殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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日記形式です。
苦手な人は飛ばしても全然大丈夫です。


小話 一般人の日記

 

 

 

 

 

 10月20日。

  35歳の誕生日。ほんの気まぐれで有給を取ったはいいが、結局何もしなかった。

  昔はこのくらいの年になると、結婚して子供もいるのが当たり前なんて思ってた。けど普通に生きて普通に結婚して普通に死ぬってのが、こんなにも難しいもんだと思わなかったな。

 

  高校や大学の同級生はとっくの昔に結婚してる。

  祝儀代を数倍にしてふんだくってやる、なんて冗談言ってたのが馬鹿みたいだ。

 

  子供の声は嫌いじゃない。けどこのままだと、いつか嫌いになりそうだ。

  そうなる前にさっさと死ねたらいいな。

 

 

 

 

 

 10月21日。

  趣味があったら、もっと何か変わってたかな?

  昔は色々やってたけど、最近疲れてばかりで何もする気力がない。

 

 

 

 

 

 10月22日。

  小学生がものすごい新発明をしたってニュースがやってた。

  正確には、その小学生に宿る異世界の人格が発明したものらしい。

 

  凄い時代になったもんだなぁ。俺が社会人になったくらいの頃に始まった注射のおかげらしいけど。

  俺みたいな才能のないおっさんが働く必要がない時代もいつか来るかな?

  案外、もうすぐかもな。

 

 

 

 

 

 10月23日。

  免許更新をしてきた。

  待ち時間の間、適当にネットニュースを見てたら、また異世界の人格の宿った子供が新しい発明をしてた。

 

  浮遊人格統合技術、か。

  最近、新入社員の子が物凄いスピードで昇進していったって話をよく聞く。異世界で何十年も社会人経験のある人格が力を貸しているから……とか、そういう理由らしい。

 

  恐ろしいなぁ。

  この年でろくに仕事のできない俺が首になったら、本当に行くところがない。

  俺が異世界に行く羽目になりそうだ。

 

 

 

 

 

 10月24日。

  浮遊人格統合技術の案内のポスターが会社に貼り出されていた。

  簡単に纏めると、異世界の人格を宿してキャリアアップをしようと言う風な内容だった。

 

  会社内は尻込みする奴が大半、一部の情熱的な奴が注射を受けに行く……そういう状況だ。

  確かに、こんな年になって、自分の中に誰かが入ってくるなんて恐ろしくてたまらない。新しい事をする気力もない。

 

  けど……一人は寂しい

 

 

  ちょっとの注射で、給料が上がるかもしれないってのなら、やる価値はあるかもしれない。

  人格が宿らない可能性も全然あるらしいしな。試すだけなら全然アリだ。

  予約は一番早く取れた明日だ。会社も休みにしてくれるらしいし、良い事尽くめだな。

 

 

 

 

 

 10月25日。

  マジか。

  本当に宿った。

 

  職員から説明受けたけど未だに信じられない。すぐ近くに半透明の人間がいる。

  少し会話したけど、どっちも困惑しっぱなしだ。

 

  銀髪の美形顔で、病院服に似た物を着てる……中性的な顔で性別は分からんが、身長がデカいし多分男。

  病院服に似た物を着た上、その病的なまでの手足の細さを見るに……多分病人なんだと思う。

 

  まいったな、本当に宿るなんて。

  これからどう生活するか……。

 

 

 

 

 

 10月26日。

  俺から3メートルしか離れられない病人の男。

  名前は『ムールー』と言うらしい。呼びにくいので『ムル』と呼ぶことにする。

 

  彼は見た目の通り病人であり、かなり重い病気で殆ど病院の外に出たことがないのだと言う。

  そんな風なので、勿論社会人経験などある訳もなく……俺の仕事のスピードが変わったり、なんて事は一切起きなかった。

 

  誰かが言っていた、『浮遊人格統合技術は運ゲー』……。

  外れとは言いたかないけど、これじゃあやっただけ損かもな……。

 

 

 

 

 

 10月27日。

  今日仕事をしてる時、近くに居たムルが俺の気付かなかった仕事のミスを指摘してくれた。

  そうか、人格がいると一人で二重チェックが出来るんだな。

 

  そう考えると、やっぱり人格がいるってのはそう悪い事じゃないのかもしれない。

  でも、ムルが俺の仕事をたったの一日で理解していたのはちょっとショックだ。一日で理解できるほど簡単な仕事でミスしたのか俺は……。

 

 

 

 

 

 10月28日。

  休日だったので、ムルを連れてドライブをした。

  俺のオンボロガタガタ軽自動車の助手席に座り、ムルは窓の外をずっと見ていた。

 

  何が面白いのかと聞くと、死ぬ前はこんな景色を一度も見た事がなかったと言われた。何とも言い難い。

  そしてバーガーショップに行き、一番安いセットを買って思いついた。俺とムルの体の主導権を入れ替えれば、ムルもこのバーガーを食べれるんじゃないかと。

 

  変わる方法は簡単で、俺が念じるだけでいい。

  物は試しとやってみた結果……気が付いた時には、何処かの砂浜で汗だくになって仰向けに倒れていた。

 

  ムルが言うには、バーガーの味に興奮して、体が動くのにも興奮して、全力で走り回っていたらしい。

  どーいうこったよ。ムルは病人じゃなかったのか……。

 

 

 

 

 

 10月29日。

  昨日の事について軽く調べてみた。

  宿主の体と人格……俺の体とムルには『適合率』というのがあるらしい。

 

  その適合率が高ければ高いほど、宿主の体を使っている時、人格は生前の自身の身体能力を引き出せる。

  適合率が低ければ低いほど、宿主本来の身体能力に引っ張られる。

 

  つまり。

  俺とムルの適合率は結構低い。

  なので身体能力が俺の方に引っ張られ、病人ではない、一般的な中年の身体能力になった。だからバーガーだって普通に食えたし、ガリガリの病人よりも幾分かは走れる……そういうからくりだったらしい。

 

  なんかややこしいな……。

  まあ、ムルが楽しそうならそれはそれで……いや、おっさんが走り回ってる絵面はあんまりよくないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1月3日。

  久しぶりに日記帳を開いた。二ヵ月近く書いてなかったのか。

  まあ、この日記帳は元々俺の愚痴を吐き出すために書いてたからな。

 

  正直……ムルが来てから、俺の生活はかなり変わった。休日はせがむムルの為に精力的に外に出るようになったし、仕事での失敗もかなり減った。

 

  傍から見れば順風満帆だ。

  けれど……また日記帳を開いたのには、少し理由がある。

 

  俺は才能も何もない、ただの35歳のおっさんだ。

  しかしムルは明らかに頭が良い、俺よりも。

 

  元々大して生きる気もなかった俺だ。

  けどこの体は……ちょっと年は食ってるけど、病人よりかは動ける自信がある。

 

  だから……無能なおっさんは消えて、この体を優秀なムルに明け渡そうと。

  そう考えているんだ。

 

 

 

 

 

 1月4日。

  ムルが会議中の上司にいたずらをしていた。

  触れられはしないものの、上司のかつらのずれた部分を指さして思い切り笑っていた。やめろ、釣られるから。

 

 

 

 

 

 1月5日。

  ……ちゃんと話し合わないとな。

 

 

 

 

 

 1月6日。

  ムルに物凄い剣幕でキレられた。

  『生きる事を諦めるな』って、見たこともないくらい顔を真っ赤にしてた。

 

  そのまま俺の中に入って、何度か呼んでも一向に出てくる気配がない。

  怒らせちまった、けど、やっぱり俺よりムルが体を使った方が……。

 

 

 

 

 

 1月7日。

  バカ!

  そりゃ確かに、しっかり味の付いたご飯は初めて食べたし、走り回るのも楽しかったけど……人の体を貰ってまでしたいと思う事じゃない!

 

  僕の意見を勝手に無視するな!! アホ!!

 

 

 

 

 

 1月8日。

  昨日の日記の所……まさか書いたの、ムルの奴か? 俺の体をいつの間にか奪ってたのか。

 

  ムルはそうは書いてるが、やっぱり俺の体を有効活用できる奴に譲るべきだ。

  中年のぶよっとした体だけど、痩せればまだ幾分か動ける。多分。

 

 

 

 

 

 1月9日。

  僕は……確かに、頭は良い方だと思う。正直、簡単な仕事でミスしまくるようなダサいおっさんよりは働けると思うよ。

 

  でも、そんな事どうだっていい。

  僕が病院でどんな暮らしをしてたか話したことなかったよね。

 

  誰も話しかけてなんかこないんだ。

  家族だって、僕の事を医療費ばっかり掛かる無能扱いしてた。食事だって全部点滴、暗い病室の中でずーっと同じ景色の窓の外を見る事しかできない。

  最後は手術室に入って……突然こっちで目が覚めた。難しい手術だって言ってたし、多分手術中に死んだんだと思う。

 

  僕は生まれてから死ぬまで、人とマトモに会話した事なんかなかった。

 

  だからさ。

  久しぶりに君と会話できたことが、とっても楽しかったんだ。一緒に過ごせたことが楽しかったんだ。

 

  だから、自分の体がどうでもいいとか、消えるとか、そんな事書かないでくれよ。

 

  ……寂しいよ。

 

 

 

 

 

 1月10日。

 

 

 

 

 

 

 1月11日。

  そうか。

  そうだよな、何考えてたんだろうな、俺。

 

  ごめんな、ムル。

 

 

 

 

 

 1月12日。

  いいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7月20日。

  新しい仕事に移ってもう一ヵ月が経った。

  あの頃、新入社員の頃からミスばかりでやけにネガティブになっていたのは……そう、単純に俺にあの仕事が向いてなかったんじゃないかと思ったのだ。

 

  それで変な考えを振り切るため、思い切って、長距離トラックの運転手に転職した。

  ちょっと大変だったけど、大型トラックの免許も取ったしな。

 

  ……正直、この長距離トラックの仕事が俺に合っている仕事なのかは分からない。

 

  けど、ムルは助手席からいつも楽しそうに外の景色を見ている。

  その様子を見ていると、今の仕事が合ってる合ってないに関係なく、頑張る気が湧いてくる。

 

  ……結構単純な馬鹿だよな、俺って。

 

 

 

 

 

 7月21日。

  マジか。えっ、嘘だろ?

 

  俺、ずっとムルの事を男だと思ってたけど。

 

  ムルは……女だった。

 

  体がガリガリすぎて女性的な丸みがないから全く気付かなかった。

  マジか……。

 

  マジ……?

 

  ど、どうすっか……。

  いや、どうするもないよな……。

  おおう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






-Tips-
 10歳でなくとも、希望さえすれば何歳であろうとも浮遊人格統合技術の注射を受ける事ができる。
 誠に信じ難いが、キャリアアップやスキルアップの為にと望みを掛けて注射を打つ社会人は意外に多い。
 企業側からしても一人分の給料で数人分の能力、運が良ければ異世界の独自技術を手に入れられる為、人格持ちの需要が高まっている。






~~~作者からのメッセ―ジ~~~



 この度、お気に入り数がついに13000件を越えました。
 作者が裏で密かに設定してたいくつかの目標を全て達成し、本当に感無量の思いです。

 行き当たりばったり、私の性癖コンパスに従って自転車操業で進めてきた本作がここまで成長できたのは、偏にいつも読んで下さっている読者様方のおかげです。本当に感謝の気持ちしかございません。

 もしまだ未評価の読者様がいるのならば、これを機に評価してくださると嬉しいです。
 ランキングが上がると、本作を完結後に一気読みしようとして忘れ去った人の目に再び届く可能性が上がるので。と、それっぽい理由を付けただけの評価乞食ですごめんなさい()。


 ……それと、本作は常時支援絵やファンアートを受け付けております。
 みんなが想像する各キャラの容姿、オラに見せてくれ!

 でもR-18は勘弁だ、掲載できねぇかんな! AI絵もやめてくれ、AI関連の問題は作者全く分かんねえんだ! 責任が取れねえ!

 支援絵は感想欄じゃなく、作者のメッセージの方に遠慮なく送ってくれよな!
 来なかったらオラが描くから安心しろ(?)



 ……では。
 本作の完結まではまだ暫くかかりそうですが、どうか生暖かい目で、これからもどうぞよろしくお願いします。 

 作者:男漢より。
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