殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#59 未来革命機関

 

 

 

「平民。お前、儂のことを便利なご意見番か何かと思ってないか?」

「正直、そう思ってます」

「全く……下手な人間であればこの場で首を刎ね飛ばしていたぞ」

 

 

 起床後すぐ、俺は手土産と共に折川結城ことマオの家に訪れていた。用件は勿論、写真に写っていた黒い鎧の事だ。

 ダークナイトは喋れないし、魔王を『人類の敵』だとか言いながら実際は自分の方がよっぽどヤバい事やってるっていう誤情報が飛び出したりで、こういう話ではあんまり頼りにならない。黒い鎧の事聞いても、何それって顔してたしな。

 

 

 

「それで、この写真の事なんですけど」

「うむ。拝見しよう」

 

 机の上に黒い鎧に担がれる夜桜さんの写真を置いた。マオはその写真を人差し指と親指で持ち、目を細めながらじっと見つめる。

 そのまま10秒ほど写真を見つめていたマオは、眉間にしわを寄せながら写真を置いた。

 

 

「結論から言おう。この鎧はアニーシャではない」

「……そうですか。とりあえず良かったです」

「果たしてこれが良い物か。……この黒い鎧、アニーシャの鎧に酷似している事は平民も気付いているな?」

「はい」

 

 写真に写る黒い鎧。やはりダークナイトのそれと似ているらしい。

 マオは写真を指先でトントンと叩きながら、面倒くさげに息を吐きながら話す。

 

「アニーシャの瘴気の話はしたな?」

「聞きました」

「よし。第一に、この黒い鎧はこの世界で作られたものだ。鉄とか銅とかオリハルコンとかで」

「はあ……は? オリハルコン?」

 

 オリハルコンって何だよ。ゲームでしか聞いたことのないような名前だぞ。

 そんなのこの世界にないだろ。

 

「勉強不足だな平民。最近異世界の技術で新しく作られた金属資材だ、ネットニュース見てないのか?」

「ネットニュースって……こっちの世界に馴染みすぎでは?」

「当たり前だろ、儂アイドルなんだから」

 

 アイドル関係あるか……?

 ……まぁ魔法とか使える人格、その最筆頭の魔王が目の前にいるし今更気にすることでもないか。

 

 

「それで……この黒い鎧がこっちの世界で作られたってのは何がおかしいんですか?」

「無論、何もおかしくはない。()()()()()()()()

 

 ……アニーシャの鎧は俗に言うフルプレートアーマーだ。この世界では中世騎士が纏う鎧に近いか。そして鎧……防具というものは、文化、国、時代によって形が異なる。

 

 剣や槍が主武器の時代では鎧が有用だったが、銃が主武器である今は鎧などとても着てられん。防弾チョッキとやらを着込むのがベターだ」

 

「…………?」

 

 話の脈絡が上手く見えてこない。多分大事な前提の話をしているんだろうとは思うが。

 そんな俺の思考を読んだのか、マオがコホンと咳を鳴らした。

 

 

「つまりだな。防具のデザインというのは形が多少似通ったとしても、殆ど同じなんていうのはありえない。異世界同士であるならば尚更、鎧のデザインなど違って当たり前。偶然細部のデザインまで一緒になりましたなんて事は現実的にありえない。

 

 ……さて、ここで問題だ平民。この写真の黒い鎧は、アニーシャの鎧と非常に似ている訳だが。

 これほどまでに酷似した物を作るには、一体、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 近づく?

 現物に?

 つまり……ダークナイトの本体に? でもダークナイトには瘴気が……あっ。

 

 

「気付いたか?」

「なんとなくは……」

「良いだろう、儂がそのなんとなくを言語化してやろう。つまり……。

 

 儂の世界に生きていた、()()()()()()()()()()()()()()()()()が、この鎧の製作に噛んでいる……いや、恐らくこの()()()()()()()()()なのだろうな」

 

「…………」

 

 

 ―――えっ、わりとヤバくないかそれ。

 今の所ダークナイトの瘴気食らってピンピンしてるのって、うちの殺人鬼とか、牙殻さんとか、そういうガチのやべー奴ばっかりなんだけど。

 ダークナイト本人が覚えてないし同格レベルに強いってのはないだろうけど、それでもあの瘴気に耐えられる精神の持ち主には変わりないんだよな。よっぽど肝が据わってるか、何にも怖くないくらい倫理観が吹っ飛んでいるか。

 

 

 そこまで考えた所で、ふと、疑問に思ったことを口にする。

 

「というか、おかしくないですか? なんでわざわざダークナイトの奴に似た鎧作って着てるんですか? 意味ない気がするんですけど」

「……さあ? 多分そのレベルの強者でこっちに来てるって事は、アニーシャにぶっ殺されたんだろうけど……。なんでこんな鎧作ったのこいつ? その上なんで着てんの? 頭沸いてんじゃねえの?」

「ええ…………」

 

 魔王ですらよく分からない変人が向こうにいるって事か。

 ダークナイトとマオの世界、なんか変な奴ばっかり……?

 

 

「儂は平民の中の奴らと比べれば割とマトモな気がするがな。特にアニーシャとか」

 

 

 アイドル活動で平和的に世界征服を目論んでる魔王が何言ってるんだろう……? 

 俺からすれば変人レベルがどっこいどっこいの奴らがどんぐりの背比べをしているようにしか思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 床や壁や天井が薄い白色に光る部屋。窓はなく、簡素なパイプベッドと金属製の机が置かれた四畳ほどの部屋だ。

 ベッドの足側の壁に鋼鉄製の扉があり、本来鍵穴のある辺りには『LOCK』と表示されたディスプレイがあった。

 

 そんな部屋の中。

 夜桜紗由莉はパイプベッドの上でパチリと目を覚ました。ベッドの縁にはバクダンが心配そうな顔で腰掛けていて、目を覚ました紗由莉に慌てて顔を近づける。

 

「…………」

『紗由莉、大丈夫か?』

「鏡を見たくない気分な事以外は、大丈夫かな」

 

 髪の毛の中に縫った跡があるし、左頬はかなりの痛みがある。口の中も血の味だらけだし……多分、今の私の見た目はかなり酷い事になっているだろう。

 両手首を繋ぐ鉄製の手錠をさすりながら、バクダンの方を向いた。

 

「ここはどこ?」

『……分からない』

「分からない?」

『私は紗由莉から5メートルしか離れられないだろ? この部屋の外は二重構造みたいな感じで、もっと大きい鉄の箱に覆われててな。それごと運ばれてたから、本当にここが何処か分からないんだ』

 

 二重構造の部屋……。

 かなり原始的な対策だけど、人格の偵察を防ぐには有効な手段だ。

 

 

 ……人格が自身から何処まで離れられるか、殆どの人格持ちは明かそうとしない。人格は壁や床などの物理的な障壁を自由にすり抜けられるので、やろうと思えば他人の部屋などのプライバシー空間をいくらでも覗く事が出来る。

 そんな中、詳細な距離を明かすと余計なトラブルの種になりかねないので、「人格は壁をすり抜けられるけど、君の部屋までは届かないかな~」なんてはぐらかすのが大半なのだ。

 

 

 そして私のバクダンは5メートルまで離れられる。これは割と長い方だ。

 大半の人格持ちは2メートル前後。私の知っている限りの最長は8メートル、恐らく10メートル以上はこの世にいないだろう。……日高君は何メートル離れられるんだろうか?

 

 

 まあそれは今度聞くとして。

 問題なのは、この二重構造の部屋だ。

 

 私がいるこの部屋の大きさは約4メートルの正立方体。

 その部屋の何処にいたとしても、人格が外を見れないようにするには……この部屋を覆う2つ目の箱は14~15メートルほどの正立方体にする必要があるだろう。

 

 

 一応法治国家のこの島国で約15メートルの箱というのは余りにもデカい。

 警察か日高君が見つけてくれればいいけど……多分無理だ。この感じからして、外部には超高度なレベルのステルス技術が施されているんだと思う。それも異世界由来の技術の奴が。

 

 

 こんなバカげた代物を用意できるなんて、かなりの大組織……。

 ……日高君が言ってた、『()()()()()()』……って奴かな。本当にしくじっちゃった、日高君に迷惑かけちゃうな……。

 

 

 

 ―――そんな風に考えていた時。

 

「!」

 

 部屋の外から機械が駆動する音が僅かに聞こえる。それと同時にコツコツと硬い地面を足裏で叩く音も響いて来た。

 バクダンも気付いたようで、冷や汗を額に流しながら小声で言い放つ。

 

 

『誰か来るぞ……! 気を付けろ!』

「歯の中に仕込んだ爆弾は見つかってない。いざとなればこれで手錠を吹っ飛ばして戦う」

『違ッ、おま、えッいつの間に歯の中に仕込んだんだよ!?』

「…………」

 

 バクダンの言葉を夜桜はガン無視した。

 彼女は部屋にある唯一の扉を睨みつける。『LOCK』と表示された小型ディスプレイが『OPEN』に変わった瞬間、扉の向こうに居た人物の姿が見えた。

 

 

「……お前は……」

「…………」

 

 

 扉の向こうに居たのは。

 夜桜を気絶させて誘拐した、件の()()()()()であった。鎧の表面は暗く重く、四方が白く発光する部屋の中で闇という物を堂々と表現している。

 

 

 その鎧はゆったりとした足取りで夜桜に近づき、目にも止まらぬ素早さで首を掴む。

 そのまま彼女の体をベッドに押さえつけ、胸元に鎧の顔をうずめるように近づけた後、勢いよく音を鳴らして匂いを嗅ぎ始めた。

 

「なっ、このッ……!!」

 

 不埒な行為をされるのではないかと感じた夜桜は、歯に仕込んだ爆弾で鎧を吹っ飛ばそうとする。

 が、それよりも早く、黒い鎧がビクビクと全身を痙攣させながら頭を勢いよく上げた。

 

「この全てを引き裂き貪らんとする濃い魔力の残り香……間違いない……! ()()()()()()はやはり、こちらに来ておられる……!!」

「お、女の声……?!」

 

 2メートル近くある黒い鎧。見た目からして十数キロはありそうな代物であり、てっきり男が着ているだろうと思い込んでしまっていた。

 夜桜は一瞬呆気にとられたが、すぐに首を掴む手を振り払う。別の事に気を取られていたのか力はそれほど強くない。

 

 

「アニーシャ様……。貴方様ほどの方が未だに大きな動きを見せないとは、ああ、やはり私では到底思慮の及ばない崇高なお考えをお持ちなのですね……」

『な、なんだよこいつ……。つかアニーシャって誰だよ……』

 

 変態染みた行為を見せる鎧にバクダンが顔をしかめてドン引きする。

 夜桜はじわじわと距離を取り、未だロックの解けている扉から脱出しようと試みる、が。

 

 

「何をやってる? 下手な事をするなと言っておいたはずだが」

「ま……仕方ないかもだけどねぇ」

 

 新たに扉から入って来た2人の男女に行く先を阻まれてしまった。

 男の方は金髪にエメラルドのような緑色の瞳、高い身長に整った目鼻立ちと、一目で外国の人間だと分かる。ハーフでもないだろう。

 

 

 そして女の方は。

 

『さ、()()()()……!?』

「…………」

 

 夜桜は表面に動揺を出さないようにするも、内心かなり焦っていた。

 未来革命機関なんてふざけた名前の集団。少し過激なだけの人格犯罪集団かと思っていたが、榊浦美優が関わっているとなれば話はかなり変わる。腹が立つが、榊浦美優は世界的に超重要な研究者の1人なのだ。

 

 まぁ彼女が焦っていた大部分は、榊浦美優が現れた事ではなく。

 高校の教師であった榊浦美優に日高と接触している所を何度も見られていて、たたでさえ捕まっているのに、彼に更に迷惑をかけてしまうと考えていたからである。もし彼に失望などされれば、心を壊してしまう確信があったのだ。

 

 

 

「何が何だか分からない……と言った顔だね」

 

 榊浦美優と一緒に入って来た、金髪の男が椅子を引いて座る。

 

「自己紹介から済ませておこう。私の名前は()()()()()。異世界の人間であり、未来革命機関の総督をしている。

 こっちの女性は()()()()、そこの痙攣してる鎧は()()()()()()()だ」

「ピュアホワイト……? 白無垢?」

「どうしても結婚したい相手がいるそうだ……。勿論偽名だが、その名前で通るから問題ない」

 

 

 ウィザードと名乗る男が足を組んでいた足を解きつつ、部屋の扉を塞ぐように立つ榊浦美優の方に目をやる。

 彼女は小さく鼻息を鳴らし、体を扉の前からずらした。

 

「部屋の外を案内しよう。未来革命機関の説明も共に行う」

 

 彼は椅子から優雅な動きで立ち上がり、夜桜に自分の後ろを付いてくるように手で指示した。今暴れるのは流石に得策ではないと、夜桜はウィザードの指示に従う。

 扉の外はバクダンの言う通り、巨大な2つ目の鉄の箱に覆われている。自身が居た部屋の扉から2つ目の箱にある扉へ小さな橋が掛かっており、そこをコツコツと足音を鳴らしながら進む。

 

 

「未来革命機関……。名前の通り、私達は何よりも尊い未来の為、この国に革命を起こそうとしている」

「一体どんな革命を?」

「異世界から訪れた人格、それらがもたらす技術は確かに素晴らしい。今の世の中は余りに行き過ぎている」

 

 甘い甘い、心まで惑わされそうな声。その爛々と輝く未来へ人を導かんとする意思の籠った声は、心に僅かでも隙間のある人間にとっては余りに眩しく、縋りたくなる物だろう。

 しかし今の夜桜にとってその声は、ただただ苛立ちを掻き立てるような鼻につく声であった。

 

 

 二重構造の箱から外に出る。

 四方が鉄で作られた通路であり、ゴウンゴウンという空調の音だけが静かに響いている。外の様子は全く分からず、ここが何処なのかは皆目見当も付かない。

 白い光が照らす、正面へと一直線に伸びる通路を歩く。

 

 

「この世界に元々暮らしていた人々の現状は惨い物だ。

 異世界の優秀な人格に突然職を奪われ、生活が困窮、日夜休む間もなく働く事を余儀なくされる。

 狡猾な異世界の人格により凶悪な人格犯罪が増加、死亡事件の数が爆増。

 教育機関は一部の優秀な学生と人格持ちだけに注力し、それ以外は半ば放置状態」

 

 

 改めて聞くと、浮遊人格統合技術の負の側面はすさまじい。

 人格犯罪は勿論、貧窮したり一部の者だけが教育を受けたりというのは、結果的に最悪なレベルの治安悪化を招く。良い側面もあるが、悪い側面がそれを食いつぶすほどに大きい事も確かだ。

 

 

「故に。私はこの異世界からの人格ばかりが優遇される世の中を変える。それが未来革命機関の目的だ」

「……大層なお話をどうも。でも……宿主を乗っ取った異世界の人格にそんな事を言われても、全く響かないから」

「革命には犠牲は付き物だ。未来で十数億人が救われるなら、今の数百人を犠牲にすることを私は厭わない」

 

 そう言いながら、ウィザードが通路の突き当たりになった扉の前に立つ。

 その自動扉は人の存在を感知し、プシッと空気を吐きながら両方向にゆっくりと開いて行った。

 

 

 思わず目を細めるような明るさが差し込み、視界が一瞬ホワイトアウトする。

 そんな中、一番に夜桜が得た扉の先の情報は。

 

 声。

 おんぎゃあおんぎゃあと、赤ん坊の泣き声が耳をつんざくように響き渡っていたのだ。

 

 その次に嗅覚が脳に情報を伝える。

 本来喜ばしい物であるはずの赤ん坊が生まれたばかりの優しい匂いが、胃から吐き気がせりのぼるような生暖かさを持って充満していたのだ。怖気が走る。

 

 

「うっ……」

「この革命、もはや正規な手段では果たせない。故に腐った政府を一度、圧倒的な暴力で皆殺しにする必要がある。

 その為にMRKが必要だ。君の人格が作る、MRKが」

 

 

 扉の先に足を進めるのを躊躇う夜桜の肩を、ポンと榊浦美優が叩く。

 

「一生離れない友達がいるって……素晴らしい物だろう?」

 

 それは以前、夜桜が浮遊人格統合技術の話を榊浦美優から聞いた時に言われた一言。あの話を聞かせた人間全てに言っているらしい。

 

 

「あ、頭おかし……ッ!」

 

 夜桜の言葉を聞き終わる前に、榊浦美優は鼻歌を歌いながら扉の先へと歩いて行った。

 その様子を見ていたウィザードは肩をすくめ、仕方ないかと言いたげな顔もちで言う。

 

 

「そうすぐには受け入れられないだろう。だが私達にはMRKが必要なんだ。……必要な道具は例の牢屋に用意させた、君の為に作った一点物の牢屋だ。

 ピュアホワイト、あそこに戻してやれ」

 

 いつの間にか背後まで近づいていた黒い鎧に肩を掴まれる。

 

 思っていた以上にこの組織はヤバい。MRKの設計図を作らないと完全に突っぱねる事は出来るが、そうすれば私ですらどうなるか分からない。

 わざとゆっくりMRKの設計図を書き進めて、稼いだ時間の間に逃げる手段を見つけないと。

 

 

(……せめて、日高君が()()に気付いてくれれば……)

 

 

 そう思いながらも、彼にこれ以上余計な迷惑は掛けられないと、夜桜は脱出計画を頭の中で練り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 





赤ちゃんの泣き声当たりの情景描写はわざと削りました。ガチガチに書きすぎたらR-15飛び越えてR-18にぶっ飛びかけたので。申し訳ない。

投稿ペースもっと上げたいな……。
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