殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#24 どこ行った

 

 

 

 

 部屋の中を埋め尽くす、爆弾の設計図が書かれた紙。

 正確にいくつあるかは分からないが、多分、100個近くはあるだろう。

 

「これ全部、自分で書いたのか……?」

「そ、そう……。ヒヒッ、特にこれなんかが一番いい」

 

 ベッドの枕元に置いてあった紙を掴み、こちらに投げてくる。

 難解な図面と文字だらけだが何とか分かったのは、破片で殺傷能力を増すよりも、広範囲を炎で焼き切る事をベースとした爆弾という事だ。

 

「……大学で研究ばっかしてた私を蔑んだ目で見てたリア充共を一気に焼き上げるのに最適……」

 

 並々ならぬドス黒さを混ぜた言葉を漏らすバクダン。

 一体元の世界で何があったんだお前。

 

 この大量の爆弾の設計図は気にしないことにしよう。多分知るだけで不味いレベルの物が混じっているだろうから。

 

 

 手に持っていたお見舞い品と鞄から出したプリントを見せ、彼女に尋ねる。

 

「このプリントを夜桜さんに届けに来たんだけど……」

「グギッ」

「え?」

「グギギギッ、せっ、青春いべんとぉ……! 私にはなかったのにぃ……!!」

 

 いちいち言葉に反応するなこいつ。

 俺も自分を陰キャ気質だとは思うけど、バクダンは闇を煮詰めまくったような雰囲気と目の色をしている。

 

 

 バクダンが突然立ち上がり、頭をガシガシとかいて髪を乱し始めた。

 

「私だってぇ、私だってぇ、こんな風になる気はなかったのにぃ! あぁぁあああああああ!!!」

「まっ、落ち着け落ち着け!」

「うわぁぁぁああああああ!!!」

 

 彼女が両腕をバッと、左右に振る。

 その瞬間、服の裾から1ミリくらいの小さくて黒い物が大量に飛び出した。

 

 本能的に嫌な予感がして、近くにあった椅子を引き倒す。

 そして椅子の陰に隠れたその時。

 

 

 

 ――――ドォォォオオオオオン!!

 

 

 

 小さくて黒い物から炎が吹き上がり、屋敷全体を揺るがすほどの爆発を起こした。

 隠れていた椅子は吹き飛び、服が少しだけ焦げる。

 

「あつッ……っよ、夜桜さん!?」

 

 爆発の中心にいたバクダンの体……夜桜さんが危ない。

 煙を手で払いながら顔を上げると、部屋の中で仁王立ちしていたにも関わらず、無傷のままの彼女がそこに立っていた。

 

 

「な……」

 

 

 こんな狭い部屋の中で爆発物を使っておいて、自分だけは無傷。

 壁や家具は無茶苦茶な事になっているのにも関わらず、彼女の立っている所だけが、まるで何事もなかったかのように無傷のままだった。

 

 

 その時、ヒラリヒラリと目の前に紙が舞い落ちてくる。

 紙を掴み、中身を読む。

 

 そこには、『マイクロボム』なる縦1ミリ×横1ミリ×高さ1ミリの極小サイズの正方形爆弾の作り方と詳細が記されていた。

 体に忍ばせ、室内で使う事を目的とし、使用者には被害が及ばないような設計だと。

 

 

 いくら使用者に被害が及ばないからと言って、室内で爆弾使うか普通。

 壁が傷つきまくっているのを見て、この部屋の外の廊下の壁紙がやけに新しかったのも、バクダンが何かやらかしたのを補修したからなんだろうと察する。

 

 

 部屋の窓を開け、新鮮な空気を吸い込んだ後、彼女の方を向く。

 

「バクダン、お前……なんで夜桜さんと体を変わってる!?」

 

 夜桜さんがバクダンと体を変わりたがらない理由も分かる。爆弾に関しての知識は天才かもしれないが、倫理観も爆発させているこいつはかなり危険だ。

 とすればなぜ、夜桜さんはバクダンと今、体を変わっているのか。

 

 バクダンが三日月のような笑みを浮かべながら言う。

 

「ヒヒッ……それはぁ、本人が変わりたいって言ったからだよ」

「何だって……!?」

「別に私としては、体がある方が何かとやりやすいから、困る事もないしぃ」

 

 自分から変わりたい……!?

 彼女の肩を思わず力強く掴んでしまう。

 

「夜桜さんが自分から変わりたいだなんて、一体どういう事だよ!!」

「ヒッ、ひょっ、ちっ、ちかッ……」

「答えろ!!」

「しっ、知らない知らない知らない!! 言ったから離れろってぇえ!!」

 

 顔を真っ赤にしたバクダンが胸を突き飛ばして来たので、大人しく離れる。

 

 

 もし彼女の言葉が本当だとすれば、夜桜さんは危険を承知で体を変わるほどの、自分の中の人格にすら明かさない程の悩みを抱えていたという事だ。悩み……学生の悩み……?

 

 まさか、また()()()か?

 

 全身の血液が煮えたぎるような感覚がする。

 今度はヘッズハンターに剣鉈を持たせるしかない。

 

 怒りに体を支配されかけた所で、ぶんぶんと頭を振って頭を冷静にする。

 いじめなら流石に同じ体に入っているバクダンが気付かないはずがない。そもそも夜桜さんがいじめられるような事があったら、俺がとっくの前に気付いて犯人をボコボコにしている。

 

 

「……悪いけど、今日は帰る」

 

 

 持ってきたプリントとお見舞い品を、部屋の比較的焦げていない所に置く。

 顔を真っ赤にしたままバクダンが頭を押さえるのを横目に、部屋の扉を開け、廊下に出た。

 

 

 

「……やはり、駄目でしたか」

「?」

 

 廊下に出るなり、部屋の外で待機していたメイドさんが、そんな事を呟いた。

 俺は眉間にしわを寄せながら、彼女に尋ねる。

 

「やはり駄目とは一体どういうことですか」

「お嬢様は昨夜から、バクダン様と体を変わられているのです。今までも体を変わられる事はありましたが、こんなに長く変わられているのは初めてで……」

 

 ここで言うお嬢様とは、夜桜紗由莉という人格の事を指している。

 

「では今回は……バクダンが夜桜さんに体を返さないという事ですか?」

「いいえ。今回は……バクダン様がお嬢様に体を返しても、すぐに体を変えられるようなのです。つまり、お嬢様自身が体に戻ることを拒否されているという事態でして。

 お嬢様のご学友の日高様なら、もしかしてと思ったのですが……」

 

 

 もしかして俺なら、夜桜さんが体に戻ってくるよう説得できるかもと思ったのか。

 それならそうと最初に説明してほしかった。事情も分からずに突っ込んだからバクダンに爆弾をぶっ放されただけだぞ。知ってたらもっとうまく言葉を選べたのに。

 

 俺は眉間のしわを解き、再び彼女に尋ねる。

 

 

「こんな風になった事に、心当たりはないんですか?」

 

「申し訳ありませんが……。旦那様や奥方様も、勿論(わたくし)共メイドも、お嬢様には丁寧な接し方を心がけておりました。

 紗由莉様は(わたくし)共のお嬢様というだけではなく、この国に認められた非常に優秀な人格を宿らされている御方ですから」

 

「…………」

 

 

 俺よりも身近にいるメイドさんが分からないのなら、俺に分かるはずがない。

 夜桜さんがなぜ体を譲り続けるのか……。

 

「すみません。今日は帰ります」

「はい。……また、いつでもお越しください」

 

 

 一度家に帰って、明日、彼女の学校生活から原因を探ってみよう。

 夜桜さんは学校で色々な事に精を出していると聞く、もしかしたらその何処かに原因が……あるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 夜桜さんが行方不明になったと、メイドさんから連絡があった。

 

 

 

 夜中に屋敷の壁と塀を吹っ飛ばし、どこかへ消えたのだという。

 

 俺は学校に仮病の連絡を入れて休み、バイクにキーを挿す。

 

 バクダンが勝手に脱走したのか?

 夜桜さんがバクダンと協力して脱走したのか?

 それとも……また誰かに誘拐されたのか?

 

 

 昨日からずっと傍に立っているダークナイト。

 だが今は暇つぶしの遊びに付き合っている暇はない。

 

 じっとこちらを見ている彼に話しかける。

 

「ダークナイト。俺は今から夜桜さんを探す。多分……昨日、お前も何処かから部屋の中を見てただろ? あの子だ。

 俺はバイクで走るから、それに負けない位の速度で移動しつつ辺りを探し回ってくれ。見つけたら俺の所へ」

 

 

 そう言うと、ダークナイトは力強くサムズアップし、勢いよく空へと飛び上がった。

 軽く50メートル近くは飛んだ後、足元に地面と平行な黒い円状の何かを作り、そこへ着地して空中に直立する。……なんだあの技。

 

 空から手を振ってくるダークナイトに軽く手を振り返す。

 

 

 まあいいや。

 ダークナイトのやる事なす事にいちいち気を取られていたら日が暮れる。

 

 首元に右手を当て、中から一人、殺人鬼を呼び出す。

 

「出てこい、()()()()

『むッ』

 

 

 出てきたのは、半透明の黒装束の男。

 身長は大体ガスマスクと同じ180センチ前後だが、服の上から見える体格はそこまでゴツイものではない。軽やかな動きが得意そうだという印象を受ける。

 

 彼が口元を覆う黒い布をもごもごと動かしながら、俺に向かって言う。

 

 

『拙者を呼び出すとは珍しいでござるな、俊介殿』

「ああ。だけど今日はもう一人呼ぶからな」

 

 

 首元に手を当てたまま、中に居るもう一人の殺人鬼の姿を思い浮かべながら、名前を呼ぶ。

 

 

「出てこい、()()()()()()

 

 

 その言葉と同時に現れたのは、顔の上半分を隠す黒い兎のマスカレードマスクを被った、白ワイシャツにサスペンダーを付けた黒のスキニーズボンを履く半透明の女性。

 身長170センチほどの彼女は鮮やかな赤い色の髪をポニーテールにし、肩甲骨の間まで伸ばしている。右手には革張りのクラシックなアタッシュケースを持っていた。

 

 桜色の唇を開き、見た目の予想よりも少し高めの声でトールビットが言う。

 

『おやおや。珍しいコンビだ』

「ああ。今日は少し厄介な物事でな」

 

 

 

 この2人は少し特殊な殺人鬼だ。

 

 ニンジャの方は、この世界の『忍者』と大体同じような格好と技術を使う奴で、数々の奇々怪々な未解決事件を引き起こしたらしい殺人鬼だ。元の世界の事は詳しく話してくれないので過去は余り知らない。

 

 そしてトールビットの方は誘拐アンド殺人を繰り返してきた殺人鬼である。アタッシュケースの中身には、あんまり使い道を想像したくない拷問器具が入っている。こっちも自分の過去は話さないが、代わりに過去に行った拷問内容を喜々として話して来る。やめろ。

 

 

 トールビットの言う通り、あまり呼ぶことはない二人だが、今回は事情が事情だ。

 1年の時、体育祭で活躍する夜桜さんをこっそり撮った写真を2人に見せる。

 

 

「この写真に写ってる夜桜さんを探したい。力を貸してくれ」

 

 

 その写真を見た2人は、眉を上げながら言った。

 

『懐かしい。これ、拙者が手伝った盗撮写真でござるな』

『そうなのかい。盗撮ってのは犯罪だよ俊介。ま、私達が言えた義理じゃないけどね!』

「変な皮肉を言うな。あとこれは盗撮じゃないッ」

 

 

 余計な事を口にするなニンジャ。

 確かに校舎の隙間から保護色を全身に纏って撮ったが、これは断じて盗撮じゃない。警察にバレなきゃ理論上法に触れたことにはならない。

 

 なぜか盛り上がり始めた2人を手で宥める。

 

「とにかく! 夜桜さんは昨日の深夜に姿を消したらしい。それの追跡を手伝ってほしいんだ」

『全然いいでござるが……。拙者達だけでは、正確な位置を探るには時間が掛かるでござるぞ』

「大体の位置で良いんだ。細かい場所は……」

 

 

 そこで言葉を止め、空を見上げる。

 2人もそれに続くように顔を上に向け、納得したような顔をした。

 

『相変わらずだね』

『アレは真似できんでござるなぁ』

「真似しなくていいから」

 

 ダークナイトが2人に増えるとか考えるだけで胃が痛くなる。

 

 

 

 数分経ち、大体の話を終え、詳しい追跡調査は向こうで始めるという風に話が纏まる。

 俺はバイクに跨り、

 

「それじゃ行くか」

『……? バイクで行くのかい? 徒歩じゃなくて?』

「徒歩で行くには少し遠いからな……あっ」

 

 

 そう言った所で、ふと気づく。

 このバイクに、この3人で乗るのは無理だと。マッドパンクのように小さい奴が1人混じっているならともかく。

 

 

「ごめん、呼び出しといて悪いけど……1人中に戻ってくれない? このバイク、3人で乗れないわ」

『へー。それは良……いやいや、残念残念。私が中に戻るよ』

 

 そう言って一瞬で中に戻ろうとするトールビットを、ニンジャが引き留める。

 

『おおっと。俊介殿、そうやって3人で乗るのを諦めるのは早計でござる』

「は?」

『為せば成る。工夫は人間の本懐。つまりは……こうだァ!!

 

 

 ニンジャが飛び上がり、俺の頭の上に着地した。

 何してんのお前? 重さは感じないけど尊厳が傷ついてる気がする。

 

 

『こうすれば3人で乗る事も容易いでござる……』

「これ3人でバイクに乗ってないよね。俺とニンジャとトールビットじゃなくて俺&ニンジャとトールビットになってるよね」

『広義的には乗ってるでござる』

 

 乗ってないよ。

 

 そう思ったところで、顔の前に半透明の紙が現れた。ニンジャが服の裾から糸で垂らしているらしい。

 彼が垂らした紙には、『トールビットは強がる癖にバイクが苦手』と書かれていた。

 

 つまり俺の頭に無理矢理乗って、強がるトールビットがバイクに乗らざるを得ない状況を作ろうとしてんのか。何しょうもない悪戯してんだよ。

 

 トールビットが、仮面越しでも分かるくらい顔を青くして冷や汗を流しながら、平静を装った声で言う。

 

『いや気遣って無理しなくていいからね。ニンジャは後ろ乗りなよ。私中に居るから』

『いらぬ』

『乗れって』

『断る』

乗れよ!!

 

 

 彼女がアタッシュケースの中から丸鋸刃を取り出し、ニンジャに投げつけた。

 だがニンジャは懐から出した小刀でそれを弾く。そして片足立ちになり、意味不明な決めポーズをしながら言った。

 

 

『これが拙者の忍道……。すなわち、()()()()()()()()()()()()()()!!

『うっ……』

「良いから早くしろよ」

 

 

 俺がそう言うと、トールビットはおっかなびっくりな足取りで、バイクの後部座席に跨った。

 ハンドルを握る俺の腹に手を回し、耳元でささやいてくる。

 

『俊介、このバイクって危ないんだろう? スピード遅めで行こうじゃないか。危険だしね、色々危険だし』

「遅めに行くわけないだろ」

『え?』

 

 ハンドルを全力で回し、エンジンを思いっきり吹かす。

 速度計の針を一気に60キロまで進め、夜桜さんの家がある場所まで走らせ始めた。

 

 

 そして夜桜さんの家に向かう間ずっと、背後から荒い息遣いや甲高い悲鳴が響いていた。

 変に強がって苦しむくらいなら、苦手だって言えばいいのに。

 

 

 そう思いながらも、バイクを高速で走らせ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

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