「は……はあッ!?」
白戸は焦っていた。
なぜか?
校長室から出て辺りを散策しつつ夜桜の在籍する教室に向かう途中。
学校の敷地内に突如として、巨大な青い火柱が生えたからだ。
いや何で?
(な、何者かの魔法によるアクション……!? いや魔力の気配を微塵も感じないッ! じゃあ何……なにアレ?)
本当に分からなかった。
魔力の気配が一片もしないとなると、物理的な現象という事だが……いくらなんでも流石に木造建築物が燃えたくらいで長さ百メートル超えの青い火柱は出来ないだろう。
しかし今、確実に分かること。
それは、あの青い火柱は物凄く目立つという事だ。
当然生徒達は授業始まりのチャイムが鳴っても席に着くことなく、突如学校内に生えた火柱に意識を奪われている。
教師達がドタバタと走り始め、通報を受けた警官や消防官が駆けつけるのは時間の問題だ。
この後の展開は白戸にも容易に想像できる。
消防官が来て消火活動開始。
それと共に、警官と教師が音頭を取って生徒全員を速やかに避難・帰宅させる。
しかしあんな火柱が傍にある状態で、まだ未成熟な生徒達が大人しく出来る訳がない。恐怖する者に興奮する者、多種多様な反応を見せて確実にパニックに陥る。
そして、そんなパニック状態の中。
こそこそと隠れて何かをされた時、魔法を使える白戸ですら発見するのは非常に困難だ。
つまりこの状況は、隠れて何かをしたい者にとっては非常に好都合。
いや、隠れて何かをしたい者があの火柱を発生させたと考えるべきだ。
(私の襲来を察知し、すぐさまアレほどの事をする。十中八九
白戸も正規の手続きを取ってこの学校にいる訳ではない。校長に軽い催眠魔法を掛けて自分に許可を出したと思い込ませたが、キチンとした書面はないので調べられればすぐにバレる。そしてバレた先が警官であったとすれば、非常に厄介だ。
つまり白戸は警官が乗り込んでくるまでに、この混乱した学校から怪人を見つけ出さなければならない。
――――ハッキリ断言できる。
この状況で怪人を時間内に見つけ出すのは不可能だ。
これで簡単に見つけられるようなら、人対は怪人に今まで煮え湯を飲まされ続けていない。
故に。
白戸はそもそも、
「……ふう。仕方ありませんね」
白戸は火柱に手を向ける。
「では私も少し荒っぽく行きましょう。なに、今日中にはみんな出られますよ……」
彼が火柱に向けた手を勢いよく握った瞬間。
天空に伸びていた火柱の先がぶわっと広がっていく。
広がった火はどんどん大きさを増しつつ、地面へとその手を伸ばしていく。
そして三十秒も経った頃には。
この学校をすっぽりと覆う、半球状をした青い業火の帳が完成していた。
『――――ッ! 俊介、あの眼鏡が何かしでかすつもりじゃ!』
「は……ッ?!」
キュウビの声と共に、俊介は窓の外に視線を向ける。
先ほどフライヤーが発生させた青い火柱の先が段々広がって行き、地面に伸びていく。
そして少し見ている間に、高校の全てが炎のバリアに囲まれてしまった。
『学校の人間全員を逃がさない気か!! し、正気か……?!』
普段冷静沈着なガスマスクでさえ、窓枠に手を掛けて身を乗り出す程に驚いていた。
無理もない。こんな事、公的機関である警察というよりは凶悪犯罪者がやるような事だからだ。
「い、嫌……なにアレ!」
「助けて、助けて!!」
「電話繋がらない! ネット繋がらない!!」
学校の生徒達は漏れなく大パニックに陥っていた。
先ほどまで青い火柱を面白がって見ていた連中ですら、自分達が閉じ込められたと分かると一転して表情を恐怖に歪めている。
授業の為に教室に来た教師ですら、窓の外の異常な光景に顔を青くして固まっていた。
「く……キュウビ、あの炎のドームの詳細は分かるか!?」
俊介は机から立ち上がり、教室の中で騒ぐ生徒達の渦に身をひそめながら彼女にそう言う。
幸い学校中から狂乱の声が響いているため、俊介が一人でぼそぼそと人格と会話していたとて怪しむ者は誰もいない。
キュウビは窓の外を見つつ、目を細めて答える。
『火を出現させたのではなく、フライヤーの出した火の形を変えているだけじゃ。無から火を生み出すよりも体力消費は遥かに少ない、眼鏡が解かなければほぼ永遠に続くと考えていいじゃろう』
「そうか……」
『それに、闇雲に突破するのもおすすめせん。わらわならば余った体力で、何者かが炎を潜り抜けた位置を自動で感知する機構を確実に仕掛ける。この炎のバリアを脱出した人間を絶対に追いかけてくるじゃろう』
何でもありかよ。いやこっちもあまり人に言えない位の事はやったが。
キュウビの見立てではそういう自動感知的な仕組みがあるらしいし、実際やっているだろうなとは思う。高校全部を覆う炎のドームとか、そんな単純なのアラームみたいなのがないと簡単に脱出できるし。人格の力を使ってだけど。
出たら確実に感知される。
でも出なかったらパニック状態の生徒をしらみつぶしに探され、いずれ人対に見つかる。
なら出るしかあるまい。
「……多分、この教室を探しに来るよな?」
『確実にそうじゃろうな。俊介は夜桜に何度も関わっていたからのう。まずは夜桜の在籍していたクラスから探す……当然の行動じゃな』
そうだよなあ。
今この瞬間に榊浦美優を攫って逃げるのは簡単だ。
けれどこの教室を調べられて俺の正体がバレて、逃げた先をすぐ特定されたら何も意味ないし。
もう正体がバレるのは割り切る前提で行く。
けどせめて1日、2日……正体が突き止められるのを阻止したい。
そんなに悠長に証拠隠滅してる時間はないし、ここは派手に……。
派手に…………。
「……あのさ。旧校舎をあんな風にしておいて何だけど、俺、殺人やってないだけで普通に捕まった方が良い犯罪者になってない?」
『今更でござるか?』
「デスヨネー」
暴力事件を複数回と放火事件起こした高校生とか今すぐ少年院ぶち込んだ方が良いってレベルじゃねえぞ。
でも今捕まる訳にはいかないので、今暫く罪を重ねる事をお許しください神様。
「エンジェル」
『はい』
「全身代わる。この教室を人を殺さずに10秒でぶっ壊した後、ニンジャに代われ。榊浦美優を攫う」
『分かりました』
俊介は首に手を当て、目を閉じる。
そして一瞬の後に目を開いた時には、その瞳に浮かぶ気配は殺人鬼のおどろおどろしい物へと変わっていた。
「さて、ではやりましょうか。まあ……殺さなければいいのですから、少し派手にやりましょうか」
俊介の体を操るエンジェルは、天井に向けて右の拳を勢いよく上げる。
パニックに陥る生徒達の中、たった1人だけ落ち着き払ったまま拳を振り上げているのは誰がどう見ても奇妙な光景だ。白戸に見られれば一発で不自然な奴だと思われるだろう。
『おいちょ待て、お前、馬鹿か!
ヘッズハンターは彼女が何をしようとしたか分かったらしい。
しかし彼の言葉で止まるようなエンジェルではない。口角を少し上げつつ、振り上げていた拳で全力で床を叩いた。
――――バッッッゴォンッ!!
武装ヘリを素手で引きちぎり、パンチで戦車に穴を空ける怪力を持つエンジェル。
彼女が床を本気で殴れば当然厚いコンクリートですら余裕で貫く。いや、それどころではない。
――――ピシッ
エンジェルの開けた大穴からヒビが広がる。
そして次の瞬間。
――――ガラガラガラガラ!!
二階にある俊介の教室の床が丸ごと一階に落ち、一階と二階の吹き抜けが完成した。
ヘッズハンターは焦った表情で生徒達が全員死んでいないかを確認している。
幸いすぐ下の教室は余った机や椅子を置いていた場所のようで、二階の床の高さから一階の地面に叩きつけられるなんて事はなかった。机や椅子の足に体をぶつけて痛い思いはするだろうが。
ヘッズハンターは誰も死んでいないことを確認した後、ダイナミックブレイクをかましたエンジェルに声を張り上げる。
『え、エンジェル! 人間は数メートルの高さで死ぬんだぞ!』
「? 私達はみんな死なないと思いますが……」
『俺達はな!』
「そもそも俊介が壊せと言ったので壊したまでです。貴方にどうこう言われる筋合いはありません」
『いやそれは……クソッ俊介の奴、今日は何時にもまして倫理溶けてんな……!』
二階から落下した机と椅子。元々一階の部屋に置かれていた椅子と机。
それに瓦礫も散乱し、これを一から捜索しようと思えば少し骨が折れる。隠ぺいには十分だ。
「代わります。ニンジャ」
『ピッタリ10秒……ビジネスマンに向いているんじゃないでござるか?』
「それほどでも」
『皮肉でござる』
エンジェルから体の主導権を代わったニンジャ。
すぐさま廊下に出る……と思わせて、反対側の窓を開けて外に飛び出した。
『何して……うおっ!』
ヘッズハンターが窓の外に飛び出したニンジャに声を掛けた瞬間。
魔法で身を隠していたのだろう、廊下に突如として白戸が姿を現した。一階と二階が吹き抜けになった教室を見た後、再び魔法で姿を消す。
白戸が姿を消した瞬間、ニンジャは校舎の外のとっかかりを掴んで上に登り始めた。
キュウビとエンジェルは身のこなしがそこまで軽やかではないため、俊介の体の中に戻る。ヘッズハンターだけがニンジャの傍に付き、彼に話しかける。
『よく気付いたな?』
「拙者、身を隠すことに関してはトップオブトップでござる。高校を吹き抜けに変える人力重機と一緒にしないで欲しいでござるよ」
『中でエンジェルが聞いてるぞ。まあ殴られんのお前だし俺はいいけど……』
ニンジャは二階を越え、三階のトイレの窓から中に入る。
「榊浦美優の居場所は何処でござるか?」
『クッキングが追ってる。さっきは職員室で緊急職員会議をしようとしてたらしいが、この炎のドーム騒ぎだ。職員室の中も大パニックだろうな。アイツも中にいる』
「OK! 実に拙者好みな状況でござる。爆弾で国会議員を大量爆殺した時と同じ混乱っぷりでござるな」
『は?』
「おっと、いけないいけない。拙者の世界の、迷宮入りした事件の話でござるよ……」
こいつ未来革命機関と同じような所業をしたことあるんじゃないのか。
ヘッズハンターはその言葉を飲み込んだ。
職員室は二階にある。
まずは二階に降りなければどうにもならない。
女子トイレから何の臆面もなく飛び出すニンジャ。
廊下は相変わらずパニックの生徒でごったがえしている。現代人にとっては炎のドームに閉じ込められた上、電話もネットも遮断されているというのはかなり精神的に来るらしい。
だがニンジャにとっては非常に美味しい展開だ。
パニックが続けば続くほど、隠れる側としては非常にやりやすい。
「えい」
「うぐ……っ」
近くの男子生徒を歩きざまに絞め落とし、その体を隠れ蓑にしながら生徒の中を突き進む。
そして三階から二階に降りる階段に辿り着いた時、その男子生徒を階段の上から勢いよく蹴り飛ばした。
階段を転がり、腕か足の骨が盛大に折れる音。
命に別状はないだろう。
「きゃあーーーーッ!!!」
階段から落ちた男子生徒を見て女子生徒が悲鳴を上げる。
その悲鳴を背後にニンジャは再び窓から外に出て、すぐ下の窓から二階の廊下に入る。誰もが階段の方に注目を向けてニンジャの方には全く視線を向けていない。
ヘッズハンターは横を歩きながらニンジャに話しかける。
『お前やり口えげつないな……』
「んん? 星野の四肢を粉砕して病院送りにしたのは誰でござったか?」
『いやそれは……』
「大体、あんな骨折くらい数ヵ月で治るでござるよ。皮膚を骨が突き破ってもいないし、後で病院で固定して貰えばいいでござる」
ニンジャは赤の他人を傷つけた事に何の罪悪感も覚えないまま、二階の廊下を進む。
職員室は二階の廊下のちょうど真ん中辺りの位置にある。
ニンジャは少しだけ身を隠しつつ、職員室を窺う。
廊下と部屋の中を隔てる透明な窓から、職員室の中で大の大人が慌ただしく動く様子が見える。
恐らくパニックからある程度立ち直ったのだろう。中々に肝の太い優秀な生徒が数人、パニック状態に陥った教室を落ち着かせる為に来てくれと教師を呼んでいるが、肝心の教師達がパニック状態のために全く意味がない。
ニンジャは更に気配を消し、目を水平に動かす。
お目当ては榊浦美優一人。
彼女自身は猫背も相まって少し小柄だが、すぐ近くにオカマ口調の癖に身長180センチ超えの金属製の大鍋を振るって筋肉モリモリになったとか語るクッキングがいるはずだ。
メイクをした半透明の怪物。
それを目印に探せば、成人男性が小走りに駆け続ける職員室の中だろうと榊浦美優を見つけるのは容易かった。
「……いたでござる。…………チッ」
ニンジャは榊浦美優の姿を見た瞬間、反射的に舌打ちをしてしまった。
奴はこの意味不明な状況で他の教師たちと同様に慌てふためくどころか。
ブラックコーヒーを片手に、自宅で映画でも見ているかのようなリラックスぶりで窓の外を眺めていたのだ。
不気味に、そして美しく揺らめく青い炎のドームを目の保養にし足を組んでコーヒーを啜っていた。
『何してんだアイツ……』
ヘッズハンターも榊浦美優の姿を見て、そう呟いた。
そんな彼の言葉に、ニンジャは近くの壁を小刻みに指で叩きながら答える。
「あの女は、こんな状況で無策にリラックスするほどの底抜けの阿呆ではない。つまり、この程度のトラブルに対処できる何かを用意しているという事でござろう」
『…………それって例えば、昨日の上級兵士を呼んでたりするって事か?』
「分からん。とにかく面倒事が待っているのは確実でござる」
ニンジャは一瞬迷う。
このまま榊浦美優を誘拐していいものか。奴のあのリラックスぶり、確実に何かあると言っているような物だ。
しかしいくら隠密が大得意なニンジャといえど、魔法なんて理屈の通じない技を使う相手に延々と逃げ続けられるかは微妙だ。他の人対……牙殻や翠といった別の手段を使う者も集まって来れば、逃げられる可能性は更に下がる。
現状維持は逃げられる可能性がわずかだが存在する。しかし榊浦美優という特大の情報源は確実に失う。
今ここで榊浦美優を誘拐すれば確実に何かをしてくる。しかしそれを切り抜ければ榊浦美優を手に入れる事が出来る。
どちらの選択にしろ、リスクがある事には変わりない。
それならばまだ榊浦美優を得る選択の方がマシだと、ニンジャは職員室の中に足を踏み入れた。
『どう誘拐する? 教師を全員気絶させるか?』
「必要ないでござる。拙者の予想が正しければ……」
ニンジャは走る教師達を巧みに避け、榊浦美優が座る椅子のすぐ後ろで止まった。
彼が椅子の足をガンと蹴ると、榊浦美優は椅子を回転させてゆっくりと振り向いて来る。
彼女は半分くらいコーヒーの入ったカップを顔の横まで上げ、口角を不気味に上げる。
「やあどうも。化学の授業で何か質問かな?」
「殺すぞ。用件は分かってるな」
「おや……随分と苛烈な人格だね。まあエスコートしてくれると言うのなら、応じない訳にもいかないかな」
榊浦美優はカップを机に置き、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
すぐ傍にいたクッキングとヘッズハンターは、誘拐目標が自分から付いて来るという状況にまだ少し理解が追い付いていないようだ。
しかしニンジャには、先ほどのリラックスした様子である程度このクソ女が何を目的としていたか分かっていた。
この炎のドームは電波すらも遮断する。外部との通信手段はない。
そしてこの女が自分の力で炎を突破する力量はない。あるならとうに出ている。
つまり。
榊浦美優は、誰かが自分の身柄を目的としている事にいち早く気付き。
その誰かが炎のドームから出してくれることをここで待ち構えていたのだ。
そしてこのドームから出た瞬間に、回復した通信手段で……恐らく未来革命機関の兵士を呼ぶつもりなのだろう。
もしこれが自分とは全く関係ないトラブルだったとして、大人しく待機していれば勝手に解決される。
彼女にとっては『待つ』ことこそが最善の行動だったのだ。
職員室から2人で出るニンジャと榊浦美優。
少し人目は引いてしまうが、教師と生徒が学校の中で連れだって歩いていること自体は何も異常ではない。寧ろ榊浦美優という圧倒的なネームバリューを持つ者が練り歩く事で、生徒達の恐怖が若干和らぐほどだ。
2人は出口に向かいながら言葉を交わす。
といっても、一方的に榊浦美優がニンジャに話しかけているだけだったが。
「日高君のデータって私、実はそこまで知らないんだけどね。父の資料を盗み見ていただけだから」
「そうか。死ね」
「なぜ父が君にそこまで固執するか私には分かんないんだよ。世界最多の複数人格はサンプルとしてあれば嬉しいけど、母体の中で弄れば限界5~6体くらい宿るのが廉価で作れるし。夜桜と深い関係だったから一応気にはしてたけど」
「黙れ。殺すぞ」
「ちょっとくらい話してもいいじゃないか。融通が利かないね」
ニンジャは榊浦美優と言葉を交わすつもりは全くなかった。
むしろ未だに目立ったアクションをしてこない白戸の方に意識を向けていたのだ。
魔法で姿を消している白戸。
見られている感覚はない。だがどうにも引っかかる。ドームを出た瞬間に感知されるとはいえ、妙に静かすぎる……。
「…………」
ニンジャがくいくいと指を動かす。それはヘッズハンターに向けて、こちらに来いという意味合いの籠った動きだった。
静かに近づいて来たヘッズハンター。そして口元に耳を近づける。
ニンジャもまた、榊浦美優に聞こえない程度に口元で静かに呟く。
「体を代わる。一瞬で突破しろ。拙者は駄目だ」
『ああ……何で駄目なんだ?』
「何かがある。しかし拙者には分からん。ならば身体能力の低い拙者よりスピードのあるお前が適任でござる」
『……要は全力で逃げるって事ね。分かった』
ヘッズハンターがそう言い終わった瞬間に、ニンジャと榊浦美優は炎のドームのすぐ傍に辿り着いた。
正確には壁と窓を一枚隔てているが……こんなものはないのと同じだ。
「…………」
俊介の体が一瞬硬直する。
そして次の瞬間には、体の主導権はニンジャではなくヘッズハンターに移っていた。
浮遊人格統合技術の開発者兼研究者の榊浦美優にとってその光景は見慣れた物であり、薄ら笑いを浮かべながら軽口を叩く。
「おっ、今他の人格に体を変わったのかな? 次の人格はどぐッ――――」
――――バガァンッッ!!
ヘッズハンターは榊浦美優の顔面を躊躇なく殴った。
人外の身体能力で放たれる殴打は痩せぎすの軽い体を楽に吹っ飛ばし、背後にあった消火栓に彼女の背中が叩きつけられる。
幸い炎のドームの近くに寄ろうとする生徒はおらず周辺には殆ど生徒はいない。いたとしても、電波が何処かで繋がらないかと自分のスマホに集中する者のみだ。こちらに目を向けようとする者はいなかった。
「この状況で舐めた口利いて殴られないとでも思ってたのか? こっちはいっそ殺してやりたい気分だってのに」
ヘッズハンターは倒れる彼女にもう一発拳を振り下ろそうとするが、動きを止める。
今の一撃は榊浦美優を気絶させるという目的で振るったものであって、決して痛めつける為に行ったものではないのだ。決して色々な恨み憎しみが籠った一撃ではない。決して。
「一発で気絶しやがって」
気絶していなければもう一発ぶん殴ったのに、と。
そう思いながら榊浦美優の体を担ぐヘッズハンター。
彼女を担いだまま窓をするりとくぐり抜け、炎のドームの前に対峙する。
「……ふーっ……」
息を吐く。
ざりりっと土を掻く音を鳴らし、力強く地面を踏みしめる。
取った体勢はクラウチングスタートと似たものだった。肩に人一人担いでいるため手を地面に着いていないが、一瞬の速度を求める姿勢という意味では同じだ。
そして――――。
「――――シッ!!」
暴力の権化とも言うべき身体能力。
鋭く放たれた息と共に足が地面をパイルバンカーのように力強く撃ち、体を前に進める。
この時、ヘッズハンターの体は
いくら業火のドームと言えど、厚さ30センチもないそれを突き破るには十分すぎる速度であった。
――――そして。
「見つけた――――万理侵食・
ヘッズハンターが脱出した瞬間。
既に外に出て何処から何者かが出ても対応できるようにしていた白戸が、寸分のタイムラグもなく攻撃を仕掛けた。
作者の頭を悩ませているのは白戸の使う魔法の内容・名前考案と榊浦美優
なんか速く投稿し続けようと書いていたら文章がスッカスカの無茶苦茶になり始めているので、ちょっとだけスローペースにします