殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#62 触れてはいけない過去に触れる

 

 

 

 

 人を殺す才能があった。

 でもそれはきっと、人間が持っていちゃいけないものだった。

 

 

 721人。

 偶々通りがかった家電量販店のテレビで、俺の本名と顔写真と共に、被害者の人数が公表されていたのを見た。

 神妙な面持ちのニュースキャスターが、手元の紙を見ながら言う。

 

『犯人は刃渡り60センチほどの刃物を2本所持』

『異常な身体能力で通り魔的に人を殺害』

『一部でカルト的な人気を誇っている』

 

 などの情報をつらつら並べ、最後にはこう締めくくる。

 

 

―――史上最悪の殺人鬼

 

 

 

 

「史上最悪、か。教科書に名前載ったりすんのかな……?」

 

 右足の太ももから噴き出る血液を抑えつつ、足を引きずって歩く。

 

 幼馴染――真昼を虐めていた奴らを殺してから約一年。 

 今まで狂ったように殺人を繰り返していたが、とうとう最後が来たようだ。相当訓練された部隊に強襲され、全員殺したはいいものの、最後の一人に太ももを撃たれてしまった。

 

 この出血量、確実に大腿部にある大動脈を貫いている。

 俺みたいなのを病院で受け付けてくれる訳ないし、こんな致命傷の処置をする技術も持っていない。

 

 

「寧ろ一年もよく生きた方だ……。さっさと死んじまえばよかったのに、こんなゴミ屑はよ」

 

 かすむ視界。力の抜ける体。

 それを奮い立たせるように、胸の中央を力いっぱい拳で叩く。肋骨にひびが入る音と共に激痛が走ったが、ちょうど良い気付けになった。

 

 

「……空、見たいな」

 

 彼が今いる場所は屋根のある商店街。

 もうすぐ死ぬことが確定している。ならば少し日の当たる所に行きたいと、ふとそう思っただけだ。

 

 近くの裏路地に入り、血の跡を残しながら歩く。

 そして一番初めに目に入ったビルの階段を登り、そこから屋上へと向かった。

 

 

「ん……結構いい天気だな」

 

 暖かな日差し。柔らかな風。心が安らぐ匂いが辺りに漂う。

 半径数百メートル以内で50人近く死んでいるとは思えないほどの快晴が広がっていた。

 

 

 肩にかけていたスクールバッグを降ろす。

 高校の時に教科書を入れていたバッグだが……今は、目から光の消えた女性の頭部が2つ入っている。

 

「……? ……っ……?」

 

 彼は困惑したようにその頭の1つを取り出し、自身の顔の前まで持ち上げた。

 

 

 ―――()()()()()()

 

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「お、俺が殺したのは間違いない……けど、一体、誰だ……?」

 

 真昼と似た顔の女性を殺していたはずだ。

 でも、俺が殺してスクールバッグに入れていたこの女性は……根本、頭の骨格の部分から彼女とは似ていない。

 

「は、はは……はあ? ちょっと待てよ、俺……俺は……!」

 

 持っていた頭も、何百人も人を殺した血みどろの剣鉈もその場に落とし、信じられない物を見たように後ずさる。

 

 

「待てよ、俺は……! 俺が人を殺してたのは、真昼と似た顔の女性を殺してたのは―――」

 

 

 

 

「――――『               』からなのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何の変哲もない一般家屋。

 若干傾斜の付いた屋根の上で青空を仰ぐ半透明の人影が一つ。

 

『……チッ』

 

 あの日と同じ快晴の空を見ていたヘッズハンターは、苛つきの混じった舌打ちと共に顔をしかめた。

 

 

 

 彼には一つ、俊介の体に宿った時からずっと思い出せない『記憶の穴』があった。

 

 殺人鬼にとって根幹とも言える物。

 それは。

 

 

 『人を殺していた理由』だ。

 

 

 

 『喉が渇いたから』水を飲む。

 

 『腹が減ったから』食事をする。

 

 何らかの行動の前には必ず、その行動を取る理由があるのだ。

 

 

 ヘッズハンターは、真昼と顔の似た女性を狙って殺していた事は覚えている。

 しかし、『なぜ彼女と顔の似た女性を狙っていたのか』という事だけが思い出せないのである。

 

 

 今までであれば特段気にする事もなかったその記憶の穴。

 真昼と再会する可能性が生じなければ、永遠に気に留める事もなかったそれ。

 思い出さなければならない、なのに思い出してはいけないその『穴』がじくじくとヘッズハンターを苦しめていた。 

 

 

 そんな時。

 

 

『やっほ~!』

 

 

 ヘッズハンターの立っている屋根に、半透明の人影が登り、気安く彼に声を掛けた。

 ゆっくりと振り返り、登って来た人物を見る。

 

『……何の用だ、()()()()()()

『何の用だとは酷いねえ。一応心配して来たんだけど』

『そうか……。それは悪い事を言ったな』

 

 そう言い捨て、彼女から目線を逸らす。

 

『あ、目を逸らさずともいいじゃないか。こっち向きなよ』

『うるさいな。俺の事は気にするな、どっか行け』

『そういう訳にもいかないんだよねえ。自分で気づいてないの? 今にも人を殺しそうな顔してるけど』

 

 

 トールビットは自身の持つスーツケースから手鏡を取り出し、ヘッズハンターに投げる。

 その鏡を振り返らずに受け取り、自身の顔を映す。

 

 確かに、そこには普段よりも少し目つきの鋭くなった顔が映っていた。自分では少しとしか感じないが、常人が見れば一瞬身が強張る恐怖を感じるほどに酷い目つきをしている。

 

 

『……そうだな。確かに人を何人か殺してもおかしくない顔だ』

『だろう? もし俊介の体で殺人でも起こそうものなら、とてもとても大変な問題だからね』

『分かってる。言われずとも分かってるさ』

『ま、少し私に吐き出してみたら? 殺人鬼のメンタルケアなんて初経験だけどさ、ハハハ』

 

 

 そう言うとトールビットはヘッズハンターのすぐ傍に移動し、その場に胡坐をかいて座った。

 少しだけ迷ったのち……彼女に続くように、その場に足を伸ばして座る。

 

『それで……何を悩んでいたんだい?』

『忘れた事を思い出そうとしていた。一体何の為に人を殺していたのかを』

『……ぷっ、ハハハ! それはまた面白い物を忘れたねえ!』

 

 あっけらかんと笑いながらそう言う彼女に、ヘッズハンターは少しだけムッとした表情を浮かべる。

 肘で軽く脇腹を突きつつ、口を尖らせて言う。

 

 

『そういうお前はどうなんだ。何の為に人を殺していたんだ?』

『私は拷問が趣味で、殺人は趣味の後片付けにやっていただけさ。……けど最初の10、いや9人までは別の理由で殺してたよ』

『へえ。その別の理由ってのは?』

『秘密~。俊介にすら教えてないもんね』

 

 トールビットは唇にピンと立てた人差し指を当てる。

 

『……おう』

 

 年上の明らかに年に合わない仕草を見て一瞬表情が死ぬヘッズハンター。その顔を見て気まずそうに人差し指を口から離すトールビット。

 数秒の静寂。それを破ったのは、彼女の咳払いの音であった。

 

『コホン。

 ―――それで、君は『何の為に人を殺していたか』を思い出そうとして、人を殺しそうになっていたのかい?』

『まあ そういう事だ』

『……う~ん……。もしかすると、無意識の内に記憶にプロテクト()を掛けているのかもね』

()?』

 

 

 トールビットは人差し指で自分の額をマスク越しにトントンと叩く。

 

『強い精神的ショックを受けた記憶を忘れる事で、自分の精神を健全に保つって症状がある。有名だよね。

 ヘッズハンターの今の状況はそれに似てる。君は今殺人鬼として大事な記憶が欠けてる状態だ。そしてその大事な記憶を思い出せば思い出す程、本来の完全な殺人鬼としての姿に戻っていく……』

 

『…………』

 

『でもヘッズハンターはその記憶を思い出せない。無意識の内に、思い出さないよう厳重に鍵を掛けた。

 その鍵を掛けた理由はきっと……『俊介の体を奪って人を殺したくない』とかかな』

 

 

 彼女はそこまで言い終わった後、ふーっと息を吐いた。

 ヘッズハンターは自身の掌を見つめたまま、ぼんやりとした声色で言う。

 

『……じゃあ、この記憶は俊介の為に思い出さない方が良いのか?』

『知らないね。時と機会が来れば思い出す。そういうものさ』

『適当だな』

『得意じゃないのさ。メンタルケアに関しては俊介の方がよっぽど才能あるね。いや、あれはありすぎかな……

 

 

 数秒ほど経ち、ヘッズハンターは手のひらを閉じて強く握り込む。

 ゆっくりと立ち上がり、俊介が居る方に顔を向けつつ、トールビットに話しかける。

 

 

『今は、俊介の行く末に身を任せてみるよ。けどもし、俺が記憶を取り戻して暴れるような事があったら……』

『ナイフで首をグサッと刺してあげるよ』

『ははっ、お前の鈍い動きじゃ無理だ。エンジェルとガスマスクに大人しく頼め』

 

 そう言い残し、ヘッズハンターは姿を消した。

 

 正確にはその場で強く踏み込み、一瞬でトールビットの視界外に移動したのだ。

 

 

 人間とは思えない身体能力。

 流石、殺人鬼達の中でも二番目に素早いだけの事はある。一番目は表に出せないダークナイトだから、実質トップも同然だ。

 トールビットは他人のメンタルケアという慣れない行為で少し疲れたのか、背中から背後へ倒れ込む。

 

 

『やっぱこういうのは、専門外の医者がやるべきじゃないね……』

 

 その呟きは誰にも聞かれることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで、どう忍び込むでござるか?』

「何でだよ」

 

 俊介一行は、夜桜邸の巨大な門扉の前にいた。

 相変わらず他の家よりも格段に大きく、桁外れの富豪であることを一切隠そうともしない屋敷である。ここは高級住宅街で他の家だってそれ相応の豪邸であるはずなのに、それらが一般庶民の家に見えるほどに夜桜邸は大きかった。

 

「普通にインターホン押せばいいだろ」

『良いでござるか俊介? 大富豪の一人娘が誘拐された、警察はマトモに動かない。こんな状況下にただのクラスメイト一人が訪ねてきたところで、門前払いされるのがオチではござらんか?』

「……まぁ、それもそうかもしれないけど……いやいや」

 

 一瞬納得しかける俊介。しかしすぐに首を横に振って思考を掻き消す。

 

「そうだとしても、一回は押してみるべきだろ」

『チッ……』

「なんだ今の舌打ち」

 

 ニンジャが退屈そうに顔を逸らしたのを睨む。

 そのまま夜桜邸の敷地と道路を分ける鉄製の門……そのすぐ傍にあった黒いインターホンを押す。

 

 そして十数秒ほど経った後、ザザッという雑音と共にインターホンから全く感情の乗っていない女性の声が聞こえ始めた。

 

 

『―――どちら様でしょうか?』

 

「あ、こんにちは。夜桜紗由莉さんの同級生の、日高俊介と申します。えっと……」

 

 忘れてた。

 前回はプリントを届けると言う理由で家の中に入ったが、今回はそんな理由を一つも持っていない。咄嗟に嘘を作り上げないと。

 

『いかがしましたか?』

 

「その、ですね。夜桜さんに渡してくれと言われた物がありまして……それを届けに……」

 

『かしこまりました。今そちらに人を寄越します、少々お待ちください』

 

 インターホンの向こうから聞こえていた無情な声がプツリと途切れる。

 その瞬間、俊介は頭を抱えた。

 

(……そりゃそうだ、ただの届け物で屋敷の中に入れてくれる訳ねーよな! 前回みたいな特別な事情があるならともかく……嘘の吐き方ミスったか……)

 

 

 頭を抱える俊介の姿を見て、ニンジャが分かってたという風に首を横に振る。

 

『どうせ嘘を吐くならもっと大胆に行くべきでござったなぁ、俊介はまだその所の塩梅が――――』

 

 

 

 

 ―――ザザッ

 

 

 

 インターホン。

 既に会話は終わったというのに、再び特徴のある重いノイズ音が響いた。

 俊介達がインターホンに視線を向けると同時に、先ほどまでの女性の声とは違う、低く落ち着いた男性の声が聞こえ始める。

 

 

『門を開ける。中に入ってきなさい』

 

 

 先ほどの女性と言っている事がまるで違う。

 頭が事態を理解するよりも早く、仰々しい門扉が鉄のこすれる音を鳴らしながら独りでに開いた。

 

 俊介は開かれた門の前に足を踏み出そうとして……足を引っ込め、殺人鬼達の方を向く。

 

「……これ、行っても大丈夫だと思うか?」

『分からぬ。が、屋敷の中に入れば、夜桜の部屋も確実に100メートル圏内に入る。拙者達が調べる事も可能でござる』

「そうか……」

 

 

 声の主が誰なのかは大体予想がつく。

 しかし、俺を邸宅に招き入れる理由が分からない。向こうは俺の事を殆ど知らないはずなのだから。

 

 敷地の中に足を踏み入れ、だだっ広い庭にある邸宅までの一本道を踏みしめるように歩く。

 夜桜さんの部屋の調査にはニンジャとダークナイトとフライヤーの3人が向かった。半透明の彼らには壁など関係なく、俺とは別の場所から中に入って行く。

 

 俺の元にはハンガーだけが残った。

 

 

『ヤバくなったらいつでも変わるからな~。少し前の誘拐事件みたいなヘマはしねえからよ』

 

 ハンガーは呑気そうな表情をしているが、付近に厳重に警戒を払っている。

 いざとなれば俊介の体を奪い、敵対者を一瞬で吊り上げる腹積もりだ。

 

『……んでさぁ、あの男の声って一体誰なの?』

 

 俊介は答えない。

 屋敷の中へ完全に入り込んでしまった以上、何処から見られているか分からない。一人で虚空に喋っている所を見られ、人格持ちだとバレる訳には行かないからだ。

 さっき門の前で思いっきり人格と喋っていたのはノーカンである。

 

『な~な~、俺の話聞いてる~? 俊介~? お~い!』

 

 うるせぇ。

 

 

 勝手に体に乗っかかり耳元で話し続けるハンガー。

 若干苛つくが振り払うこともできない。そのまま我慢し続けていると、邸宅の玄関扉の前に辿り着いた。

 

 

 ……夜桜家の娘が誘拐されたバタついてる状況で、使用人の言葉を撤回し、屋敷に人を招き入れるなんて行動が許される人物。

 

 それはつまり、屋敷の中でも相当偉い人物だって事だ。そして夜桜さんには男の兄弟はいない、いるのは父親と母親だけ。そして先ほどの声は明らかに男の物だった。

 となると、声の主は……。

 

 

 シックな色合いをした重厚な扉に手を伸ばし、ノックをしようとする。

 しかし中指の骨で扉を叩くよりも早く、扉が重々しさを感じるゆったりとした速度で開いた。

 

 扉の向こうから現れた見覚えのない男性に深く頭を下げ、挨拶をする。

 

 

「……初めまして。日高俊介と申します」

 

 整った目鼻立ち。身長は180センチほど。

 顔に少し小じわがあるものの、老いを微塵も感じさせない気迫を放っている。短髪をオールバックにし、高級そうな紺のスーツで着飾った姿には常人にない気品を感じる。

 

「ああ、初めまして。私の名前は―――『夜桜宗次郎(そうじろう)』と言う」

 

 俊介の予想はドンピシャ、完全に的中していた。

 彼の顔には夜桜紗由莉の面影を確かに感じる。つまり、この目の前の男性こそ。

 

 

 夜桜紗由莉の()()なのだ。

 

 

 彼は左手首に着けた金の腕時計を一瞥し、こちらを向いて言う。

 

「少し、話をしても大丈夫かな? 予定があるならそちらを優先してくれていい」

「大丈夫です。予定はありません」

「それは良かった。……応接間へ案内しよう、茶菓子も運ばせる」

 

 クルリと踵を返し、奥へ歩いて行く夜桜宗次郎。

 俺もその背中に付いて行くため、夜桜邸の絨毯を足で踏みつけた。

 

 

 

 

 

 






 投稿が遅れて申し訳ございません。


 前々から行っていたアンケートの結果、
 一番票が多かったのが『何時でも気にしない』、二番が『書き終わった瞬間投稿』でした。

 なのでこれからは投稿時間は気にせず、出来上がった瞬間投稿するようにします。
 最低でも週一回は更新できるよう頑張るので、よろしくお願いします。
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