中間テストの時期が迫って来た。
と言っても俺は一夜漬けで平均点のプラスマイナス5点取れるので、特に心配することもないのだが。
でも大学の受験勉強ともなるとそうは行かないよなぁ。
工業高校みたいに就職が強い学校じゃないし、多分俺も大学に進学するんだろうけど……俺の高校のレベルからして、国立の有名大学に行くのは厳しそうだ。
あー……でも夜桜さんってどこの大学に行くんだろう。俺とは比べ物にならない程頭いいし、滅茶苦茶良い大学に行くんだろうな……追いかけられるかな、俺。
……って、その話は今はどうでもいい。今日は休日だしな、勉強の事は頭から追い出そう。
首に手を当て、殺人鬼を一人呼び出す。
「出てこい、ダークナイト」
『グ?』
目の前に現れるは、身長2メートルの黒い鎧。
警察からの追跡を振り切る時、初めて彼に力を振るわせた。正直何が起きたかよく分からなかったが、彼のおかげであの眼鏡の男から逃げ切れたのは確かだ。
信賞必罰。ってほど上から目線であーだこーだする訳でもないけど、彼らに助けてもらったお礼をせねば俺の気が済まない。
特に夜桜さんの件に関しては、殆ど俺の我儘で警察からの追いかけっこが始まったようなものだし。
椅子に座り、目の前のダークナイトに言う。
「この前、右腕を渡して助けてもらっただろ。ヘッズハンターとキュウビとガスマスクにはもうお礼して、ダークナイトが最後なんだ。何か欲しい物とかあるか? 行きたい場所でもいいけど」
『…………』
ちなみに他の3人は全員食べ物が欲しいと言っていた。
でもダークナイトは鎧が脱げないらしいし、多分食べ物は無理だろうな。何が欲しいんだろ。
そう考えていると。
彼は意外にも、俺が朝食として食べようとしていたハムと卵が挟まれた市販のサンドイッチを指さした。
「……え。こ、このサンドイッチか? まあ、別にいいけど……」
誰かにあげるのかな?
そう思いながらサンドイッチを手に持ち、ダークナイトの左手の上にコピーした。半透明のサンドイッチが彼の大きな手のひらに落ちる。
サンドイッチを一瞥したダークナイトは、空いた右手を自身の顔の前に持っていき。
――――ガリ
「は?」
突然、自身の頭をすっぽりと覆う兜をガリガリとかき始めた。
数秒程それを続け、何をしているんだと困惑していたその時、ガキン!と右手の指先が兜面を突き破った。
金属が千切れる音を響かせながらダークナイトは右手を引っ張り、顔を覆う兜面の下半分を引きちぎる。
その時、彼の顔が下半分だけとはいえ、初めて見えた。
……ダークナイトの強さは半端じゃない。それだけに、鎧の中に入っているのもとんでもなく筋骨隆々とした強面の漢なんだろうと思っていた。
だが、壊れた兜の隙間から見えた顔の下半分は。
男のそれとは全く思えない、玉のような肌と、リップでも塗ったようなプルンとした桜色の唇だった。
「ッ!?!?」
口を開き、白い八重歯を覗かせるダークナイト。
サンドイッチを口の中に放り込み、もっしゃもっしゃと咀嚼する。5秒もすれば兜面は再生したが、ダークナイトはその後も咀嚼し続け、ゴクンと音を響かせながら飲み込んだ。
『(*^ー゚)b』
美味しかったのか、ダークナイトは腹にナイフで顔文字を刻んだ後、姿を消す。
だが俺はダークナイトが消えた後も、頭の中で理解が上手く追いつかなかった。
「…………」
ダークナイトは。
彼ではなく、
――――――
「って事があったんだけど……皆どう思う?」
『いやいやいや……ありえないでしょ』
俺は男組の殺人鬼を全員集め、ダークナイトの女性疑惑について話し合っていた。
マッドパンクが俺のベッドに腰掛けながら、肩をすくめてそう言う。
『でも確かに、誰もダークナイトが鎧を脱いだ所を見た事がないでござる』
『いやでもな……あいつの身長、2メートルはあるぞ。男でもそうそういない高さだ』
ニンジャの言葉に、ヘッズハンターが困惑した様子で返す。
身長2メートル……男性でもそうそういないのに、女性ならばもっと珍しいレベルの発育の良さだ。
『まぁ、俺達はそれぞれ別の世界生まれだからな。俺の世界ではB兵器に寄生されて、身長が5メートルにまで肥大化した女性もいた。ダークナイトの世界では女性の発育が良かったのかもしれん』
『身長2メートルで人外染みた身体能力か。いささか想像しにくい発育だな。なぁ、マッドパンク』
『僕はたしかにチビだけど元気いっぱいだっつーの! 虚弱なお前と一緒にすんなよサイコシンパス』
サイコシンパスは175センチと少し高めだが、小学生にボコボコにされるほど体が弱い。
対してマッドパンクは155センチと小さめだが、一応サイコシンパスに勝てるくらいには腕っぷしがある。一般高校生の俺でも勝てそうなくらいの弱さだけど。
まぁ、どんぐりの背比べをする身体能力クソ雑魚組は置いといて。
俺の中にいる殺人鬼達をダークナイトを除いて男女別に並べると、こんな感じだ。
女性
①ハンガー
②ドール
③キュウビ
④トールビット
⑤フライヤー
⑥エンジェル
……フライヤーとエンジェルには最近会ってないな。でもあの2人怖いんだよな。
男性
①サイコシンパス
②ヘッズハンター
③マッドパンク
④ガスマスク
⑤ニンジャ
⑥クッキング
このように、男女の比率はダークナイトを除くとちょうどトントンなのだ。
もしダークナイトが女性だったなら、殺人鬼達は女性の方が数が多くなる。
別に女性の方が多かったからって、何か問題がある訳じゃないんだけど。
俺を含む男達の肩身がちょっと狭くなるだけだ。気持ち的に。
……いや、待てよ。
俺達素人が云々悩む前に、そもそも男組の中に人体に詳しい奴がいたじゃないか。
「
部屋の隅の方にいた彼にそう言う。
壁に体重を預けながら立っていたクッキングは、片目をウィンクさせ、ちょっと低めの声で答えた。
『鎧を着て素肌が全く見えないんだから、分かりようがないわねんッ。でもまぁ男でも女でも、相当な筋肉を備えているってことだけは分かるわ』
カラフルな長そで長ズボンの服を纏い、腰に小さな白いエプロンを巻きつけている男。身長は180センチより少し高いくらいで、服の上からでも分かるほどに逞しい筋肉をこさえている。
唇に真っ赤っかの口紅を塗り、チークで頬を赤く染め、まつげは滅茶苦茶に巻いているが、爪だけは綺麗に整えられていた。
彼の名前は『クッキング』。見た目と口調に少しオカマが入っている。
名前から大体察せるが、彼は人の体を料理して他人に食わせまくってた殺人鬼だ。正直殺人方法の狂気度で言えば13人の中でも結構上の方だと思う。
そして人を料理しまくっていただけあって、人体にはかなり詳しい。
「まぁ、鎧着てたらそりゃそうだよな……」
仕方ないか。
そう思っていたら、ベッドに腰掛けていたマッドパンクが突然立ち上がった。
『だーっもう、気になったら解明が研究者の基本だ! こうなったら、ダークナイトの鎧をぶち壊してでも性別を確かめてやる!』
「は?」
『馬鹿かお前。結果見えてるぞ』
『ビビるなよヘッズハンター! 僕はやるぞ!!』
なぜか気合を入れ始めたマッドパンク。そんなに気になるか? 今まで俺達が勝手に勘違いしてただけで、聞いたらちゃんと教えてくれそうな気もするけど。
というか、ダークナイトの鎧をぶち壊すという事は、それすなわち。
あの化け物に喧嘩を売る、という事に他ならない。
『そもそも僕は昔から男女関係なくダークナイトが気に入らなかったんだ!!』
『自分より身長が遥かにデカいからか?』
『…………』
ガスマスクのナイフより鋭い一撃が彼の心に突き刺さった。
身長が小さいの、結構気にしてたんだな。まあ13人の中で下から2番目だもんな。一番下はまだ未成年のドール。
今度カルシウムたっぷりの食べ物でも渡してあげるか。既に死んでいる半透明のマッドパンクの身長が伸びるかわかんないけど。
怒り肩を揺らし、大股で歩くマッドパンク。
『もう決めた、絶対ボコボコにしてやる! ビビる奴は付いてこなくていーよだ!』
『あーあ。ガスマスク殿、余計に焚き付けてしまったでござるな』
『もしマッドパンクちゃんが殴られたら、そのままお陀仏もありえるわねん』
『む……』
半透明の彼らが死ぬのかは分からない。なぜなら死ぬほどの致命傷を負った事がないからだ。
ただ彼らがお互いを攻撃した時、痛みは感じる。もしダークナイトにマッドパンクが思い切り殴られたら、死にはしないかもしれないが、精神が壊れる程の痛みを味わうことになるだろう。
『……仕方ない。俺もやろう』
『ふーむ、なら拙者も参加するでござる』
『おいおいこの流れ……ったく、マジかよ』
ガスマスクとニンジャの参加表明に、ヘッズハンターが首を横に振りながらため息を吐いた。
一種のお祭りみたいな物だ、この流れは。殺人鬼達は全員、それなりに我が強いが、お祭りのような陽気な流れには流されやすい傾向にある。
「やめといた方がいいと思うけどな」
やがて、男組の殺人鬼の全員が参加を表明し。
近くにある公園にダークナイトを呼び出して、全員で一気に襲い掛かっていたものの、10分も経った頃には全員が見事にボコボコにされていた。
『(≧∇≦)』
ただ、ダークナイトは人間相手に久しぶりに暴れられてかなり楽しかったみたいだ。満足げに腹に顔文字を刻み、両腕をブンブンと振り回している。
まあ彼女(?)が楽しかったのなら……それでいいのか?
公園の至る所に転がる半透明の人間を見て、俺は首を傾げた。
いわゆる人格一覧発表回。
ダークナイトの性別はいつか判明します。もう殆ど出てるけどな!
オリジナル四半期ランキング1位になりました。
感謝