殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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小話 化け物

 

 

 

 

 ククク。

 俺は最強だ。

 

 元の世界でも俺に敵う奴は一人もいなかった。

 

 病気拗らせて死んじまったが、まさか異世界で10歳のガキに宿って生き返れるなんてな……!

 宿主の体を奪うなんざ、俺にとっちゃ余裕だね……!

 

 

「ククク……」

 

「ねぇあの子、一人で何笑ってるのかしら……」

「さぁ……?」

 

 

 2日ほど掛けてこの世界の事を調べた。どうやらこの世界には、俺のように宿主の体を奪って犯罪を繰り返す人格犯罪者ってのが居るらしい。

 でも、ダメ……! あんな奴ら、まだまだアマチュア……!

 

 犯罪の程度(レベル)が甘いんだよ。

 一撃で街を焼け野原に出来るくらいの実力を持ってないと、本物(モノホン)(ワル)とは言えねぇぜ……!?

 

「ククク……!」

 

 俺は最強だ。

 強い奴は何をしたって許されるもんさ、なんたって強いからな! 誰も逆らえねえ!

 

 

 さてまずは手始めに、このスイーツ店で強盗でもするとするかな……!

 ドアを蹴り飛ばして入ってやろうと思ったが、せっかくのスイーツが傷ついちゃ意味がねえ。手で開く。

 

 

 店に入るとすぐ、カウンターに居た50代ほどの老女がこちらに顔を向けた。

 

「いらっしゃいませー。……あら僕、おつかい?」

「おつかいだぁ? 違うなククク……俺は最強だぜ」

「? サイ・キョウ君?」

 

 ふん。

 やっぱり貧弱な店員如きには分からないだろうな、俺のこの体から溢れ出る強者のオーラはよ……!

 

「俺は金を一銭も持ってねえ。この意味が分かるか?」

「……? お母さんが後から来るってことかな?」

「ちげーよ。いいか、俺はこのスイーツを貪り食いに来たんだ! 最強の特権だ!!」

「………?? 行儀よく食べなきゃ駄目よ?」

 

 一体何の勘違いをしてるんだこのババア?

 チッ……。それにしてもやっぱりこの10歳のガキの体は不便だぜ、他人から舐められてるのがありありと分かる。

 

 俺はその気になれば、この店どころか周辺一帯に風穴を開けられるんだぞ!?

 最強として君臨した暁には、俺の強さが理解できるそれなりの強者を配下にするのはいいかもな……。ま、俺の足元に及ぶ強さの奴が存在するかどうかも怪しいけどな!

 

 カウンターで首を傾げながらこちらを見る店員に詰め寄り、声を荒げて言う。

 

「いいか店員さんよ。俺はただの10歳の子供じゃねえ、最強なんだ! さっさとその商品棚の中を全部俺に渡さねえと、その首ふきとば――――」

 

 

 

 ―――ゾッ!

 

 

 

 ―――ほんの一瞬。

 自分の体がズタズタに切り刻まれ、内臓を引きずり出される姿が脳内に走った。

 

 肺が痙攣して呼吸が止まり、体の至る所から汗が噴き出す。

 ヤバい。とてつもなくヤバい。

 

 言葉じゃ形容できないレベルの化け物がこの店の扉の前にいやがる。

 そいつは平然とした様子で扉を開け、店の中に入って来た。

 

 

「あら! こんにちは日高君、もう学校終わったの?」

「テストで早く終わったんですよ。いつものモンブランありますか?」

「あるわよ。ちょっと待ってね」

 

 若い見た目。恐らく高校生。

 黒い制服を着た男は背負った鞄から財布を取り出しつつ、カウンターに歩み寄ろうとして……すぐ傍で固まっていた俺の方に視線を向けた。

 

「あ……もしかして並んでた? 順番抜かしちゃってごめんね」

「い、いや……な、何だお前……?」

「ん? 何だって言われても……普通にモンブラン買いに来ただけだけど」

 

 ふざけるな。

 こんな星一つ分のエネルギーを凝縮させたようなオーラを放ってる奴が、普通にモンブランを買いに来る訳があるか。

 

 

 店員が商品棚から栗のモンブランを取り出し、包む。

 慣れた手つきでその作業を進めつつ、目の前の日高と呼ばれた男に言った。

 

「その子、サイ・キョウ君って言うらしいんだけど……。お金持ってないみたいなの。親御さんも来ないみたいだし……」

「……もしかして、スイーツ買いに来たけどお金忘れちゃった感じ?」

 

 

 今こいつの言葉に逆らうのはまずい、適当に話を合わせておくべきだ。

 息を必死に肺に取り入れつつ、か細い声で言葉を返す。

 

「そ……そうだ……」

「あ~、俺もよくやるんだよね。……いいよ、順番抜かしちゃったし、なんか一つ好きなの買ってあげる」

 

 日高はモンブランを受け取りつつ、俺の体を商品棚に近づけようと背中に手を当てる。

 奴の手が背中に触れた瞬間、全身に走る悪寒が更に悪化した。思わず反射で手を振り払う。

 

「や、やめろ触るな! 俺は帰―――」

『――ギャオ』

「ッ―――」

 

 

 全身を切り刻まれるような感触と共に、理解する。

 本当にヤバいのは目の前の男ではなく、男の中身の方であると。

 

(クソッ!

 外に影響を及ぼさない人格の癖になんで俺に威圧できるんだ、おかしいだろ……!)

 

 

 日高が俺の肩をポンポン叩きつつ、優し気な声色で言う。

 

「全然遠慮しなくていいって! ここの奴全部美味しいから」

「そ、そうか……なら、こ、これを頼む……」

 

 俺は適当に、一番近くにあった苺のショートケーキを指さした。

 一体どう行動するのがいいか分からないが、この男の言葉に逆らう事で中に居る化け物が牙を剥いて来るらしい。なら俺に出来る事は一つ、言葉に従い続ける事だ。

 

「すいません、この苺のショートケーキお願いします」

「は~い」

 

 店員が素早く、手慣れた手つきでケーキを包む。流石プロだ。もっと早く包んでください、お願いします。

 日高は店員からケーキの箱が入った袋を受け取り、俺に渡した。

 

「それじゃあね」

 

 男は俺の目線まで姿勢を下げ、一度微笑むと、すぐに立ち上がって店の外へと出て行った。

 奴が十分遠くまで行った事が分かると、一気に緊張が解け、大きなため息が口から出る。

 

 

「…………」

 

 あんな化け物が平然と闊歩してる世界なのか、ここは。

 

 …………。

 

 悪いことは止めて、真面目に生きるか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? ダークナイト、お前いつの間に出て来てたんだ?」

『ギャオ』

「…………まあいいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次週から本編に戻ります。


-Tips-

自称・最強

 元の世界でも今の世界でもガチで強いが、宿主との適合率がそれなりのせいで、こちらの世界では本来の半分以下の実力しか出せない。
 ぶっちゃけマオより自称・最強の方が強い。もし暴れてたら人対の牙殻が即出動するレベルでヤバかった。

 犯罪者にでもなって自由気ままに暮らそうとしていたが、世界のバグみたいな化け物に遭遇したことで真面目に生きる事を決心。

 あと宿主に体返した。
 普通に仲良くなれた。


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