時刻、6時ちょうど。ようやく空が山吹色に変わり始める時間帯。
榊浦精神科学研究所の見学は既に終了しており、生徒達は皆解散となった。……たった1人、日高俊介を除いて。
「さてと……」
日高俊介が人格達に研究所に偵察させている頃、夜桜紗由莉も動き始めていた。
まだ明るい時分ならば、人目に付きにくい格好よりも学生服の方が怪しまれにくい。学生がスーパーの近くをうろついていたり、ちょっと走ったりするくらいで通報される訳もない。
夜桜が体の調子をチェックしていると、バクダンが話しかけてくる。
『目的を再確認していいか?』
「どうぞ」
『今回は日高陽子……まぁ
「そうだよ? 何で疑問形なの?」
意味が分からないと言った風に夜桜が聞き返すと、バクダンが冷や汗を垂らしながら言葉を返した。
『いやお前、偵察するだけなのに何で服の中の爆弾まで念入りにチェックしてんの……? 何する気だよ』
「まぁ何あるか分かんないし? 隙を見てやれそうならやろうかなって」
『それどういう意味の『やる』なの? 殺すと書いて殺る方?』
バクダンの言葉に夜桜は何も答えなかった。
夜桜は日高陽子の働くスーパーの付近を訪れる。
俊介から聞いた話では、榊浦豊が合図をした瞬間、日高陽子のすぐ傍にあった花瓶が割れた……という事らしい。
考えられるとすれば、小型の爆弾か、狙撃か。
もし設置型の爆弾だったとすれば対処は簡単だ。こっちには天才爆弾技師のバクダンがいるのだから、どれだけ危険で難解な爆弾でも解体することなど朝飯前である。
厄介なのは、狙撃だった場合。
実行犯が近くにいるならば、発見するのは容易ではないはずだ。曲がりなりにも世界最高峰の研究者の息が掛かった人間、決して無能な人物ではないだろう。
(仕留められる隙があるのなら、仕留める気ではいるけど……多分見つけるのが限度かな)
夜桜はまずスーパーの近くから探っていこうと、スーパーの裏側が見える道を歩き始めた、その時。
「ウヒヒヒヒ」
「…………」
「ヒヒヒヒ」
スーパーの裏に、黒いスーツを着込んだ変な黒髪の女がいた。
文庫本サイズの小説にカラフルな付箋を貼りまくり、気持ち悪い笑みを漏らしながらページをめくっている。
「…………」
その女の方を見ないようにしながら、サーッと道を通り抜ける。
そして女の視界から確実に外れた曲がり角の所で、バクダンと顔を見合わせた。
『なんだいまの?』
「て、店員かな……?」
『給料貰ってる奴が店の裏で本読んでサボってちゃ駄目だろ……絶対変な奴だって』
「やっぱそうだよね……」
普段ならただのヤバい奴だなと思ってスルーするのだが、今回ばかりはそうもいかない。
榊浦の手の者の可能性が万分の一でもある以上、一応調べておかなければならない。……絶対違うと思うけど。
スーパーの付近の道を大きく迂回するように回り、不審者女の背後に回り込む。
あの女は左半身を壁に付け、体重を預けながら本を読んでいたので必然的に背後という死角が出来ていたのだ。……こういう死角を作るところも、榊浦の手の者じゃなくただの一般人だという証拠な気もするが。
「よっ、と」
近くの民家のコンクリート塀に登り、そのまま民家の屋根の上に登る。軽々しく行っているが、一般的な高校生の俊介には到底真似できない芸当だ。
屋根の上で身を低くしながら、不審者女の方を注意深く観察した。
未だにスーパーの裏で笑いながら本を読んでいる不審者。
……けどまあ、それ以外は特に何も怪しい所はないし。黒いスーツを着ている所から察するに、仕事で心が疲れ切ったOLとか……そんな感じかな。
「見る必要なかったかも、やっぱり」
『そーかもなぁ。ほら、あの女もどっか行くみたいだしさ』
バクダンの言通り、彼女は読んでいた文庫本を閉じ、いそいそとスーツの内側に直していた。
そして本を直し終わったのか、スーツの内側から手を取り出す。
――――その手には文庫本の代わりに、鈍く光るサプレッサー付きの
「ッ――――」
『避けろ、紗由莉ィ!!』
平和な日常では決して見る事のない一品に、夜桜が一瞬動きを固める。
だが元の世界で幾度かそういう代物を見る機会があったバクダンが叫んだことで、反射的に回避行動に移れた。
咄嗟に上体を右に逸らす。
その瞬間、顔のすぐ傍を銃弾が通過した。回避していなければ確実に頭を吹っ飛ばされていただろう。
夜桜は銃を撃って来た女の方を見る。
右手に持った拳銃を左の肩の上から背後に向け、こちらを狙撃してきたのだ。
(ノールックで、50メートル以上離れた私の頭の場所にドンピシャで当てて来た―――ッ!!)
完全に油断していた。そも、スーパーの周囲にいる怪しい人間は全員仕留める気でいたのに、どうしてあの女には気を抜いてしまったのか。
それにどうやって、振り向きもせずに50メートル以上背後の頭の場所を綺麗に撃ち抜けるのかも分からない。明らかに普通の人間に出来る範囲を超えている。
何もかもが分からない。故に。
「くッ、顔だけでもよく見とけばよかった!」
夜桜は即座に撤退の一手を選んだ。
得体が知れない上、拳銃を所持した相手とやり合うのは流石に厳しい。
滑り落ちるように屋根から降り、すぐさま入り組んだ住宅街の道を追跡されないように滅茶苦茶に走った。
この辺りの地理は以前に完璧に頭の中に叩き込んでいる。それに夜桜のスポーツ選手並みの健脚による全力疾走を加えれば、殆どの場合逃走出来る。
――――だが。
恐らく、今日は運の神様が彼女にそっぽを向いていたのだろう。
「……?! 何、あれ……!?」
前方、約100メートル先。
異常な物が立っていた。
「…………」
腕を組んで仁王立ちする、黒い鎧。
凡そ住宅街という平凡な日常の場には溶け込めない、異常物体。
「くッ―――!」
本能が『ヤバい』と叫ぶ。
夜桜は靴底を地面に擦り付けながら急ブレーキし、すぐさま踵を返す。あの黒い鎧がいない方向の道から逃げようとしたのだ。
あの鎧との距離は凡そ100メートル前後。
これだけの距離があれば、たとえプロの陸上選手であっても逃げられる自信が彼女にあった。
しかし。
黒い鎧が体を前に傾け、足を一歩踏み出したかと思った瞬間。
1秒もしない間に鎧が夜桜のすぐ後ろまで距離を詰め、右拳を大きく振りかぶった。
その拳は咄嗟に振り返った彼女の左の頬に吸い込まれ、ガァン!と骨と金属がぶつかる嫌な音を大きく響かせる。
だが、鎧の右拳が夜桜の顔に突き刺さった瞬間、黒い鎧の腹部が勢いよく爆ぜた。
夜桜は拳の攻撃に合わせるように、カウンターの爆弾を鎧にぶち当てていたのだ。
「…………」
常人ならば鎧越しであっても倒れるであろう威力の爆発。
だが黒い鎧はその爆発を全く意に介すことなく、左拳を彼女の頭頂部へ垂直に叩き落とした。
「うっ……」
微かな呻き声をあげ、頭から血を流しながら気絶する夜桜。
地面に倒れ伏す彼女から流れる鮮血が道路に僅かな染みを残す。
黒い鎧は気絶した夜桜の体を肩に担ぎあげ、ゆらゆらと左右に揺れるように歩きながら、何処かへと姿を消した。
――――――――――――――――――――
同日。時刻、午後7時。
「紹介しよう。彼女が私の妻、榊浦
俊介は榊浦豊の家にて、彼の奥さんを紹介されていた。
「初めまして、榊浦海と言います」
「ど、どうも……初めまして、日高俊介です」
お互いに挨拶し、ペコリと頭を下げる。
榊浦海と名乗る彼女は、50代にしてはとても若く見えた。正直30代前半と言われても信じてしまうほどだ。
しかし、榊浦豊はハリウッド俳優クラスのイケメンであるが、彼女はそれに釣り合うほどの美人ではない。目の下に小じわが見えるその風貌は、とびっきりの美人を見た時の息を呑むような感動ではなく、家庭的な素朴さや安心感を感じてしまう。
言葉を選ばずに物凄く失礼な言い方をすると、彼女は少し芋臭いというか、田舎っぽいのだ。丸っこい顔?とでも言うべきか。
まぁ他人の奥さんが美人とか美人じゃないとかでコロコロ対応を変えるつもりは全くない。
「海。今日の晩御飯は?」
榊浦豊が上着をラックに掛けながら、奥さんにそう問いかけた。
彼女は慣れ切った口調で答える。
「今日はビーフカレーですよ。そうだ日高君、アレルギーとかはない?」
「あ、全然ないです。何でも食べれます」
「良かった。遠慮せず、いくらでもお代わりしていいからね。今日は男の子が来るって聞いて、ちょっと張り切って作ったから」
パタパタとスリッパの音を鳴らしながら、彼女が廊下の奥に歩いて行く。
玄関口で2人切りになった俺と榊浦豊は、なぜか互いの顔を見合わせた。
「……どうだい?」
「何が?」
「これから一緒にご飯を食べるのに、2人も嫌いな奴がいたら嫌だろう?」
俺が榊浦豊の事が嫌いな事、本人はよく分かっているみたいだ。
でもまぁ、奥さんの方は……うん。
「良い人だと思うよ。少なくとも今はまだ……嫌な感じはしない」
本性がどんな物かは知らない。もしかすると榊浦豊や榊浦美優と同じレベルの邪悪さを持っているのかもしれない。
だが先ほどの彼女の動きや対応の仕方を見て、俊介は余り嫌いにはなれなさそうだ、と感じた。
「それは良かった」
榊浦豊がそう言う。
別に俺、嫌いな奴が1人居るだけでも一緒に食事するの嫌だけどな。2人じゃないからOKとはならん。
リビングに案内され、既に食事の並べられた食卓の席に着く。
榊浦豊と海さんが対面するように座り、俺は榊浦豊の右側に座った。よりにもよってここかよ、嫌だなあ。
それにしても、榊浦美優の姿が見えないが……。
まぁ、あの人も20代後半とかそんなんだったはずだし、一人暮らしでもしてるのかもな。
『……うん。毒は入ってないわ』
密かにクッキングに料理を見てもらったが、特に何の変哲もないビーフカレーらしい。
海さんに感謝を伝え、スプーンですくって口に運ぶ。……うん、予想通りの味だ。THE・ビーフカレーって感じ。
腹が減っていたのもあり、パクパクと食べ進めていると、海さんが問いかけてくる。
「そういえば日高君。美優が先生をやってる学校の生徒さんだって聞いたけど、美優はどんな感じ?」
「え? あ、榊浦先生ですか……」
…………。
教えるのは上手いけど、性格がね……。
「い、良い先生だと思いますよ。授業もとっても分かりやすいし」
「そうなの? 良かったわ、ある日突然先生になりたいだなんて言い出すもんだから、ちょっと心配でね」
「へ~、そうなんですか。けど元々研究員だったのに、どうしてまた先生なんかになりたかったんでしょうか?」
「それは……あなた、どうだったかしら?」
海さんが榊浦豊の方に話を振る。
彼はスプーンを持つ手を止め、静かに言い放った。
「『
そう言って、彼がチラリとこちらを見た。
……もしかして、俺?
いやでも、榊浦美優と俺って案外接点ないぞ。
家まで突撃してきたのにはビビったが、アレ以外で特に関わった記憶ないし。
寧ろ最近出会った榊浦豊の方が接触回数多いくらいじゃないか……?
授業とか、一対多数の場合とかは抜きにして。
関わったのは、家に突撃してきた時と、夜桜さんの家にプリント届けに行った時と、夜桜さんと図書準備室から出て来た時にバッタリ会った……くらいか。
なんかやけに夜桜さんの名前が出てくるな。
うーん……でも榊浦美優が夜桜さんを気に掛ける理由あるか?
夜桜さんは優秀な人格持ちではあるけど、浮遊人格統合技術の開発者なら他にも大量に知ってるはずだし、わざわざ彼女の為に学校に赴任してくるとは考えにくい。
……よく分からないな。
とりあえず、榊浦美優は誰かを探る為に教師になったらしい。それ以外は分からん。
考えが上手く纏まらないまま頭が限界を終えた所で、皿の中身が空になった。
ちょうど俺が食い終わった時、榊浦豊もカレーを完食したらしい。……いやこの感じ、こいつ俺の食うスピードに合わせてたな。そんな気遣いの出来る彼氏みたいな事を俺にするな。
でもまぁ、食事を食べさせてくれたのは事実だし。
せめて皿洗いでもするかと立ち上がろうとした瞬間、榊浦豊のポケットから電話のコール音が鳴り響いた。
電話の邪魔になっては不味いと、上げかけた腰を椅子の上に降ろす。奴は電話をポケットから取り出し、相手の名前を確認することもなく通話に出た。
「もしもし。…………それは……ふむ、まぁちょうど良い機会だ。お前は適当に動いておけ、必要ならまた呼ぶ」
電話相手の声は聞こえず、一体どんな会話をしているのかは分からない。
榊浦豊が電話を終えた瞬間、俺の肩をポンと叩いた。
「日高君、申し訳ないが少し面倒な事になった。海、私は彼と部屋に行く」
「はーい」
そう言って俺の分の皿まで持っていく海さん。
ちょっと申し訳ないと思ったが、今は榊浦豊の呼び出しの方を優先するべきだ。彼女の好意に甘え、大人しく榊浦豊に案内されるまま彼の私室に入る。
その部屋は研究所にあった彼の私室と大体同じだった。
ベッドがない所を見るあたり、寝室はまた別の部屋なのだろう。息が詰まるような量の本に囲まれた部屋の中、黒い革張りの椅子に座った。
対面に座った榊浦豊が眉間に少しだけしわを寄せながら、声を出す。
「……先に断っておくが、この件に関して、私は関与していない」
「
「とりあえずこれを見てもらった方が早いな」
彼はスマホの画面を何度かスライドした後、机の上にスマホを置く。
そこには一枚の、少し高い……屋根の上から撮影されたであろう写真が映っていた。
それは。
頭から血を流しながら黒い鎧の肩に担がれ、だらんと脱力している夜桜さんの写真。
ポタポタと垂れる血液がアスファルトの道路に赤黒い染みを残している。その染みが一直線に伸びている事から、この黒い鎧によって彼女は何処かへ運ばれているのだろう。
「――――お前」
「日高君、私は先に断っておいたはずだ。だからまずは落ち着いて―――」
「榊浦豊。口を閉じないと、今ここでテメェを殺すぞ」
俊介が、スマホの置かれた机の表面に中指を置く。
そのまま軽く力を込めた瞬間、大理石で出来た机に巨大なヒビが走った。明らかに常識を逸した超常の力、榊浦豊はこれが彼の中に宿る人格の力によるものだと確信する。
「……本当に落ちついて欲しいな。いくら私でも、それだけの殺気を当てられれば怖くなる」
「…………」
普通の人間が出せる範疇を遥かに凌駕している殺気に、榊浦豊は頬に一筋の汗を垂らした。
場の流れが榊浦豊から俊介の方に傾いているのが分かる。立場や口八丁で完全に流れを握っていたのに、まさか怒りだけで全てをひっくり返されるとは。
彼は冷や汗を隠すように指で拭った後、写真の映ったスマホを手に取った。
「これは今、私の手の者から送られてきた写真だ。見ての通り、夜桜紗由莉が変な鎧に誘拐されている場面だね」
「この鎧が誰か知ってんのか?」
「それは私にも分からない。だが何処に所属している人物なのかは分かる。『
ピクリと、俊介の眉が反応する。その名前に聞き覚えがあったからだ。
榊浦豊は俊介の反応を見て、知っていると確信しながら話を続ける。
「『未来革命機関』……。まぁざっくり言うと、この国の転覆とかを考えてるテロリスト集団さ」
「…………そうか。一体そいつらの本拠地は何処にある?」
「国内にあるらしいが、詳しい位置は分からない」
俊介の怒りが時と共に少しずつ収まって来たのか、発していた殺気が段々と薄れていく。
だがその怒りは決してなくなった訳ではなく、何かのきっかけで再び爆発するであろう事が窺える。
しかし殺気が薄れたことで、若干気圧されていた榊浦豊が冷静さを取り戻した。
いつもの飄々とした雰囲気を纏い始め、俊介に向かって堂々と言う。
「そこでだけど……日高君。君は私と仲間になる気はあるかい?」
「ある訳がないだろ」
「……そっか。まぁ今のは断られるのを予想して聞いたからいいけどさ。
じゃあ私と君は今から敵対関係……になる訳だけど、ここで
人差し指をピンと立てながらそう言う彼に、俊介は眉間にしわを寄せながら睨むように視線を向ける。
「夜桜紗由莉。彼女を未来革命機関から救い出すまで、私は君に害のある行為をしない。いや、寧ろ力を貸そうじゃないか」
「……あ? どういう事だ」
「そっくりそのままだよ。相手は組織だったテロリストだ、対抗するには高校生の君では足りない力もあるだろう……権力とかね」
俊介はその提案がどれだけこちらに利のある物かをすぐに理解した。
特にただの高校生の俊介にとって、権力というどうしようもない力を援助してもらえるのは実にありがたい話だ。
故に、その提案が無償で施される物でないことにも気付いている。
「……条件は何だ? そんな提案、お前が
「話が早くて助かるよ。私が君に出す条件は二つ。
一つ目は、君の人格が何人居て、どんな人物達かを正確に教える事。
二つ目は、君の肉片を私に渡す事。約1立方センチメートル……サイコロステーキくらいの大きさでいい」
……どちらも碌な条件でない事はすぐに理解できた。
人格の人数やどんな人物かを明かす、それはまあ分かる。が……肉片を欲しいとは一体どういう事か。
「ああ、肉片と言っても内臓とかの重要な器官じゃないよ。お腹の脂肪とか、そんなのでいい」
「何に使う気だ、そんな物」
「手術を行う病院は私が紹介しよう、勿論費用も私が出す」
露骨に無視しやがった。
一体何に使うつもりなのかは明かすつもりがないらしい。
……榊浦豊は未来革命機関の一件が片付くまで、手を出してこないどころか、力まで貸すと言う。
その条件に、人格の開示と、俺の肉片を寄越せと言う。
得体が知れなさすぎる。特に肉片を寄越せという方……全くもって碌な気配がしない。
だが、もしこの提案を断れば、未来革命機関という未知の相手と同時に榊浦豊の相手もしなければならない。
俺一人なら正直、何とでも出来るだろう。
テロリスト集団と榊浦豊が同時に攻めてきたとしても生き残れる自信はある。
しかし……榊浦豊の相手をしていて、夜桜さんを助け出すのが遅れ、もし何かあったら?
そうなったら、その時、俺は何をしでかすか分からない。
ダークナイトの全力を使ってでも犯人を消し飛ばすだろう。それ以上に残虐な事をする可能性もある。
それに奴がこの提案をキッチリと守るなら、未来革命機関の相手をしている間だけは、両親にも危害は及ばない。
俺一人だけならどうとでもなるのに……。
いっその事、全部切り捨てられたら、楽なのかもしれないけど。
それを切り捨てられないから、俺は未だに俺のままなのかもしれないな。
すっかり怒りが収まった俊介は、歯を食いしばりながら榊浦豊に頭を下げる。いつの間にか、場の流れは榊浦豊が掌握していた。
「……分かった。ただ、その二つの条件は……事が終わった後にする。前払いはしない」
「それでいいよ。じゃあ交渉成立って事で。……影ながら応援しているよ、日高君」
榊浦豊が部屋から出ていく。
暫く座ったまま動けなかった俊介は、自身の選択が間違っていないと、そう言い聞かせる事しかできなかった。