殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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感想欄が♡にまみれてて面白かった。
未来革命機関編完結までかっ飛ばすゾ!!!


#77 ブッ潰すゾ! 未来革命機関!!

 

 

 

 

 白い髪の女がシャワーを浴びていた。

 身長二メートルを超える体は無駄のない筋肉に覆われており、傷一つない体ながらも、歴戦の猛者を思わせる雰囲気を放っている。

 治癒したばかりの右手でシャワーの水を止め、髪をかき上げた。

 

「フフ……」

 

 女――――ピュアホワイトは怪しい笑みを浮かべる。

 彼女が笑っている理由はただ一つ。俊介の中に宿る人格――――アニーシャを見つけることが出来たからだ。

 

「私からお迎えに上がるか。いや、あの御方から私の方に来てくれるのも……ああ、なんて悩ましくて素晴らしいんだ。これが運命……あの無様に死んだ女神に久々に祈りたくなる気分だな」

 

 ピュアホワイトは思い出す。

 

 

 元の世界にて、世界の七割の生物を殺害したアニーシャを討伐するために第十二使徒の全員で向かった時のこと。

 他の使徒はすぐに殺された。使徒最強である自分ですら手も足も出ず、防御するのが精いっぱい。

 

 そんな時、空から降り注いだ光の柱がアニーシャを襲った。

 無傷のアニーシャの前に降り立ったのは、自身が信仰する三柱の女神。

 

 闘神、生命神、魔法神。

 余りに人を殺し過ぎたアニーシャを直接始末する為に、神自身が現れたのだ。

 

 彼女達が、アニーシャに死ぬ前に罪を悔い改める口上を語ろうとした瞬間。

 アニーシャは生命神の頭を細剣で斬り飛ばし、その頭を両手で潰し、血を被った。

 

 次に闘神がアニーシャに襲い掛かる。

 アニーシャは細剣を闘神に向けて振るが、闘神はそれを受け止めて破壊した。

 しかしその瞬間、別の手に魔力で作られた大剣で闘神の体は叩き切られた。

 

 魔法神がアニーシャに向けて最強の永年封印魔法を掛ける。

 しかしその封印魔法はアニーシャの下半身の動きを止めるだけしかできなかった。

 アニーシャは手に持った大剣に全魔力を籠める。

 

 大剣から放たれた衝撃波が到達するより早く、怯えた魔法神は瘴気で死んだ。

 膨大な魔力の籠った衝撃波は世界の壁にぶち当たり、破壊した。

 

 下半身が封印されて動かないアニーシャ様は、全魔力を使ったことで意識が朦朧としてしまったようだ。そのまま自分が開いた世界の狭間に吸い込まれて行ってしまった。

 

 

 三柱の女神は死んだ。

 アニーシャ様は世界の狭間に吸い込まれて消えた。

 

 私は、アニーシャ様を討伐した騎士として国で称えられた。

 憤慨した私は、その場で教皇を含めた国の人間を皆殺しにした。そして最後の人間を殺すと共に、私も自害した。

 

 

 ――――私は、魅せられたのだ。

 

 

 生まれた時から信仰するのが当たり前だと思っていた女神。

 この世界で最強の存在だと思っていた三柱の女神。

 そんな神たちが、歯牙にもかけられず蹂躙される姿。

 

 圧倒的な暴力の権化。

 その御方を私が倒したなどと、侮辱も良いところだ。

 

 アニーシャ様が三柱の女神を殺したところを知っているのは私だけ。

 あの御方が世界の狭間に吸い込まれたのを知っているのも私だけ。

 

 私がアニーシャ様を世界で一番理解している。

 だから私が、あの御方と添い遂げるのに最もふさわしい。

 

 

 

「クク……。そうだ、久しぶりに顔を会わせておくか」

 

 ピュアホワイトはタオルで水気を取った後、服も着ずにシャワー室の外へと出た。

 そこは幹部である彼女に宛がわれた個室なので、誰かが入ってくることはない。

 

 ガラスケースの中でピカピカに磨かれた黒い鎧。二メートル超えの人間でも足を伸ばして寝られる巨大なベッド。

 そして部屋の中央に置かれた鉄製のひじ掛けが付いた椅子。その横にはドラム缶に鉄のパイプが何十本も突っ込まれている。

 

 ピュアホワイトは椅子に座り、ドラム缶から取り出した鉄パイプを素手で曲げて自身の四肢を拘束した。こうしておけば、万が一他の人格が体を奪ったとしても、鉄パイプを曲げる力を持っていなければ動くことは出来ない。

 

 彼女は体の主導権を静かに手放す。

 元の宿主は自我が殆どないため放っておいても問題ない。ピュアホワイトは宿主に一瞥もくれず、宿主の中に入った。

 

 

 ――――宿主の中。

 

 

 凹凸のない平らな灰色の地面。どす黒い空。そんな無機質な空間が広がる、人格達の寝床とでも言うべき場所。

 外では宿主から5メートルも離れられない。だが、この中ならば半径百メートルくらいの空間で自由に動くことが出来るのだ。ちなみに俊介は外で動く範囲が百メートルの為、中の空間は街一つが入るほどに広い。

 

 唯一、空間の中央に平面のホログラフが浮かび上がっている。そこには宿主の今の視界が写っており、意識をそちらに向ける事で宿主が聞いている音も感じることが出来る。

 

 しかし今のピュアホワイトには宿主の視界などどうでもいい。

 その辺りに転がる六人の人格達を無視し、一番奥でへたり込む女の人格の前に立った。

 

『気分はどうだ? ()()()()()

『っ……』

『中から見ていたんだろう? お前の心の拠り所とかいう、幼馴染がこの世界に来ていたことを』

 

 二メートルを超える、純白の鎧を纏った金髪の女。元の世界で大聖騎士とまで呼ばれたサリアスの姿と寸分相違ない。

 彼女は美麗な顔を邪悪な笑みに歪め、目の前の黒髪の女を見下した。

 

『だから、何?』

 

 黒髪の彼女――――小日向真昼と呼ばれた女性は、サリアスを鋭く睨み返した。

 赤いリボンを付けたブレザーの制服は所々汚れており、その頬には酷いあざが出来ている。何者かに恐ろしい力で殴り飛ばされたのだろう。

 

『んん、いい気分だ。普段は鬱陶しいお前の強がりも、今は心地いい子守唄に聞こえる』

『気持ち悪い』

『だが余り調子に乗るなよ。私とお前の実力差は何度も示した。ま……訓練も積んでいない一般人相手に、私が後れを取る訳もないが』

 

 サリアスは彼女のあざに目を向ける。

 真昼をぶん殴った何者かとは、当然、サリアスのことだ。そして周囲に転がる六人の人格達の体のいずこかにも、同じような怪我がある。

 

 

 なぜサリアスは他の人格を痛めつけるような行為をしているのか?

 

 

 それは、他の六人の人格を全て無力化したいと考えているからだ。

 

 それではなぜ、他の人格を無力化したいのか。

 それは、彼女が永遠に体の主導権を握っていたいからである。

 

 人格が宿主の体を奪えば、宿主側から体を取り返すことはできない。

 しかし人格同士ならば話は別。人格ならば、他の人格が操っている体の主導権を強奪できるのだ。

 

 永遠に体を奪っていたいサリアスにとって、他の人格は体の主導権をいつ奪ってくるか分からない邪魔な存在。

 故に全員殺してしまおうと斬り払ったが他の人格を殺すことは出来なかった。苦痛を与えることはできるが、一分もすれば復活してしまうのだ。

 

 なので痛みを与えて他の人格の精神を壊すことにした。

 他の人格は世界の差はあれど、過度な痛みに慣れていない一般市民ばかりだった。順調に他の人格を無力化することができていたのだが――――唯一。

 

 唯一、小日向真昼だけは心を折る事ができなかったのだ。

 生前の幼馴染という存在を心の支えにして、どれだけ痛めつけても折る事ができなかったのだ。

 

 

 

 お互いに睨み合う中、サリアスがぷふっと口の端から息を漏らすように笑った。

 

『そろそろお前の心をぶち折れる日が来ると思うと、私は胸がスカッとしてたまらないぞ。小日向真昼』

『どういうこと……?』

『フフフ。一から説明してやろう』

 

 サリアスはどかっと腰を下げ、小日向真昼と視線の高さを合わせる。

 

『アニーシャ様をこの世界に顕現させるには、あの男の意思自身でアニーシャ様を呼び出させる必要がある。だがあの男は私と同じ複数人格、それも中々の実力者を何人も宿らせているようだ』

『…………』

『故に、あの男には私との実力差を理解させる必要がある。だからアニーシャ様を呼び出すまで、どんな人格を出しても、何度でも何度でも叩き潰す。……その過程できっと、お前の幼馴染も出てくるはずだ』

 

 そこまで言い、サリアスは右手の指で真昼の頭を軽く弾いた。

 

『よく見ておけよ。お前の幼馴染に、汚らわしい魔族でも吐かないようなみっともない悲鳴と命乞いを吐かせてやる』

『……サリアス……ッ……!』

『その時、お前の心がどれくらい綺麗に折れるかが楽しみだ。ククク、フフフ……』

 

 言いたいことを言い終わったのだろう。満足げな顔でサリアスは腰を上げた。

 真昼は彼女に突っかかりたいが、生憎、死なない程度の力で四肢の骨を叩き折られている。そのせいで動く事が出来ないのだ。舌を噛み切って自害することはできるが、復活しても即座に四肢を叩き折られるだけに終わる。

 

 

 宿主の中から外に出て、再び体の主導権を奪うサリアス。

 遠くに浮かぶ宿主の視界を見つつ、真昼は顔を俯ける。

 

『……まーちゃん…………』

 

 彼女は人の尊厳を汚し、殺し尽くすサリアスに対抗してきた。

 精神を正気に保つ最後の自分がいなくなれば、サリアスは完全に体を乗っ取れる。自分が体の主導権を奪う可能性がある――――そう思わせるだけで、サリアスの行動を少しだけ抑えることが出来るのだ。

 

 もし自分がいなくなれば、サリアスは今よりもっと残虐な事を行うようになる。

 それが許せなかった。

 元の世界の自分のように酷い末路を辿る者が増えるから。それが心の底から許せず、今の今まで正気を保ち続けていた。

 

 だが。

 最後の心の砦である、元の世界で幸せに暮らしているだろうと思っていた幼馴染。

 彼がもし、目の前でサリアスに蹂躙されてしまったら。

 

『お願い、まーちゃん。ここに、来ないで……』

 

 真昼は、正気を保ち続けられる自信がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに未来革命機関の拠点を突き止めた俊介。

 

 

「――――未来革命機関、潰すぞッッッ!!」

 

 

「ちょっと待てーッ!!」

 

 意気揚々と病室から出て行こうとしたところを、橘に飛び掛かられて無理やり止められた。

 

「何すんだッ!!」 

「馬鹿かあんた! 体斬られて数時間しか経ってねえんだぞ、せめて今夜は寝とかねえと!!」

「知るか!!」

「待て待て待て!!」

 

 頭から湯気を出しそうな勢いで顔を真っ赤に染め、病室から飛び出ようとする俊介。

 それを全身の体重を掛けるように押しとどめる橘。

 

 そんな押し問答を数分ほど続け、お互いに疲れたのか、息を切らしたまま病室のベッドへと腰掛けた。

 俊介は肩で息をしつつ、俯けた顔を僅かに橘の方に向ける。

 

「怪我なんかどうせ一日寝たくらいじゃ同じだって……」

「だとしてもよ、未来革命機関の拠点だぞ? ピュアホワイトだけじゃない、他の兵士だっていっぱいいるんだぞ? 無策で突っ込むのは流石にまずいだろ」

「……まあ……」

 

 俊介は、夜桜邸で出会ったバミューダスという上級兵士の男を思い出した。

 正直な話、橘くらいの下級兵士が束になったところでどうにもできるだろう。

 だが問題は上級兵士だ。ある程度強い奴とピュアホワイトが組むと、こちらの勝率は間違いなく下がる。

 

 未来革命機関の拠点ではピュアホワイトと戦う必要が必ずあるだろう。

 夜桜さんを助けるためには奴を倒すことが大前提だ。どうしても負けられない。

 

 橘は必死に俊介に言葉を投げかける。

 

「つまりだ。時間は掛かってもいいから、上級兵士だけでも少し減らさないと……」

「時間は掛けない。上級兵士は始末する。両方やらなきゃなのが高校生の辛い所だな」

「は?」

「明日の朝イチで襲撃します。おやすみ!」

「ちょまッ」

 

 彼女の制止を聞くことなく俊介は布団を被り、一気に睡眠というまどろみの中へと意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――翌日、午前五時。

 

 

 

 

 

 

 山の中に潜むように建っているコンクリートの建物。

 それは、何十年か前の戦争時に建てられた軍事施設だ。尤も今は草がびっしりと表面を覆い、軍事施設には到底使えない成れの果てと化している。

 

 国の管理が行き届く事はない。恐らく書庫の底に紙媒体の記録が埃を被っているだけで、誰の記憶にも残っていないような建物。

 その場所に、怪しげな人間達が十数人ほど出入りしていた。

 

「早く物資の運搬を終わらせろ。予定の時刻に間に合わない」

「キキキッ! キキキッ!」

 

 段ボール箱をせっせと運ぶ下級兵士達に指示を出す二人の上級兵士。いや、実際に指示をしているのは一人で、もう一人は不可思議な笑い声をあげながら地面に犬のように座っている。

 

 

 この元軍事施設は、今は未来革命機関の地上拠点と化していたのだ。

 地上拠点、いや、補給拠点と言った方が正しいだろう。

 

 未来革命機関の本当の拠点である軍艦は空に浮かんでいる。

 しかし、いくら巨大軍艦とはいえ船の中で食料を自給自足できる訳がない。外部から食料を運び込む必要がある。

 

 だが、いちいち地上の何処かに船を降ろす訳にはいかない。

 降ろすために膨大な土地を確保する必要があるし、地上に降ろせば人対などの公的機関や敵対組織に発見される恐れが高まる。

 

 そこで未来革命機関が取っている方法が、幾つかの決められた地上拠点から、補給物資を空に浮かび上がらせる方法だ。

 これならば、所定の場所に船を移動させるだけで補給物資を確保することができる。一つに纏めた物資を浮かび上がらせるだけならそうコストも掛からない。

 

 

 数分ほど経ち、一人の下級兵士が上級兵士に近づき、敬礼と共に言葉を吐いた。

 

「物資運搬、完了しました」

「分かった。ではお前達は所定の位置に行け、睡眠剤を散布する」

 

 下級兵士達は未来革命機関の拠点の場所を知ることは許されない。

 実際は拠点はすぐ真上にあるのだが、下級兵士達はここから更に別の場所にある拠点へ荷物を運ぶのだろうと勘違いしている。本当は真上に浮かび上がらせるだけなのに。

 

 

 荷物を運んでいた下級兵士達が所定のコンテナの中へ入って行くのを見届ける中、地面に座る上級兵士がぼそりと呟いた。

 

「……めンどくセーなァ……オレがなンで地上に降りなキゃいけネーんだよ?」

「仕方ないだろう。ピュアホワイトからの命令だ」

「チッ。アー、めンどくセー……。はヤく拠点に帰って女をキリ刻みタイぜ」

「悪趣味な……反吐が出る」

 

 

 地面に座る、少しおかしな喋り方の上級兵士。名は『キーマ』。

 褐色のギザギザ歯を生やした少女であり、手に巨大な鉄の鉤爪を着けている。情緒不安定で、苛つくと地面を爪で引っかいたり、低く唸ったりと、まるで獣のような仕草をする。

 そして最大の特徴は、人間を斬り刻む感触が大好きなシリアルキラーだということだ。元の世界では四十人近く殺したらしく、実力は折り紙付きである。

 

 もう一人の比較的マトモそうな上級兵士。名は『サンパーミュ』。

 元の世界では魔法剣士という珍しいスタイルで戦う、かなり偉い貴族だったらしい。

 白いスーツの胸元のポケットに赤いバラを入れ、金髪をオールバックに固めているその姿からは、若干のナルシスト味を感じる。喋り方からも相手を見下す傲慢さが見え隠れしている。

 魔法を剣に纏って戦うその戦闘スタイルは、ピュアホワイトには遠く及ばないものの、上級兵士と認められるに十分な実力があるようだ。

 

 

「約束の時間まで残り十五分。フン……そう急かす必要もなかったか」

「アー……! 今かラ街に行ッて一人刻むくラいの時間はあルよなァ!?」

「遅刻しても待たんし、私は責任を取らん。それでもと言うのなら、今すぐその汚らわしい欲を満たしてこい」

「ヘヘハハハァ!! なラ今すグ――――」

 

 

 

 

「――――ァアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 声帯が千切れんほどの絶叫。明らかに正気を失った者の声。

 二人はその声が響いた方向に一斉に目を向けた。

 声の聞こえてきた方向は、下級兵士達が入るコンテナがある方向だ。

 

「あア……?」

「なんだ……?」

 

 キーマは腰を上げ、四足歩行の姿勢で立ち上がった。

 サンパーミュは腰に下げる剣に手を掛けたまま、件のコンテナがある場所に近づく。キーマも彼の背中を追った。

 

 

 ――――ドンッ! ドンッ!

 

 

 そしてコンテナがある場所に近づく度、何やらドンドンと硬い物に何かをぶつける鈍い音が聞こえてきた。

 二人は曲がり角を曲がり、件のコンテナを視界に入れる。

 

「ッ……!?」

 

 シリアルキラーのキーマでさえ思わず冷や汗を流す。

 それほどまでに、下級兵士達が入るコンテナの中はおどろおどろしい狂気が広がる空間と化していた。

 

 大半の下級兵士は頭から血を流して地面に這いつくばっている。

 数人の兵士だけがコンテナの内壁に頭をドンドンと勢いよく打ち付けていた。よく見れば目は白目を剥き、口の端から泡を吹き、がくがくと首を左右に揺らしながらも頭を打ち付けている。

 地面に転がる兵士達の中には時折、勢いよく痙攣している者もいる。まるで何かの薬物を一気に吸入させられたかのようだ。

 

 

「な、なンだこりャ……?!」

 

 キーマが思わず後ずさる。

 何があったかは分からない。だが、何者かがこの惨状を作り出したことは確かだ。自分達に敵対する何者かが。

 

「チッ……まずは手数を減らしに来たか。いいだろう、私が相手をぎゅぐッ――――」

 

 サンパーミュが腰から剣を引き抜いた瞬間。

 背後から伸びてきた両腕が勢いよく彼の首を締め上げ、一瞬の内に気絶させた。

 

 腕を開放すると同時に、白目を剥いたサンパーミュの体が膝から地面に崩れ落ちる。

 

「ッ!? てッめェ、いつの間ニ……!!」

「この程度の隠密にも気付かないか。視界が晴れた朝の上、煙幕も張っていないんだがな」

 

 サンパーミュの背後には、ガスマスクを付けた青年が腕を組んで仁王立ちしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――空に拠点があるというのなら、確実に補給のための場所を地上に設けている』

 

 朝目覚めた俊介の前で、ガスマスクはそう語った。

 

『その補給物資に紛れて船内に乗り込むのが上策だ。俺はそう考える』

「ああ、俺もそれが一番だと思う。肝心のその拠点は見つけられそうか?」

『このレーダーで、未来革命機関がどの方向に向かっているか分かる。その情報があれば容易だ』

「そうか……けど拠点には上級兵士がいる可能性がある。そして、出来るならその場で上級兵士は始末したい」

『それも可能だ。だが、補給物資の受け渡しの際に上級兵士がいなければ、相手に怪しまれる可能性があるな』

 

 そうガスマスクが語った時、俊介のすぐ傍にいた半透明のドールが元気に手を挙げた。

 

『はいはいはーい!! なら私が操るよ!!』

「ドールか。大丈夫?」

『うん! でもダークナイトくらい強い相手だと操作が出来ないっていうか……弾かれちゃうことがあるから、なるべく気絶させてほしいかなって』

「流石にダークナイトほど強くはないと思うけど……まあ気絶させるだけなら大丈夫だ。頼むよドール」

『なら下級兵士は私の声で片付けてしまうとするか』

「そうだな。じゃあその手筈で拠点を攻めよう」

 

 サイコシンパスが椅子に腰かけ、頬杖を突いたままそう言う。

 そんな風にぽんぽんと話を進めていく俊介に対し、出発の準備をしていた橘が声を掛けた。彼女にとって人格は見えないから、会議の結果がどう纏まったかを確認する意味合いもあっての声かけだろう。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれないか」

「何ですか?」

「その……確かにあんたが強いのは認めるけどさ。上級兵士が何人いるか分からないのに、その補給拠点に気軽に攻め込むのはどうかと思ってよ」

「ああ、大丈夫ですよ」

 

 俊介は一切時間を置くことなく、迷いのない言葉で言い切った。

 

「上級兵士って奴らだけで尚且つこちらから攻めるなら、絶対に負けません」

「な、なんで?」

「俺の人格達は強いからです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時は進み。

 サイコシンパスが一か所に集まった下級兵士を片付け、ガスマスクが残った上級兵士の相手をすることになった。

 

 地面を駆けるキーラが鉤爪を振り、ガスマスクに襲い掛かる。

 だがガスマスクはそれを危なげなく回避し、キーラの体の側面を蹴り飛ばした。軽い少女の体が吹っ飛び、地面を二メートル程ごろごろと転がる。

 

「かホっ……!!」

「お前達の拠点を見つけるのに大分苦労した。俊介もかなり困っていたな」

「クソが、調子のンなッ!!」

 

 彼女が人間とは思えない動きで立ち上がり、近くの壁に飛び移った。

 そのまま別の壁に飛び移り続け、ガスマスクの周囲を覆うように飛び続ける。

 

「死ネっ!!」

 

 残像を残す程の速度で飛び回りつつ、鉤爪の切っ先をガスマスクに向けて振り降ろした。

 しかし、懐から一瞬で取り出された軍用ナイフで鉤爪が弾かれる。別の方向から何度も斬りかかるが、まるで先読みされているように鉤爪が弾かれ続ける。

 

「は、ァ!? なンでッ――――」

 

 困惑でキーマの速度が緩まった一瞬。

 ガスマスクが彼女の体を掴み、勢いよくコンクリートの地面へと叩きつけた。彼女の肺から勢いよく空気が飛び出し、新しい酸素を取り込もうとパクパク口を動かす。

 

 少女が酸素を求め、苦しそうに息をしている。

 一見可哀そうな光景だが、ガスマスクは一切の容赦なく彼女の顔を足で地面に踏み付けた。

 

「匂いで分かる。お前、ある程度の人間を殺しているな? しかもその腐った性根……概ねシリアルキラーと言ったところか。トールビットなんかとは比べるまでもない小物だが」

「小物……!? オレが、小物だァ?!」

 

 ガスマスクの言葉はキーマの怒りの琴線に触れたようだ。

 彼女は力づくで足を抑えるガスマスクの足を振り払い、少し離れた場所に飛び下がった。

 

「全力で殺しテやるヨ!! クソ野郎がッ!!!」

「ああ、そうだ……それぐらい殺意を向けてくれると、こちらも幾分やりやすい」

 

 キーマは地面に四足歩行の状態で鉤爪を地面に突き刺し、体重を後方に掛ける。

 そして後ろ足で地面を蹴ると同時に、前腕で体を前に押し出した。足と腕の筋肉を全て使った前方への急加速。時速は六十キロを下らず、このまま鉤爪で斬れば人間などあっという間に肉塊だ。

 

 そんな彼女の必殺技である超加速に対し、ガスマスクは。

 万力のような握力で握られた右拳を、全力でキーマの顔面にぶち当てた。

 

 

 

 ――――ドッ

 

 

 

 骨と骨の衝突する鈍い音が響く。

 キーマは拳がぶつかった瞬間に意識を失い。

 

 

 

 ――――ガッチャアァアアアアンッッ!!!

 

 

 

 背後にあったコンクリートの壁に勢いよく衝突した。

 壁は鉄球でもぶつかったように深く凹み、どれだけの力が加わったのかを感じさせる。

 ふぅーっと深い息を吐いたガスマスクは、握られた拳をゆっくりと解きながら言葉を吐いた。

 

「俺も未来革命機関(お前ら)にはイラついてるんだ。散々俊介をコケにしやがって……ゴミ共が」

『めずらしー……。ガスマスクがそんなに怒ってるとこ、初めて見た……』

 

 いつの間にか、すぐ傍に次に上級兵士を操る手筈のドールが立っていた。

 ガスマスクはすぐに怒りを振り払い、冷静さを取り戻した声で言う。

 

「逆に、ドールは怒っていないのか?」

『え? お兄ちゃんを害する奴らは全員殺してもいいかなっていつも思ってるよ? もちろん未来革命機関も!』

「…………」

 

 寧ろドールの方が内側にごうごうと燃える怒りの炎を隠していたらしい。

 ガスマスクはポリポリと頭を掻きつつ、俊介に体を譲った。

 

 体の主導権を取り戻した俊介は軽く息を吐く。

 

「……ふう。そうか、片付いたか。……橘さん!」

「おぃい、マジかよ……。めちゃくちゃ強いじゃん、ほぼ一撃じゃん……俺いるぅ?」

 

 怯えながら、森の中から姿を現す橘。

 彼女にはここまで車を運転してもらったのだ。そしてこれから未来革命機関の拠点に乗り込むのにもついて来てもらう。

 

「あなたがいないと拠点の中の構造が分かりませんし」

「説明したじゃん、事前に……図付きで」

「実際に知ってる人がいないと、いざという時に不味いですし」

「クッソ……。この件が解決したら、俺の戸籍云々作るのを手伝ってもらうからな!」

 

 橘が青い顔でそう吐き捨てる中、俊介はドールに両腕の主導権を譲る。

 ドールは片腕でサンパーミュ、もう片方の腕でキーマを操るという器用な操作を始めた。

 

「下級兵士が入ってるコンテナの中に紛れ込むか」

『だね。他の段ボール箱には流石に入れそうにないし』

「悪いけど外から閉めてくれ」

『わかったー』

 

 橘と二人でコンテナの中に入り、ドールが操る上級兵士の二人に閉めてもらう。

 完全に締め切ったコンテナの中には光が全く入らない。その上下級兵士達が流す血のせいでかなり鉄の匂いが充満しているが、今は我慢の時だ。

 

 

「……うっ、うっ。怖い……」

 

 

 橘が僅かに嗚咽する声が聞こえる。

 彼女にとって未来革命機関の拠点に戻るというのは、俊介の想像以上に恐ろしい物なのだろう。

 

 暗闇の中、俊介は彼女の傍に近づき、腰を下ろした。

 

「無理させてすみません」

「い、いや。こちらこそ泣いて悪い……」

「大丈夫です、俺が絶対にあなたのことを守りますから。……一緒に無事に帰りましょうね」

「っ……う、うん……」

 

 俊介は彼女の持つ情報に色々と助けられた。そしてそれと同時に、彼女に色々と無理を言っている自覚はある。

 だからこそ約束するのだ。せめて、絶対に身の安全だけは保証すると。

 

 橘は隣に座った俊介に何を言うこともなく、少しだけ体重を預けた。

 

 

 ……数分して、コンテナが浮かび上がり始めた。

 ドールが言うには、上級兵士達の体も勝手に浮かび上がり始めているらしい。恐らく一定の範囲の物を全て船の中に向けて浮かび上がらせているのだろう。

 

 そして、ちょうど数えて三十秒。

 反重力が収まり、コンテナの中の重力が元の物に戻った。

 

 

 ついに――――辿り着いたのだ。

 未来革命機関の拠点へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





めちゃくちゃ強い相手からの下心ない純粋なあなたを守る宣言。
コンテナの中は暗闇だから橘が頬を赤らめてても分かんねえよなぁ!?

正直TS物の良さを今まで理解しきれていなかったが、自分で書いてなんかわかった気がする。TS物はこの世に全身全霊で存在している。
問題は橘をTSに定義づけしていいかだ。多分TS!


-Tips-
結構な頻度で喧嘩してる殺人鬼達だが、実はお互いを殺したことは一度もない。
理由は『俊介に殺人を禁じられている』から。なので人格が死んだ時にどうなるかは実は知らない。


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