殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#68 黒い鎧=ピュアホワイト=?

 

 

 

 

「あのさぁ……」

「すみません。でも一番詳しいのがマオしかいないんで、ここに来る以外にどうしようも……」

「いや別に……いいんだが……」

 

 午後七時。

 夜も更け始めた頃、俊介は菓子折りを持ってマオの元を訪れていた。

 

 流石に何度も何度も訪れているためか、マオも『またお前か』と言った風な呆れた表情を浮かべている。

 俊介は軽く頭を下げながら、彼女に連れられ、リビングに通された。

 

 誰もいないがらんどうとしたリビングに座り、俊介は少しだけ辺りを見回した後にマオに問う。

 

「その、親御さんは何処に?」

「まだ帰って来ておらん。旅館も潰れ、デパートも謎の強盗団で閉鎖し、今は街の料理屋でバイトより少し上の給料で働いておる……。不運な奴よ」

「それは、何というか……」

 

 俊介も言葉に詰まるぐらいの不運っぷり。 

 返答に困った俊介を見かね、マオが「まあその話はともかく」と無理矢理話を切り上げた。

 

 

「平民がここに来た用は大体分かっておる。……例の黒い鎧の件だな?」

「はい。実は色々あって、その黒い鎧……ピュアホワイトって名乗ってる奴の特徴をいくつか知ることが出来たんです」

「あ? ピュアホワイト……白無垢だと? 中々ぶっ飛んだ偽名だな……」

 

 なんで白無垢なんて言葉まで知ってるんだ……。

 そんな俊介の思考をマオは平然と読み取る。

 

「アイドルだしな。ファッションくらいは気に掛ける」

「流石に色々知りすぎじゃないですか……?」

「儂は人間と同程度の知能を持った魔族の王だったんだぞ。情報収集の大事さは分かっている」

 

 そういうもんなのかな……。

 流石に白無垢なんて知らなくてもそこまで大事じゃない気はするが、マオが言っているのは多分、必要不必要に関わらず何でも知っている事の大事さなんだろう。多分。

 

「そーいう事だ、平民。ではホレ、さっさとそのピュアホワイトとやらの情報を話せ」

「あ、はい。えーっと」

 

 

 マオに促され、俊介は一枚の折りたたまれたメモを懐から取り出した。

 それを開き、書かれた内容を静かに復唱する。

 

「その黒い鎧は、2メートルほどの装飾が施された黄金の十字架を空中から引き抜いたそうです」

「…………」

「その十字架は剣になっていて、一瞬で数人の胴体を斬り裂いたそうです。そして自分の事を『神に仕えていた高潔な騎士』と……」

「…………」

 

 俊介が言葉を吐く度に、マオの表情が重く暗い物に変化していく。

 橘から聞いた話のメモを読み終わった俊介だったが、マオが何も言おうとしないので何も言えず、長い沈黙がお互いの間に走る。

 

 たっぷり3分ほどの静寂。

 意を決したようにマオは口を開いた。

 

 

「……大聖騎士、サリアス・ネル・ラスディアノ」

「え?」

「巨大な黄金の十字架の剣。そんな長剣を軽々扱う聖騎士は、サリアスしかおらん……」

「……どんな奴なんですか、そのサリアスってのは」

 

 俊介が真剣な面持ちで問いかける。

 その言葉を聞いたマオは一度立ち上がった後、台所に行き、お茶の入ったコップを2つ持って戻って来た。

 片方を俊介の前に置き、彼女はゆっくりと元の席に座る。

 

「適当に飲め。少し長い話だ」

「…………はい」

 

 

 マオは自身の前に置いたコップの茶を少しだけ飲んだ後、静かに語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――魔族と人間はお互いの存亡を賭け、総力を挙げての戦争を行っていた。

 

 

 戦争のきっかけは、帝皇国の第三皇子が惨殺された事件であった。

 他国の遊覧から街道を通って帰る途中、視界の悪い森の中で十数人以上はいた護衛の精鋭騎士ごと皆殺しにされていたのだ。

 

 死体が人間業とは思えない程にバラバラになっていた事。

 護衛の騎士の武装が幾つか紛失していたものの、皇子の持っていた大量の金品が一切盗まれていなかった事。

 

 人間側はこれらの状況証拠から、魔族が率いた魔物の仕業として魔族側を糾弾した。

 第三皇子を虐殺したのは卑劣な魔族であり、賠償金と魔王の首を要求する。

 

 しかし魔族側もまた、事実無根の冤罪だと断固として主張した。

 魔族は魔物を操る術を持っているが、かといって全ての魔物を支配している訳ではない。人間が犬をペットとして飼っているが、野良犬がいないかと言えばそうではないように。

 たとえ野良魔物が第三皇子を襲ったとして魔族側には責任は一切ない、と。

 

 結局。

 一体第三皇子と護衛騎士を虐殺したのが誰か分からぬまま、魔族と人間が相手に抱えていた鬱憤が爆発。

 お互いを滅ぼさんとする総力を挙げての戦争が始まった。

 

 

 魔族側にある国は魔王国ただ一つ。

 対して、人間は魔族よりも遥かに数が多く、それに比例して国も複数あった。

 

 つまりこの戦争は、厳密にいえば魔王国VS人間国家連合なのだ。

 

 

 連合に参加した国家全てが『戦争で活躍した国ほど多くの魔族の土地の所有権を得る』という条約に調印。

 魔族の土地は作物が育ちにくい枯れた土地である。その代わり、人間側の土地よりも鉱山資源が圧倒的に豊富であり、超級魔道具の製作に使われる超高純度の魔石も大量に掘る事ができる。

 

 他にも希少な鉱石を大量に掘る事ができる魔族の土地は、どの国にとっても喉から手が出るほど欲しい物である。

 よってどの国も分かりやすい活躍である、魔族側の王たる魔王の首を狙っていた。

 

 

 ……そして、そんな連合の中でも、他国家とは一線を画す活躍をしている国があった。

 

 

 それは――――()()()

 

 

 世界を統治する三柱の神を崇める宗教を国教とした、教皇を神の代理人としてトップに置いた宗教国家である。

 

 その聖教国が他国よりも遥かに活躍していた理由は、『聖騎士団』の存在だ。

 

 深い信仰心。

 高い魔法の技量。

 卓越した武器の腕前。

 

 これら全てが揃ってやっと名乗れる聖騎士が100人近く集まった聖騎士団は、人間より高い能力を持つ魔物と魔族を相手に一切引けを取らず、魔族との戦争で多くの首級を上げていた。

 

 

 ……そして、聖教国にはもう一つ。

 『第十二使徒』という、神の言葉の代理人である教皇を護衛する12人の親衛隊も存在した。

 

 この第十二使徒になるには、聖騎士のように全てを兼ね備えたバランス型の強さでなくてもいい。

 とにかく強ければいいのだ。

 

 たとえ魔法が一切扱えなくとも、剣の腕で全てをねじ伏せられるなら第十二使徒にはなれる。逆もしかりである。

 

 そういう理屈や常識を超えた、純粋な強さだけで選出されたのが『第十二使徒』なのだ。

 この第十二使徒は第一番から第十二番まで、強さの順で番号が並んでいる。つまり第一番が最も強く、第十二番が最も弱いという訳だ。第十二番でも十分すぎる程強いのだが。

 

 

 

 ……さて。

 『大聖騎士サリアス・ネル・ラスディアノ』について語るのに必要な情報はひとしきり語っただろう。

 

 

 これからやっと、サリアス個人について語ろう。

 

 

 

 ラスディアノ家。

 教皇国の建国当初から、代々聖騎士を輩出し続けていた歴史のある騎士の家系だ。

 そして、サリアスはそのラスディアノ家の10代目当主である。

 

 サリアスは幼少期から厳しい訓練を受け、その目覚ましい才能を開花させ、15歳という歴代最年少で聖騎士の称号を拝命した。

 

 ……15歳の時点で身長は2メートルを超えていたらしい。

 身の丈とほぼ変わらない巨大な剣を振るうのは、幼少期から長剣を使っていて出来た癖だからだそうだ。怪物女め。

 

 聖騎士となった後も成長は止まらず、18歳で第十二使徒の末席に加わる。

 

 そのまた2年後の20歳には聖騎士団の副団長となり、第十二使徒の第五番まで昇格。

 

 そして23歳になった頃、ついに聖騎士団の団長になった。

 それと同時に第十二使徒の第一番に昇格。ラスディアノ家の10代目当主にもなる。

 

 名実ともに、サリアスは聖教国で一番強い聖騎士となった訳だ。

 

 

 その時、誰かが言った。

 

 ラスディアノ家の現当主はまさに聖騎士の鑑のような人物である。

 

 その圧倒的な才覚と実力はもはや、普通の聖騎士の枠にはとどまらない。

 

 彼の者こそ、全ての聖騎士が模範として目指すべき存在である。

 

 

 故に名付けられた称号が、()()()()

 

 

 

 ……これが、お前の言うピュアホワイトの正体。

 聖教国最強の女。

 

 『大聖騎士 サリアス・ネル・ラスディアノ』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 マオの話が終わった時、俊介は自身の口内が非常に乾燥しているのに気が付いた。自分でも気づかない程酷く緊張していたらしい。

 彼女に入れてもらったお茶を少し口に含み、飲み込んだ後、口を開く。

 

「……強い、よな?」

「強い。儂の世界の人間では一番と言ってもいい強さだな。戦場に奴が出てきただけで戦況が変わるレベルだ」

 

 そんなに強いのなら、もしかして。

 ダークナイトにも勝てたりするような怪物なのか……?

 

 

 そう俊介が思ったのと同時に、マオが首が取れそうな勢いで頭を横に振った。

 

「ないないないない。アニーシャには勝てない、無理無理無理。サリアスも一撃で死ぬわ」

「いっ、一撃!? いやでも聖教国で最強って」

()()()ではな。つか()()()()としてはな。そもそも魔族も人間も戦争に勝った後で立て直せるくらいには余力を残すつもりだったのに、アニーシャのせいで戦争が長引きまくってどっち側もたとえ勝ったとしても立て直しが困難なレベルで消耗して泥沼に…………ウッ胃が

 

 マオが突然お腹を抱え、苦しそうに眉間にしわを刻んだ。

 苦しそうな彼女を気遣いつつ、俊介は問いかける。

 

「ダークナイトって何なんですか……?」

「儂が知る訳ないだろ……?! 平民、お前もいい加減アニーシャの強さをキッチリ把握しておけ……! サリアスに負けるかもとか考えてる時点で何も分かっとらんぞ!」

「そんな事言われても……。ダークナイトを暴れさせて、力量を確かめる訳にもいかないですし……」

「当たり前だバカ、一体何十億人殺すつもりだ!! 儂だけは助けてください!!」

 

 えぇ……。

 マジで何なんだろうな、ダークナイトって……。

 

 

 

 

 

 暫く痛そうにお腹を抱えていたマオだったが、3分もするとやっと痛みが引いて来たらしい。

 頬に流れる脂汗を拭い、わざとらしく「ゴホン」と咳払いをする。

 

「……平民、お前が未来革命機関と戦うのはもはや避けられぬだろう。その上で一つ言っておく」

「はい」

()()()()()()()()()。アニーシャに完敗するとはいえ、奴も桁外れの強者の1人だ。元の世界の儂でも近距離では相打ちされるほどの強さだった」

 

 

 戦うな……か。

 

 

 それほどまでに強い奴、戦う必要がなければそれに越したことはないが。

 果たして未来革命機関に夜桜さんを助けに行った時、そのサリアスに見つからないように逃げ切れるだろうか。

 

 

 そこまで考えていた時。

 ふと俊介は、軽く疑問に思った事を口に出した。

 

「……そういえば、そのサリアスってのは聖騎士なんですよね? つまり法律とかをキチンと守る人って認識で、大丈夫ですか?」

「そうだな、どちらかと言うと法を執行する側だ。無論神を信仰し法を遵守する心がなければ聖騎士にはなれん」

「じゃあ……なんで今、未来革命機関なんてヤバい組織に加担してるんでしょうか?」

「…………」

 

 そう。

 聖騎士とまで呼ばれる程の人物が、どうして一般人誘拐殺害上等のヤバいテロリスト組織に加わっているのか。

 

 

 俊介の言葉にマオは少しだけ考え込む。

 が、存外すぐに口を開いた。

 

「儂の見立てでは……アニーシャが関係していると思う」

「……どうしてですか?」

「そもそもだな。アニーシャの鎧を真似た物を作って着ている辺り、アニーシャに強い執着心があるのは間違いない。儂が死ぬまではサリアスは聖騎士の鑑のような女だと言われていたし……恐らく儂の死後、アニーシャとサリアスが出会った時に何かがあったのだろう。聖騎士の心を捨ててテロリストに加担するのも厭わない残虐な人間になる、何かが」

 

 

 うーん…………。

 

 

「ダークナイト。ちょっと出て来てくれ」

『グォ?』

「ひっ」

 

 瞬時に出てきた半透明のダークナイト。俺の思考が読めるせいでダークナイトの姿が見えてしまい、か細く悲鳴を上げるマオ。

 そんな彼女を無視しつつ、俊介はダークナイトに問う。

 

「サリアスって凄い聖騎士と、死ぬ前の世界で何かあったりした?」

『…………』

 

 腕を組んで考え込むダークナイト。

 顔を上下左右のあちらこちらに向け、低い獣のような唸り声をあげて考え込むが……。

 

『…………?』

 

 最後には首をこてんと傾げ、一切合切さっぱり分からないと言った風な雰囲気を出した。

 全然だめじゃねえか。

 

「本当にダークナイトと関係あるんでしょうか?」

「いやそれ以外に考えられん……。多分、サリアスには人生を変えるような出来事だったが、アニーシャには割とどうでも良い事だったとかそんなんじゃないのか?」

「流石に……」

 

 そう言いながらダークナイトの顔を見る。

 きょとんとした様子でこちらを見ているダークナイトを見て、俊介は一瞬、案外ありそうだなと思ってしまった。

 

「なあ、マジで何があったか覚えてないのか、ダークナイト?」

『(´・ω・`)』

 

 どういう感情が籠った顔文字なんだよそれは。

 

 

 

 マオがコップの中のお茶を飲み干す。

 俺のコップは既に空になっている。彼女は空のコップを2つ回収し、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……まあ、頑張れ平民。儂は結城に変わって寝るわ……もう胃が痛ェわ……」

「あ、ちょっと待って下さい」

「何だ?」

「その……申し訳ないんですが、未来革命機関を倒すのに協力してくれませんか?」

 

 俊介は少し本気で頼み込んだ。

 まさかピュアホワイトなんて名前の黒い鎧が、そこまでの強者だとは思わなかったのだ。未来革命機関に攻め込む危険度は間違いなく跳ね上がった。

 

 その点、マオは元魔王で強いだろうし、信頼できる性格をしているしで味方になってくれればこの上なく心強い。

 

 

 しかし。

 

「悪いが無理だ、平民」

「……理由を聞いても、大丈夫ですか?」

「良いだろう。まず平民の周囲には元々危険が多すぎる。そしてサリアスと戦うのは危険すぎる。最後に儂にメリットがない。よって協力はしない。分かったか?」

 

 素早く協力しない理由を並べ立てるマオ。

 確かに、考えれば考えるほどマオが俊介に協力する義理はない。例え俊介が負けた所でマオは全く痛手を負わないからだ。

 

 まあ、俊介も恐らく断られるだろうとは思いながら頼み込んだのだ。

 仕方ないと思いつつ立ち上がると、マオがぼそっと口を開く。

 

「……まあ、結城が手伝うと言えば……協力してやらんこともないが」

「えっ?」

 

 俊介がその言葉について聞き返すよりも早く、マオは腕を頭の後ろで組み、わざとらしい声で大きな独り言を言い始めた。

 

「でも普通に頼み込んだだけじゃ無理だろうな~。結城は母親が殺人事件を起こしてショックが大きいし、危険な事には関わりたがらないだろうしな~。結城が心から協力したいと思う『何か』があればな~」

 

 

 …………。

 これはきっと、マオが協力する条件を教えてくれているのだろう。

 

 宿主の、折川結城の説得……。

 

 母親が殺人事件を起こしてショックを受けているのは分かる。それで、もう父親と危険から遠ざかって静かに暮らしたいと言うのも納得できる。

 そんな彼女が危険な事に加担する覚悟ができる『何か』を見つけて来れば、何とかなるかもしれないってことか。

 

 ……けど、今はその『何か』を持ってないな。

 今までマオと話してばかりで、宿主の折川結城ちゃんとは殆ど話したことがない。何を欲しているのかもよく分からない。

 

 いつかその『何か』を見つけられるだろうか?

 未来革命機関を倒した後には榊浦豊が待ち構えているし、マオの協力はぜひ欲しい。見つけたらすぐに彼女を説得しにこよう。

 

 

「ありがとうございました。今日は帰ります」

「ああ。気を付けて帰れよ、平民」

 

 

 俊介はマオに向かって頭を下げた後、帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 




戦争のきっかけになった事件の犯人?
一体誰の仕業なんだ……?
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