「大人になったら結婚しようね、まーちゃん!」
「け、結婚……う、うん!!」
…………。
「お願い、助けて……まーちゃん……」
「っ……せ、先生とか、警察に相談しよう……。まだ高校生の俺には、虐めをどうにかするなんて、無理だよ……」
「……うん、そうだよね……」
…………。
「……な、なんで首を吊って……。あ”、ぁぁ……お、俺のせいだ……俺が、俺が逃げたから……!!」
…………。
「や、やめてくれ!! 謝るから、殺さなっ―――ぁ」
「ふざけんなよ……お前ら8人もいて、何で俺に汗一つもかかせられないんだ……!
こんな簡単に殺せるんなら、なんで……どうして、俺は…………」
…………。
「俺は後悔のない選択をしたいんだ、ヘッズハンター。ギリギリまでしつこく調査してから選択した方が、すぐ逃げるより後悔も少ないだろ?」
『…………』
本当に凄いよ、俊介は。
多分……人格の俺達がいなくたって、俊介はあの虐めの件に首を突っ込んでいただろう。
全く関わりのなかった、見ず知らずの人間の為に。
対して俺はどうなんだ?
好きだった幼馴染……
『俺が今更、真昼に会った所で、どうしようもないってのに……』
どうしてなんだ。
確かに、昔は仲が良かった。幼稚園から高校まで学校もずっと一緒だった。
けど、高校生の頃にはお互い疎遠になりかけていただろ。俺が一方的な片思いの気持ちを隠してただけだっただろ。
それなのに、どうしてあの日、俺に助けて欲しいなんて言ってきたんだ?
どうして今更、俺の名前をメモに書いたりなんかしたんだ?
真昼。
お前が本当にこの世界に来てるのなら、俺は、出来る事ならお前とは会いたくない。
会うのが怖い。
真昼と再会したら、俺はきっと。
――――
『
ヘッズハンターの微かな呟きは空気にもまれ、誰の耳にも届くことなく消えて行った。
――――――
マオの家から少し離れた所にある、自販機の前。
有名なブランド名が書かれた赤い自販機で飲み物を買いながら、俊介は周囲を囲む数人の人格を見渡した。
「なんでこんな珍しい面子なの?」
『比較的マトモな奴はヘッズハンターの警戒に回ってるからでござる。なまじっか身体能力が高い故、危険度も高いのでござるよ』
「まぁ、それは……うん、仕方ないな。クッキングとかは慰めるの上手そうだし」
今日の俊介の前には、殺人鬼達の中でもひと際癖の強い奴らが集っていた。
ニンジャ、ハンガー、フライヤー、ダークナイト。
全員テンションが上がるとヒャッハーし始める傾向のある危険人物ばかりだ。
特にフライヤーとダークナイト、こいつらがマジでヤバい。
「マオにも色々手伝ってもらえれば心強かったんだけどな……」
『(o´・Δ・`o)』
先ほど元魔王であるマオに協力を依頼してみたものの、キッパリと断られてしまった。
「悪いが、そういった物騒な事に宿主の結城の許可なしに協力することはできん。それに、儂にはアイドルとしての予定もあるしな」
『…………グオ』
「そ、そう睨んでも無理なものは無理だアニーシャ。儂は魔族の王である魔王、魔族は魔物とは異なる理性ある者の証として契約を何より重んじる。
知名度のないアイドルが歌う小さなライブ。ドタキャンしても困る者は殆どいない……が、一度結んだ契約を違える訳にはいかんのだ、わ、分かってくれ」
と、そんな風に断られたのだ。
理由が理路整然且つ真っ当過ぎて、ごねる気も起きなかった。
まぁそれはともかくとして。
「未来革命機関……。夜桜さんを助け出そうにも、そいつらが何処にいるかが分からなきゃどうしようもないしな」
『俺に良い考えがあるぞ、俊介!!』
「一応聞くよフライヤー」
『丸ごと燃やせばいつか見つかる!!』
「ダークナイト、ヘッドロック」
やっぱこいつ考え方危ないわ。
マッチ程度の小さな火から街一つを炭に変える生粋の放火魔で、自分の起こした火のコントロールなんか全くできない。その癖、一面火の海の中を歩いても自分だけは絶対に生き残る。
昔何処かの廃工場で花火した時も、フライヤーがちょっと花火を振り回したら落ちてたボロボロの布に引火して危うく大惨事になりかけた。
ダークナイトの次に外に出すのが危ない奴だ。いや割とマジで。
あと見た目が不良で怖い。耳どころかへそまでピアス開いてんだ……。
『俺の案も聞いてくれないか俊介?』
「はいよハンガー、どんな案だ?」
『怪しい奴を片っ端から吊り上げりゃいいんだよ! 俊介の学校に居る、榊浦みゆう?って奴とかさ』
「……うーん……」
吊り上げるのは論外だけど、怪しい人物を攻めていくのは割とアリかもしれないな。特に榊浦親娘はその筆頭だし。
でも榊浦親娘に気軽に手を出すのはかなり怖いんだよな。大抵手ひどいしっぺ返しを食らってるし……。未来革命機関に関わってる確証でもあれば全然闇討ちするんだけど。
『ふん、これだから頭の鈍い素人は困るでござるよ。調査というのはクレバーに進めるものでござる』
「なんか良い案あるのか?」
『当然。拙者は忍でござるぞ?』
なんか関係あんのかそれ?
『いいでござるか俊介。敵は未来革命機関……榊浦豊も言っていたように、国の革命が目的でござる。そう仮定するでござる。
その上、相手は物騒な爆弾を作る人格持ちを誘拐した。
つまりこの未来革命機関は暴力で革命を起こすつもりでござる!』
「……うん。まあそうだな」
『そして、もし俊介がこの組織の者だったとするでござる。俊介は超強力な爆弾を持っていて、邪魔な政府関係者を一掃したい。この時、何処を狙えば一番効果的でござるか?』
それは……。
国会議員が集まる場所とか……あっ。
「なるほど、そういう事か。議員が集まった日の国会議事堂を狙う……そう言いたいんだな?」
『その通りでござる! しかもそのMRKという奇天烈爆弾、狙った物だけを爆破するのであろう?
絶対に邪魔されない場所……すなわち自分達の本拠地でMRKを起爆させるつもりでござろう。故に! MRKの範囲内に国会議事堂が入る何処かに敵の本拠地はあり!!』
確かに、ニンジャの言う事はかなり筋が通っている。
ただ、その理論にはとんでもない問題点があるぞ。
「でも……MRKの射程範囲って半径100キロだぞ?」
『おほ^~。国会議事堂の半径100キロ以内をくまなく探せばいいだけでござるな、ヨシ!』
「出来る訳ねえだろそんなこと」
『拙者悪くないもん。射程範囲が半径100キロなんてアホみたいな爆弾の方が悪いでござるもん』
……まあそれもそうだ。この件でニンジャを責めるのは確かに酷だ。
ニンジャの案は常識的な事件では悪くない手だけど、バクダン製のMRKが常識外れの性能を持ってるからな。物理的に実現不可能だ。
「やっぱハンガーの強行案が一番か……? でも今いきなり実行するにはな……」
『へへ~。どーよニンジャ、俊介はやっぱ俺の方が好きだってよ?』
『ボロ布を体に縄で巻き付けただけの貧乏痴女がしゃしゃるなでござるよ』
『あ”?』
「喧嘩したら怒るぞ」
首を絞められすぎて顔を土気色にし始めたフライヤーを慌てて解放し、5人の頭を振り絞っていい案がないかと考える。
『あー、首痛ぇ……』
『ふわぁ……俊介、俺のことおぶってくれよ~なぁ~』
『なんか食べないでござるか? 拙者甘い物が食べたいでござる』
『(*´∀`*)』
「お前ら真面目に考えろや……」
やっぱりヘッズハンターとかガスマスクとかがいないと雰囲気が締まらないな。真面目な人ってやっぱり必要だよ。
まあ、当初の予定通り夜桜さんが誘拐された現場に向かってみるか。
もしかしたら何かあるかもしれない。
そう考えながら、マオの家から誘拐現場へ徒歩で向かっていると。
木造の古い新聞販売店、その中からギャースカとお互いを罵り合う怒声が聞こえて来た。思わず店の前で立ち止まってしまった瞬間、引き戸式の扉がガラガラと音を立てて開く。
「バーカバーカ! そんなキレてばっかだから禿げ上がるんですよ、毛根砂漠おやじ!!」
何処かで見覚えのある女性が店の中に怒声を上げながら、ピシャン!と扉を閉めた。
彼女はこちらにクルリと振り返り、怒りで吊り上げていた眉を下げる。
「おっ。久しぶりですね、日高君!」
「ど、どうも、坂之下さん……何してんすか?」
黒髪を軽く振りながら笑う坂之下さん。
中指で丸眼鏡をくいっと上げながら自慢げに笑う彼女は、ガンッ!と背後にある新聞販売店の扉を蹴りながら答えた。
「短期バイトを募集してたんで来てみたら、ここのおやじが時給700円で働けって言うんですよ! それで国の最低賃金まで上げろって言ったら、ガチの喧嘩になりましてね。もうすぐで私の探偵パワーが炸裂するところでしたよ」
「はあ……とりあえず扉蹴るのはまずいんで、ちょっと向こうまで行きません?」
「ならすみませんが、コンビニで何か食べ物奢ってください。実は探偵ってお腹減るんですよ」
探偵関係なく人間なら誰でも腹減るわい。
新聞販売店の中から響く男の怒声から逃げるように走り、近くのコンビニまで向かった。
昼時より少し前だからか、コンビニの中は数人の人影しか見えない。あと30分も経つと一気に人が多くなるだろう。
俺は適当なおにぎりとペットボトルの飲み物を買い、隅にあるイートインスペースで坂之下さんに渡した。殺人鬼達が物欲しそうに見ていたので、彼女に怪しまれないように隙を見てコピーもしておく。
そして坂之下さんがツナマヨおにぎりを食べ終わったのを見計らい、話しかけた。
「それで、何でまた短期バイトを? 駄菓子屋のお仕事はどうしたんです?」
「お店の都合とかでクビになっちゃいました、元々試用期間でしたしね。またもや無一文ですよ、これも探偵の運命……!」
「関係ないんじゃないっすかね」
でもまぁ、仕事失ったのはちょっとかわいそうだな。多分店の都合って、デパートを犯罪者集団が襲撃したのと大きく関係してるだろうし。
……ん? でもこの人、元々『レジは
「仕事早く見つけないと、また親に怒られるんじゃないすか?」
「いや~、働け働けってうっさいんですよねあの親父。ちょっと遊んでるだけで、ちゃんと言われた分は働いてるっつーんですよ」
「ちょっと遊ぶ?」
「財布から金盗んでビビッと来た温泉旅館に泊まったりとか」
それは多分、ちょっと遊ぶの範疇に収まっていない気がする。
というか親の金盗んで折川旅館に泊まりに来てたんかい。探偵がやっちゃダメな事だろそれは。
坂之下さんがお茶を喉を鳴らして一気に飲み干し、空のペットボトルをゴミ箱に捨てる。
そして彼女は何か良い事を思いついたと言いたげな表情でポンと手を叩いた。
「そうだ。日高君、私の事雇いませんか? 給料は今日の夜ご飯代で」
「や、雇うって……で、でもなぁ」
「お忘れですか? 私は頭は弱いですが、探偵としての勘は超一流! 日高君が何か目的を持って行動していることなど、まるっとお見通しなのですよ!」
……うーん……。
未来革命機関絡みの事なんて危なすぎるし、なるべく関わらせてあげたくないな。
でも折川旅館でまぐれか何かか知らないけど、『殺人犯は15人います』とか意味不明な勘も発揮してたし、頼りにはなる……かも。
「どうしようかなぁ……」
頭をポリポリと掻いて悩むフリをしながら、ニンジャの方をチラリと見る。
ニンジャは坂之下さんの顔を様子をじっくり観察し、悩まし気に目を左右に動かした後、いつもの声色の調子で言った。
『まぁ本人が良いと言うなら、良いんではないでござるか? 本拠地に突っ込むならともかく、この周囲の調査ならまだ危険も少ないでござろう』
「……そうだな……。じゃあせっかくだし、お願いします坂之下さん」
「決まりですね! 今日は焼肉の気分ですから、バッチリお願いします!」
……は??? 焼肉???
俺より先に席を立ちあがり、意気揚々と歩き始める坂之下さんを焦りながら追いかける。
「ちょま、焼肉は流石に金が」
「まーまーお堅いことは言わずに、さっ、さっ! 行きましょ行きましょ!!」
『アッハッハ! 上手い事乗せられちまったなぁ、俊介!』
フライヤーが後ろでおにぎりを食べながら馬鹿笑いしている。ムカつく。
右手を背後に回して殺人鬼達に「さっさと来い」とジェスチャーしながら、コンビニから出た。
「へー。探し物ですか」
「まあ……そんな感じです」
流石に夜桜さんが誘拐されて、その誘拐した組織を探してますなんて理由を馬鹿正直に解説できない。故に探し物があると嘘を吐いた。
誘拐現場の警察の調査は榊浦豊が止めるって言ってたから、恐らく警察はいない。というか曲がり角を曲がったすぐ先が件の現場であるのに、物音が一切しない所を見るに、本当にいないのだろう。
「まー、私の超絶スゴイ勘にドーンと任せておいてください! ちょちょいのちょい、ちちんぷいぷいってなもんです!!」
「そうですか……期待しておきます」
言っちゃなんだけど、焼肉代を損するだけのような気も若干してきたな。
そんな事を思いながら坂之下さんと会話をしつつ、曲がり角を曲がった瞬間。
――――夜桜さんが誘拐された現場に、スーツ姿の黒髪の女性が立っていた。
「……げっ」
思わず口から声が漏れる。
その女性は、坂之下さんと同じように、これまたかなり見覚えのある人物である。
小柄な体を黒いスーツで纏い、生真面目そうな雰囲気を纏う女性。
黒髪を肩の辺りで短く切り揃えている彼女は、地面を見下ろしながら、静かな住宅街の空気に完全に溶け込んでいた。
彼女は俺の声によってこちらに気付いたようで、ゆっくりとこちらを向く。
「こんにちは」
「あ、あっはは……どうも……お久しぶりです……」
その女性は、
……な、なんで今日はこんなに見知った人と出会うんだ……。
基本的に性癖詰め込んで女性殺人鬼のキャラ作ってるせいで、一番最後に作ったフライヤーがいまいちキャラ立ちできてなくて可哀想
不良にありがちなバイク上手い設定も、ガスマスクの方が普通にプロってるから活かす場面がないぞ!
頑張れフライヤー! 出番はきっとあるぞフライヤー!