殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。


#76 か細い縁

 

 

 

 

 

 宗次郎は使用人達と部屋から去った。

 病室に残されたのは俊介と、橘と、大量の夜桜の私物のみ。

 

 

「……アンタ、女の私物を勝手に漁ろうとしてたのか……?」

 

 橘が物凄い眼を俊介に向けてきた。

 

 生まれ育った世界が違うのに『女性の私物を勝手に漁っちゃいけない』って価値観が同じなのは凄いと思う。

 よくよく考えると女性関係なく他人の物を触っちゃいけないなんて当たり前すぎるな。

 

 

 別の事を考えて心にバリアを張った俊介だったが、橘の視線の冷たさはバリアをいともたやすく貫通した。

 目線を逸らし、気まずそうにぼそぼそと呟く。

 

「いや、正直、未来革命機関に関する情報がどん詰まりで。夜桜さんの持ち物漁ったらなんかヒントないかなって……」

「そうはならんだろ」

 

 平坦な声で彼女がそう言い返した。

 言い返す隙が一欠片も存在せず、押し黙った俊介が気まずさを抱えて俯く。

 

 病室に広がる静寂。

 時計の針が動く音だけが静かに響く。

 

 そして一分ほど経った時、静かに息を吐き、俯いたままの俊介に橘が優しく声を掛けた。

 

「……まあ緊急事態だし、藁にも縋る思いでやろうとしたってのは分かるよ。理解はできる」

「はい」

「けどこの年頃の女の子って、絶対他人に見られたくないものも持ってるだろ。ホントよくないって」

「はい……」

 

 正論すぎた。

 優しく諭すように言われるのが更にキツイ。

 

 宗次郎さんが娘の私物を全て持ってくるなんてエキセントリックな行動を決めたのは、そもそも俊介が彼に『夜桜さんの部屋を探りたい』なんて言ったのが原因だ。

 つまり全ての因果は巡り巡って俊介に返ってくる。誰が悪いかと言えば、普通の高校生を自称する変な男に帰結するのだ。

 

「…………」

 

 俊介はチラリと夜桜の荷物群に目を向けた。

 たしかに探ったらヤバそうな何かが出てきそうなブツが色々と置かれている。

 特に生々しさがありすぎるゴミがまとめられたゴミ袋とか。まさかゴミ箱の中身すら全部持ってきたのか? そんな所流石に漁る訳ねーだろ持ってこないでくれよ。

 

 

 と、そんな風に考えながらじろじろ荷物たちを見つめていた時。

 

 

『――って~な……。あの馬鹿鎧が、思いっきりぶん殴りやがって……』

「ん?」

 

 腫れ上がった頬を手で抑えるマッドパンクが姿を現した。

 よくよく見ると、頬以外にも服のあちこちが汚れている。何があったんだ。

 

「その傷どうしたんだ、マッドパンク?」

「マッドパンク?」

「俺の中の人格です。ちょっと話します、すみません」

「ああ、そういうことか」

 

 橘は「まだ慣れないな、この世界の常識……」と静かに呟いた。

 

 

『ダークナイトの奴が()で大暴れして僕たち全員をタコ殴りにしたんだよ』

「えぇ……」

 

 『中』とは、宿主の中にある平らな地面が延々続く黒い世界のこと……らしい。人格しか出入りできず、実際に見たことがないのでどんな場所なのかは想像しか出来ない。

 

 俊介は疑問気に聞き返す。

 

「なんで暴れてんの?」

『大方、俊介が怪我したからだろ。割と重い怪我だし』

「俺が怪我したことと、みんながタコ殴りにされることの因果関係が分からんのだけど」

『俊介が怪我してムカついたんだろ。んで、ストレス発散サンドバッグにちょうどいい奴が12人いたってだけだ』

 

 うーん、いつものダークナイトだな。

 安心感すら覚える。

 

「それはマジで災難だったな。……他のみんなは?」

『気絶してるか、ブチギレてやり返してるかだ。僕はめんどいから出てきた。……ヘッズハンターだけは落ち着かないから暴れてるって感じだったが』

 

 うーん、いつものみんな(殺人鬼達)だな。

 全員血の気が多すぎるだろ。

 

 ……でも、ヘッズハンターだけは心配だ。ピュアホワイトの中にずっと探してた幼馴染がいたんだから。落ち着かないのも当然だ。

 あとで話してみよう。

 

 

 腫れ上がった頬を優しくさするマッドパンクが俊介に問いかける。

 

『そんで、今何しようとしてんの?』

「ああ……夜桜さんの荷物を漁ろうと思って」

『……? うん、そっか……』

 

 マッドパンクが不思議そうな顔で病室にある荷物の山を見た。

 そんな理解できない物を見たみたいな反応すんな。

 

『まあちょうどいいや、僕も手伝うよ。どうせ中に戻ってもぶん殴られるだけだし』

「おっ、ありがとう」

 

 機械に詳しいマッドパンクがいると色々捗りそうだ。

 話にひと段落をつけ、再び橘の方を向く。俊介が橘の方を向くと同時に、彼女も顔を向けた。

 

「俺の人格が手伝ってくれるらしいんで、さっそく始めましょう」

「女の子の人格か? なら心強いんだけど」

「男です。今あなたが付けてるその補助アームを作った奴です」

「へえ……。アンタ本当何でも出来るな……」

「中にいる人格が凄いだけですよ。俺は殆ど何も出来ませんって」

 

 俊介はそう言いながら、ベッドから足を出した。

 緑色のスリッパに裸足を通し、ペタペタとスリッパの踵で床を叩きながら積まれた荷物に近づく。

 

 病室に集められた夜桜の私物は大別して三つ。

 

 段ボール箱に詰められた様々な物。

 ベッドやタンスなどの家具。タンスには服は勿論、下着類も入っていそうだ。

 生々しい使用感のゴミが入ったゴミ袋。論外。

 

 この中からギリギリ男である自分が漁ってもよさそうな物は段ボール箱くらいしかない。

 しかしタンスの中に何かがある可能性も捨てきれない。

 なので。

 

 同じように椅子から立ち上がった橘にくるりと振り返り、俊介は言い放った。

 

「タンス調べてください。お願いします!」

 

 夜桜さんの下着が入ってるかもしれないタンスなんて調べられる訳ないだろ!

 そう心の中で叫びながら橘に頭を下げる。

 彼女は少し戸惑った様子で補助アームの先を左右に振った。

 

「え? いやいや流石に、俺男だしさ……」

「見た目はどこからどう見ても女性ですから!」

「うん……そりゃそうなんだけど」

「全部男の俺よりも外面はマシですから……!」

「…………」

 

 必死に頼み込む俊介。

 橘は非常に困ったように数秒考え込んだのち、必死に頭を下げる俊介の姿を見て、小さく息を吐いた。

 

「仕方ない、未来革命機関のヒントを探すためだもんな。というか機関潰さないと俺が殺されるし」

「なら……」

「ただ、ヤバそうな物が出てきたらすぐに閉めるからな」

 

 勝手に人の私物を漁る立場であるし、ヤバそうな物をじろじろ見る必要性はない。彼女の言う事はもっともだ。というか夜桜さんの下着をじろじろ見られるとそれはそれでちょっと殺意湧く。

 

 

 互いに顔を見合わせて頷き、俊介は近くの段ボール箱に、橘はタンスの前に移動した。

 マッドパンクが手元を覗き込む中、俊介はパカリと段ボール箱の蓋を開ける。

 

 中身は学校で使用する教科書やノート、筆記用具の類だった。

 適当にノートを手に取ってパラリと開いてみると、美しい文字で授業の内容がとても分かりやすく纏められていた。頭良い人ってやっぱこういう細かい所もキチンとしてるんだなあ。

 

 チラリと橘の方を見る。

 彼女は器用に補助アームを使い、タンスの一番上の引き出しの中を探っていた。心なしかアームの動きが緩慢と言うか、高級なものを恐る恐る触る時の動きに似ている。

 俊介がこちらを見ている事に気付いた橘は肩越しに俊介に話しかけた。

 

「この夜桜って子、相当お洒落さんなんだな。凄い……高そうな服だ」

「なんすかその感想は」

「誉め言葉だよ。しっかし可愛い服だな……俺も似合うかな?」

「はい?」

「……いや、何でもない。なんで今着たいと思ったんだ?

 

 なぜ男なのにゴリゴリの女性服を着たいと思ったんだろう。そういう趣味なのかな?

 俊介が恥ずかしそうに引き出しを閉める橘を見ていると、マッドパンクがすぐ傍でぼそりと呟いた。

 

『体に引っ張られて精神がメス化……?』

「いきなりどうしたマッドパンク」

『何でもない』

 

 マッドパンクがぷいと顔を逸らした。そういう趣味なのかな? どんな趣味だよ。

 

 俊介が見守る中、橘が先ほど閉めた引き出しの一つ下の引き出しを開けようとする。

 そして10センチほど静かに開けたところで、彼女が「うわっ!」と叫び声をあげた。

 

「どうしました?」

「いや……」

 

 彼女がそのまま引き出しを開いていく。しゃがんでいる俊介には引き出しの中身が見えず、彼女の背中しか見えない。

 

「…………な、なんだこれ。うわ、ええ……」

「何が入ってるんですか?」

「いや……うん……」

 

 橘が俊介と引き出しの中を交互に見る。本当に何が入ってるんだよ。

 気になった俊介が立ち上がるよりも早く、マッドパンクがすっと立ち上がった。そして引き出しの前で背伸びをし、中を覗き見る。

 

『うおっ!!』

「お前もかマッドパンク」

 

 そして橘と同じように驚きの声を上げた。

 

「マッドパンク……そうか人格も見に来たのか。これヤバっ、いやマジで見せない方がいいよな……?」

『い、一体いつの間に盗ったんだこんなもん。しかもマジかこいつ、結構使い込んでるし……』

「半分呪物だろこんなの……」

『出所は風呂場か……? ニンジャの隠密を真似して入ったな……』

 

 怖いよ。

 マジで何が入ってるんだ。殺人鬼のマッドパンクがビビるなんて相当だろ。

 

 夜桜さん、実は結構変な物を集めるのが趣味だったのだろうか?

 例え珍品コレクターが趣味だったとしても、チラチラ俺の事を見ているのが気になるけど。本当に何が入ってるんだろう。

 

「永久封印だな……」

 

 二人はひとしきりそれを眺めた後、橘がパタンと引き出しを閉めた。

 

 ……まあ気にしても仕方ないか。

 むやみやたらに人に見られたくない物もあるしな。俺が見るべきものじゃないんだろう。

 

 橘から視線を外し、次の段ボール箱を開く。

 中には大量の電子機器が入っていた。殆どが基盤がむき出しの作りかけのものであり、バクダンが作った物だろうと察せる。

 

 タンスの前から戻って来たマッドパンクが段ボール箱の中を覗き込む。

 

『……ふうん。殆ど失敗作だな』

「え?」

『よく見ろ。×印が書かれてるだろ、ここ』

「あ、ほんとだ」

 

 指で示された場所を見ると、確かに小さく切られて貼られたガムテープの上に、黒いマーカーで×印が書かれていた。

 ならこの中に入ってるのは全部失敗作か? 使用人の人がガサッと箱に入れたんだろうけど、失敗作って大体一つの場所に纏めてるものだろうし。

 

 そんなのばかりなら、今特に力を込めて探る必要はないかな。

 そう思って段ボール箱を閉じようとした時、マッドパンクが腕で視界を遮って静止した。

 

『でも、僕なら本命のブツは失敗作の中に隠す』

「本命のブツ?」

『たしか俊介は、夜桜に榊浦豊の手下を探しに行くように頼んでいたよな?』

「……ああ……」

 

 思い出すのは数日前の榊浦の研究所でのこと。

 

 俊介は自身の母親が榊浦豊の手下に見張られていることを知った。だが、自身は榊浦豊に呼び出されてその手下を始末しに行くことが出来ない。

 そこで俊介は、夜桜にその手下を見つけてもらうことを頼んだのだ。危険ならばすぐに逃げても構わないと言い含めたが、結果は未来革命機関に誘拐されるという物に帰結した。

 あの時榊浦豊をぶちのめしてでも自分が行っておけばよかったと、後悔は尽きない。

 

『夜桜も、榊浦豊の手下を探しに行くのが危険なんてのは分かってたはずだ。万が一に備えて、何か保険を残しているって考えはそうおかしくない』

「その保険が、本命のブツって奴か?」

『そうだ。だが保険ってのは敵に見つからないから意味がある、敵に回収されたら意味ないしな。急いで俊介の母親を狙う奴を探しに行きたいが、保険も残したい。もし僕がそんな状況で手軽に隠すとしたら、失敗作の中……って訳だ』

「なるほど……」

 

 例え夜桜さんの部屋に敵が来たとしても、わざわざ失敗作の山を探ろうなんてしないよな。

 だってチンタラ探してたら、それこそ通報を受けた人対がぶっ飛んでくるんだし。少ない時間で探るとしたらもっと別の場所を探す。

 

「んじゃ一回がさっと全部出してみるか」

『あんまり下手に触っとボカン!と行くかもよ?』

「怖いこと言うなよ」

『ハハ、冗談冗談。流石に失敗作は爆発しないようにしてるだろ。もし爆発するようにしてたら、そいつは相当イカレて…………』

「……MRKとか作ってるし、バクダンって結構イカレて……」

『タブンダイジョウブ』

 

 マッドパンクがそっと顔を逸らした。本当に大丈夫だよな?

 俊介がおそるおそる箱の中身を両手で掴み、取り出していく。今の所爆発する気配はない。よかった。

 

 そして失敗作を取り出していくと、明らかに先ほどまでとは毛色の違う機械を見つけた。

 基盤がむき出しになっている手製丸出しの物ではなく、きちんと外装まで作られた市販品のような機械だ。中央に大きな画面があり、左右には十字キーとスティックが付いている。

 

「……いやこれ携帯ゲーム機じゃね?」

 

 念のために電源ボタンを押して起動する。

 ゲーム機には『ドキドキ♡アルケミスト』という逆ギャルゲーソフトが挿入されており、『ベームフェルト』という名前が設定された完クリセーブデータが一つだけ残っていた。

 本当になんだこれ、誰のセーブデータだよ。中古で買ったのだろうか?

 

 電源を落とし、ゲーム機を失敗作の上に積み上げる。

 

 

「さて、次は……」

 

 段ボール箱の中に手を突っ込む。

 箱の中にはもう一つしか機械が残っていなかった。それを持ち上げる。

 

 最後の機械は中央にディスプレイ、左右にボタンという、先ほどのゲーム機と同じようなデザインをしていた。

 ただ違うのは、他の失敗作と同じように基盤がむき出しであったことだ。恐らくこれもバクダンが自作したのだろう。

 

「自分でゲーム機を作ったのか? ゲーム機型爆弾?」

『構造的に爆発はしないよ、元の火薬がないんだから。……起動させれば何か分かる』

 

 右上の辺りにこれ見よがしな赤いボタンがある。恐らくそれが電源ボタンだ。

 バクダンの作った物だ、押した瞬間にボカンと爆発する可能性もなくはない。だがマッドパンクの言葉を信じ、軽く親指の腹で押した。

 

 すると、ブッ!という鈍い音と共に、画面の中心に黄色い点が浮かび上がる。

 

「? なんだこの点?」

 

 左右にあるボタンを適当に押すが、黄色い点が中心から僅かに移動するくらいしか変化がない。

 指でディスプレイを押したり、機械自体を軽く振ってみたりもしたが、一切変化なし。一体何の用途に使うものなのか検討もつかない。

 

『…………』

 

 マッドパンクは右拳を口に当て、少しの間画面を見つめる。

 そしてその後、突然パンパン!と勢いよく手を鳴らした。

 

「な、何?」

『ニンジャ、出てこい! どうせ近くにいんだろ!』

 

 そう彼が呼びかけた直後。

 病室の天井からにゅうっと、半透明の黒装束の男が顔を出した。よく見ると右目の周辺が青く腫れあがっており、何者かに勢いよくぶん殴られたであろうことが窺える。

 

 マッドパンクは天井のニンジャに顔を向け、俊介が持つ機械を指で示す。

 

『なんでござるか? 拙者、正直今寝てたい気分なんでござるが』

『お前、これ見覚えあるだろ?』

『は?』

 

 左目を細め、俊介の持つ機械を観察するニンジャ。

 そして『うえっ』とでも言いたげに顔を歪めた。

 

『……あー。知ってるでござるよ。苦い思い出でござる』

「何? 苦い思い出?」

『アレだよ俊介。ついこの間、こいつがミスしてやらかしたことあるじゃん』

「ついこの間、ミスした……?」

 

 なんだっけ。ニンジャがミスする事ってあんまりないけど。

 少しの間悩んでいると、マッドパンクがしびれを切らしたのか、答えを口にした。

 

『廃倉庫の件だよ。あいつが発信機に気付いて、わざと壊さなかったら、夜桜を呼んじゃった奴』

「……ああー!!」

 

 そういやあったわそんな事。

 確かニンジャが拷問相手に発信機付いてるのに気づいて、その拷問相手の仲間を呼び寄せようとしたら、その発信機の持ち主は実は夜桜さんで、夜桜さんを呼んじゃったって奴。

 その後に人対が揃って攻撃してきたから記憶から薄れてたな。

 

「……あん? ってことは、つまり?」

『あの時、ニンジャは発信機を追っかけてきた相手を偵察しに行った。その時、夜桜は発信機を追いかけるための()()()()を手に持っていたはずだ』

「レーダー……。……あ、まさかこれって!」

 

 バッと視線をディスプレイに落とす俊介。

 ここまで思考を誘導してくれれば、一般高校生の俊介でも話の道筋は見えてくる。

 

『多分これ、発信機のレーダーだな』

「うおーっ!! やっぱあったじゃん、手掛かり!!」

 

 俊介が興奮した様子でそう叫ぶと、橘がくるりとこちらを振り返った。

 探っていたタンスの引き出しを閉じ、こちらに近づいて来る。

 

「なんかあったのか?」

「発信機のレーダーがあったんですよ!」

「発信機ぃ? ドラマとかでスパイが使う、あんな感じの奴?」

「そんな感じの奴です!!」

 

 彼女が画面を見る。

 そして、数秒間それを見つめた後……首を傾げた。

 

「……この黄色い点が発信機の場所だよな?」

「多分、そうです」

「でもこれ、中心に一つあるだけじゃないか。こういうのって大体中心が自分のいる所だろ?」

「……つまり?」

「この荷物の山の中に発信機が紛れてて、それを表示してるだけなんじゃね?」

 

 橘はそう言った後、ぐるりと病室に積まれた夜桜の私物を見渡す。

 俊介もそれにつられて病室を見渡し……膝から崩れ落ちた。やっと見つけたと思った手がかりが何の役にも立たない物だと分かってしまったからだ。

 

「マジだ……くっそ、絶対これだと思ったのに……」

「そう落ち込むなって。他にもまだ探れそうな所はあるんだから」

『…………』

 

 落ち込む俊介を見つめるマッドパンク。

 彼は一瞬だけ窓の外に目線を向けた後、小さく息を吐き、俊介に近づいた。

 

『……この左右に付いてるボタンは恐らく、レーダーの縮尺を弄る物だ』

「え?」

『最大にしてから、もう一度よく点を見てみろ。……ある意味運が悪いんだ、今は』

「運が悪い……?」

 

 マッドパンクの意味深な言葉に疑問を覚えながらも、俊介はレーダーの縮尺を最大にした。そして穴が空くほどに目を近づけ、画面を凝視する。

 

 三十秒以上見つめ続け、俊介は気付いた。

 

「……て、点が動いてる? な、なんで?」

 

 私物の山は何も動かしていない。だとすれば、この発信機が僅かでも動いているのはおかしい。

 この発信機のレーダーは、かなりゆっくり動き続ける何かに引っ付く発信機の位置を表示していた。

 

「この病院内か!?」

「いや、病院の中でこんな同じ方向に動く事あるか? しかも全く同じ速度で」

 

 レーダーの黄色い点は左上の方に向かって、一定の速度を保ってゆっくり移動していた。

 確かに、病院内なら何処かの壁にぶつかって方向転換しそうなものだ。しかし黄色い点は左上に向かってずっと移動し続けている。

 

「だとすると……? えっと……!」

 

 俊介は頭を全力で回す。

 自身の勘が告げているのだ、未来革命機関の拠点の位置に向けて既にあと一歩の所まで迫っているのだと。

 あと一歩進むには、自身の頭の中に集まった情報をかき集め、閃きを得なければならない。

 

 

 

 ――――未来革命機関はデカい軍艦を拠点としている。

 

 だが、人対が海をいくら探してもそんな軍艦は見つからなかった。

 

 

 ――――榊浦美優は頻繁に拠点に出入りしている。

 

 翌日の授業に間に合うように、日帰りできるような距離にあるはずだ。そう遠い場所にはない。

 

 

 ――――レーダー上で同じ方向に同じ速度で進み続けている。

 

 建物の中なら壁にぶつかる。例え車に乗っていたとしても、建物に阻まれて同じ方向に進み続けるなんてのは無理だ。こんな街中なら特に。

 

 

 

 

 巨大な軍艦が、同じ方向に進み続ける。

 そして、榊浦美優が頻繁に出入りできるほどに近い場所にある。

 

 

 …………。

 

 

「――――あ」

 

 

 俊介は窓の外を見た。

 

 巨大な軍艦は海くらい広い場所でしか、自由に動くことができない。地上ではその体は大きすぎるからだ。

 

 だが、この世界にはもう一つ、海と同じくらいにもっと広い場所があるだろう。

 

 

「――――()()()

 

 

 小さく呟いた俊介。

 その言葉を聞いた橘が疑問気に聞き返す。

 

「空……?」

「エンジェル! 出て来てくれ!」

 

 俊介はその閃きが頭から消える前に、橘に言葉を返すことなく、エンジェルを呼び出した。

 口の端から血を流すエンジェルが姿を現す。

 

『どうしましたか?』

「今から窓の外に出て、上空に物をぶん投げる。四肢を渡すだけで出来るか?」

『楽勝です。投げるものは?』

「……ペンを一本貰おう。夜桜さんにはあとで弁償する」

 

 近くにあったペンケースから一本のシャーペンを抜き取り、窓を開ける。

 四肢の主導権をエンジェルに渡すと、危なげない動きで窓の外に体を乗り出した。足を窓の縁に引っ掛け、完全に体を固定したまま空を見上げる。

 

『どの辺りに投げますか?』

「少し左の方向だ。全力で投げてくれ」

『分かりました』

 

 エンジェルの操る右手が、シャーペンをダーツを握るような持ち方で持つ。

 そして後方に引き絞られた右手が、周囲の空気を巻き込み、ボッ!という音と共に前方で振り抜かれた。

 

 時速百五十キロはくだらない速度で放たれた桜色のシャーペン。

 それは夜空の闇に次第に溶け込み、やがて俊介の視界から消えるかと思った、その瞬間。

 

 

 

 ――――カァァァアアン…………

 

 

 

 金属と金属がぶつかったような甲高い音と共に。

 何もない夜空の景色が一瞬揺らめいた。

 

 恐らくは超巨大なステルス迷彩。それが外部からの衝撃により一瞬だけ揺らめいた。

 そのステルス迷彩の奥に何が隠れているのかは、俊介にとっては火を見るよりも明らかだった。

 

「ずっと、空の上にいたのか……」

 

 この発信機は恐らく、夜桜さんが遺したメッセージ。

 彼女が自分の何処かに付けているのだろう。何かあった時、誰かがこうやって自分の居場所を見つけるために残していたのだ。

 

 

「見つけたぞ、未来革命機関……!!」

 

 

 俊介はやっと、倒すべき敵の外郭を捉えることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、よかったよかった! 未来革命機関の拠点をやっと見つけれて、ほっとしたでござる!』

『そうだな』

 

 ニンジャとマッドパンクは、病院の屋上に移動していた。

 彼らは屋上で俊介の投げたシャーペンの行く先を見届けていたのだ。

 

『ところで、どうして僕をこんな所に呼んだ?』

『ハハハ。ちょっとした用事でござるよ――――』

 

 

 

 ――――瞬間。

 

 

 

 ニンジャがマッドパンクの首を掴み、持ち上げた。

 親指と中指が首に食い込み、マッドパンクの首に走る血管がぷくりと浮かび上がる。

 

『お前、未来革命機関の拠点の場所に……()()()()()()()()()()()()でござるな?』

 

 ニンジャは殺意を込めた眼でマッドパンクを睨む。

 

 

 先ほどの病室で、レーダーの点が中心から動いていなかった時。

 俊介が空の上に拠点があるという答えに辿り着くより早く、マッドパンクは窓の外を見ていたのだ。

 

 偶然、窓の外を見ただけという可能性もある。

 だが……ニンジャの勘が、マッドパンクは()だと告げていた。恐らくこいつは、昨日か一昨日辺りから未来革命機関の拠点の場所に気付いていたと。

 それは回り巡って、マッドパンクが俊介に敵対している可能性に繋がる。

 勘なんて淡い証拠だが、ニンジャにとってはマッドパンクを詰問するには充分な理由だった。

 

 

 首を絞めるニンジャに、マッドパンクが睨み返す。

 

『ぐ……だったら何だってんだ?』

『事と次第によっては、今ここで殺す』

『…………』

 

 互いに本気の殺気を向け合い、数秒。

 視線を外したマッドパンクが諦めたように手を左右に振った。それを降参の合図と受け取ったニンジャは、彼の体を床に落とす。

 

『けほっ。……一応言っとくが、僕は夜桜なんかどうだっていい』

『それは拙者もでござる。で?』

『僕は、これ以上俊介に気を重くさせたくなかったんだ。ただでさえ、今は色々抱えてるから』

『…………』

 

 マッドパンクは指で床を弄りつつ、気まずそうに口にする。

 

『反重力バリア装置、あれは軽くて銃弾すら防げる優れものだ。僕達も何度か出会ったよな』

『ああ』

『アレは、恐らく相当高価な物だ。そうそう数を揃えられるような代物じゃない。だがよく思い出してみろよ、未来革命機関の兵士は下っ端でもアレを付けていた』

 

 回りくどい話をするマッドパンクに、ニンジャは懐から出した小刀の切っ先を突き付けた。

 

『簡潔に言うでござる』

『……恐らく、未来革命機関が反重力バリア装置の販売元だ。だがこの反重力バリア装置の原型は反重力を発生させて物体を浮かせるものだ。そして……僕はその原型を元の世界で見たことがある

『元の世界……なるほど』

 

 合点がいった、と言う風にそう呟くニンジャ。

 未来革命機関にはマッドパンクの元の世界での縁者がいる。その縁者が反重力装置の原型を作った物であり、それを改良した反重力バリア装置を売っているということなのだろう。

 

 どんな組織を運営するのにも金がいる。当然規模を大きくするのにも金がいる。

 恐らくその反重力バリア装置を売っている奴は、自らの意思で、未来革命機関の中枢部にいる。それも恐らく、機関を立ち上げた初期の頃から。

 

 大量の金を稼ぎ、未来革命機関をここまで大きくしたそのマッドパンクの縁者は、明らかな俊介の敵だ。

 しかし優しい俊介は、自身の人格の縁者と分かれば敵であっても加減する恐れがある。加減はせずとも、恐らく心に何かしらの負い目を感じるだろう。

 

 マッドパンクの行動が俊介を思ってのことだったと気づき、ニンジャは小刀の切っ先を下げた。

 

 

『その原型の、反重力装置を作ったのはな』

 

 

 

 

『…………僕の()なんだ』

 

 

 

 

 

 

 





Q.なんでこんなに更新が遅いの?
A.単純にやる気エンジンがさび付いてます。ごめんなさい。
 読者様からの感想がやまもりに届くとやる気エンジンがどんどん暖まってきます。
 なので『いっぱいちゅき♡』くらいの簡単な物でもいいので、感想を書いていただけると本当に嬉しいです。


 新年の目標は2024年中に番外編含めた完結!
 本編の終わりまではあと半分もないと思いますが、どうかお付き合いいただけると幸いです。



-Tips-
 バクダンが失敗作の山に本当に隠しておきたかったのは、発信機のレーダーじゃなくてゲーム機の方だった。
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