学校のテストは無事に終了。俺は普段よりも良い点数を取ることが出来た。これも夜桜さんとの勉強会のおかげだろう。
そしてクッキングと相談しながらオシャレ?な服を調達し、国認可の人格持ちが集まる集会へ赴くため、新幹線で都会の方へと向かった。
「ここが、集会の場所……?」
俺は目の前のビルを首が痛くなるほど見上げながら、隣の夜桜さんに向けてそう言った。
「うん。初めて見たらビックリするよね」
いや、冗談抜きで本当に凄い。いくらここが都会とはいえど、明らかに周りの建物よりも数段高いのだ。
こんな高級そうなビルで集会をするなんて、やっぱ国が認めてる人格持ちっていうのは凄いんだなぁ。夜桜さんの凄さを分かっているようで分かっていなかったらしい。
夜桜さんと共にビルの入口へ向かう。
「それでさ、その集会ってのは何階でやってるの? 最上階とか?」
「ん? 違う違う、このビル全部だよ。この大きなビルは、国認可の人格持ちの人が使うためだけに作られたの」
「……えぇ!?」
どういう金の使い方だよ。どっかの高級ホテルの宴会場でも貸し切ってんのかと思ったら、このビル自体がそれだけの為に作られたって……。
ビルの中に入るなり、黒いスーツを着込んだ恰幅の良い大人に囲まれる。
俺は一瞬ぎょっとして体を硬直させるが、彼女は一切臆すことなく鋭い視線を向けた。
「夜桜紗由莉様と、招待客の日高俊介様でお間違いないでしょうか?」
「はい。……もう行ってもいいですか?」
「申し訳ございません。どうぞ、お楽しみください」
彼らが道を開け、そこを彼女と共に進む。
「ごめんね日高君。ここって色々あるから、結構警備も厳重なんだ」
「色々?」
「うん。このビルは集会に使う他にも、人格持ちの人が住み着いてたり、異世界技術の実験品や試作品を置いてたり。だから、一般の人は基本的に立ち入り禁止なんだ」
へー……。
本当に国認可の人格持ちのためだけに作られた建物なんだな。住処に良し、実験場に良し、定期的な集会で情報交換も出来る。この感じだと食事も自由だろうし。普通に住めるな。
集会場があるという最上階まで、エレベーターで一気に昇る。
そして扉が開いた瞬間、目に飛び込んできた金の輝きの多さに驚いた。
まさに贅を尽くした……そう言っても差し支えないほどに華美な内装。赤い絨毯、純金製の美術品、素人の俺でも分かるほどの迫力を持った雄大な絵……。俺が分からないだけで、他にも色々な所に金銀宝石が散りばめられているのだろう。
「き、金ぴかだね……」
「ちょっと悪趣味だよね、ここまで来ると」
この部屋だけで一体いくら掛けているんだろう? というか他の階層もこんな感じなのか?
そう夜桜さんに尋ねるが、他の階層はそうでもなく、この集会場だけが特別豪華なのだと言う。
やがて黄金の輝きにも慣れ、辺りを冷静に見回す余裕を取り戻した。
この集会場はビルの最上階をほぼ丸々使っているからかかなり広い。純白のシルクのテーブルクロスが敷かれた円テーブルがいくつも置かれており、その上には様々な料理が置かれていた。ビュッフェ?という奴らしい。
そして一番目を引かれたのは、集会場の中央にある舞台だ。
俺達が立つ場所よりも少し高くなったところにそれはあり、この集会場に合わせたのか半端ではない輝きを誇っている。並の人物ではあの場所に立っても、舞台自身の輝きと迫力に負けてしまうだろう。
夜桜さんと一緒に、近くのテーブルに近づく。
置いてあったスプーンを手に持って……一瞬、手が固まった。
このスプーン、持ち手の所に宝石が幾つも嵌められている。しかもこれ、多分ダイヤモンドだ。
何処からともなくニンジャが現れ、俺の持つスプーンを指さし耳元で叫ぶ。
『俊介ェ! このスプーンは懐にこっそり入れるのが吉でござるぅ!!』
「耳元で叫ぶな、黙ってろテメェ……!」
「どうしたの?」
「ああ、いや……ネックレスの件の奴が、ちょっと騒いでて」
彼女がフフフと口に手を当てて笑う。
「そういえば、日高君は人格持ちって登録してないんだよね。他の人に聞かれたら、『人格持ちじゃありません』って嘘で押し通していいのかな?」
「うん。まあ……中に居る奴らがちょっと特殊だから言えないんだよね」
「そうだねぇ。そもそも複数人格って事が……あっ、これも秘密だったね?」
彼女が唇に人差し指を当て、片目をウインクした。可愛すぎる。天使かな?
夜桜さんの方を見つつ、指先でピトリと料理が山積みにされた皿に触れてコピーを作る。
そしてニンジャの方に口を近づけ、小声で言った。
「ニンジャ、ちょっとこれ持って他の奴ら惹きつけといて」
『承知したでござる』
食べ物の乗った半透明の皿を持ち、会場の端まで歩いていくニンジャ。
彼の向かう先にはヘッズハンターやドール、マッドパンク達が居た。例え中から他の奴らが出て来てもあそこで惹きつけてくれるだろう。多分。
夜桜さんと会話しながら過ごす事、10分。
次第に、集会場内に人がぞろぞろと集まり始める。カッチリと高級そうな服を着こんでいる者や、ヨレヨレの服で寝ぐせを跳ねさせたまま歩いている者もいた。
目立たないように辺りを見回して……彼女に問いかける。
「何か……若い人ばっかりだね」
こういう派手な会場には少し年が行ったスーツ姿の大人ばかりが集まると思っていたが。
偶に腰の低い大人がペコペコしているくらいで、大半は俺とそう年齢が変わらなさそうな見た目の人物ばかりだ。明らかに俺より年下……小学生くらいの子もいる。
「浮遊人格統合技術の注射が10歳に義務付けられたのが10年前だからね。ここに居る人も注射がきっかけで人格が宿った人ばかりなんだよ。年を取って、自分からやろうって人は中々いないんじゃないかな」
「ああ、そういう事なんだ」
「ペコペコしてる大人の人は招待客かな? 毎回1人は居るんだよね、コネ作りに来る人」
10年前に10歳への注射義務が始まった。という事は、ここに優秀な人格持ちの人物は大体20歳が最高……そう言う事になる。
まああんなヤバい注射、義務でもなければ打ちたい訳がないよな。……でも牙殻さんって明らかに20歳以上だし、あの人自分から打ったのか? マジ? 覚悟決まりすぎだろ。
ポケットの中からスマホを取り出し、チラリと時間を見る。
既に料理も置かれているし人も集まっているが、一応、開始の挨拶をするらしい。その時間まで後10分くらいか……。
「ごめん夜桜さん、トイレ行ってくるね」
「はーい」
彼女に断りを取り、会場から出てすぐの所にあるトイレに向かった。
正直開始の挨拶はどうでもいい。それより気になるのは、挨拶のすぐ後に異世界で
早歩きで男子トイレの中に入る。
集会場の華美な黄金の輝きとは一転、何処までも磨き抜かれた純白の、極シンプルなトイレが広がっていた。滅茶苦茶に綺麗な大型施設のトイレって感じだ。会場の息が詰まるような華美さよりも、このシンプルなトイレの方が気が落ち着く。
コツコツと足を鳴らしながら小便器の方に向かおうとしたその時。
「だ、誰かいるのかぁ……?」
唯一扉の閉まっている大便器の個室の扉から、腹の底から唸るような声が聞こえて来た。
どうかしましたかと声を返す暇もなく、扉の向こうの人物が言葉を紡ぐ。
「たのむ、
「あ、はい」
トイレットペーパーが切れただけかい。
洗面所の近くに置いてあった新品のトイレットペーパーを1つ手に取り、閉まっている扉の前まで移動する。
「下からじゃ通らないんで、上から投げます。3、2、1……よっと!」
流石にトイレットペーパーを扉の上に投げるくらいで失敗はしない。
向こう側でカラカラと金属が小刻みに当たる音が鳴り、すぐに水が流れる音が響く。そして扉がゆっくりと開かれた。
「いやー、助かった助かった! 後少しって所で無くなるんだから困ったもんだよなぁ!」
俺は中から出て来た人物を見て、驚きの余り目を見開く。
身長は俺が少し見上げるくらい……恐らく180センチくらいだろう。日本人離れした彫りの深い顔付きに、白髪交じりの髪を短く纏めている。そして胸ポケットに赤いポケットチーフを入れた黒いスーツを違和感なく着こなすその姿は、同性すらも惹きつける渋い魅力がある。
彼は俺の方ににっこりと微笑みながら手を差し出し、優し気な声色で言った。
「私の名前は
「っ……」
突然目の前に現れた衝撃的な人物に、思わず動きを固めてしまう。
彼はそんな俺の様子を不思議そうに見つめた後……「あっ」と声を出した。
「ハッハッハ! すまないすまない、手を洗っていなかったな!」
「……あ、あはは、そっすね」
手をひっこめつつ、榊浦豊は腕時計をチラリと見る。
「むむ……。申し訳ないが、私はもう行かなくてはならないようだ。握手はその後に取っておいてくれるかね?」
俺は何も言葉を発さずに頷くと、彼は手を洗い、小走りでトイレから出ていった。
暴れる心臓を深呼吸で抑え、心を平静に保つ。
まさか娘の榊浦美優に続き、親の榊浦豊とも出会うとは。
……いや、今回は予想してなかった俺が悪いのか。国認可の優秀な人格持ちが集まる集会、そこに浮遊人格統合技術の開発者である彼が訪れる事は何ら不思議ではない。
榊浦美優が高校に赴任してきたのはどう考えてもおかしいけどな!
用を足し、会場に戻る。
夜桜さんは俺と同じ年頃の見知らぬ青年と会話をしていた。……知り合いだろうか?
少しだけ服を整えつつ、2人の所に向かう。
2人はこちらに気付き、青年の方は俺に会釈をした。
「あっ、お帰り日高君」
「すみません、お邪魔してます」
青年は黒髪をさっぱりと纏めた、爽やかなオーラを漂わせるイケメンだ。身長も俺より若干高く、結構モテていそうな事が簡単に伺える。
謎の敵対心を心の中で燃やしつつ、軽く会釈し返す。
「初めまして、僕の名前は
「どうも、日高俊介です」
クソ、凄い礼儀正しい。
彼女はニコニコしながら、俺の方を向く。
「青林君も国認可の人格持ちなんだよ。それも、複数人格持ちなの!」
「ハハ、凄い研究者とかじゃなくて普通の人なんですけどね。中に2人います」
複数人格持ち。
中に2人以上入っている人物の事を指す名だ。
俺がどう言葉を返そうか迷っていると、夜桜さんがチョンと足で俺の足を突いて来た。
それから青林君の方を見た後、ウインクする。
どういう意味の仕草かは全く分からない。だが、彼女が何か意図を持って彼との対話の場を設けてくれたのは分かった。
とぼけくさった表情と声色で、俺は彼に尋ねる。
「へぇ……。その複数人格って奴はすごい事なの?」
「かなり珍しいですね。僕は複数人格ってだけで国の認可を貰いましたから。国内だと僕とあと1人ぐらいしかいないって聞きますよ」
「あと1人?」
「はい。『
「そうなんだ~。あはははははは」
怪人二十面相。俺はその名前をついこの間知った。
ニンジャからデパートでの出来事を聞いた時に、牙殻さんが俺達に向かって『怪人二十面相』と言い放ったという。
つまり。
国内であと1人の複数人格とは、つまり、俺の事……という訳だ。
夜桜さんが青林君の方を向く。
「ありがとう青林君。彼女さんが居るのに、お話に付き合わせちゃってごめんね」
「全然いいですよ。また機会があれば話しましょう」
そう言って彼は、会場の端に居た綺麗な女性の下へ歩いて行った。……彼女持ちだったのか、良かった。
いったん頭を整理するために、グラスに注がれた冷たい飲み物を一気飲みした。体と共に脳が充分にクールダウンされていく。
「日高君、大丈夫?」
「うん……。どうして、あの人と俺を会話させたの?」
「複数人格の希少性。それを日高君に知ってもらうのに良い機会だなって」
彼と会話の席を設けたのは、複数人格持ちという希少性を俺に教え込むためだったらしい。
国内に2人、片割れは俺。確認できていないだけで他にもいる可能性はあるにはあるけど……。
そして青林君は2人で国の認可を貰えたと言っていた。俺は殺人鬼が13人。
なるほど。うーん、なるほど。
「ちょっと珍しいかなくらいに思ってたんだけど……もしかして俺の13人って超ヤバい?」
「超じゃないよ、激ヤバだよ」
どうやら俺の認識はかなり甘かったみたいだ。
今まで13人いるって所じゃなくて、中に居るのが殺人鬼って事ばかりを隠そうとしてたからなぁ。そうか、人数もヤバかったのか。
彼女は口に手を当てた後、少しだけ体を近づけて来る。
「というか、日高君ってさっきの話に出て来た『怪人二十面相』って人だったりする?」
「……うん。多分」
「へ~。それって日高君以外に知ってる人いるの?」
「いないんじゃないかなぁ。人格は抜きにして」
そう答えると、夜桜さんは俺の腕に腕を絡めた。心臓がビクッと跳ね、体が固まる。
「じゃあ、また私だけが知ってる秘密が増えたんだぁ」
「そ、そうなるのかな……?」
「フフフ……♡」
俺が犯罪者だと知っても怖がる事なく、彼女は三日月のような深い笑みを浮かべた。
女生徒の付き合いが少ない俺には腕を絡め合った時にどうすればいいかなんて分からず、そのまま硬直し続ける。そのため、夜桜さんの目の色が殺人鬼達と同じような深い闇の色に染まっているのに気付かなかった。
1分ほどそうしたまま過ごしていた、その時。
会場のライトが突然全て消え、数秒後にスポットライトが会場の中央にある舞台を照らした。
先ほどまでは誰も居なかったはずの舞台に誰かが立っている。俺はその人物を見て、特に驚きもしなかった。なぜなら、さっき見たばかりの人物だったからだ。
「こんにちは皆さん。この集会の挨拶をさせて頂きます、
彼はマイクを片手にペコリと頭を下げた。
すぐに頭を上げ、話の続きを進める。
「浮遊人格統合技術が開発されてから暫く経ち、国内にも人格持ちの方は随分と増えました。
この場にいらっしゃる貴方達は、そんな人格持ちの中でも特に優秀な方々です」
「異世界の技術を用いることにより、世界はとても良くなりました。貴方達はとても優秀……そう、老いぼれた私では絶対手が届かないほどに。
羨ましいですねえ、アッハッハッハ!」
豪快な笑い声が響く。会場からは釣られたような笑い声が多く聞こえるが、俺としては全く笑えない。
浮遊人格統合技術……あの注射の中身を知った者からすれば、世界が良くなったとかどうとか聞いても『ふざけんな』としか思えないのだ。夜桜さんも同じ気持ちなようで、真剣な面持ちで話を聞いている。
「貴方達が新しい社会を引っ張り、この世界をより良くしていく事に私は期待しています。そのために、この集会で各々の交流を更に深めていただきたい。
……では、そろそろ老いぼれは引っ込みましょう。ご清聴、ありがとうございました」
榊浦豊が静かに礼をした瞬間、彼がフッ! と姿を消した。
そのすぐ後に、ドレスに身を包んだ少女が舞台上に姿を現す。
『へぇ~。テレポート技術なんて粋な物使うじゃん』
「へ……? マッドパンク、何してんだお前そこで」
『暇だったからこっち来た。腕を絡めたぐらいからここにいたけどね』
マッドパンクが俺のすぐ側でもしゃもしゃと骨付き肉を頬張りながら、舞台の方を見ていた。
榊浦豊は演出の一環の為に何らかの近未来的な技術を使ったらしい。俺には良く分からないが、マッドパンクが感心したように見ていたので、きっと凄い物なんだろう。
それにしても、榊浦豊か。
浮遊人格統合技術に関しては気に食わないけど、話している所を見た感じ、娘の榊浦美優とは比べ物にならないほど立派な人物に見える。世界的な開発をした人物だから立派なのは間違いないんだけど。
一体どういう人物なんだろうな。
ちょっと気にな――――
「やっ」
「は?」
―――突然、視界が切り替わった。
先ほどまでの華美な集会場ではない。一面真っ白の何もない空間が視界に広がる。唯一色を持った物体は、目の前には榊浦豊……その人だけだ。
「さ、約束通り握手しようか。
彼が差し出して来た手を……俺はすぐに握り返すことが出来なかった。
暫く1話辺りの文字数を3000文字に減らしたいと思います。
理由は作者の私生活が少し忙しくなってきた事と、半毎日投稿で5000文字近くを書き続けるのは厳しいからです。
ストックが溜まったら徐々に文字数増やしていきます。ご容赦ください。