殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#83 俺と一緒に

 

 

 

 

 

「少しだけ、話すか」

 

 ヘッズハンターに向け、そう言った俊介。

 そして次に、逃げないようにヘッズハンターを捕まえているエンジェルの方に顔を向ける。

 

「悪いけど、二人にしてくれないか?」

『ですが、次に体を奪われたらもう取り戻せません。今度こそヘッズハンターはピュアホワイトを殺します。そうなったら……』

「分かってるよ。頼む、エンジェル」

『……私は不服です』

 

 自身が納得いかない事を端的に口から漏らしながらも、エンジェルはヘッズハンターをその場に落とした。

 そしてすぐに彼女は、近くにいたハンガーを連れて俊介の中に戻る。

 

 興奮冷めやらぬピュアホワイトが冷静さを取り戻し、こちらに注目を戻すまでがタイムリミットだ。

 話せるのは凡そ二分が限界といった所か。

 

 

 俊介は傷ついた体で深呼吸し、息を整えながらも言葉を発する。

 

「なんとなく、みんなの話ぶりから分かる。ヘッズハンター、お前、ピュアホワイトをあと一歩の所まで追い詰めたんだろ」

『…………』

「図星だな」

 

 七年も一緒に居るのだ。

 これも言葉にハッキリできるほどではないが、ヘッズハンターの僅かな仕草や雰囲気の変化で、図星を突かれたんだなというのはなんとなく分かる。

 

「ヘッズハンター、聞かせてくれよ。どうしてピュアホワイトを殺さなかった?」

『それは……ッ。その……俊介との『人を殺さない』って約束が、あったからだ』

「……本当にそうか?」

 

 俊介は一切の怒りの感情を見せず、ただヘッズハンターに笑みを向ける。

 その顔を怖くて見ることができないヘッズハンターは、ただ顔を俯けていた。

 

「俺との約束……それだけが、本当に殺さなかった理由か?」

『やめッ……やめて……!』

 

 そんなに優しく諭さないでくれ。

 「よくも人を殺そうとしたな」って、俺の事を罵ってくれ。

 心の底からの嫌悪を向けてくれ。

 

 頭を抱えて耳を塞ごうとするヘッズハンター。

 その様子を見つめたまま、俊介は自身の胸に手を当てた。

 

「ヘッズハンターは優しいから、俺のことを考えてくれてるんだろ?」

『え……?』

「いや、俺からすれば、殺人鬼のみんなは滅茶苦茶優しいんだ。俺もな、どうしても許せない悪者とかは、いっそ殺しちまえば丸く収まるってのは分かってる。俺も榊浦親娘はマジで殺したい」

 

 「でもな」と、話を続ける俊介。

 

「それでも俺は、やっぱり『人を殺したくない』んだ。それがどれだけ楽な方法だとしても。そんな俺のワガママに付き合ってくれるみんなはめっちゃ優しいよ」

『ああ……』

「……ヘッズハンターもそうなんだろ? 俺のこと、いっぱい考えてくれて」

『え?』

 

 ゆっくりと顔を上げる。俊介の言っている意味が分からなかった。

 俊介のことなんか考えちゃいない。

 寧ろ俺は裏切ろうとしていたんだ。人を殺さないって約束を破ってまで。

 

「真昼ちゃんごとピュアホワイトを殺せば、奴さえいなくなれば、夜桜さんは確実に助かる」

『違う……』

「そう思ってくれたんだろ? だから俺の体を奪って、何もかものリスクを背負って、ピュアホワイトを殺そうとした。俺との約束を破っても、自分が嫌われるだけで上手く収まるからって」

『違うッ!! そんな、違うっ、俺はそんなに優しくないんだッ!!』

 

 目端に涙を浮かべながら、必死に頭を振る。

 そんなに優しい言葉で肯定しないでくれ。俺の心を溶かさないでくれ。

 

 何かを必死に否定しようとするヘッズハンターの顔に、俊介が手を伸ばす。

 半透明で物体をすり抜ける人格の体に、俊介の手は触れられない。しかしヘッズハンターは自分の右頬に当たっている手から、優しい日光の暖かさを確かに感じた。

 

「ヘッズハンター。それでもやっぱり、お前は、あいつを殺さなかった」

『ッ……』

「本音を話してくれよ。今までワガママ聞いてくれたんだ」

 

 

「だから……何でも聞くよ」

 

 

 

 

 

 

 目から温かい何かがこぼれ出る。

 それを手で拭っても、ぽたぽたと顎を伝って地面に落ちていく。

 何度も何度も手で拭いながら、ぐちゃぐちゃになった顔のまま、震える唇を動かす。

 

 

『俺は、真昼を……』

 

 

 今まで何人殺してきた?

 

 七百人以上だ。

 

 今更お前みたいな屑が、都合のいい未来を望むなんて許されるわけがない。

 

 

『真昼を゛っ……』

 

 

 口に出すな。

 

 それを言ったらもう止まらなくなる。

 

 俊介に迷惑が掛かる。

 

 このまま真昼と一緒にピュアホワイトを殺すのが、全て丸く収まる。

 

 俊介の大好きな夜桜だけは確実に助けられるんだ。

 

 死人の俺なんかに気を遣う必要はない。

 

 

『真昼を……!』

 

 

 だから、言うな――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――()()()()()()()()()っ……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俊介が優し気に微笑む前で、ぼろぼろと涙をあふれさせる。

 顔を真っ赤にして、鼻水も流して、全身が張り裂けそうになりながらも言葉を漏らす。

 

『今までずっと、真昼のことをずっと、欲しいと思ってた……!』

『でもいざ目の前にいると思ったら、どうしても殺せなかった……!』

 

 

『ワガママなのは分かってる!!』

『ピュアホワイトの中から、真昼の人格を出すのがどれだけ難しい事なのか……!!』

『今あの体を操るサリアスが、真昼に大人しく体を明け渡す訳がない!!』

 

 

『それでも、俺は……ッ゛!!』

 

『俺は、真昼に……』

 

 

 

 

『真昼に、元の世界で逃げてしまったことを、謝りたい……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ヘッズハンターが心の中にずっと隠していた本心。

 殺意という蓋で隠していた、本当の願い。

 史上最悪の殺人鬼が決して望んではいけない、都合のいい未来。

 

 その殺人鬼の願いに対して、俊介は悩む素振りもなく答えた。

 

「なら、そうできるよう頑張ろうぜ」

『ッ……! 本気か俊介ッ! 殆ど不可能に近い事なんだぞッ!!』

「なんか忘れてないか、ヘッズハンター」

 

 俊介は口角を上げ、彼に向かって笑みを浮かべる。

 

「俺が決めた約束は『()()()()()()』ことだ」

『ッ、それは……』

「アイツを殺さずに真昼ちゃんを表に出す。ちょうどいい、約束通りだぜ」

 

 一拍の間を置き。

 

「それに、これも随分前に言った気がするんだけどな」

 

 ヘッズハンターが泣きはらした顔を俊介の方に向ける。

 それは、俊介がいつの日か言った言葉。自身の心にずっと影響を及ぼし、あこがれ続けていた言葉。

 

 

()()()()()()()()()より……()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ?」

『…………!!』

「ヘッズハンターが幼馴染と会いたいって言うんなら、俺も全力でやってやるさ」

 

 俊介の言葉に、ヘッズハンターがパクパクと口を開閉する。

 そのまま最後の涙を手で拭い、唇をぎゅうっと噛みしめた。

 

 

『そうか……分かった。俺は、ここまで来て……まだ、()()()()んだな』

 

 七百人以上殺した俺が、何もかも上手く纏まるようなハッピーエンドを目指していいわけがない。

 誰もが甘ったるい砂糖を吐くような、そんな心地の良い結末を望んで良いわけがない。

 だって俺は『史上最悪の殺人鬼』だから。罪に永遠に縛られ続けるのがお似合いの存在だと、そう思っていた。

 

 だから俺は、真昼ごとピュアホワイトを殺して、全てを終わらせようとしたんだ。

 自分にはこの不幸な結末がお似合いだって勝手に決めつけて、困難な道のりのハッピーエンドから目を逸らしていた。

 

 元の世界でのあの日。

 真昼からの助けてという言葉に、自分の力じゃなく他人の力に頼ったことも。

 真昼が自殺した後、彼女の亡霊を追い求めるように殺人を繰り返していたのも。

 

 怖かったから、逃げていただけなんだ。

 本当に立ち向かう勇気があったなら、もっと別の選択肢を取っていた。

 彼女の死を受け止めてマトモに生きていたんだ。

 

 でも俺は受け止められなかった。真昼の死を受け止める心の強さがなかった。

 ずっと逃げて、逃げて、逃げ続けた。

 俺は……世界で誰よりも逃げ続けたから、『史上最悪の殺人鬼』なんてもんになっちまったんだ。

 

 今回だって、本当に選ぶべき選択肢はピュアホワイトを殺す事じゃなかった。

 ずっと傍にいてくれた俊介に、『相談すること』だったんだ。

 こんなに辛い選択肢で、情けない俺の気持ち悪い願いだけど、どうか手伝ってくれないかって頭を下げることだったんだ。

 

 

『俊介……』

 

 

 今だって、体は強くても心は弱いままだ。

 真昼と会うのが怖い。

 ピュアホワイトと戦う間に、俺の殺人鬼としての本性を見せすぎた。

 もし彼女と再会できたとして、失望されたり侮蔑されたりするかもと思うと身が震える。

 

 それでも。

 俺はもう、決して一人じゃない。

 心強い俊介って奴が、俺のすぐ傍に居てくれるから。俺の折れかかった心を支えてくれるから。

 

 

 だから、俺のゴミみたいな逃げ癖には……そろそろ終止符を打つよ。

 

 

『ありがとう、俊介……俺は本当に、こんな奇跡みたいなチャンスから……また逃げるところだった』

「おうよ。元気出たか、ヘッズハンター?」

『ああ……。俊介、辛いことに付き合わせてごめんな』

「何言ってんだよ。そんなもん、七年前にみんなが宿った時からとっくに背負う覚悟決めてるっての」

『はは。本当に強いんだな、俊介は……』

 

 

 心の底から感謝の言葉を述べても足りない。

 ありがとう、俊介。

 俺の弱い所を受け入れてくれて、俺の本当の願いを引き出してくれて。

 

 なんだか心がどろどろに溶けて、俊介と重なり合ってるような感覚だ。

 今までに味わったことのない感覚だがなんとなく分かる。俺達は今、誰よりも深い場所で繋がってる。

 そして同時に感じ取れた。

 

 

 俺の力の、『()()()()()()』が。

 

 

『俊介、一緒に戦ってくれるか?』

「もちろん」

『カッコいい返事だな……』

 

 結末がどうなるかは分からない。

 目の前に見える道のりは茨だらけだ。以前の俺なら絶対に進まないほど険しい道のり。

 ハッピーエンドを目指したとしても、誰もが期待するような幸せな未来には辿り着かないかもしれない。

 

 でも、それでいい。

 俺はもう逃げない。逃げずに進むことに価値があると理解できた。

 俊介と一緒なら、俺はどんな未来が訪れても乗り越えられる。

 

『なら持っていってくれ……俺の力を。そして存分に使ってくれ……俺の力を、『本当の使い方』で』

「ああ。一緒に行こう、ヘッズハンター」

『そうだな……!』

 

 俺達が力を合わせれば、向かうところ敵なしだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……! さっきの一撃で幾分か怯んだだろう、そろそろ止めを刺すとするか……!」

 

 ピュアホワイトが死を乗り越えた興奮を抑え、先ほどヘッズハンターを殴り飛ばした方に体を向ける。

 

 奴は魔力で身体強化をしていない。スピードはあるが耐久力はそこまでではない。

 それに、真昼の声真似をしただけで随分と動きが鈍った。

 なんて大きくて、情けない弱点だ。

 

 真昼の声真似をしながら奴に攻撃を加えれば、中にいる真昼の心もおのずと折れるだろう。

 『倒し方』は分かった。『虐め方』も既に分かった。ああ、気分がいい。

 

 そして十字架の剣を握りしめ、レギンスで床を叩き、歩みを進めようとした瞬間。

 

 

 

「――――誰に止めを刺すって!?」

 

 

 

 そんな声が大きく響いた。

 さっきの人格が立ち上がってきたかと思ったが、何かが違う。あんなに放っていた重い殺気を一片も放っていない。

 

 瓦礫のせいで舞い上がった砂煙を掻き分け、男が姿を現した。

 その体を今操っているのは、ヘッズハンターではない。

 宿主である()()()()だ。

 

「久しぶり。随分好き勝手やってくれたみたいだな、ピュアホワイト」

「は……? お前、まさか宿主か? なぜここでお前に変わる……?」

 

 理解が出来ない。

 なぜさっきまで自分を押していた人格から、弱っちい宿主の方に変わるのか。自ら勝負を放棄したのか。

 

 そこまで考えた所で、ようやく気付く。

 この宿主、先ほどまでとは違う。

 

 真昼の幼馴染である人格と、()()()()()()()()()()

 そう気づいた所で、ピュアホワイトは後ろに一歩後ずさった。

 

 

 それは、浮遊人格統合技術で人格を宿した者の、最高到達点。

 彼女ですら知識でしか知らず、実際に扱える者に出会うのは初めての技術。

 

 

 ピュアホワイトは美しい素顔を歪め、目を大きく見開く。

 

「それは、まさか、『()調()』か……!? この土壇場で……更に上に目覚めただと……!」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――()調()

 

 

 浮遊人格統合技術で人格を宿らせた宿主が、人格の力を使う方法には大きく分けて三つある。

 

 一つ目は、完全に体を渡してしまうこと。

 これは最も簡単である。

 

 二つ目は、体の一部分の主導権の譲渡。

 これは中々に難易度が高く、才能も必要だ。

 両手足をそれぞれ別の人格に操らせるとなると、複数人格であることを前提とした上で、人並外れた技量と才能が必要になる。

 

 そして三つ目。世界でも扱える者は殆どいない、超高等技術。

 それが『()調()』だ。

 

 

 同調を行うのにもまず才能がいる。

 しかしそれよりも重要なのは、『人格と心を通わせる』ことだ。

 ただ仲良くなるだけではいけない。お互いがお互いを完全に信頼し、魂が溶け合う程に心を繋げなければならない。

 

 人格によって同調ができるようになる条件は異なる。

 だがそれが異常な性根を持った殺人鬼だろうと、普通の一般人だろうと、難易度はそう変わらない。

 誰かと真に心を通わせるのは難しいものだ。

 それが異世界で元々生きていた人間ならばなおさら。

 

 今現在、人格が宿った人間は世界に一億人近くいる。

 しかし、『同調』が使用可能な者は30人ほどしか確認されていないと言えば、その難易度がどれだけ高いか分かるだろう。

 

 

 ……そしてその難易度に見合うように、同調のもたらす効果は他の人格の力を引き出す方法とは正に次元が違う。

 今までは宿主の体を人格が乗っ取るだけだった。

 だが同調は、宿主の体の上に、()()()()()()()()()()のだ。

 

 宿主と人格がどちらも一般人ならば、宿主は常人の二倍の力を使う超人になれる。

 人格が埒外の超人ならば、宿主もまた超人の力を得て……尚且つ、それを宿主自身の意思で自由に扱う事ができる。

 

 つまり同調とは。

 『真に心を通わせた人格の力を宿主の意のままに使う事ができる』技のこと。

 

 それこそが、人格を宿らせた宿主のほんの一握りが辿り着く()()

 

 

 ――――『同調』だ。

 

 

 

 

 

 俊介がキッと視線を強める。

 どれだけ傷だらけでもその視線と心には一切の曇りを見せない。喉が張り裂けそうな音量で、極まった決意の籠った声をピュアホワイトにぶつける。

 

「覚悟しろよピュアホワイト!! そろそろお前に引導を渡してやらァ!!」

 

 その言葉を受けたピュアホワイトが、驚きを振り払い、剣を構える。

 同調を使ったからどうしたと言うのだ。

 宿主はただの弱者、同調している人格は真昼の声真似だけで大きく乱されるような半端者。

 珍しい技術を使った所で基礎がないその体は隙だらけだ、クソガキが!

 

「人格の力を使ってイキがってるだけの雑魚の子供(ガキ)が、調子に乗るなァッ!!」

『俊介が人格の力を使ってイキがってるだけだぁ? 寝言も大概にしろよ!!』

 

 

 ヘッズハンターと俊介が全く同じタイミングで前に足を踏み出す。

 

 

 

「俺は宿主の日高俊介! 夜桜さんを助けにきた、ただの高校生だ!!」

『俺は人格の間狩伸介! 異世界からやってきた、最悪の殺人鬼だ!!』

 

 

「長い遠回りをしてこの場所に来た!」

『決して償い切れない罪を犯した!!』

 

 

「自分の弱さに泣いたこともあった!」

『何もかもが怖くて、今までずっと逃げていた!!』

 

 

「それでも今、やっとここに来れた!」

『異世界のこの日この場所に辿り着いた!』

 

 

「夜桜さんを安全に逃がすためには!!」

『真昼にあの日の事を謝るためには!!』

 

 

 

 声が、重なる――――!

 

 

 

 

「『あとはお前をぶっ倒すだけなんだぜッ!! ピュアホワイトォッ!!!』」

 

 

 

 

 俊介とヘッズハンターの鋭い視線がピュアホワイトを射抜く。

 

 ピュアホワイトには人格であるヘッズハンターの姿は見えない。

 

 だが目の前の男が、中にいる人格と共に吐き捨てるようなクソ甘い希望を見据えて睨んできているのは手に取るように分かった。

 ピュアホワイトは顔をこめかみから額までビキリと血管を浮かばせ、右足を床を砕くほど強く踏みしめる。

 

 

「私を倒すだと!? ハッ、ならばさっきそのまま殺すべきだったなァッ!!」

 

 

 奴はそう叫ぶと共に、全身からどす黒い魔力を噴出させた。

 その魔力の量と出力は先ほどまでとは比にならない程に多い。魔力の質も先ほどまでの聖騎士然とした美しく清浄な物から、あらゆる物を食い荒らさんとする暴力的な物へと変化している。

 

 今、ピュアホワイトは俊介以上の急激な成長を始めていた。

 それはなぜか。

 

 先ほど奴は、史上最悪の殺人鬼という死神の如き存在に殺される寸前まで迫られた。

 そして姑息な手を使ったとはいえ、己の命の間近まで迫った『本物の死』を乗り越えることができた。その経験がピュアホワイトを大きく変えたのだ。

 

 あの時、奴は『死』が間近に迫ったことにより起こる走馬灯から、一瞬のうちに自身の生涯を振り返った。

 

 そして気付く。

 

 生まれた時から刷り込まれた『聖騎士』という殻は、凡人がある程度まで成長するにはちょうどいい物だ。

 先人が積み上げた技術を効率的に習得できる環境は、平凡な人間には適している。

 

 だが自分は特別な才能を持つ人間だ。

 『聖騎士』という殻は、今や自分には狭すぎる。

 自分の実力の限界はここではない。

 

 そうだ。

 

 

 今こそ『聖騎士』という殻を破りッ!

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()』として羽化する時なのだ――――ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹き荒れる魔力が暴風を起こし、俊介の髪を勢いよく後方へ流す。

 手のひらで顔の前を覆いながらも、俊介は口角を上げた。

 

「黒い鎧に体から放つ魔力の感じまで同じか! ダークナイトに随分似せてきたなァおいッ!!!」

『ビビるなよ俊介! 俺達なら行ける!!』

「当たり前だッ!!」

 

 先ほどまでヘッズハンターが振るっていたマチェットを一本だけ握り直す。

 武器は二本も必要ない。

 

 なぜなら俺達は二人で一つ。もう余計な選択肢は必要ない。

 ハッピーエンドにまで伸びる一筋の道を進む、覚悟を決めた一本だけで充分だ。

 

 

「――――来いッ、()()()()ェッ!!」

 

「言われなくても行ってやるよ、()()()()()()()ッ!!」

 

 

 俊介が前方に素早く移動し、振り上げた一本のマチェットを叩きつける。

 ピュアホワイトが十字架の剣を横に構えて防御する。

 

 一拍遅れ、ガキンッ!と甲高い金属音が暴風と共に鳴り響いた。

 それはさながら、ボクシングで言うラウンドの始まりを告げるゴングの音だ。

 

 

 ヘッズハンターの回り巡って来た因果を終わらせるための。

 

 最後の戦いのゴングが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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