殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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やっぱり俊介が唐突に秘密ぶっぱするのはおかしすぎたので#64、#65、#66は削除しました。
なるべく早く修正して投稿し直します。作者の身勝手な都合で削除して申し訳ございません。


#64 理屈では説明できない感情

 

 

 

 

 四方が無機質な鉄の板で作られた八畳ほどの部屋。窓はなく、部屋の中央をぼんやりと照らす裸電球が一つだけぶら下がっている。

 

「…………」

 

 部屋の中に唯一ある事務机と椅子。

 その椅子に座り、足を組みながらタブレットを操作する金髪の男。ゴウンゴウンとやかましく鳴り響く換気扇の音を気にも留めず、タブレットを集中して見続けている。

 

 その時。

 ちょうど男の対面にある自動扉がプシッと空気を吐く音を鳴らし、静かに横へと開いた。

 男はタブレットから目を離し、扉の向こうに居た黒い鎧―――ピュアホワイトに視線を向ける。

 

 ピュアホワイトは部屋の中に一歩足を踏み入れ、「相変わらず何もない部屋だ」と呟いてから金髪の男―――ウィザードの方を向いた。

 

「ウィザード。私の部隊の一部が見えないんだが……何処かに動かしたか?」

「ああ……すまない。私の指示で夜桜の家に向かわせた。MRKの設計図を家に置いている可能性が万分の一くらいはあるからな」

「……そうか、次からは一言伝えろ。所在が分からないと、誰を殺してしまったか分からなくなる」

 

 明らかに異常な会話内容だが、2人とも息ひとつ乱すことはない。

 ピュアホワイトは扉のすぐ横の壁に背中を預け、再びタブレットを操作し始めたウィザードの方をじっと見つめる。そのままそうして一分も経った頃……突然口を開いた。

 

 

「私の目的はアニーシャ様に出会い、婚姻を結ぶ事だ」

「ああ……」

「その勢いで胎に子を孕めれば最上だがな」

「あぁ……はっ、はあ? いきなり何だお前?」

 

 思わず間抜けな声を出してしまい、パッと手元にあるタブレットから顔を上げる。

 そんなウィザードの様子を無視して話を進めるピュアホワイト。

 

「私の目的はアニーシャ様ただ一つ。お前に協力しているのも、この組織に身を置くのがあの御方と出会う確率が最も高かったからだ。まあこの世界に既に来ていたのは少し予想外だったが」

「そんなのは既に知っている。それで?」

 

 ウィザードはタブレットに目線を戻すも、意識はピュアホワイトの方に集中させている。

 

「私が聞きたいのはお前の目的だ。組織の目的は『国を改革する』とかなんとかだが……ぶっちゃけ私としては異世界の国事情など興味がない。ただまあこういう組織を纏めるのにそれっぽい大義を掲げる必要があるのは分かる。……お前も私と同じで、この機関のそれとは別の目的があるのだろう?」

「…………」

 

 一拍の間、部屋の中が静寂に包まれる。いや正確には、壁を揺らすほど勢いの強い換気扇の音だけが響いていた。

 お互いの首に刃物が添えられたと見紛うほどに張り詰めた空気。しかしこの場に居る2人はたかが空気が張り詰めたくらいでは一切動じない程の精神力を持っている。

 

 

 ウィザードは伏せていた目を上げると同時に。

 

 手に持っていたタブレットを勢いよく机の上に放り投げた。

 

 

「ハッキリ言っておくが、この国の教育体制は浮遊人格統合技術とかいう一つの技術に頼り切りで先細りが丸見えの腐りかけのゴミカスだ」

「それは何度も聞いた。だからその体制を変えると言うんだろう?」

「ああ。これは機関の目的であり私の目的でもある。……しかしまあ確かに……お前の言う通り、私の目的はもう一つある」

「何だ?」

()()()

 

 

 それは偶然にも、ピュアホワイトと似通った目的であった。

 

 

「誰だ?」

「私が……まあ前の世界での話だが、生涯で唯一惚れた人だ」

「ほう」

 

 少しだけ興味のボルテージが上がったようだ。組んでいた腕を解く。

 壁に預けていた背中を離し、机の上に腰掛けるピュアホワイト。

 

「そういうロマンチックなタイプだとは思わなかった。どんな奴だ?」

「美しい人だったよ。見た目も勿論だが……何よりもその生き様が美しかった。死に追い詰められた時でも自分の意思を貫き通すその姿がね。私の考え方も随分その人の影響を受けている」

「ククッ。そうかそうか……会える手掛かりは掴んだのか?」

「全くだ。この世界に既にいるのかも、まだいないのかも。我の強い人だったから、宿主の体をすぐに乗っ取って何かしらアクションを起こすと思うんだが……」

 

 

 ウィザードは頬杖を突き、部屋の隅の上部にある換気扇の方を見る。

 その三枚羽が何十周もするのを静かに眺めてから……思い出したように口を開いた。

 

「そうだ。あの人の……まず最初に言うべき特徴があった」

「ん?」

 

「私の世界では、その人は……『史上最悪の殺人鬼』と呼ばれる程の人殺しだったとね」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

『屋敷の外にいっぱいあるんだよ。人を数人殺してさぁ、自分が無敵だって一番イキってる時期の馬鹿共の気配が……な』

 

 ハンガーがいきなりおかしな事を口走った。

 思わず彼女の方――――何もない方向を見て数秒ほど固まってしまったが、すぐに顔を逸らす。

 

「どうかしたかい?」

「あ、いえ、何でもないです……」

 

 すぐに顔を逸らした理由は、目の前に座っている宗次郎に怪しまれないためだ。

 人格持ちの娘がいる彼の前で不審な動きをすれば、すぐに自分も人格持ちだとバレるだろう。それを防ぐために顔を逸らしたのだ。

 

 

 それにしても……一体どういう事だ?

 屋敷の外に人殺しの気配があるとか物騒すぎるだろ。ハンガーが殆ど確信をもって言っている以上、多分屋敷の外に何かがいる事自体は間違いないんだろうけど。

 

 俊介は少しだけ言葉を濁しつつ、宗次郎に問いかける。

 

「あの……この家のセキュリティって、かなり厳重ですよね?」

「ん? ああ、国家認定の人格持ちの家は特にセキュリティを厳しくするよう言付けられていてね。その為の補助金も国から降りている。この家も至る所に設置された監視カメラに不審者が映れば、すぐに近隣の警備会社から人が駆けつけてくるようになっているんだ」

「そうですか……」

 

 

 そりゃあそうだ。そんな簡単に突破されるようなセキュリティを敷いている訳がない。国認定の人格持ちってのは明らかに普通の人格持ちとは扱いが違うし、それぐらいの優遇はされているだろう。

 

 けど相手はそんなセキュリティを突破して、家の周りを囲んでる訳だ。

 何人かで強盗に来たって素人連中ではないだろう。そもそも人殺しなんてやってる奴らが素人な訳ないし。

 

 

「それにしても、なぜ突然そんな事を?」

 

『――――俊介わりぃ。体奪うぞッ!!』

「なッ――――」

 

 

 俊介に覆い被さるようにハンガーが体を重ねる。

 

 

 一瞬の硬直。

 

 

 

 

 

 

「!? 雰囲気がッ――――」

「黙っとけオラァッ!!!」

 

 

 ハンガーが操る俊介の両足が、宗次郎と俊介の間にある机を勢いよく蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされた机が向かう先は――――宗次郎の顔面。

 

「ッ?!」

 

 咄嗟に両腕で顔面をガードする宗次郎。

 しかし余りの勢いに椅子ごと吹き飛ばされ、背面にある壁へとしたたかに背中を打ち付けた。

 

「かハッ……!」

 

 初老に入って久しい体には余りに強すぎる衝撃。

 肺の中に溜まった空気が口から体外に飛び出す。机を防いだ腕にもかなりの痛みがある。

 

 事態が読み込めないまま、突然机を蹴り飛ばした俊介の方に目をやった宗次郎が次に見たものは――――。

 

 

 

 

 ――――――――バッキャアアアアアアン!!!

 

 

 

 

 黒く細長い()()が、先ほどまで自身が座っていた場所を通過し。

 まるで豆腐でも切るみたいに。

 

 

 屋敷を縦にぶった切ってしまった光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく……面倒くせェなァ~……」

 

 酒臭い息を吐く男。髑髏のマークが入った帽子を被り、胸を大きく曝け出したスーツ姿という意味不明な格好をしている。

 そして、その右手には人間の胴体程の太さがある黒い鎖が握られていた。

 

 

「おい、何を考えてるんだ……!」

 

 男に駆け寄る、軍隊のような武装を身に纏った乳のデカい女。

 酷く困惑した表情で男の肩を掴み、自分の方に無理やり向けた。

 

「今回の作戦は夜桜紗由莉の部屋にある設計図を回収するだけの筈だ! ここまで大規模な破壊は想定されてないッ!」

「うるッせェなァ~~!! 要は設計図を回収すりゃあいいんだろォが!!」

 

 男は手に持った鎖を勢いよく後ろに引く。

 それと共に、屋敷をぶった切った鎖が勢いよく彼の元に戻っていった。優に100メートルを超える長さの鎖、その一番先に付いていたのは厳ついデザインをした船の錨だった。

 

 左手で飛んできた錨を受け止め、地面に突き刺す。

 そして懐に入れていたステンレスのスキットルを取り、キャップを親指で弾き飛ばして勢いよく中の酒をかっくらった。

 

 

 アルコール臭の強くなった息を深く吐き、男は言葉を続ける。

 

「屋敷をこう……8個位にぶった切ってよォ、丸ごと持って帰ればいい話だ。設計図なんざ後で残骸から回収すりゃあいい……」

「馬鹿かお前は……ッ?! 屋敷の中の人間も全員死ぬぞ! 皆殺しは作戦に組み込まれてない!!」

「だが『やっちゃいけねェ』とも言われてねェなァ~……」

 

 スキットルを再び口に付ける。

 が、中の酒がなくなってしまったようだ。

 

 短い舌打ちの後にそれを投げ捨て、心底面倒くさそうに言う。

 

「それに、なぜ未だに屋敷の奴らが皆殺しにされてないのか、不思議で仕方ねェバケモンもいるしよォ~……」

「は……?!」

 

 

 男は両断された屋敷の二階。

 壁に身をひそめるようにこちらを窺う青年に顔を向けた。

 

 視線を逸らさないまま地面に突き刺した錨を左手で取り、肩に担ぎながら叫ぶ。

 

 

 

「――――降りてこいやァ!!」

 

 

「もう一発、オレ様の錨をぶち込まれたくなかッたらなァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……う、お、何じゃこりゃ……」

 

 ハンガーに体の主導権を返してもらった俊介。

 先ほどまでは何の変哲もなかった部屋がものの見事に両断されており、思わず言葉が口から漏れ出る。

 

『悪い、ちょっと体奪わせて貰ったぜ。じゃねえとあの夜桜の父親が死んでたんでな』

 

 彼女の言葉に俊介は一瞬、両断された部屋の向こう側にいる宗次郎に目を向ける。軽い怪我はあるかもしれないが命に別状はなさそうだ。

 

 俊介はボロボロと崩れる床に気を付けながらも、すぐハンガーの方を向いて口角を上げる。

 

「いや、いい。寧ろいい判断だった。ありがとうな」

『……にへ』

 

 頬を赤らめるハンガー。俊介はすぐに顔を逸らし、外の様子を窺い始めたので気付かない。

 

 屋敷の外の庭に8人ほど突っ立っている。

 その内の1人、スーツ姿の男はとんでもなくゴツイ鎖を持っていた。屋敷を両断したのはあの男だろうか。だとしたら恐ろしい膂力だ、普通の人間が出せるような力ではない。

 ほぼ確実に異世界の人格持ちだろう。

 

 

 そこまで俊介が推察した所で、向かい側にいる宗次郎がゆっくりと身を起こした。

 

「う……ぐ、日高君……これは、一体……」

「分かりません。変な奴が屋敷を襲ってきたみたいで……」

 

 俊介は宗次郎に顔を向けず、屋敷の外の様子を窺ったまま言葉を返す。

 

 

 体を起こし、痛む腕を抑える宗次郎。

 先ほどまでの落ち着き払った顔を歪め、恐怖に顔を引きつらせながら、俊介に向かって上ずった声を放った。

 

「さッ、さっきの君はとても恐ろしい気配を放っていた……!」

「君が人格持ちなのはどうでもいい!! 私に隠していた事もだッ!!」

 

 

「だが……きッ、君の中にいる()()は、一体『何だ』ッ…………?!」

 

 

 恐怖に塗れた宗次郎の言葉。

 そんな感情を向けられることに慣れているハンガーは、『フン』と軽く鼻を鳴らした。

 

『助けてやったのに言ってくれるじゃねえか。……まあいいや、いつも通り適当に誤魔化しとけよ俊介』

 

 

 俊介は殺人鬼が13人も宿っているのを隠したい。ハンガーはそれを知っている。

 だからこそ、彼女は俊介に適当に誤魔化すように言ったのだ。

 

 

 

 ――――しかし。

 

 

 

 屋敷の外を窺っていた俊介が、くるりと宗次郎の方に振り返った。

 目を細め、声の端に静かな怒りを滲ませながら、彼に向かって低い声を放つ。

 

「宗次郎さん。『何だ』って言い方は止めてください」

『な? おい、何言ってるんだ俊介』

 

 ハンガーにとっても予想外であった。

 いつも通り、俊介が適当な嘘を言って誤魔化すと思っていたのだ。しかし実際は、俊介は声に怒りを滲ませながら宗次郎を責めるような言葉を言っている。

 

 彼女が止める間もなく、俊介は言葉を紡ぐ。

 

「俺の人格のハンガーは、確かに恐ろしい奴です。けど……7年も一緒に過ごしてる家族同然の奴で、大切で……とても頼れる奴です」

「今、貴方の命を助けたのだってハンガーなんです。……謝ってください」

 

 

 強い口調。怒りの滲んだ言葉。

 先ほどまで、どちらかと言うと優し気な印象だった青年が放ったそれは、恐慌状態に陥った宗次郎を正気に戻すには充分だった。

 

 宗次郎は腕を押さえつつ、何処にいるかも分からないハンガーに向かって頭を下げる。

 

「……すまなかった。恩人を侮辱してしまったこと、許してほしい」

 

 

 

 ――――、一拍。

 

 世界から全ての音が消えたような静寂が一瞬起きた後、俊介は言葉を吐いた。

 

 

 

「今から外にいる連中を倒して来ます」

「だ、大丈夫なのか? 大人しく警察に任せた方が」

「間に合いません、確実に。……俺も警察に身元を調べられると少し不味いんです。すぐに倒して、夜桜さんの部屋を調べたら出発します」

 

 俊介がそう吐くと共に。

 

 

 

「――――降りてこいやァ!!」

 

 

「もう一発、オレ様の錨をぶち込まれたくなかッたらなァッ!!!」

 

 

 

 

 鎖を持った男の空気を震わせるような怒声が響いた。

 このまま警察を待っていても、この屋敷がボロボロに砕かれるだけだ。

 

 

 俊介は両足の主導権をハンガーに渡し、両断された部屋の隙間から一階に降りる。

 そして一階に到着すると共に、すぐ傍にいたハンガーは俊介に問いかけた。

 

『なんでアイツに、俺の事を明かして、謝罪までさせたんだ……?』

「…………さあ」

『今までずっと俺の事を隠してたじゃねえか。なんで今になって……』

「分かんね」

 

 俊介自身ですら先ほどなぜあんな事を言ってしまったのか、詳しい理由を自分で説明できなかった。

 

 

 ただ。

 

 

「ただ……なんか、ムカついたんだよ。夜桜さんの父親だってのは分かってるけど、思わず言葉が出ちまった」

『…………』

 

 

 その言葉に、ハンガーは一拍置き。

 俊介の背中に勢いよく抱き着き、腕の力を強めつつ、彼の耳元で囁くように言った。 

 

 

『俊介』

「何?」

『俺、お前の事が本当に好きだぜ』

 

 ストレートな告白。

 余りに率直すぎる言葉に、俊介も思わず顔を赤らめる。

 

「……小恥ずかしいからやめてくれ。というか外の奴らを倒すの、実質お前頼りなんだから気合入れてくれよ」

『ああ、いいぜ。全員すぐにぶっ殺してやるよ。今ならダークナイトだって倒せそうな気分だぜ』

「殺すな殺すな、最悪半殺しに留めろって」

 

 

 先ほどまでの暗い雰囲気を晴らすような、明るい会話と共に。

 庭に待ち構える襲撃者に向かって2人は歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 






結局人格持ちの秘密ぶっぱしてんじゃねーか!
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