殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#36 クソ女

 

 

 

 デパート2階。

 

「…………」

 

 そこには銃を構え、息を潜めながら歩く女性……翠 夏樹(みどり なつき)がいた。

 先ほど新たに犯人を1人捕まえ、2階の出入り口を確保しに来たのだ。

 

 だが。

 

「……異世界技術の結界」

 

 軽く触れるが、強い力で押し返される。

 時間を掛ければ解除できない事もないが……ここに時間を掛けるくらいなら、犯人制圧に注力した方がマシだ。内側から解かずとも、外に居る牙殻や白戸なら解除できるだろう。

 

 

 諦めて踵を返した、その時。

 

「ッ!?」

「ひっ、ヒィィ!」

 

 背後に小太りの中年男が立っていて、思わず銃を構えた。

 黒光りする銃を見て、男は悲鳴を上げながら手を広げて上に上げる。降参のポーズだ。

 

「何者だッ!!」

「わ、私はこのデパートの管理人だ! じゅ、銃を下ろせ!!」

「…………」

 

 

 瞼を一度閉じ、コンタクトに仕込んだデータベースを起動させる。相手からすれば瞬きを一回した程度で、怪しまれずに情報を検索できる……いわば、異世界の科学技術を結集させた目だ。スパイ道具に近い。

 

 男の顔と、このデパートの管理人の顔を見比べる。

 確かに、寸分たがわず同じ顔だ。

 

 銃を下げる。

 

 

「そうでしたか。大変申し訳ございません」

「ま、全く……君は警察だな!? 早く何とかしてくれないと困るよ!!」

「私1人では対応がとても難しい状況です。どうか、見つからない場所でお隠れになって下さい」

「フン!! 無責任な警察は嫌いだよ、私は!!」

 

 

 頬を真っ赤に染め、クルリと振り返った管理人を名乗る男。

 その瞬間。翠は懐から白い銃を取り出し、その背後へためらいなく引き金を引いた。

 

 

 バシュッ!という音と共に、管理人の周囲に現れる光の縄。

 先ほど、気絶した犯人を完全に拘束したその光の縄は。

 

 

 ――――バチンッ!!

 

 

 スパークするような音が響き、管理人の体を拘束する前に弾かれた。

 その太い体からは想像も出来ないほど軽やかな動きで、翠から距離を取る管理人。

 

 先ほどまでの苛立たしい男の声ではなく、蠱惑的な女性の声が管理人から発せられる。

 

 

「顔変えの術……失敗してた?」

「スーツ姿でカスタム銃を持つ私の姿を見て、どうして警察だと?」

「薄い根拠で発砲してくるのね。流石、人対さん」

 

 男の顔が歪む。

 霧が晴れるように、管理人の姿が変貌していき……現れたのは、宝石のような黒い長髪を靡かせる、尋常ではない妖艶さを放つ女性だった。

 

 

「お前は……知雫(チダ)……!」

「人対が来ないように結界を張らせたのに、既に中に居たなんてね。まあ、貴女程度ならどうにかできるわ」

 

 

 知雫(チダ)

 警察や人格犯罪対処部隊にて、『怪人二十面相』と同レベルに危険視されている存在だ。

 

 薬物売買、洗脳、危険な異世界技術の不許可流布、殺人……。

 彼女が為す犯罪は悪辣さを極めている。それに加え、顔変えの術で逃亡したり、己の美しさで権力者に色仕掛けをしたりと、あらゆる手で人対を翻弄して来た相手だ。

 

 

 知雫が両手を合わせ、手印(しゅいん)を組む。

 

「陰道()()神足(かみあし)の道」

 

「っ!?」

 

 周囲の景色が一瞬で変貌し、後方から前方に一直線の延々と続く石畳の道が出現した。

 赤い鳥居がお互いを囲むように等間隔に並んでおり、その外は鬱蒼とした森が広がっている。

 

乱歩(らんぽう)

 

 彼女がそう唱えた瞬間、森の中から地響きが聞こえ始めた。

 嫌な予感がし、咄嗟に後ろに飛び跳ねる。すると先ほどまで立っていた場所の石畳に、無数の足の形をした穴が空いた。あのままあそこに立っていたらと思うとゾっとする。

 

 咄嗟に黒い実銃を構えて発砲した。

 知雫は手印を崩さぬまま、銃弾をヒラリと回避する。

 

「あら。危ない危ない」

「声に魅了の術を籠めるな、鬱陶しい!!」

「バレちゃった?」

 

 気付け薬を服用していないと魅了されていただろう。念のために歯の中に仕込んでいて良かった。

 銃を左手で発砲しながら、服の内側に点けている白い筒を右手で取り出す。

 

 

 筒の先から垂れさがる光の鞭を出現させ、知雫の方に振り放った。

 ガリガリと地面と鳥居を削りながら彼女に向かっていくが、そこでまた知雫は手印を崩さぬまま口を開く。

 

 

強歩(きょうほう)

 

 

 一際大きな音と共に、鞭の先端が断ち切られた。

 たかが光の集合体と言っても、鉄板をぶった切るくらいの威力は持っているのに。石畳に空いた穴の大きさを見るに、人体を消し飛ばすには十分な威力を持った攻撃だったのだろう。

 

 翠は知雫の方を睨む。

 

「さっきから、その手の印を崩さない所を見るに……それを保ち続ける事がこの術の条件だな!」

「うん、大当たり♪ どんどん攻撃してくれてもいいのよ♪」

「言われなくても!!」

 

 服の内側から白い手りゅう弾を取り出し、思いきり投擲する。

 二連爆弾という特殊な物で、一度爆発したのちに、更に勢いを強めて標的に向かうという物だ。

 

 爆弾が1度目の爆発をした瞬間、再び光の鞭を筒の先から数本出現させ、彼女に向けて縦横無尽に振り払う。

 

 光の鞭が上下左右、前後の至る所から襲う上、爆発物も迫ってくる知雫。だが余裕たっぷりの表情を崩さず、再び口を開く。

 

鈍歩(どんぽう)

 

 瞬間、彼女の周囲の物体が一気に速度を落とす。

 鈍くなった鞭や爆弾を余裕綽々の顔で眺めながら、ゆっくりと上体を動かして避けつつ、背後へ下がっていく。

 

 5秒も経てば元の速度に戻り、知雫の居なくなった場所を鞭と爆弾が襲った。

 

「クソ」

 

 分かってはいたが、相性が悪すぎる。

 悔しいが私は人対の中で一番弱い……殆ど武装もしていない状態で、最悪の相手と出会ってしまったものだ。

 

 

 

 再び爆弾を投げようとしたその時。

 ピシリと体が硬直し、動かせなくなった。

 

 困惑する暇もなく、知雫が魅了の術を解いた声で静かに語り始める。

 

「神様は怒られました。神の道を壊す者に天罰を下さんと」

「ぁ、ガ……っ!?」

「天より参りし神の歩み、地の獄の底にて更生の機を与えん」

 

 

 ……やられた!!

 詳しい事は分からないが……詠み上げた言葉からして恐らく、この道を一定の基準まで破壊した時に発動できる止めの技を使う気だ。

 奴の攻撃の威力が高く、やたらと地面を傷つけていたのも頷ける。私の攻撃の他に、術者である奴の攻撃も条件の足しに出来るのだ。

 

 意識と接続させている反重力バリア装置を起動させる。

 その瞬間、知雫が最後の言葉を詠み上げた。

 

 

神歩(しんぽう)

 

 

 延々続く石畳の道を丸ごと破壊するほどの、巨大な衝撃が走った。

 反重力バリアが一撃で破壊され、体が思いきり吹っ飛ばされる。先ほどまで居た石畳の道は消え、元のデパートに戻って来た。

 

 当然のように無傷の知雫。術者に自分の術が当たらないのは、当然と言えば当然だが。

 

 

 口から粘っこい血を吐きながら這いずる翠の姿を見て、彼女が驚いたような声を出した。

 

「嘘。殺すつもりでやったのに……意外とタフなのね」

「ッ……く」

「まあいいわ。牙殻が来た時の人質として確保しておきましょう」

 

 

 知雫は彼女に捕縛の術を掛け、首根っこを掴んで引きずり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁあぁ……。雑魚と馬鹿ばかりで、ちっとも怒りが晴れんのじゃ」

 

 キュウビがあくびをしながら、その辺を練り歩く。

 既に3階にいた犯人は半チャーシュー状態まで焼き上げ、ハンガーの手によって天井から天日干しのように吊り下げられた。一応死んではいない。

 

 エンジェルが半殺しにした犯人が2人。

 キュウビとハンガーがやった犯人は2人。

 

「となると、確か後7人とか言ってたから……あと3人か。雑魚ばかりじゃの」

 

 キュウビは翠が追加で1人倒し、残り2人になっているのを知らない。

 

 

 女性物の高級な服やアクセサリーが店の中に放置されているが、今は女の体ではないし、そもそも俊介の意識がないのに着飾っても意味がない。

 燃えるような怒りは消えぬ。だが、雑魚ばかりのこの状況にも少し飽きてきた。

 

「俊介を起こす……? いや、わらわが起こしてとばっちりで怒られるのは嫌じゃ」

 

 そうして、辺りを見回していた所。

 店と店の間にある壁に妙な違和感を感じた。じっと目を凝らすと、何か姿を隠す物を身に着けて隠れている者がそこに居るのが分かる。

 

 

「おい、そこに居る者! 今すぐ出てこんと、全身丸焦げにして豚の餌にしてやるぞ!!」

「ヒィィィ!! ごめんなさぁい!!」

 

 

 悲鳴を上げながら姿を現したのは、小太りの中年の男だった。

 その醜い体つきに似合わぬ高級なスーツを着ており、身分の高い人間であることが伺えた。

 男はすぐにキュウビの足元まで来て、額を床にこすりつける。

 

「悪かった、少しビビっちまっただけなんだ!! 許してくれ、客なんてどうでもいい、俺の命だけは!!」

「はぁ? 何を言っておる豚。わらわに近づくでない、穢れが移る」

「……あ? なんだ、お前? 薬物売りの仲間じゃないのか?」

 

 

 男が土下座を解いて立ち上がり、眉間にしわを寄せる。

 

「ふざけんな! 勘違いさせやがって、ヘンテコ野郎――――」

「わらわに近づくなと言っておるのじゃ! 首を垂れよ、クソ豚!!」

 

 キュウビが彼の足を燃やし、地面に膝を突かせる。

 そして男の頭を踏みつけ、地面に押し当てた。図らずとも、再び土下座をしているようなポーズになる。

 

 

 豚の頭を足で押さえるキュウビの側に、ゆらりとトールビットが近づいた。

 

『この男、今、気になる事を言ってなかったかい? 薬物売りの仲間だとか何とか』

「うむ。豚の戯言にしては、ちと見過ごせぬ発言じゃな」

『ハハハ。キュウビ、少し体を変わってくれないかな? あと他の皆を近づけないように』

 

 トールビットに体を変わるキュウビ。

 彼女は男の首根っこを引っ張り上げ、そのまま、家電量販店の奥まで引きずっていた。

 

 

 

 キュウビは彼女の言う通りこの場で待機するよう皆に伝え、待つこと5分。

 先ほど引きずっていた男の姿はどこへやら。トールビットはにこやかな笑顔と共に、1人で戻って来た。

 

 キュウビの顔を見るなり、すぐに体を変わるトールビット。

 

『いやぁ、中々面白い事を聞けたよ。あの男はここの管理人で、薬物売りと通じてた張本人だってさ。物凄い額のお金と引き換えにデパート内での売買を黙認してたらしいけど、金が充分貯まったから警察にチクったってね』

「……あの男はどうしたのじゃ?」

『手の中を見れば分かるよ』

 

 体を変わった時から握ったままだった右手を開く。

 そこには血まみれの耳と爪と歯が1つずつ、綺麗に並んでいた。キュウビは躊躇いなく手に炎を出し、それらを丸ごと焼却する。

 

「貴様、汚い物を握るでない! 俊介の手が汚れるであろう!!」

『ごめんごめん。でもほら、それ以外に返り血は浴びてないからさ。勿論、殺してもないし』

「そういう問題ではないのじゃ!」

 

 汚らわしい豚の一部を握らされたことで、若干イライラしているキュウビ。

 階段を降り、3階から2階へと降りると。

 

 

「ん」

「ん」

 

 

 ちょうど、1階から2階へと昇っていた少女と鉢合わせた。

 キュウビは顕現させた扇子を口に当て、彼女を見下ろす。

 

「貴様……確か俊介と話していたマオ? とか言うアイドルじゃな。わらわはキュウビじゃ」

「うむ。儂はマオ、アイドル兼魔王だ。それより、その服装は……いや」

 

 チラリと、マオがキュウビの恰好を一瞥する。

 

「わらわが選んだ服ではない」

「だが、いくら何でも……」

「……ならば、これで文句なかろう」

 

 キュウビが自身に術を掛け、全身の姿を変えた。

 それは俊介の姿ではなく、自身が生きていた頃……元の世界でのキュウビの姿だった。

 最初からこれで変装しろとは思うかもしれないが、キュウビが表に出ていないとこの顔変えの術は使えないのだ。殺人鬼達はみんな、俊介のように体の一部を他人に譲渡するという器用な真似はできない。

 

 

 人並外れた美貌だが、魔族であるマオにはさしたる効果はない。キュウビも本気で魅了する気がないのも理由だが。

 キュウビが口を開く。

 

「今から1階と2階の犯人を始末しに行く所なんじゃが」

「1階は儂が片づけた。2人取り逃がし、1人を丸焦げにしてやったぞ。取り逃がした奴らは、札と銃を使っておったのだが」

「……エンジェルが4階で片づけた2人じゃな。わらわとハンガーが2人始末して、元々犯人が7人おったのじゃから……」

 

 マオが1人。

 エンジェルが2人。

 キュウビとハンガーが2人。

 

 7-(1+2+2)=2。

 

「後2人か。あっけない物じゃのう」

「儂が出てくる必要あったか、これ……?」

 

 翠が追加で1人制圧しているので、実はあと1人だけである。

 

 

 少女魔王とガチ傾国の美女が揃って2人で歩き始めた。

 デパート内の犯人は少ないので、わざわざ分かれて探す必要もない。というか、別の階に行った所でもう犯人がいない。

 

「アイドルってどんな感覚なんじゃ?」

「人に注目される。儂はいずれ世界を歌で支配することを目標としているぞ」

「ほ~ん。わらわももしこの世界に生まれていれば、アイドルとやらになってたかもしれんのう」

 

 

 そう言いながら、無人の道を適当に散策していると。

 突然、キュウビに向かって青い炎の矢が素早く飛んできた。

 

「あ”?」

 

 手に持った扇子で容易く叩き落とし、矢の飛んできた方向を見る。

 そこには美しい顔を怒りで歪める、長い黒髪を持つ女がいた。女の右手には、先ほど俊介と話していた黒スーツの女の首根っこが掴まれている。

 

 

 黒髪の女が、煮えたぎるような怒りを込めた声で言った。

 

「何故ここに居る……朱雀(すざく)……!」

「……誰じゃ貴様。なぜわらわの前の名前を知っておる」

 

「私の名前は知雫(チダ)!! 忘れたとは言わせないぞ!!」

 

「覚えておらぬ」

 

 のほほんと言ってのけるキュウビ。

 それを見た知雫が、更に怒りのボルテージを上げる。そして噴き上がる怒りが一周したのか、かえって冷静になり始めた。

 

 

「フフフフ……さっきから仲間と連絡がつかないし、牙殻ももうすぐ来る。撤退時だと思ったが……まさかここでお前に再会できるとはな。

 いいさ、最後にお前の血で化粧をしてから撤退してやるよ!」

 

 

 明らかに正気ではない女。

 マオがそっとキュウビに顔を近づけ、こそっと耳打ちした。

 

「手伝ってやろうか?」

「いらぬ。……しかし、本当に心当たりがない。一体誰じゃ……?」

「経験上、物忘れはふとした時に思い出す。500年生きた魔族の教えだ、覚えていろ」

「500年でそれだけしか悟れなかったのか」

 

 会話を終え、マオが数歩下がって距離を取る。

 逆にキュウビが何歩か前に出て、扇子を口元に当て、余裕綽々な態度を取った。

 

 知雫が手印を組み、大声で叫ぶ。

 

「死ね朱雀、()()()()()()()()ィ!!」

 

「ん? 禁術か」

 

 周囲の景色が変わり、前後に延々と続く石畳の道が伸びる。

 先ほど人対の翠を容易く始末した技であり、知雫が使える術の中でもかなりの威力を持つ禁術だ。

 

 異常な光景だが、キュウビは焦ることなく扇子を前に突きだす。

 

「禁術など使うものではない。内臓が悪くなるし、頭は痛いし、寿命は縮む。阿呆の使う技じゃな」

「阿呆はそっちだ! 禁術の威力は、デメリットを補っても余りある!!」

「あと、禁術は古来から伝わる古臭い術ゆえに解きやすい」

 

 

 扇子を開いた瞬間、周囲の景色が元のデパートの光景に戻った。

 知雫は手印を崩していない。正規の解除手段ではなく、強引に術の構成そのものをぶっ壊されたのだ。

 例えるならばそれは、鉄製の箱の中に入った物を取る時に箱を開けず、素手でぶち破って取り出すくらいに強引な技。現実的にあり得ない技だ。

 

 

 キュウビが再び扇子を口元に当てる。

 

「でもまあ禁術使いの阿呆だとしても、暇だから相手してやるのじゃ。ほれ来い」

 

「―――ふざけるな、このクソ女!!」

 

「……わらわ、本当に何したんじゃ……?」

 

 

 緊張感に差のありすぎる2人だった。

 

 

 

 

 

 





術の名前とか内容とか、元ネタは一切なく、男漢が1から考えてます。
ちょっと厨二臭くて痛くてもゆるして
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