殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#34 出会いは突然に

 

 

 

 デパートの4階。

 とある紳士服の専門店で、人目を憚ることなく声を出しながら、服を物色している青年がいた。

 

『わらわが考えるに、俊介にはこの服とこの服が……』

『いやいや、こっちとこっちがいいと思うわよ』

「服なんて着られれば何でもいいでしょう。早くしてください」

 

 キュウビとクッキングがあれやこれやと口を出しながら服を見て回るのに、エンジェルは少しうんざりしていた。拘束衣をそのまま着続けるような彼女は、その見た目通りファッションに微塵も興味がないのだ。

 

 

 なぜこんな事になったのかと言うと。

 

 殺人鬼達全員の総意で、このデパート内にいる犯人を血祭りに上げに行くのは殆ど確定した。

 だが、元の服のまま暴れるのは流石によろしくないんじゃないか、俊介が後でガチギレするんじゃないかという懸念も上がる。

 という事で、そこら辺の店で変装用の服を調達することにしたのであった。

 

 

 殺人鬼達の中で服に強い執着を持つのはキュウビとクッキングくらいな物で、他の者たちは店の外で延々と待機兼偵察をさせられている。

 だが時間をかけまくっていれば、当然イラつきを抑えられない者も出てくるもので。

 

 

『てめェら、服選ぶのにいつまで掛けてやがんだゴラァ!!』

 

 

 店の外からずかずかと、大股で入ってくる半透明の女性が1人。

 身長180センチくらいの長身を持ち、火の点いたタバコを口に咥え、白いTシャツの上に黒い革ジャンを着ている。端がほつれたショートのデニムからは筋肉の張った太ももが覗いており、成人男性くらいなら難なく蹴り飛ばせそうなのが感じ取れた。

 

 ウルフという髪型にした黒髪を揺らしながら歩く、堂に入った不良姿の女性。俊介は陰キャ気質なので、バリバリの不良オーラを放つ彼女が少し怖いらしい。

 

 そんな彼女の方を向き、エンジェルが言う。

 

 

()()()()()。もう貴方が適当に選んでください。この2人ではいつまで経っても終わりません」

『おう、服なんてのは気合が籠ってりゃ何でもいーんだよ!! つまりはこのままの服装だ!!』

「貴方さっきの話し合いを理解してますか? 変装用の服を選んでいるんですよ」

『気合が籠ってりゃバレる訳ねえだろがコラァ!!』

 

 

 ピキッと、エンジェルの額に青筋が浮かぶ。

 

 

「ではそうしましょうか? 私と一緒に俊介に怒られる人が増えそうで安心しましたよ、フライヤー」

『おい、そいつは困るぜ……』

「私は我慢の限界なんです。もう15分もここに居るんですよ、いい加減にして下さい」

 

 

 そう言って、エンジェルは一番近くにあった服を無茶苦茶に手に取った。

 キュウビやクッキングの声を無視し、その場で着替える。雑に選んだせいでファッションの『フ』も感じられない服の組み合わせになったが、彼女はまったく気にしていない。たかだか変装だ、いちいち気にする方がどうかしている。

 

 背負うタイプの鞄も拝借し、元々着ていた服を突っ込む。

 勿論服に付いていた盗難防止のアラーム装置は外している。というより、握り潰した。

 

 

 

 ダイナミック窃盗を決め、店の外に出る。そこには辺りを見回していたり、暇だったのか目を瞑りながら待っている半透明の殺人鬼達が居た。

 出口の一番近くにいたニンジャが目を開く。

 

 

『やっと出……何でござるその服は?』

「何か文句でも?」

『エセ大道芸人みたいな恰好をしている不審者を見れば文句も言いたくなるでござる』

 

 

 正直、エンジェルが選んだ服の組み合わせは凡そ常人では思いつかない物だった。

 

 紫色のTシャツの上に、左右で赤と青が分かれている上着を羽織っている。ズボンにはトランプのエースやスペードなどのマークが色とりどりにプリントされており、非常にダサい。

 挙句の果てには、顔隠しのために付けているサングラス、鼻まで覆い隠すネックウォーマー。極めつけには謎の麦わら帽子だ。

 

 これでは変装というより、ただの変態になっただけである。

 

『まぁいいでござる。既に忍法・隠しカメラで写真は撮っている故』

「なぜ写真を?」

『拙者の忍道は人の嫌がることを積極的にする、でござる。写真の意味はおいおい分かろう』

「?」

 

 小首を傾げるエンジェル。

 

 彼女は『余りに奇抜すぎる衣装でデパート内を練り歩くと、俊介が怒るだろう』という発想に至らなかったのだ。いくら姿を隠す変装とはいえど、ヘッズハンターみたいに身を隠せるコートを着れば済むのになぜ意味不明な不審者スタイルになるのかと。

 それに思い至っていれば、ニンジャの隠しカメラを握り潰して証拠をもみ消せたろうに。

 

「でも正体は隠せているでしょう?」

『変装自体は拙者でも真似できぬくらい完璧でござる。いやぁ、真似できんでござるなこれは』

「なら構いません」

 

 彼女は一切合切を気に留めないエレガントスタイルを選択した。

 

 さて、ここで問題になるのはこのデパート占拠の犯人の居場所だ。

 変装は済ませたし、普通に歩いても問題はない。監視カメラは後で潰すが、多分犯人たちが記録媒体ごと潰しているだろう。

 

 

 

「まあ、4階からじっくり探しましょうか」

 

 エンジェルがそう呟いた瞬間。

 

 数メートルほど前方の空間が突然歪み、2人の焦った様子の男が現れた。

 1人は丸腰だが、1人は一般客とは思えぬほどの重武装である。

 

「な、何だったんだあのガキは……ッ!?」

 

 丸腰の男の方が、エンジェルの様子を見て驚く。

 

「客……!? 4階担当の奴はどうした?!」

 

 

 そんな2人を冷静に観察し、殺人鬼達はポソリと呟く。

 

『敵じゃな』

『犯人でござる』

「どう見てもそうでしょう。私にも分かります」

 

 一体全体、どこから来たのか知らないが、探す手間が省けた。

 エンジェルはゴキゴキと手を鳴らしながら2人に近づいていく。

 

 

 

 

 

 哀れな2人組がどうしてここに現れたのか。

 それは数分ほど前、エンジェル達がいる4階の更に下の階での出来事が原因であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいマーズ……まだ見つかんねぇのか? あんまりモタモタしてると牙殻が出てくるぞ」

「すいやせんパーバラさん。一応、この施設内にはいるんですがね。結界張ってますし」

 

 パーバラと呼ばれた丸腰の男と、マーズと呼ばれた最新鋭の装備を全身に身に着けた男が話している。

 

 

 ここは人格犯罪集団によって占拠されたデパートの一階。

 先ほどまで楽しく開催されていたライブ会場だが、今はデパートの1階にいた人々が集められ、重武装の男たちに監視される牢獄と化していた。

 

 そんな集められた客達の端に、フリフリとしたアイドル衣装を身にまとう少女が1人。

 少女の名は折川結城。彼女は男達の方を警戒しながらも、何もない所に小声でひそひそと喋っている。

 

 

『ふぁ~あ。せっかくのライブが台無しになったの』

「マオ、黙ってて……!」

『儂の声はどうせ聞こえんから大丈夫大丈夫。まあ、このまま大人しく座っておけばいい』

 

 そう言いながら、折川結城のすぐ傍でそう言ったマオ。

 半透明のマオは身長が2メートル近くあり、頭に赤い角が2本生えている。自身を魔を統べる女帝、魔族と呼ぶ彼女だが、その顔は魔に染まっていない人間をも魅了する程に美しい。

 体のラインが出る黄金の装飾が施された黒い服を身に着け、その上から、常に揺らめく炎のように形が変わる紅色のマントを纏っている。

 

 まさに魔を統べる者、魔王の名に恥じぬ風貌だろう。

 肝心の本人がマントにくるまって地面に寝転がり、服の隙間から手を突っ込んで胸の下辺りをガシガシとかいていなければ、だが。

 

 

 折川結城が更に声を潜めて尋ねる。

 

「どうにか出来ないの……?」

『可能か不可能かで言えば、可能だ。が、しかしだな……儂はもう暴力は振るわないと決めたのだ。ラブ&ピース』

 

 マオはアニーシャ(ダークナイト)とのあれこれで、心に多大なトラウマを負った。

 

 人間相手に戦争を吹っ掛けたら、あんな化け物が出てきた。それからマオは、好き勝手に人を傷つけていると、アニーシャ2号や3号が出てくるのではないかと考えるようになってしまったのだ。

 

 

『儂はもう……戦わん……』

 

 そんなマオの呟きをよそに。

 監視していた男達が業を煮やしたのか、捕らえられた人の中から女性を一人引きずり出した。

 

 その服から客ではなく、このデパートの従業員である事が伺える。

 重武装をした男の方が地面に這いつくばる女性の後頭部に小銃の筒先を当てて、無理矢理押さえつけた。

 

 パーバラと呼ばれた丸腰の男が、女性の頭の近くに腰を落とし、優し気な声色で尋ねる。

 

「このデパートの管理人探してんだけどよ。この施設で隠れられそうな場所とか知ってるか?」

「ひッ……ち、地下の倉庫なら……!」

「そんな所もう調べたんだわ。他には?」

「ほかには、し、知りません……! 許してください……ッ!」

 

 ふーっと息を吐きながら立ち上がるパーバラ。もう一人の男に向かって指を横に振る。

 そして、重武装の男が女性の後頭部から銃先を離し……脇腹を勢いよく蹴り飛ばした。軽い女性の体は1メートルほど吹っ飛び、蹴られた場所を押さえてうずくまる。

 

 

 それを見て、捕らえられている人々からどよめきの声が上がった。

 

 この先、あの女性がどうなるか……そんな事は、マーズが持つ銃先が彼女に向いている事から簡単に予測できた。

 折川結城が小声で、未だに寝転がるマオに悲痛な声で言う。

 

 

「マオ! 人が……人が死んじゃう! 何とかしてよ!」

『フン。儂は魔王だぞ、人間が何人死のうとどうでもいい』

「……私はマオが『歌で世界を支配したい』って願いを聞いてあげたのに、私の願いは聞いてくれないの!?」

 

 その言葉に、ピクリとマオが反応する。

 ゆっくりと上体を起こし、小さな少女の顔を鋭い眼光で見つめた。

 

『そもそもその気になれば、儂は結城のちっぽけな体を奪うことなど造作もない。それに、あの願いは契約……儂の願いを聞いてもらう代わりに、きちんと結城が望んだ対価は払ったであろう』

「ッ……」

 

 確かにマオが『歌で世界を支配したい』と言った時、最初は断った。

 

 だがマオが払った対価……。『一度でいいから空を飛んでみたい』という、結城の幼いながらも夢のある願いをマオはきちんと叶えたのだ。服と靴に飛行の魔法を掛けてもらい、鳥と同じ高さで飛び回った記憶は今も色褪せぬまま残っている。

 

 そして折川結城は空を一度飛ばしてもらった事を対価に、マオの願いを了承した。これは契約。後から『やっぱりなし』とか『対価が釣り合っていない』なんて事は通じない。

 

 

 少女はマオに怒りの籠った声を吐こうとして……ハッと気づく。

 

「だったら、私ともう一回契約して」

『ほう? いいぞ、この魔族の王に願いを言ってみよ』

「願いは、デパート内の人を死なせない事。対価は……マオのお願いを何でも、一度だけ聞く事」

『…………フッ』

 

 

 少女は気付いた。

 初めからマオは、『人間が死のうとどうでもいい』とは言ったが、『助けない』とは言っていないのだ。

 

 

 無償の願いを叶えるほど魔王は優しくない。

 だが、それが対価を払った契約とあらば……魔王は言う事を聞く。

 

 

『願いは、そうだな……。結城が冷蔵庫の中に隠している高級プリン全部で手を打ってやろう』

 

 

 普通、魔王との契約の対価など体の一部を持っていかれてもおかしくない。それがたかが高価な食べ物で済むのは、偏に、マオが折川結城という少女をそこそこ気に入っているからだ。

 

 ニッと笑ったマオが、少女と体を変わる。

 

 

 

 全身に駆け巡る不可視の魔力。

 その魔力量は留まるところを知らない。

 

 魔王としての力は、元の世界の10%ほどしか引き出せず。

 

 それでも、この世界で危険と呼ばれる事の殆どが児戯に感じる程の、圧倒的な実力を彼女は持っていた。

 

 

 

 パン!と音を立て、手を合わせる。

 店員の女性に集中していたパーバラなる男と、銃を持った男が鋭い眼光で少女の方を見た。が、マオは全く臆すことなく、凶悪な笑みを浮かべて睨み返す。

 

「なんだお前――――」

 

「儂の名前はマオ。キュートな歌声でいずれ世界を支配するアイドルだ、覚えておけ下民」

 

 

 パリリッと黒い稲妻が走った瞬間、男達に掛かる重力が一瞬で十数倍に膨れ上がった。思わず膝を突く2人。

 しかしパーバラがポケットから血で文字が書かれた札を取り出し、淡い水色に光る箱で自分たちを覆った。

 

 それを見て、マオは感嘆の息を漏らす。

 

「ほう、魔法緩和の結界か。下民にしてはいい技だ」

「下民下民うっせえんだよガキ!! やれマーズ!!」

「へい!!」

 

 重武装のマーズが小銃を構え、マオに向かって発砲する。

 だが銃弾は全て彼女に届く前に黒い稲妻に撃ち落とされた。その稲妻は意思を持ったように男達に突っ込んでいき、パーバラの張った結界を一撃で破壊する。

 

 

「契約は契約。殺すなとは面倒だが……ま、全身を軽く炙る位はやってくれよう!」

 

 

 マオは両手を左右に広げ、右手にどす黒い炎、左手に濁った水を出現させる。

 それを眼前で勢いよく叩き合わせた瞬間、夥しい熱気の籠った水蒸気が2人の男だけに向けて勢いよく広がって行った。

 

 銃を構えるマーズ。そんな彼の首根っこをパーバラが引っ張った。

 

「パーバラさん!! 防いでくれ、俺が撃つ!!」

「防げるか馬鹿野郎、こっち来い!!」

 

 水蒸気が肌に触れる寸前で、パーバラが取り出した札がカッ!と光る。

 何もかもを焦がし尽くすそれが通過し、視界が晴れる頃には、2人の姿は何処かへ忽然と消えていた。

 

 

 マオはその様子を見て、少し考える。

 

(……転移魔法、なかなか高等な技を使うではないか。まあちょっと威力を込めすぎていたし、避けてくれて逆に契約違反にならずに済んだが)

 

 『デパート内の人間を死なせない』には当然あの犯人共も含まれている。ちゃんと定義していれば全身をすり潰す魔法も使えたのだが、後の祭りだ。

 まあ……そう遠くまでは行っておらん。あんなちゃちな札ではこのデパート内の何処かが限度だろう。

 

 

「幸いにも、各階に人質が固まってるし。儂も契約厳守で適当に動くとするか」

 

 

 彼女は手に黒い釘付きバットを顕現させ、クルクルと回しながら歩き始めた。

 

 

 

 

 

 





何で現代舞台モノで魔王とか魔法とか魔力とか書いてるんだろう。
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