と、後ろの奴らのせいで全く頭に入ってこない。

 

『はい僕の勝ち~!』

『はあ!? おいこれで何回連続だよ!!』

『私のサイコロを操るイカサマか……』

『お前らがクソ弱いだけだよ~ん、べろべろばあ~~!!』

 

 

 教室の後ろ側で、最近発売されたボードゲームを広げて遊ぶ半透明の男が4人。

 マッドパンク、ヘッズハンター、サイコシンパス、ガスマスクが半透明の皿に乗った和菓子の羊羹を賭け、熱い勝負を繰り広げていたのだ。

 

 勿論、ボードゲームも皿も羊羹も、俺が牙殻さんに教えて貰った技でコピーした物である。

 

 先ほどから連勝し続けているマッドパンクが、羊羹を口の中に丸ごと放り込んだ。

 もにゅもにゅと口を動かし、甘い汁の付いた指を軽く舐めてから、他の3人に向かって言う。

 

『この羊羹って奴、美味しいね。僕の世界じゃこんなつやつやプルプルした甘い物はなかったよ』

『……まぁ、羊羹くらいなら食った事あるからいいけどさ』

『俺はない』

『私もない』

 

 ヘッズハンターは味を知っているらしいが、サイコシンパスとガスマスクは食べた事がないようだ。なのでより一層、羊羹とやらを味わってみたかったらしい。

 いや本物の羊羹は俺がもう食ったからコピー出来ないけど、言ってくれたらもう少し多めにコピーしてたよ。

 

 

 

 そして時間も過ぎ、昼休憩。

 適当な場所で、母が作ってくれた弁当を貪っていた時のことだ。

 

 校内の至る所にあるスピーカーと放送のマイクが繋がる音がザザッと鳴り、

 

「2年2組の日高俊介君、2年2組の日高俊介君。昼食後、職員室までお越しください」

 

 という放送が流れた。

 職員室に呼び出されるのなんて、小学生の時に掃除係の仕事を忘れてしまった時以来だ。懐かしい。

 

 

 でも……一体全体、何で呼び出されたんだ?

 

 テストの点も滅茶苦茶良い訳ではないが、悪い訳でもない。いつも学年平均の点数からプラスマイナス5点くらいだ。

 授業中もたまに寝たりはするが、問題になるほど悪い事はしていない。なんか提出物でも忘れたかな……。

 

 

 そう思いながら昼食を済ませ、職員室に向かうと。

 

 

 

「こんにちは」

「…………」

「そんなに嫌そうな顔しないでよ」

 

 

 なぜか榊浦美優が、職員室に入って来た俺に真っ先に声を掛けてきた。

 彼女は長い白衣を羽織ったまま、他の教師よりも座り心地のよさそうな椅子に深く腰掛けている。机の上にはジャンクフードの包み紙が適当に置いてあった。

 

 

「そうそう。君って友達いないんだねえ」

「はい?」

「ちょっと君の事を調べてみようとしたんだけど、どの生徒に聞いても、君とは親交がないから何も分からないってさ!」

 

 

 よし、帰るか。

 なんでわざわざ職員室まで来たのに罵倒されなきゃならないんだ。俺の陰キャ気質を馬鹿にしないで下さい。

 

 踵を返して職員室を出ようとすると、彼女が少し焦った様子で言葉を投げかけてきた。

 

「ちょ、ちょっと! 関係ない話してごめんって、今日はちゃんとした用事だから」

「……何ですか」

「今日欠席の夜桜紗由莉(さゆり)さんに、化学のテストに関係する大事なプリントを届けて欲しいんだよ。君の家と彼女の家の方向が同じでね」

 

 

 そう言って教えられた住所は、確かに俺が帰る道の先にある、金持ちの家が並ぶ住宅街の物だった。

 

 

「まあ正直、彼女の知能ならこんなプリント、あってもなくても同じだけどね。で、どうする? 届けてくれ――――」

「届けます」

「おぉう。力強い返答」

 

 

 プリントを届ける事を口実に、夜桜さんのお見舞いに行けるのだ。

 こんなチャンスを逃すわけがない。

 

 気に食わない彼女の顔面へ内心中指を立てながら、職員室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 一度家に帰り、マッドパンクが直したバイクに跨る。

 この間の襲撃で、スマホとバイクの修理のせいで俺の財布がご臨終……になるかと思われたが。

 

 スマホは丸ごとではなくバッテリー交換、バイクはマッドパンクが修理に使った材料費だけで済んだおかげで、大体万札が2~3枚天に召されただけに終わった。当初予想していたダメージに比べれば、全然軽いものだ。

 

 

 という訳で、俺の財布の中はまだ潤っている。

 潤うというより、湿っていると言った方が適切だが。しかしお見舞いの品を買うくらいは辛うじて残っている。

 

 バイクで一度デパートに寄り、栄養ドリンクと喉に優しいゼリーをなけなしの金で購入。

 夜桜さんが休んだ理由は分からないが、多分風邪か体調不良か、そのどちらかだろう。風邪も体調不良も栄養ドリンクを飲んで寝て治すに限る。ゼリーは美味しいから買った。

 

 

 レジ袋に詰めた見舞いの品を持って、夜桜さんの家へと向かう。

 デパートからバイクで2~30分も走らせると、辺りが大きな家だらけの地域に入り始めた。

 

 

『(∗︎*⁰꒨⁰)』

 

 ちなみにだが、ダークナイトの1ヵ月に1回の暇つぶしと被ってしまったせいで、彼が外に出て来ている。今も60キロ近くで走らせているバイクに並走してきているのだ。鎧の腹に顔文字を刻む余裕すらもある。

 

 こいつだけは中に戻ってくれと頼んでも絶対に戻らないので、思い切り釘を刺す。

 

「ダークナイト! お前、絶対に暴れるなよ!! 暴れたら本気でキレるぞ!!」

『(* ̄∇ ̄)/』

 

 本当に分かってるのかよ。止めようがないからマジで怖いわ。

 夜桜さんの家に行くのを中断しようかと思ったが……やっぱり、彼女の様子が気になる。

 

 

 

 

 そうこう考えているうちに、『夜桜』と書かれた表札が掲げられている家の前に着いた。

 レンガの高い塀と鉄格子の門扉の先に、バスケットコートが2つは入りそうな庭が広がっている。そしてその庭の先に、二階建てで横に広い、輝くような白色の家が立っていた。

 

 

「すご……」

 

 金持ちというのは知っていたが、まさかこんな豪邸を持っている程だったとは。

 俺の感覚ではこの辺りの家は全て豪邸だが、彼女の家はそんな中でも一段格が上だ。どれだけの金をつぎ込めばこんな家が手に入るのか、俺には見当もつかない。

 

 

 こんなんじゃあ、俺が持ってきた見舞いの品なんか安っぽすぎて逆に迷惑かもな。

 まあ最悪、プリントだけでも渡せばいいんだ。

 

 門扉の物々しさとは裏腹に、一般家庭に付いていそうなほど簡素なインターフォンを押す。

 すると5秒もしない内に、インターフォンの向こう側から女性の静かな声が聞こえてきた。

 

 

『どちら様でしょうか?』

「あっ、すみません。おれッ……僕は夜桜紗由莉さんと同じクラスの者で、日高俊介と言います。化学の先生から預かったプリントを届けに来ました」

 

 

 ……敬語、これで合ってるかな。

 使う事があんまりないから、どうにも苦手なんだよな。

 

 そんな事を考えていると、インターフォンの向こうから、再び同じ女性の声が響いた。

 

 

『かしこまりました。ただいま門を開けますので、そのまま中にお入りください』

 

 

 その言葉と同時に、ギィィと音を立てながら自動で門扉が開いていく。

 俺がきょろきょろしながら中に入ると、同じようにして、ダークナイトが背後を付いて来た。

 

 庭はやや広い草むらという感じだが、敷地の端の方には池も見える。金魚でも飼っているのだろうか、用事がないので見に行くことはないが。

 

 

 

 門扉から豪邸の玄関扉まで一直線に伸びる道を歩き、シックな色合いをした重厚な木製の扉の前に着く。

 その瞬間、ゆっくりとその扉が開かれた。

 

 扉を開いたのは……黒髪を後ろで三つ編みにして、メイド服を着た、20代そこらの女性だった。

 

 

「ようこそいらっしゃいました、日高様」

「あ……ど、どうも、よろしくお願い致します」

 

 

 ビックリして変な挨拶をしてしまった。

 こんなアニメや漫画みたいな、完璧にメイド服を着こなした女性が出てくるなんて思わなかったのだ。

 

 鞄からプリントを取り出そうとすると、丸眼鏡をキランと光らせたメイドさんが、玄関扉を開いたまま身をどかした。

 

 

「お嬢様が、直接お受け取りしたいとおっしゃっています。どうぞ中へ、お部屋へご案内いたします」

「えっ……あっ、はい」

 

 

 応接間とかで会うのかな。こんなに凄い豪邸だし、イースターエッグとか置いてるのかな。

 と思っていたら、なぜかメイドさんは二階へと上り始めた。

 

 応接間って大体1階とか、入口から近い所にありそうな気がするけど。

 

 

『(・ω・)』

 

 ダークナイトが感情の感じられない顔文字を刻んでいる。一体何を考えているんだ。

 

 2階の廊下を奥に進むにつれて、なんだか、雰囲気が怪しいものになり始める。何というか、廊下の壁紙の所々が不自然に新しいのだ。まるで傷ついたから、その上から補修を何度も行ったかのような感じである。

 

「お嬢様の部屋はこちらでございます」

 

 そう言ってメイドさんに案内されたのは、廊下の最奥にあった白い扉の前であった。

 

 いや、男を女性の私室にいきなり案内するのはどうなんだ。応接間とかそういう所で会う物じゃないのか。

 そんな事をメイドさんに突っ込む勇気はなく、勇気を込めてドアノブに手を掛ける。 

 

(……よくよく考えれば、ここは夜桜さんの私室なんだよな……。クソ、変に意識する……)

 

 

 邪な目的でここに来たんじゃない。

 俺はプリントを届けに来た、ついでに見舞いに来た、OK? OK!! 

 

 

 ドアノブを捻り、ゆっくりと扉を開いた。

 

 

 

 

「グォォォオオオアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 

 

 

 扉を閉めた。

 

 なんか中から化け物みたいな咆哮が聞こえた気がするな。部屋間違えたのかな?

 メイドさんの方を見るが、彼女はなぜか頷き、もう一度扉を開けとジェスチャーして来た。

 

 それに従い、もう一度、ゆっくりと扉を開く。

 

 

 

 

「死ねぇぇえええええええ!!!! リア充爆発して死ねぇぇぇえええええええ!!!!!」

 

 

 

 

 ―――扉を閉めた。

 

 なんか夜桜さんの声で、とんでもない事を叫んでいるのが聞こえた気がするけど、あんな天使みたいに優しい人が死ねとか言わないよね?

 

 メイドさんの方を見るが、彼女はなぜか諦めたように首を横に振っている。

 嘘だろ? ここ本当に夜桜さんの部屋なの?

 

 

 もう一度開けようかどうか迷い、決心して、ドアノブに手を掛けようとした瞬間。

 

 向こう側から、ギィッと扉が開いた。

 素早い動きで俺の手首が掴まれ、扉の隙間から血走った目がこちらを覗いてくる。

 

 

「ヒヒッ……イヒヒヒ…………」

「ひぃ」

 

 

 怖い。

 空気が漏れたような、情けない声が思わず出るくらいには怖い。

 

 

「こぉんにちはぁ……日高君、日高君、ひだかしゅんすけ………ヒヒッ」

「ど、どうもこんにちは」

「私を()()を見るような目で見るなァ―――ッ!!」

 

 

 いきなりキレ始めた。

 どうすりゃいいんだよ!

 

 

 手首をぐいぐいと部屋の中に引っ張られるが、恐怖で力が入らず、室内に引きずり込まれた。

 柔らかなカーペット、その上に散乱した大量の紙の上に倒れ込む。

 

 

「ヒヒヒヒヒヒヒ」

 

 

 夜桜さんが扉を閉め、とんでもない笑い方をしながらこっちを見た。

 怖すぎて思わず後ずさりした時に、ふと、カーペットの上に散乱していた紙に何か書かれているのに気が付いた。

 

 何かをビッシリと書き込んだ紙はカーペットだけではなく、机の上やベッドの上、壁にも大量に画鋲で張り付けられている。

 

 

 そして、肝心の紙に書いている内容は。

 『手軽に作れる爆弾』と銘打たれた、ホームセンターで揃うような材料で、手りゅう弾を作るための工程を詳しく記した物であった。

 

 紙を手にしたまま、頭の中を整理するように呟く。

 

 

「爆弾……ばくだん……()()()()……?」

 

 

 パッと彼女の顔を見上げた。

 夜桜さんの中には、とても優秀な人格が入っている。

 

 そしてその人物は、異世界でとんでもない爆弾を作り上げた人物であると。

 

 

「もしかして、夜桜さんの中にいる……『バクダン』、なのか?」

「イヒッ……そのと~りぃ~……」

 

 

 国から認められるほどの、優秀な人格。

 夜桜さんの体を借りたその人物が今、俺の目の前に立っていた。

 

 

 

 

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