殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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昨日のうちに投稿できなくてごめんなさい
間に合いませんでした


#81 産声

 

 

 

「まさか、昨日の今日で再会することになるとは思わなかったぞ。この拠点の場所に繋がる情報は大体集めていたという事か……」

 

 ピュアホワイトは空のティーカップを手で弄びつつ、そう言う。

 自身の武器である十字架の剣すら持っていないのは俊介への慢心の表れか。それとも分かりやすい挑発か。

 俊介は彼女に対して言葉で切り返す。

 

「こんな広い場所で兵士達と一緒に待ち構えてるなんて、強さのわりに随分臆病だな」

「私の敬愛する神に会うんだぞ? 私一人がドンと偉そうに待ち構えていては逆に失礼だろう。いざとなれば後ろの下級兵士(ザコ)共の血肉を供物に捧げられるしな」

 

 ピュアホワイトの背後にいる下級兵士達は肩を震わせたが、彼らにこの場から逃げるという選択は存在しない。

 幹部であり絶対的強者である彼女の命令に従えば、どちらにせよ待っているのは死なのだから。

 

「なに、安心しろ。実際に戦うのは私と……この上級兵士二人だ」

「あー……う」

「ちぃ~ッス」

 

 俊介は他の下級兵士とは明らかに違う服装と雰囲気を放つ、二人の上級兵士に視線を向ける。

 

 片方は、黒いゴムバンドを全身にギッチリと巻き付けた人間。口の部分だけ肌を露出しており、露出させた歯の隙間から呻き声と涎を垂らしている。

 

 もう片方は、身長が180センチ近くある金髪の女。短いスカートとファーのついた金色の上着を羽織り、過剰に装飾されたスマホをつまらなさそうに触っている。この時世、殆ど見なくなったイメージ通りのギャルだ。

 

 

 ピュアホワイトは俊介の方に顔を向けたまま話す。

 

「こいつらは上級兵士の中でも中々見どころがある。私がよく面倒を見て……」

「うー、うー……」

 

 その時、黒いゴムバンドの男が垂らした涎が地面に落ち、僅かにピュアホワイトの鎧の足元に飛び散った。

 涎がレギンスに掛かったピュアホワイトが口を止め。

 

 

 ――――一閃。

 

 

 ゴムバンドの男の首を、目に止まらぬ速さで取り出した剣で刎ね飛ばした。

 男の首がその場にゴトリと音を立てて落ちる。

 

「ッ!?」

 

 俊介が動揺を見せる。

 まさかこの状況で仲間の兵士を殺すとは思っていなかったからだ。一体何を考えているんだアイツは。

 その時、ヘッズハンターが俊介の横で冷静さを努めて保った声で言った。

 

『待て……俊介、様子がおかしい。あの男、血が出ていないぞ』

「なに?」

 

 そう言われ見てみると、確かに血が出ていない。

 首の断面からも、地面に落ちた頭からも、一滴すら出ていないのだ。普通ならば一滴どころか大量出血、そのまま即死しているはずなのに。

 

 と、その時。

 男の首の断面から細い血管のような物が数本伸び、地面に落ちた頭と繋がった。血管によって頭がぐぐっと持ち上げられ、泣き別れした胴体と頭が再びくっつく。

 そして断面同士がくっついてから一秒も経たずに男が再び呻き始める。

 

「なんじゃありゃ……!?」

 

 首を落とされたのに何事もないように元に戻りやがった。

 アレも人格の力なのか? 異世界の人格、何でもありすぎるだろ……!

 

 

 『まさかもう片方の上級兵士の方もああなのか』と、そう心の中で考える。

 すると、黙ってスマホを弄っていたギャルの女がイラッとした声色で口を開いた。

 

「言っとくけど、あーしはそこのキモイ奴みたいにキショイ再生はしないから。一緒にすんなよな」

「……こっちは心の中を読んでくんのか……」

 

 今までのような暴力一辺倒の上級兵士とは毛色が違うらしい。

 ピュアホワイトが見どころがあるというのも納得できる。

 

 

 俊介が上級兵士二人の能力を大体察し終えた時、ピュアホワイトが「ふぅ」と息を吐いた。

 

「さて、そろそろ始めるか。アニーシャ様の為に最高級の茶葉を急いで取り寄せたんだ。午前中には全てを片付けて、午後にはティータイムをしたいんだ」

「ダークナイトに最高級の茶葉だぁ?」

「ふふふ。私の世界の紅茶には少し劣るが、この世界の物も中々良いんでな。アニーシャ様も気に入ってくださるだろう」

 

 馬鹿が、ダークナイトが複雑な味が絡み合った高い紅茶なんて好んで飲むわけないだろ。

 あいつはどっちかって言うと大雑把で濃い味の方が好きなんだよ。

 

 ピュアホワイトはそんな俊介の思いを意に介すことなく、その場に立ったまま横の上級兵士に命令する。

 

「おい、お前たち。少し奴の相手をしてやれ」

「うー……」

「なに? ずっとあーしたちだけで戦うの? マジキツめなんですけど」

「安心しろ。私もここから少し手助けしてやる」

 

 なんだと、ピュアホワイトは戦わないのか?

 クソ……完璧に舐められてるな。前回負けてるから何も言えないが。

 

 俊介が悔しがっている時、半透明のヘッズハンターが細い眼で上級兵士とピュアホワイトを睨みながら言う。

 

『俊介。俺はお前の言う通りに動く』

「ああ。ヘッズハンター、お前は両足を動かすのにだけ集中してくれ。体は変わらなくていい」

『そうか……。ああ、分かった』

 

 少し目を伏せ、考えるような仕草をしたヘッズハンター。

 この船に入る時は、彼に必要な時は体を奪えと言った。だが逆に今は……奪わない方が良い。むしろ奪うような事態になる前に決着を付けたい。

 

 そんな風に考えていると、ヘッズハンターが俊介に掛け声を出した。

 

『――――俊介、集中しろ。来るぞ!』

「ああ!」

 

 彼の声で意識を目の前に戻す。

 

 

「うっ、ぼえ――――あああああ゛あ゛あ゛ッッ!!」

 

 ゴムバンドに全身を巻かれた男。

 半ば悲鳴のような声を上げながら、右腕からゴキゴキと骨を何度も折るような音を響かせ――――十メートル先にいる俊介にまで腕を伸ばして来た。

 

 足元を薙ぎ払うように振られた腕を後ろに飛んで回避する。

 その時、右側からギャル風の女が身を低くして迫って来た。右手にはスマホの代わりに、銀光りする小ぶりのナイフを持っている。

 

 中々の身体能力を持っているようで、一足で三メートルの距離を詰めて懐に入って来た。

 鋭く吐いた息と合わせるように、俊介の首に向かってナイフを素早く突き立ててくる。

 

「――――シッ!」

「ガスマスク右腕! エンジェル左腕!」

 

 両腕に別々の人格を宿らせる俊介。

 右腕のガスマスクにギャルのナイフを持つ腕を掴ませ、エンジェルの力でぶん殴る。そうすれば上級兵士だろうと一撃だ。

 

 ギャルの女の右手首が掴まれ、一瞬でナイフを捻り落とされる。

 そのまま無防備になった顔面にエンジェルの拳が迫った時――――

 

 

「――――そこだな」

 

 

 ピュアホワイトの静かな声。

 それと同時に、彼女の右手の人差し指の先から俊介の腹部を狙った魔力の塊が発射された。

 その速度は銃弾よりも少し鈍い程度だが、人体に致命傷を与えるには充分なサイズとスピード。

 

 両足の主導権を握るヘッズハンターがその魔力の弾を避けるために背後に飛びのく。

 あと一瞬飛びのくのが遅れていたら仕留められていたギャルの女が、額に浮かんだ冷や汗を指で拭う。

 

「ひゅ~っ! マジでスリル満点じゃ~ん! サンキューピュアホワイト!」

「なあに、気にするな。()()()()()()()()()()()()()()()()、楽なものさ」

「チッ……!」

 

 あからさまなピュアホワイトの挑発に俊介が舌打ちをした。

 頭を振り、冷静さを取り戻すために深呼吸をする。苛ついたらそれこそ奴の思うつぼだ。

 

 

 背後からゴムバンドの男の伸びた腕が迫ってくる。

 後頭部を狙ったパンチをしゃがんで避け、エンジェルの左腕でぶん殴る。関節を外して無理やり伸ばしているのか、人間の腕なのに人間を殴った感触がしない。

 

 おかしな方向にひしゃげた腕を押しのけ、ヘッズハンターの超人的な脚力でゴムバンドの男の懐に入る。

 斬っても殴ってもだめなら、顎を弾いて脳震盪で気絶させるしかない。

 

「ガスマスク! そのまま男の方を仕留めろ!」

『ああ――――ッ、駄目だ!!』

 

 ガスマスクの声と共に、再びヘッズハンターが後ろに飛びのいた。

 先ほどまで俊介がいた場所にピュアホワイトの魔力弾が通る。また奴が妨害してきたのだ。

 

「おいおい、随分後ろまで飛んで避けたじゃないか。心配性か?」

 

 ピュアホワイトが憎たらしい声でそう言ってくる。

 俊介の首にビキリと血管が浮かんだ。挑発なのは分かっているが、分かっていても苛つくものは苛つく。上級兵士から距離を取って、ピュアホワイトに低い声を吐いた。

 

「お前、さっきから何のつもりなんだ……! 全く動かずに妨害ばっかりしてきやがって!」

「んん? ああ……ふふ。子供(ガキ)が遊んでいるから、私も遊んでやっているんだよ」

「ガキが遊んでるだと……!?」

 

 俊介がそう言うと、ピュアホワイトは更に声の調子を上げて言葉を返して来た。

 

「お前はさ、弱いんだよ」

「なんだと?」

「いや、言葉を改めようか。お前の中の人格じゃない……宿主のお前が足を引っ張っているから弱いんだ、()()()()

「…………」

 

 周囲への警戒を怠ることなく、ピュアホワイトを睨む俊介。

 彼女が調子の上ずった声を保ったまま話す。

 

「今のお前を分かりやすく例えてやろう。獅子の上に乗るちっぽけな()()()だ。いや、獅子の足を引っ張る分、乗っているだけのネズミよりたちが悪い」

「長ったらしく話すつもりはない、結論を言え」

「ふう、せっかちな奴だな。…………お前は人格に両手足の主導権を渡している。複数人格のお前は、両手足でそれぞれの人格の力を使うことができる。これは攻撃の種類が増えて中々有用な手に見える……が」

 

 彼女が俊介の胴体を指さす。

 

「宿主のお前が弱すぎて、人格達の力を殆ど活かし切れていない。人間の大部分を占め、重心がある()()。ひねりを加えることで攻撃の威力が格段に変わる()。これほど重要な部位を操るのが、ずぶの素人の宿主」

「…………」

「お前が人格達の攻撃に合わせ、体を上手く動かす技量と身体能力があれば話は別だ。だが実際は私の適当な妨害に振り回され、人格達がお前をかばう始末。お前が上手く体を動かしていれば、そこの上級兵士を仕留めてから回避することも容易だった」

 

 俊介は歯噛みし、押し黙る。

 ピュアホワイトの言葉に反論する言葉ができなかった。

 なぜならそれは、以前から俊介自身にも分かっていた弱点だからだ。

 

 殺人鬼達が完全に体を使う時と、体の一部分だけを使う時では、体の動きと性能がまるきり違う。

 これがキュウビやドールなど、腕を主に使う特殊能力で戦う人格ならあまり影響はない。

 だがヘッズハンターやエンジェルにガスマスクのような、己の身体能力で戦う人格にとっては……大きな影響が出るのだ。

 

「人格の力におんぶにだっこ、自分より格下を倒して遊ぶだけの子供(ガキ)。どうだ、私は何か間違ったことを言っているか、日高俊介?」

「…………」

「お前はいるだけで邪魔なんだ。これならまだ、人格が体を完全に使った方がマシだ」

 

 相手の特徴に合わせ、人格を切り替えて戦う俊介が弱いわけではない。

 ヘッズハンターの脚力にエンジェルの剛力を乗せて殴る戦法は強力で有用だ。

 

 だが、それでは駄目なのだ。

 

 ピュアホワイトという格上相手には。

 

 俊介のせいで、少し遅くなったヘッズハンターの脚では。

 俊介のせいで、少し弱くなったエンジェルの力では。

 

 中途半端な力の掛け合わせ。

 子供の作った不細工な積み木細工として――――容易に弱点を見抜かれ、斬り伏せられてしまうのだ。

 

 

 俊介がピュアホワイトを睨む視線の鋭さを強める。

 だが心の方は少し押されかけていた。自分が攻撃されるならともかく、自分のせいで人格達が力を発揮できないと言われると、不甲斐なさと悔しさを感じてしまったのだ。

 

 その時、ガスマスクが俊介に声を掛ける。

 

『気持ちで負けるな、俊介』

「ガスマスク……」

『確かに奴の言うことは正しい面もある。だがわざわざ敵に従って今俺達に体を渡す必要はない。戦地で相手に従うことは、いずれ自分の命を差し出すことに繋がる』

「…………」

『敵の言葉で乱されるな、冷静に判断しろ。もし俺達に体を渡すとしても、自分が渡すべきと思ったタイミングでやるんだ』

「……ああ」

 

 ガスマスクの助言で少しだけ気持ちを持ち直した俊介。

 

 

 

 ……そして、俊介の様子を見ていたピュアホワイトが少しだけ舌打ちをする。

 

(中の人格が助言をして持ち直したか? めんどうな……)

 

 彼女が俊介に言ったことは事実だ。

 だがピュアホワイトは決して優しさでそんなことを言っていたわけではない。

 

(今の言葉で宿主が引っ込み、体をフルに使った人格達を打ちのめし続け、アニーシャ様を呼び出させる予定だったんだが……)

 

 そう。

 ピュアホワイトは宿主の日高俊介に、今の挑発の言葉で人格に体を渡して欲しかったのだ。

 

 そして体を渡された人格を、ピュアホワイトが倒す。

 それを繰り返し、最後に呼び出されるであろうアニーシャ様をお迎えする。これが一番この件を早く終わらせる方法だと思ったのだ。

 

 彼女が早く終わらせたがっているのは、偏に、午後のティータイムに間に合わせるためである。

 

(それに真昼の心を折るため、幼馴染の人格とやらをいたぶる時間も欲しかったんだが。……はー……仕方ないか、少々予定とは異なるが……)

 

 挑発の効果を上げるために、足を止めて魔力の弾だけで嫌がらせをしていた。一歩も動いていない実力者に正論を言われるのが一番心に効くとも考えたからだ。

 だが俊介に挑発が効かなかったのならば動かない理由はない。

 

 第二のプラン、ピュアホワイトが直々に動いて俊介に実力差を分からせる。

 両手足の主導権を渡しただけの中途半端な状態では敵わないと理解させるのだ。

 真昼の幼馴染をいたぶる時、元から傷が付いた状態では『良い悲鳴』が上がらないため、あまりやりたくはなかったのだが。

 

 

 

 ピュアホワイトは十字架の鞘から剣を抜き、一歩前に出る。

 

「お前たち。適当に私の攻撃に合わせろ、無理なら下がっていても構わん」

「えー? それって難易度バリ高じゃ~ん。ま……面白いからやるけど」

「う……あ……」

 

 幹部のピュアホワイト。上級兵士二人。

 かなり劣勢だが、それでも、俊介は拳を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――無理だった。

 

 

 

 

 

 

 

「げほ……ッ」

 

 ピュアホワイト単体でも厳しいのに、上級兵士二人が完全にサポートに回っている。

 総合的な実力でも、人数差でも上回られているのだ。

 俊介がどの人格の力を使って有利に戦おうとしても、敵う道理はなかった。

 

(意地、ちょっと張りすぎたな……やっぱあの時誰かに代わってればよかったか……)

 

 ……なぜ俊介は意地を張ったのか。

 それは、『()()()()()()()』のためだ。

 

(ピュアホワイトはとにかく速い。そのスピードに対応できるのは、ダークナイトを除いて……ヘッズハンターだけだ)

 

 憎き敵であるピュアホワイトの移動速度は異次元と言っていい。

 ヘッズハンターの最高時速が百キロから百二十キロだが、奴は時速二百キロは優に超えている。

 格下の俊介と戦う時でこの速度なのだから、本気で動いたならばもっと速いだろう。

 

(だけど……)

 

 俊介は、ピュアホワイトとヘッズハンターを、なるべく戦わせたくなかった。

 理由はもちろん……『幼馴染』の存在だ。

 

(ヘッズハンターに、好きな人が宿った体と戦ってくれなんて、言いたくねえ……!)

 

 心の底から好きだと言える人――――夜桜さんがいるから分かる。

 ヘッズハンターの今の心境は想像を絶するもののはずだ。心が張り裂けそうなはずだ。

 ずっと会いたかった人が目の前にいるのに、あともう少しが無限のように遠い。

 

 そんな生殺しの状態のヘッズハンターに更に鞭を打つのか?

 いや……そんなことは絶対にさせたくない!

 

 

「――――だから俺が、宿主の俺がピュアホワイトを倒すんだッ!! ヘッズハンターをこれ以上苦しませないためにッ!!」

 

 

 そう叫びながら、拳を甲板に突いて立ち上がる。

 ピュアホワイトに死なない程度に斬られたせいで、体は既に傷だらけ。体から流れ出る血と共に失われていく体温を、心のガソリンを燃やして取り戻す。

 

「はあ……まだ続けるのか。もう十五分はこうしているぞ」

「マジだりーし。そろそろ倒れろし~」

「う~……」

 

 敵の三人組が呆れた様子で、立ち上がる俊介を見る。

 意外にも俊介がしぶといせいで、三人組はすっかり飽きてしまっていた。ピュアホワイトに至っては後の予定が崩れそうで少しイライラもしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――その様子を、ヘッズハンターは静かに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俊介……分かっているはずなのに。人格達の中でピュアホワイトに対抗できる可能性があるのは俺だけだから、俺に完全に体を代わればいいのに……』

 

 一人でそう、小さく呟く。

 

 ……いや、体を代わった所で、対抗できる()()()があるだけだ。

 ダークナイトを除いて、人格達の中で一番速いだけだ。ピュアホワイトの速度には及ばない。

 

 それでも今より戦況はマシになるはずだ。

 俊介ならばそれに気付いていないはずがない。だから今すぐにでも代わればいいのに。

 

 ……いや、分かってる。

 

 俊介は優しいから、俺と真昼をなるべく戦わせたくないんだ。

 俺に真昼が入った体を攻撃させたくないんだ。

 

 優しすぎるんだよ、俊介は。

 こんな俺に気遣って、それで俊介がボロボロになるなんて全然釣り合ってない。

 俺みたいな屑の殺人鬼に気遣う必要なんてないのに。

 

 

『くず……そうだ、俺は屑なんだよ……』

 

 元の世界では史上最悪の殺人鬼と呼ばれた。

 それだけのことをした。

 七百人も殺したんだ。一度死んだとしても許されるような罪じゃない。

 

 でも、俺は殺人鬼だから屑なんじゃない。

 殺人鬼になるもっとずっと前から俺は心底吐き気がするほどの屑だったんだ。

 

 

 小さいころから真昼が好きだった。

 けど年が上がるにつれて疎遠になって……彼女が虐められていることを知った。

 なのに助けなかった!

 

 彼女は強かったから、虐めグループに対しても屈しなかった。

 けど、虐めグループは抵抗する彼女に段々エスカレートして、最後は集団で強姦までした。

 

 俺は真昼に助けを求められた。

 なのに俺は……警察に相談しようなんて、怯えたことを言ってしまった。他人に頼るべきじゃなかった。そこで俺は虐めグループを全員殺しに行くべきだったんだ。

 

 その日のうちに真昼は自宅の部屋で首吊り自殺をした。

 俺は心配で、昔真昼が好きだった菓子を持って家に訪ねたら……遺書も用意せずに首を吊っていた。第一発見者は俺だった。家の中に親がいたのに真昼は首を吊ったんだ。

 

 気が付いたら、俺は刃物を持って虐めグループがいつもいる空き教室の前にいた。

 そして中に入って、虐めグループの八人全員をバラバラにして殺した。汗一つかかなかった。それは花の茎を手折るくらい簡単で……こんな簡単なことができていれば真昼は死ななかっんだと、後悔した。

 

 俺は確かに強い。

 身体能力は一般的な人間の物を遥かに超えている。

 だが本当の性根は、怖いことがあったらすぐに逃げる屑だ。怖がりなんだ。

 

『俺は……屑』

 

 真昼は昔から可愛くて、明るくて、俺には分不相応な存在だった。

 虐めグループに目を付けられたのはその可愛さからだった。それくらい可愛かった。

 

『俺は…………』

 

 俺はずっと真昼が好きだった。

 真昼が好きだった。

 好きだったんだ。

 

 

 ――――だからあの日。

 俺は七百人以上の人を斬り殺す武器になる、倉庫で少し埃を被っていた()()()()を持ったんだ。

 

 

『――――あ、ああ……そ、そうだった……俺は……』

 

 テレビに真昼に似た顔の女性が映った。

 ついさっき俺が殺した虐めグループについて緊急報道するニュースレポーターだった。

 犯行現場である学校の校門前で喋っていた。

 

『なんでこんなこと忘れてたんだ……少し考えれば思い出せたじゃないか』

 

 可愛いと思った。

 真昼に似ていた。

 もう離したくなかった。

 

 たまらなく――――()()()()()

 

 

『俺が、()()()()()()()()()()()は――――』

 

 

 殺してしまえばずっと俺の手から離れない。

 すぐに逃げてしまうような屑な俺でも、手元にあるなら、持っていくことができる。 

 真昼の可愛い()をいつでも見られるようにしたかった。

 

 

 だったら、することなんて一つだろう?

 

 

『――――()()()()()()()()()()()

 

 

 ずっと真昼が欲しかった。

 永遠に手放さないように、真昼自身を殺したかったけど、その時にはもう真昼は死んでた。

 

 この世に真昼がもういないなら、代用品で諦めるしかないと思った。

 だから顔の似た女性を百人は殺したし、その周りにいた邪魔な人間を六百人近く殺した。

 だけど俺は馬鹿だから、時間が経つにつれて真昼の顔を忘れていっちまった。殺し過ぎて頭が馬鹿になった。

 

 

 ――――でも、今は目の前にいる。

 

 

 ハハハ……。

 やっぱり俺は根っからの屑で、その上殺人鬼なんだな。

 

 悪い、俊介。

 

 俺はやっぱり、何処まで行っても。

 

 どうしようもない人殺しだったよ。

 

 

 

 

『体、もらうぜ』

「えッ――――」 

 

 俊介の背後から近づき、無理やり体の主導権を奪う。

 体を奪った瞬間、斬り刻まれた傷の痛みが全身に走った。

 今はその傷すら心地いい。

 頭の中のもやが全部吹っ飛んだみたいな気持ちだ。

 

 

「フン、やっと代わったか。お前は誰だ? 真昼の幼馴染か?」

「あーそうだよ。ハハハ……やっぱ神様って残酷だなぁ。人を殺したくない俊介の体で、どうしても殺したい相手を目の前に呼ぶなんてよ」

「あ……?」

 

 ピュアホワイトが、急に雰囲気の変わった俺に訝し気な表情を浮かべている。

 どうでもいい。

 

 ピュアホワイトの顔は元の世界の真昼の物とは全く似てねえ。

 どうでもいいや。

 

 真昼がそこにいるなら、顔の造形なんてやっぱどうでもいいや。

 俺の中の真昼の顔を、今のお前の顔の記憶で全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部――――埋め尽くせばいい。

 

 そこにいるんだろ?

 真昼。

 今度こそ、この世界では、ずっと一緒にいような。

 

 

 

 

 ――――フッ

 

 

 

 

「貰うぜ、下級兵士のあんた」

「ッ!? え……?!」

 

 ピュアホワイトの後方にいた下級兵士に近づき、持っていた軍用マチェットを二本奪う。

 元の世界で使ってた鉈と比べりゃ少し手触りが違うが……まあおんなじさ。

 

 斬れば死ぬ。

 人間なんてどの世界でも同じだ。

 

 

「ッ――――なんだ、()()()()は……?!」

 

 

 ピュアホワイトが驚いた声を上げる。

 マチェットを手に馴染ませるようにくるくる回しながら、真昼の入った体の方に振り返った。

 

「どうした? ただ小走りで進んだだけだぜ」

「お前、本当にあの真昼の幼馴染か……!? 人間の出せる速度じゃない、なんだ、その速さは……!!」

「実際に出してるだろ? 今度こそ真昼を逃がさないためかな、いつの間にかこんなに速くなれたんだ」

「ふざけるな……!!」

 

 奴が剣を本気で構える。

 他の上級兵士も先ほどまでの呆れたような雰囲気を閉じ、全身から殺気を放ち始めた。

 三人の強者が放つ殺気は、常人ならば失神してしまうような圧を放っている。実際下級兵士達は完全に委縮してしまい、背中を無防備に見せるヘッズハンターに対して攻撃を加えようとしない。

 

 

 だが。

 ヘッズハンターは、その剣呑とした殺気を、夏の朝に吹く涼しい風でも受けるように心地よく受け止め。

 

 

「じゃあ、行くよ。――――真昼」

 

 

 その三人の殺気を上から全てどす黒いクレヨンで塗りつぶすような、濁流の如き殺気を身から放った。

 それは歴戦の猛者でありいくつもの戦場を乗り越えたピュアホワイトですら、思わず身が震えるほどの殺気。

 

 誰かの為ではない。

 ただ己の傲慢な理由の為に人を殺し続けた人間が辿り着く、人殺しの極致。

 それこそが、それぞれの世界で史上最悪の殺人鬼と呼ばれるに至った者達の立つ場所。

 

 人間でありながら人を殺し続けた、最悪の化け物の一人。

 日高俊介という蓋が抑え続けていた人類を滅ぼしかねない災厄。

 それが史上最悪の殺人鬼と呼ばれる者達。

 

 そしてそのうちの一人。

 人の域を超えた超常的身体能力を持つ男。

 

 

 

 ――――『()()()()』が、ついに目覚めてしまった。

 

 

 

 

 





ヘッズハンターの心をうまく書き切れなかった
作者の力量不足です いつか加筆します
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