殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

90 / 158
#85 決着

 

 

 

 

 

 ピュアホワイトが自分で魔法の真髄と言うくらいにヤバい『何か』を使った。

 しかし俊介は魔法について『魔力でぼわっと超常現象を起こす』くらいの認識しかなかったので、彼女が具体的に何をしたのかは皆目見当もつかなかった。

 

 だが一つだけ分かる事がある。

 

 

「先手を取られるのだけは不味い!」

 

 

 何も分からない圧倒的に不利な状況。

 ならばこちらの得意分野であるスピードだけでは負ける訳にはいかない。

 この意味不明な空間でピュアホワイトが何かをする前にぶっ叩き、流れを完全にこちらに引き寄せるのだ。

 

 両足に力を込め、奴の眼前に一瞬で移動する。

 まだ時速六百キロという異次元の速さに慣れ切っていない俊介だが、直線状に素早く移動してマチェットを叩きつけるくらいならヘッズハンターと遜色ない動きが可能だ。

 

 そのまま上に構えたマチェットをピュアホワイトに向かって振り下ろす。

 ……が。

 

「ッ!?」

 

 突然ピュアホワイトの足元の地面が槍の形に変形し、マチェットの攻撃を弾いた。

 土の槍なのに硬すぎて斬る事ができない。いや硬いなんて次元ではない、まるで『破壊出来ない』と世界にルール付けられているような不自然すぎる硬さだ。

 

 驚くのも束の間、ピュアホワイトの剣が首筋に迫るのを感じて咄嗟に背後に飛び跳ねて回避する。

 十数メートル近く飛び退いた俊介に対し、ピュアホワイトは静かに剣を降ろしながら言葉を発した。

 

「ここは、私の世界の遥か太古に天使含む神と魔神が行ったとされる聖戦の跡地を再現したものだ」

「は……?」

「天使が数万以上殺されたが、魔神は自我を消されて封印。以降、魔神は強者の苦痛と命を以て限定的に呼び出される、魔族の傀儡となった……」

「何の話を……」

「分からないか?」

 

 そう言うと、彼女は両手をバッと広げた。

 雲の隙間から漏れる天使の梯子がちょうど彼女の全身に降り注ぐ。その美しい顔と十字架を模した剣と相まって、少し神々しさすら感じさせる光景になっている。

 

「神と魔神が互いに争った土地。私の魔法による再現とはいえ、これほど神にゆかりのある土地はあるまい」

「…………」

「アニーシャ様という新たな神が降臨するのに、最もふさわしい場所だ」

「何の話かと思ったら、結局そこに帰結すんのかよ……!」

 

 真面目な話かと思って聞いてたけど、結局ダークナイトに繋がるのか。

 いい加減にしろよこの狂人野郎。

 

 

 俊介は再び両足に力を込め、ピュアホワイトに斬りかかる。

 その時、彼女の足元の地面が再び槍に形を変えた。

 俊介の体を貫こうとするそれを手で掴んで回避し、ピュアホワイトの頭頂部に蹴りを叩き込もうとする。

 

「ふんッ!」

 

 しかし彼女の腕に易々と蹴りが受け止められた。

 いくら俊介の蹴りがヘッズハンターのそれより劣っているとはいえ、簡単に受け止められるような速度ではない。確実にピュアホワイトの方のスピードが上がっている。

 俊介の体を弾いた瞬間、奴が一言唱える。

 

 

「震天動地」

 

 

 ピュアホワイトが静かに呟いた瞬間、空間全体の地面が一気に波打ち始めた。

 同時に、空の雲の移動速度も明らかに早まり始める。雲の隙間から漏れだす天使の梯子が目まぐるしく大地を這う。

 

「これは――――マジでまずいな!!」

 

 全身に死の予感がピリピリと走る。

 何十本もの天使の梯子の光が蛇のように俊介に迫り、それを間一髪の所で飛びのいて回避する。だがギリギリ掠ってしまった前髪と靴の先が削り取られたように消えていた。

 ……いや、よく見たら靴の先どころではない。右足の親指と人差し指が、爪の中ほどの所まで消されている。血がどくどくと流れるがアドレナリンのおかげで痛みはない。

 

 踵を返し、万物を消す光から走って逃げる。

 ピュアホワイトから離れることになるが流石にこれはどうしようもない。当たったら防御貫通の攻撃で体が消される。奴の目的であるダークナイトを表に出させるため、命は取られないだろうが、四肢が消された時点で敗北確定だ。

 

 必死に走っているうちに地面の波打ちがドンドン酷くなってくる。

 足元が揺れて走りにくい事この上ない。

 

「鬱陶しッ――――!?」

 

 そう呟いた瞬間、前方の地面が勢いよく盛り上がった。

 先端が剣山状になった体より大きい大地の触手が俊介に迫る。

 マチェットで土で作られた剣山の針を斬ろうとしたが全く斬れない。これも『破壊不可能』と決められているような不自然な硬さだ。

 

 仕方なく大地の触手を飛び越えて回避する。

 その瞬間、触手の中から土を叩き割ってピュアホワイトが現れた。俊介を攻撃する大地の触手の中に潜んでいたのだ。

 

「シィッ!!」

「なんでお前は壊せんだよ――――ぐッ!!」

 

 ピュアホワイトの鋭い吐息と共に放たれた斬撃。俊介はそれをマチェットで受け止める。

 この空間に入ってから明らかに向上した彼女の身体能力から振るわれた剣を防ぎ、俊介は背後に吹っ飛ばされた。

 そして後方から件の万物を消滅させる『聖光』が迫る。ピュアホワイトが操っているからだろう、俊介の両腕をちょうど吹っ飛ばすような位置とサイズに調節されている。

 

「うおおッ!!」

 

 吹っ飛ばされる最中、雄たけびを上げながら体勢を変える。

 そしてちょうど僅かに空いていた光の隙間を通り抜け、再びすぐに光から逃げ始めた。

 

「あークソ! ヘッズハンター、どうやったら勝てるか分からないか!?」

『とにかくぶん殴る!』

「近づければやってるわ!!」

 

 この馬鹿みたいな速度と数の光が鬱陶しすぎる。

 未だに何十本も後ろから迫ってきてるし、偶に目の前に突然光が現れたりする。

 

 俊介はヘッズハンターの身体能力と勘で全ての光を避けながら、すぐ傍を走る彼に叫ぶ。

 

「つかさ、アイツ最初この光に自分の剣当ててたよな!? なんで消えてないんだよ!!」

『魔法なんて俺にもよく分かんねーけど、本人の自由に調節できるんじゃねえのか!? よく知らねーけど!!』

「クッソ俺達じゃ埒が明かん! 出て来てくれキュウビ!!」

 

 首に手を当て、魔法等に比較的詳しそうなキュウビを呼び出す。

 そして彼女が出てきた瞬間、真後ろに吹っ飛んでいった。いや、俊介達が時速六百キロで全力疾走しているせいで吹っ飛んだように見えたのだ。

 

 ヘッズハンターが俊介から離れられる限界である、百メートルの壁に衝突して引っかかっていたキュウビを回収して戻ってくる。

 彼女はヘッズハンターの背中の後ろで頭をぐらぐらさせている。そんなキュウビに俊介は叫んだ。

 

「キュウビ! 何かヒント教えてくれ!」

『おぼぼぼばっばばばば』

『駄目だ、頭を打ったみたいだ……時速六百キロ近くで壁にぶつかったくらいで大袈裟だな』

『ご……ろ……す……』

 

 煽ったヘッズハンターをマジの殺意が籠った眼で睨むキュウビ。怖い。

 キュウビは風圧に押されながらも手で印を組み、何かの術を発動させた。

 すると、彼女の朦朧としていた意識が元に戻る。

 

『ぶふっ……もう二度とわらわを全力疾走中に呼ぶでない』

『中から見てたんだから事前に準備できただろ?』

『あ゛?』

「何喧嘩してんだ! 今それどころじゃねーって!! 後ろから光来てるから!!」

 

 マジで本当にそれどころではない。

 キュウビがヘッズハンターから俊介の体に飛び移り、背後から迫る光に振り返りながら叫ぶ。

 

『ぶっちゃけわらわに聞かれても詳しくは分からんのじゃ! アイツの魔法とわらわの道術は見た目似てても結構異なるからの!』

『何かもっと助言渡せや!』

『黙れ、口ねじ切るぞ!!』

「喧嘩すんなって言ってんだろッ!!」

 

 俊介がそう叫んだ時、再び前方の地面が盛り上がった。

 先ほどの大地の触手かと思い飛び跳ねた瞬間、左右の地面に五平方メートルほどの正方形の切れ込みが入る。

 そして空中で身動きを取れない俊介に対し、両側から挟むように思い切り叩きつけた。

 

 そのまま俊介を挟んだ土のサンドイッチは上空に高く伸びていく。

 そして五十メートルほどの高さまで伸びた瞬間、地面に向けて急降下。地面に衝突すると同時にバラバラに砕け散った。

 

 俊介がヘッズハンターと同調して恐ろしい身体能力を手に入れたとはいえ、耐久力は普通の人間に毛が生えた程度。こんな攻撃を食らったら運が良くて全身粉砕骨折というレベルだ。

 しかし、砕けた土の中から俊介はひょいっと何事もなく立ち上がった。

 

「貴方たち、一体何をやっているんですか。私が殺しますよ」

『すまんかったのじゃ……』

『悪い……』

 

 俊介は地面に挟まれた瞬間、耐久力のあるエンジェルに体を交代していた。

 エンジェルは喧嘩していた(バカ)二人に叱責を入れた後、すぐに俊介に体の主導権を変わる。

 

「っ……助かったエンジェル」

『いえ、大丈夫です。それより勝つ目途は?』

 

 すぐに同調をし直した俊介に対し、白い翼をはためかせる彼女が問いかける。

 

「今んとこないな……。ヘッズハンターの速度があっても、俺が慣れてないからあんま活かせてないし」

『奴は性格はアレでも実力は一流、戦闘経験も明らかに豊富です。恐らくこの速度差にも段々慣れてきたんでしょう。敵の手中であるこの空間で不利になるのは仕方ないかと』

「そうか……うーん」

 

 ピュアホワイトは遠くの方でこちらをじっと見ている。

 鬱陶しい聖光は俊介の周りをうろうろ動いているが、追ってくる様子はない。

 何か考えているのだろうか。

 

「……ん?」

 

 というかちょっと待て。

 

「俺を挟んでた土……思いっきりぶっ壊れてね?」

 

 俊介はそう言いつつ、周囲に散らばる土の塊を掴んだ。

 土や小石が水分が抜けて拳大の大きさに固まった塊。それを全力で握るが、全く砕ける様子はない。

 これが石だったならともかく、ただ土が軽く固まっているだけの物なら小学生でも握力で砕ける。なのにヘッズハンターの握力で全力で握っても砕ける様子はない。

 

 そういやさっきも、こっちが土の触手を攻撃した時は壊せなかったのに、ピュアホワイトは簡単に砕いてたな。

 

 …………。

 

 

「もしかして……()()()()()()()()()……?」

 

 

 この空間内の物体を破壊する許可を、俺だけが与えられていない。

 まさか、そんな感じなのか……?

 

 だとしたら結構ヤバくないか。アイツに都合がよすぎるだろ。

 物が壊せないのに地面が形変えて襲ってくるし、万物を消す光が空から無数に降り注ぎながら高速移動してくる。

 

 なんてずるいんだ。チートだろ。

 ……いや、だから自分で『()()()()()』とか言ってたのか。

 

「……あん……?」

 

 ってか、この理屈だと、ピュアホワイトにどんだけ攻撃しても無駄じゃん。

 物を壊せないんだから傷もつけられんし、一方的に攻撃されるリスクを増やすだけだ。

 クソすぎる。

 俺達のスピードが全く意味のない完璧なメタ空間ってことか。

 やってくれるな、おい。

 

 

 ……。

 

 

 …………()()()か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……気付かれたか……?)

 

 ピュアホワイトは少し離れた所から、俊介の様子を伺っていた。

 

 

 今二人がいる『聖戦原野』は、基本的に彼女の意のままに操る事が出来る。

 地面の形を自由自在に変えるのも容易だ。

 空から降り注ぐ、万物を消し飛ばす『聖光』を雲の隙間から漏らすことで大体のサイズも操作できる。

 あと身体能力なんかの全ステータスが向上する。

 

 だがこの空間の真の能力は地形や雲の操作、ステータスの向上などではない。

 

『全ての物体の破壊可能・不可能』、それを高速で切り替える。それが『聖戦原野』の真の能力……)

 

 彼女はこの空間内に限り、あらゆる物体の破壊の権利を操れる。

 破壊不可能に設定すればたとえ豆腐にダイヤモンドの剣を叩きつけたとしても壊れない。物体の硬さを弄るなんてちゃちな物ではない、これは世界の理――――概念に干渉する魔法なのだ。

 

 しかし、この『聖戦原野』にも一つだけ弱点が存在する。

 

 それは『個別に破壊可能・不可能を設定できない』こと。

 

 自分を破壊不可能に設定し、相手だけを破壊可能に設定なんてことはできない。

 空間内の全ての物体纏めてでしか、破壊可能・不可能を設定できないのだ。

 

 なので、破壊不可能にしているとき、相手の攻撃は通らない。大地を操った攻撃も破壊できないが、たとえ聖光が当たったとしても攻撃は通らない。

 しかし破壊可能にして相手を攻撃するとき、自分も破壊可能であり、相手の攻撃が通ってしまう。

 

(重要なのは『破壊可能にするタイミング』……! あのスピードを持つ相手に、そこを見切られると面倒だ。仕組みがバレる前に片を付けたいが……!)

 

 

 必死に思考を回すピュアホワイト。

 その時突然、遠くにいる俊介が首に手を当て、大声で叫んだ。

 

「出てこい、『フライヤー』ッ!!」

 

「……?」

 

 何かの人格を呼んだらしい。

 先ほども何かの人格を呼んで攻撃を耐えたらしいが、次は一体何の人格を呼んだのか。

 

 中にいる殺人鬼の全てを把握していないピュアホワイトには見当がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俊介は右腕を前に突き出し、手印を組んだ左手を右手の甲に当てる。

 

 今、俊介は左腕の主導権をキュウビに渡している。

 そして右腕の主導権はフライヤーだ。

 

 この二人のタッグはマジで凶悪。

 種火であるキュウビの炎にフライヤーという燃料を加えることで、最悪の放火魔の本領をお手軽に発揮する事ができる。いわゆる『どこでも放火魔コンビ』だ。

 

 俊介はすぐ傍にいるフライヤーに言う。

 

「景気よく燃やせ、フライヤー!」

『良いのか!? 全力で燃やすとマジで止まんねえぞ!!』

「この原野丸ごと火の海にするくらい()()って言ってんだッ!!」

『いいぜ、ならやってやるよ!!』

『わらわ知らんぞ~……マジで』

 

 俊介の両腕が向く先は、ピュアホワイト。

 

 キュウビが道術で種火を生み出す。

 そしてフライヤーが全力を込め、周囲の炎の威力を増加させる。

 

 

『――――全部()()()やッ!!』

 

 

 彼女の雄たけびの声が上がった瞬間。

 俊介の前方に高さ百メートル以上に達する炎の津波が発生し、ピュアホワイトに一瞬で襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――フライヤー。殺害人数は、とても数えきれない。

 

 

 

 彼女は貧乏な生まれだった。兄が一人と両親二人の四人家族だった。

 物心がつく頃にちょうど戦争が終わりを迎え、彼女の国は敗戦国となった。

 軍人だった父は両腕を失って帰ってきたが、そんな状態では働けず、働けたとしても賃金は雀の涙ほどしかない。

 

 政府は戦勝国への賠償金を支払うため、真っ先に父のような徴兵された軍人への恩賞金を減らした。

 

 だから、父は死んだ。

 家族の重荷になるくらいならと、両腕がなくて縄も結べないので、床に立てた包丁に自分の首を突き刺した。

 

 四人しかいなかった家族は三人に減った。

 

 兄もまた徴兵された軍人の一人だったが、帰って来た時には戦場でのストレスにより気が触れていた。

 博打狂いとなった兄は、毎日のように博打に出かけていた。

 だが、ある日裏社会のヤバい組織を相手に借金を返せなくなった。

 

 その時は、ある程度の年の男は大抵徴兵帰りで血の気が多く、政府は敗戦直後のために治安維持に十分な力を割くだけの余力がなかった。

 警察組織の弱体化も著しく、裏社会の人間が白昼堂々暴れていたとしても止められる者はいなかった。 

 

 博打狂いの兄は母と彼女の前で撲殺された。

 そして母は彼女の前で輪姦された。一昼夜続いたそれの途中で母も死んだ。

 

 裏社会の人間達はある程度暴れて気が済んだらしいが、兄と母を殺しても借金は返って来ない。

 最後に残った彼女はまだ子供だったこともあり、何も手を出されず、その身柄を国外に売り飛ばされた。

 

 売り飛ばされた先は彼女の国と戦争をしていた戦勝国だった。

 つい最近まで戦争していた国の人間である彼女の扱いは過酷を極めた。

 殆ど奴隷同然で毎日どこかしらにあざが増えていた。

 

 幼少期からそんな劣悪な環境で育ったものだから、年を重ねても体は殆ど成長しなかった。

 何処もかしこも骨が浮き出ている体だったが、そんな体でも欲情……いやそんな体だからこそ欲情する物好きもいるようで、彼女は同国の違法な水商売の店に売り払われた。

 

 ……売られて数ヵ月で二度と子を産めない体になった。

 それでも彼女は泥水を啜るような思いで生きた。

 どうにか事態が好転すると信じて生きていた。

 

 十五の頃に体にガタが来た。

 恐らく何かの性病にも罹患していた。

 性病に罹患した女でも気にしないような酷い環境のスラムに売り払われ、三年経った頃にはもはや人間なのか血肉の詰まった袋なのか分からない状態になった。

 

 その時、彼女は自分の故郷である国に帰ることになった。

 ここまで色々としたのだから、たとえ満足に動けずとも、すぐに死ぬとしても、ほんの少しだけでも自由な時間が欲しかった。兄の借金ならもう返せてるだろうと思った。

 

 そう思って故郷に帰った彼女を待っていたのは、火葬場だった。

 自身の故郷の国の方が死体の処理をするのに色々と都合がいいという、あんまりな理由だった。

 

 生きたまま火葬場の中に放り込まれた。抵抗などボロボロの体では意味をなさなかった。

 死体を焼くための部屋の中ですら一人の自由は得られず、既に息絶えた死体や、まだ辛うじて息がある者と一緒に焼かれることになった。

 

 

 ――――なぜ、ここまで酷い目に遭わなければいけないのか。

 

 

 その時彼女は強くそう思った。

 部屋の隅から噴き出した火が死体に引火するのを見ながらそう思った。

 

 少なくとも、彼女は自分の人生でここまで酷い目に遭うような事をした覚えはなかった。

 運が悪いといえばそれまでだ。だが運が悪いだけでこんな目に遭うのは納得できなかった。

 

 燃え盛る他の人々を他所に、彼女は必死に「生きたい」と叫んだ。

 

 ……その思いに、()()が応えた。

 

 彼女の体は火に包まれるたび、痩せ過ぎた体が本来成長するはずだった姿形に再生していった。

 体を蝕んでいた病気は、体内の病巣まで全て火に包まれて燃えるように消えた。

 生まれつき黒かったボロボロの髪は、なぜか真紅色の艶がある長髪に変わっていた。

 

 そして何故か、力を込めれば込めるほど、周囲の火が強くなった。

 彼女は火が吹き荒れる狭い部屋の中にいながら、その場から一歩も動くことなく、街を一つ火の海の中に沈めた。

 

 火から逃れた適当な店の中に残っていた服を着た。

 何も考えずに選んだものだったが、ずっと裏の酷い場所で生きていたせいか普通の服装が分からなくなっていた。

 お遊びでやられた刺青とピアスが相まって随分と厳つい見た目になったが、彼女にはこれが一般的な女性の服装だと思って止まなかった。

 

 そのまま彼女は、自身の故郷の国と、長く過ごした戦勝国を丸ごと火の海に沈めた。

 最初は何かに対しての復讐心で動いていたが、途中からはただ火で何かを燃やすことに魅せられていた。

 自身の力で何かを燃やす様に惹かれ、火を見るために国を焼いた。美しい炎の揺らめきを見るために動いていた。

 

 ただ、二年かけて二つの国を焼いた後、虚しくなった。

 ふと周りを見ると誰もいないことに気付いたからだ。

 何もかもを奪われ、逆に何もかもを奪った後、そこに何か残るモノなどある訳がなかった。

 

 そのまま彼女は近くの海辺に行き、水の中に身を投げた。

 深い水の底ならば火種があったとしても燃え広がらないからだ。

 

 ……そして、彼女は意識を失うその時まで。

 世界の何処かにあるかもしれない、ただ自分に優しく挨拶してくれる人がいるだけの。

 ほっと息を吐いて安心できるような、『帰れる場所』を求めていた。

 

 

 

『――――ん、おはようフライヤー……涙出てるけどどうした? ……俺も早すぎる時間に起きちゃってさ、よかったら話し相手になってくれないか?』

 

 

 それは異世界にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――――」

 

 空間内の全ての物体を破壊不可能にしている。

 そうは分かっていても、ピュアホワイトは思わず自身の顔を腕で覆った。

 

 俊介から突然、視界を埋め尽くすほどの青い業火が放たれたからだ。

 耳のすぐ傍を悪魔が暴れ狂うような火の音が流れていく。

 

(何の人格を宿しているんだ、奴は……!? この火魔法の威力と展開速度、全盛期の魔王以上だぞ……?!)

 

 ピュアホワイトには、フライヤーが無制限に火を強化できる体質を持っているなど知りようがない。彼女には俊介が呼び出した人格が何らかの火魔法を使ったようにしか見えなかった。

 

 破壊不可能にしている限り、この火でピュアホワイト自身が傷つくことはない。

 だがこのままでは()()()()()()()

 

 全盛期の魔王以上の火魔法を全身に浴び続けている。

 こんな状態で破壊可能に切り替えると、一瞬で体が焼き焦がされる。

 

(だが、こんな大規模な魔法がそう長く続く訳がない! あと一分もすれば威力が落ちて――――)

 

 そんなピュアホワイトの希望を他所に、更に火の勢いが上がった。

 彼女が展開したこの空間は全て彼女の手足のようなものだ。だから分かる。今、自分が開いた空間中にこの業火が広がっている。

 一分経って威力が弱まるどころか、時間が経つごとに威力が指数関数的に上昇していく炎。

 それを前に、ピュアホワイトは冷たい汗を流した。

 

 

「く、空間を閉じるか……!?」

 

 こんな火魔法の使い手、元の世界では神々の伝説ですら聞いたことがない。

 空間を埋め尽くす業火は既に全盛期の魔王の火魔法の十倍を上回っている。持続時間を考えると、最早人間業ではない。

 

 故にピュアホワイトは考えてしまったのだ。こんな火魔法が使えるほどの魔法使いならばこちらの空間の仕組みに気付いていないはずがない。なのに、破壊不可能な自分に対してこんな強大な火魔法を無意味に放ち続けている。全くの魔力の無駄だ。

 だから、この恐ろしい程の火魔法は実は目くらましのブラフで、今奴は裏で己の空間を解体しているのではないかと思ったのだ。

 こんな業火、破壊不可能に設定した概念的なガードがなければ耐えられない。もしこの空間の機能が解体され、この炎を直接浴びたら一瞬で消し炭になってしまう。

 

「どうする……!」

 

 相手に空間を乗っ取られると不味い。

 だが自分からならば、この業火ごと空間を閉じることができる。そうすれば破壊不可能のガードは消えるが、業火に焼かれることはなくなる。

 

「いや、騙されるな……! こんな規模の火魔法をブラフに使う訳がない! このまま耐えていれば向こうの魔力切れの方が早いはず……」

 

 そう呟いて思考を振り払おうとするが、ピュアホワイトは心の不安を拭いきれない。

 こんな火魔法を使える技の持ち主に出会った事がないからだ。故にどれくらいの芸当ができるのかも予想がつかないのである。

 

 本当にブラフでこんな魔法を放っているかもしれない。

 まさに今、火の魔法を放ちながら、破壊不可能の設定権を奪おうとしているのではないか?

 

 そういう思考が頭の中を埋め尽くしていき。

 

 

「――――ッ、クソッ!!」

 

 

 ピュアホワイトは自分から、自分に圧倒的に有利な空間を閉じた。

 

 相手が本当に空間を支配しようとしていたなら、突然閉じられたことで動揺しているはずだ。

 その隙を突くため、足を一歩踏み出した瞬間。

 それよりも早く、彼女の懐の中にマチェットを振りかぶった俊介が現れた。

 

「空間を解いてくれて、ありがとうよ!!」

「は――――ッ?!」

 

 ピュアホワイトは突然現れた俊介に対応できず、胸部の鎧の留め具を斬られる。

 全身から完全に鎧を剥がされ、放心するピュアホワイトに俊介がキツイ蹴りを叩き込む。彼女は体を吹っ飛ばされ、背中から勢いよく地面に倒れた。

 

 地面に倒れながらも困惑するピュアホワイトの顔面に、俊介はマチェットの先端を突き付ける。

 

「な、なぜこんなに速い……? お前は私の空間を乗っ取ろうとしていたはずじゃ……」

「は? 乗っ取る? 何の話?」

「は……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――この時、ピュアホワイトと俊介の認識には大きな齟齬が発生していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピュアホワイトは、『俊介が火魔法をブラフに使って物体の破壊可能・不可能の支配権を乗っ取ろうとしている』と考えていた。

 

 

 だが、俊介は物体の破壊可能・不可能という複雑な仕組みまで気付いていなかった。

 『この空間は自分にだけ物が壊せない』と中途半端な理解で早とちりした挙句、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』と思ってしまったのだ。

 

 

 そしてフライヤーの力で制御不能な威力の火を放ち続け、ピュアホワイトは俊介の単純な思考に気付かぬまま空間を解いた。

 その時、俊介は『火の攻撃に耐えられずに空間ごと火を消したな!』と勘違いし。

 

 真っ先にピュアホワイトの懐に入り込み、鎧の留め具をぶった切ったのだ。

 

 

 

 

「……まあとにかく、やっとどっちが強いかハッキリしたな」

「くッ……」

 

 お互い何があったのかよく理解できておらず、少しもやっとしたが。

 ようやく、俊介はピュアホワイトに勝つことが出来た。

 

 ここからは純粋な俊介の力で戦う。

 ピュアホワイトの心を言葉で折り、真昼ちゃんが表に出てくる隙を作る。

 

 

 煽り文句の応酬――――口喧嘩から始まった長い勝負だった。

 

 

 その長い勝負は今、ただの高校生と大聖騎士の熾烈な口喧嘩で幕を閉じようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 











戦闘書くのやっぱ苦手だわ(今更)
もっと互いの技の隙を突き合うような賢い戦闘が書けるようになりたいです
あと戦闘中にフライヤ―の過去挟むのはテンポ悪かったかも。文字数多すぎてちょっとマイルドにしちゃったし……すみません




-Tips-
ピュアホワイトの『聖戦原野』について
・過去にあった神と魔神の争いの跡地の景色を魔法で再現した空間。
・空間内の全ての物体の破壊可能・不可能を自由に切り替える。個別の切り替えは不可。
・地形は自在に操る事が出来る。
・雲の隙間から漏れる光は万物を消す『聖光』。
・魔法の威力含めた全能力上昇。

 生まれた頃から聖騎士として育てられ、最終的に偉大な大聖騎士と成ったサリアス。
 元より天賦の才を持っていた。それを磨き上げて強くなることに不満はなかったが、たった一つの道を決まった歩く事しか出来ない己の身分に嫌気が差していた。
 だからこそ、絶対的な存在であると刷り込まれていた三柱の女神が、アニーシャに蹂躙される姿に強く惹かれた。既存の自分を壊してくれる存在に酷く魅了された。
 彼女が作り上げた空間が神の争いの『跡地』の再現であるのも、刷り込まれた神への敬意はあるが、内心では『神なんてどうでもいい』と考えているからだろう。
 サリアスにとって遥か昔の神の争いを尊ぶ気はない。
 なぜなら大切なのは跡地に暮らしている今の人間で、現代に生まれたアニーシャ様こそが新たに崇拝すべき存在なのだから。




~今回の分かりづらいポイント~
ピュアホワイト
「実は物体の破壊可能・不可能を高速で切り替えてる。けど空間全ての物体纏めてでしか切り替えできないから、破壊不可能の時は相手にも攻撃通らんし、破壊可能のときはこっちに攻撃通るようになる。バレない様に気を付けないと……」

俊介
「何も壊せねえ……きっと俺はこの空間で何も壊せないんや! せや、炎でこの空間全部燃やしたろ! これなら攻撃通るやろ!(適当)」

ピュアホワイト
「は?」

炎燃え上がりすぎて自分も一瞬で大ダメージ負うので破壊不可能から切り替えできず、空間を解くしかなくなったピュアホワイト
「死ね」

結論:ゴリ押しは強い。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。