殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#3 ちょっと近づけた……かも

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めたら家のベッドだった。

 殺人鬼達に体を貸している間は、俺の意識は全くない。眠っているというか、気絶しているというか、体の主導権が戻ってくるまで意識がワープする感覚だ。

 

 

 いくら夜桜さんを誘拐した悪人とはいえ、殺されると逮捕のリスクがあるし寝覚めが悪い。

 なので、俺の中に宿る殺人鬼の中で最も人を殺さず制圧するのが得意な、サイコシンパスに変わったのだが。

 

『うむ、あの後ハンガーに体を変わったぞ!』

 

 サイコシンパスがにこやかな笑顔でそう言った。いやなんで勝手に変わったんだよ。

 だがハンガーが言うに、『殺してはない。夜桜も放ってきたけど無事』との事なので、多分大丈夫なのだろう。よく近くでうるさくしているが、嘘を吐いた事はない。

 

 

 ……まあ、ハンガーは殺人鬼達の中では、まだ落ち着いている部類だ。

 中にはとんでもなく頭がハッちゃけた奴もいる。サイコシンパスがそいつらに体を変わらなかっただけ、運が良かったとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そして、翌日。

 

 夜桜さんがマスクを着けたままだが登校していたのを見て、ほっとしたのも束の間。

 

 放課後になった瞬間、彼女に半ば引きずられるように無理やり図書室へ連れていかれたのだった。

 

 

 

「昨日、あの後どこへ行ったの?」

 

 彼女の綺麗な顔で視界が埋め尽くされる。

 いつも人がいない図書室だが、今日は当番の図書委員でさえサボっているのか、部屋の中には夜桜さんと俺の二人しかいない。

 

「え、えーっと……なんのこと……ですか?」

「とぼけないでよ。あの廃工場での事。私と一緒に連れてこられたのに、姿を消したでしょ?」

 

 ハンガーが勝手に帰ったので俺はマジで知りません!

 咄嗟に何か言い訳を考える。殺人鬼達のせいで急に一人で喋り出したり変な動きをしたりする事が多々あるため、こういう言い訳を咄嗟に考えるのは少し得意になっていた。

 

「そ、その。人が吊るされていって隙が出来た瞬間に、怖くて、一目散に逃げてしまって……」

 

 ハンガーのやり口は知り尽くしている。多分あの工場にいる奴を全員吊るし上げたんだろう。にしても、もっと格好いい言い訳はなかったのか。

 ただ俺のその言葉を聞くと、夜桜さんは少し離れ、ふ~っと安堵のため息を吐いた。

 

 

「もー、あの後、私一人で君の事を探してたんだよ。でも、私より先に逃げられてたんだね。本当に良かった」

 

 

 ……天使?

 彼女が図書室の椅子を1つ引き、座る。目の前に座るよう手で促されたので、『何だろう?』と思いながら同じように座った。

 

「私、夜桜 紗由莉って言うの。昨日は本当にごめんね、私のせいで厄介事に巻き込んじゃって」

「あ……日高、俊介です。それとアレは、夜桜さんは全く悪くないですよ」

「うん。……でも私が、そういう人格持ちだから、起きた事だもの」

 

 あんなのどう考えても誘拐犯たちの方が悪い。夜桜さんが気に病むことなど何一つないのは確かだ。

 だが彼女は少しだけ顔を俯け、申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 

 事件から話を逸らそうと、話題を変える。

 

「そういえば、夜桜さんに宿る人格は……」

「え? あ、うん。その……なんだか異世界ですごい爆弾を作ったらしいの。私はよく知らないんだけどね」

 

 

 ――爆弾。

 日夜殺人鬼達と一緒に居るせいか、使用用途が犯罪まがいの事しか思いつかない。

 

 だが爆弾とは、鉱山で山を掘り進めるために使われていたともいうし、今でも建築物を破壊するのに爆弾が使われる。かのノーベル賞の由来にもなったノーベルさんもダイナマイトを開発したことで有名だ。危険なイメージとは違って、きちんと社会のために役立つ、立派な物なのである。

 

 

 俺は彼女に尋ねる。

 

「夜桜さんに宿る人格の名前は、何て言うんですか?」

「それがね……彼女の名前、『バクダン』なの。多分偽名なんだけど……『それ以外に名乗る気はない!』って言い張ってて」

 

 ……彼女に宿る人格は女性らしい。うちの殺人鬼達に似て何ともまあ、キャラの濃そうな人だ。大変そう。

 

 

「あ! よかったらちょっと会話してみる?」

「え?」

 

 会話? 突然見知らぬ人格と?

 戸惑いを感じつつも、彼女がそのバクダンなる人格と切り替わるのを待つ。……だが一向に意識が切り替わる気配はなく、何やら机の上にペンと紙を置き始めた。

 

「? 人格を変えないんですか?」

「あー……。日高君は多分、人格持ちじゃないんだよね?

 人格を切り替えるってとっても危険な事なんだよ。精神が段々おかしくなっちゃうし、最悪体が戻らないなんて事もあるから……」

 

 

 えっ。何それ怖い。

 俺は本当にどうにもならない状況の時は、躊躇なく殺人鬼に体を変わってもらう事にしている。だがそんな事を続けるうちに、俺の精神も歪んでいっているのだろうか? そう考えると少し身震いがした。

 

 

 彼女がペンを手に持ち、ふふん!と自慢げな表情を浮かべる。

 

「そこで! 私はいっぱい修行して、体の一部だけをバクダンが動かせるようにしたのです!」

 

 何それすごい。

 恐らく右手にペンを持っていることから、筆談をしろ……という事だろうか? とても器用で便利な技術だ。帰ったら俺も練習しよう。

 

 

 そして、ピクッ!と彼女の右手が動いた瞬間。

 

 

 

 

 

 ――――――ズガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

 

 

 

 

 

 恐ろしい速度で彼女の右手が動き始めた。

 そして紙の上に描かれていったのは、滅茶苦茶に緻密な何かの設計図だった。……いやこれ、絶対爆弾の設計図―――。

 

 

 ガシッ! と夜桜さんが右手を左手で掴む。

 そしてにこっと、爽やかな笑顔をこちらに向けて言った。

 

「ごめんね、今は調子が悪いみたい! 今日はもう帰るね!」

 

 絶対嘘だ。

 この設計図よく見たら、なんか『100km死滅』とかとんでもない事書かれてるし! 夜桜さんの中のバクダンって絶対ヤバい奴だろ! 俺の殺人鬼に負けず劣らずの!

 

 机の上の紙を滅茶苦茶小さくして、勢いよく立ち上がる夜桜さん。

 なんだか彼女の気持ちが凄くわかる。多分この後、俺が暴れる殺人鬼達にやるのと同じように、バクダン相手に叱り散らかすのだろう。

 

 

 右手を押さえたまま急いで図書室から出ようとする夜桜さん。

 そして扉に手を掛けたその時、こちらに振り返った。

 

「そうだ、日高君! これからは私と話す時、敬語じゃなくてもいいからね!」

「え?」

「じゃあまた明日!!」

 

 そう言って彼女は図書室から出て行った。

 ぽかんとする中、彼女の言葉を頭の中で反芻する。

 

 

 『敬語じゃなくてもいいからね』、『また明日』……。

 それはつまり、明日も……彼女と会話していいという事なのだろうか?

 

 いやいや、でも俺と優秀な人格持ちの彼女とじゃあ、住むステージが違うし……。

 

 

 ――そこで、さっきのバクダンの奇行を思い出す。

 

 

 案外、彼女も内に宿る人格の事で、苦労しているのだろうか?

 そう考えると、なんだか遠い世界に住んでいた夜桜さんの事が、一気に身近に感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自宅。

 あの後、再び誰かが誘拐される事件に遭遇するなんてことはなく、無事に帰宅する事が出来た。

 

 制服を脱いでベッドに腰かけ、内に宿る殺人鬼の1人を呼び出す。

 

「ドール! 出てきてくれ!」

『はーい!!』

 

 元気のいい声と共に、目の前に現れた半透明のゴスロリ少女。

 140cmほどの小さな体躯で、黒い髪を腰辺りまで伸ばし、人の目を惹きつけてやまない華美なドレスを着ている。

 そして両手の甲には歯車とメーターが組み合わさったような不思議な機械を付けていた。

 

 

 正直、滅茶苦茶かわいい。夜桜さんのような美人タイプではなく、思わず守ってあげたくなるような愛くるしさのある可愛いタイプだ。

 ……でも、こんな可愛いドールも、一応殺人鬼なんだよなぁ。他の奴らに比べたら殺害人数はかなり少ないけど、立派な人殺しだ。

 

『お兄ちゃん、どうしたの?』

「少し試してみたい事があってな。俺が右腕だけドールに主導権を譲ってみるから、少し動かしてみてくれないか?」

『わかった!』

 

 なんて元気のいい返事なんだ。かわいい。

 意識を集中させ、右腕だけドールに譲るよう強く念じる。すると、右腕から力が抜けて完全に動かせないのに、俺の意に反してぐりぐりと腕が動き始めた。

 

『うん、問題なく動くよ!』

「おおっ! じゃあ少し、そこのぬいぐるみを操ってくれ!!」

 

 俺が視線をやった先には、色々な殺人鬼のストレスの捌け口となってボロボロになったテディベアがあった。一番酷使しているのはハンガーだ。

 

 ドールが右腕を上げ、ぬいぐるみに手のひらを向けた。

 彼女はその名の通り、手で人型の物体を人形のように操ることができる。どうやっているのかを聞いてみたところ、『ぎゅっとやってくちゅくちゅ!』という意味不明な答えが返ってきたので未だ不明だ。

 

 

『えいっ!!』

 

 彼女がかわいらしい声と共に、ドールが人形を操ろうとする。

 

 ……ところで。

 アニメでは糸使いのキャラが、他人を操ったりするときに、人間に再現可能なのかと思うぐらいぐねぐねと手を動かしていたりする。

 

 手が柔らかいのはとても良い事だが、一般男子高校生の俺の指はあんな可動域まで動かない。

 しかしドールは人形を操るために、指を糸使いのように思いっきり動かす。

 

 

 

 するとどうなるか。

 

 

 

 

「――――痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

 

 

 

 

 腕を動かしているのはドールだが、感覚は俺と思いっきり繋がっている。ドールは平然としているが、俺にはとても耐え難い痛みだ。

 

 

 ……しばらくこの技は封印とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

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