殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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短いです。ごめんなさい……!



#88 一方その頃

 

 

 

 

 

 

 ――――時間は、俊介とピュアホワイトが戦い始めた頃に遡る。

 

 

 

 榊浦美優を捕まえるために俊介と別行動を取った夜桜と橘。

 船内に残る下級兵士を幾人か撃退しつつ、船内を走る。

 

「ひーっ、ふぅ……はぁ……」

「…………」

 

 船全体が左右に僅かに傾くような揺れが発生し、夜桜は足を止める。

 少し遅れて走って来ていた橘が夜桜のすぐ背後で足を止め、顔中の汗をぼたぼたと床に垂らしながら肩で大きく息をする。

 

「は、走るのはやっ……!」

 

 兵士としてある程度の訓練を積んでいた橘だったが、夜桜の走る速度に少し遅れて付いて行くのが精いっぱいだった。両腕が折れていて腕が振れなかったり本気で走れなかったりと理由はいくつか考えられるが、それでも夜桜の走る速度は一般的な女子高校生のそれとはかけ離れていた。

 俊介と共に体験した幾つもの荒事が夜桜の万物に適応する才能を錬磨し始めていたのだ。最早プロの格闘家が相手でも鎧袖一触の強さに成っている。

 

 しかしいくら才能が錬磨されていても、夜桜はつい数か月前までは平々凡々と暮らしていたただの女子高生。甲板で始まったピュアホワイトと俊介の超人決戦に混じれるほどの実力には達していない。

 五百メートル級の軍艦を揺らすほどの戦いが甲板で始まったことを察し、電灯がジジッと光る天井を静かに見つめる。

 

(大丈夫かな、日高君…………いや、私はまず榊浦美優に集中しないと)

 

 いくら心配したところで、ピュアホワイト相手に俊介の援護を出来るほどの実力すら夜桜にはない。

 立ち止まって俊介の身を案じるよりも、さっさと榊浦美優をとっ捕まえて人質にでもした方が何十倍も有意義だ。

 

 思考のベクトルを榊浦美優の確保にガチッと固定する。

 夜桜は背後で息を整え終わった橘の方に振り返った。

 

「すみません、速く走りすぎました。大丈夫ですか?」

「ああ……けほっ。いや、アンタは途中で下級兵士を走りながら倒してその速度だもんな。戦えない俺は、せめて走るのに追いつくくらいはしないと……」

「…………」

 

 無言で橘を見つめる夜桜。

 じっと凝視された橘は自分の体を軽く見まわしつつ問いかける。

 

「……? 何か付いてる?」

「いえ」

 

 ぷいっと夜桜が顔を逸らす。

 彼女の中から姿を現したバクダンが首を傾げる橘の前まで移動し、顎に手を当てながら身を屈めた。

 

『まあ、ある意味付いてるよな……このでっけぇ乳がよ』

「…………」

 

 人が敢えて言わなかったことを相手に聞こえないからって堂々と言うものじゃありません。

 

『思わず拝みたくなるような大きさだよな。私の頭くらいあるんじゃね? 私も少し自信あるほうだけどこれは負けるわ~。白のワイシャツにでっけえ巨乳、谷間に汗が溜まってるなんてどんなフェチ……おいおいこいつまさかブラ不着用じゃね!? ひゅう~!!』

 

 うーん、最低。

 そういうのはたとえ相手に聞こえなくても言わないものなんだよ。私も心の中で大きいなとは思ってたけど。

 

『紗由莉の倍はありそうだな! ……あっ』

 

 バクダンの顔が一気に青ざめた。夜桜の中に一瞬で逃げる。

 キレそう。

 

 

 

 

 額に浮かんだ青筋を指でさすって静めつつ、廊下の先に顔を向ける。

 今まで進んできた廊下や部屋に榊浦美優の姿はなかった。いるとすればこの先しかない。

 

 橘がきょろきょろと辺りを見渡し、天井と床下を何度も見比べ、声を放つ。

 

「……この辺りがちょうど榊浦って奴の研究室の真上だ。貨物エレベーターの繋がる部屋があるなら、ここらへんだと思うんだけど……」

 

 榊浦美優が貨物エレベーターで上階に逃げたという話は俊介と別れてすぐ後に聞いた。

 俊介や夜桜に単独で出会った瞬間にゲームオーバーが確定する榊浦美優が、上階に逃げたあと再び下の階に移動するとは考えにくい。

 『俊介がエレベーターに罠を仕掛けたかもしれない』なんて事はヤバい方向に頭のいい榊浦美優ならすぐに思いつくだろうし、そう思うと尚更使わないだろう。

 

 念のため、下の階に繋がる階段はさっき爆弾でぶっ壊した。もし瓦礫を撤去しようとすれば死なない程度に爆発するようなブービートラップも仕掛けた。この階から下に逃げようものなら一瞬で爆弾の餌食だ。

 あれだけの女性を実験台にして弄んだ時点で、無傷で捕まえるなんて優しい考えは毛頭ない。最悪四肢の一本は吹き飛ばす覚悟は決めている。

 

 

 そう考えている夜桜を他所に、あちらこちらを見つめていた橘が一つの扉に近づく。

 

「うん……うん。間違いない、この部屋が研究室の真上だ」

 

 夜桜が扉のすぐ傍にあったカードリーダーに下級兵士のカードキーを当てる。赤いランプが点灯すると共にブーという音が鳴り、下級兵士の権限では開けられない扉であることを示した。

 

「上級兵士のカードキーが必要なのか、まあ研究室とエレベーターで繋がってるもんな。さっき俊介が倒した上級兵士が下の階にいたはずだけど、どうやって取りに行くか……」

「そんな七面倒臭いことはしません。扉を吹き飛ばします」

「えっ?」

 

 橘の体を少し脇にどけ、大振りの爆弾を掴んだ右手を扉に押し付けた。

 ピピッ!という電子音が響き、手の中の爆弾が起爆する。一センチほどの厚さがあった鋼鉄の扉が破城槌でもぶつけられたように勢いよくへこみ、部屋の中にガンガンと吹っ飛んでいく。

 

 爆弾を持っていた右手を熱そうに振る夜桜に、青ざめた顔を向ける橘。

 

「…………だ、大丈夫か? ば、爆弾を手で起爆させたんだろ?」

「特別製ですから」

「そ、そうか。爆弾って知らない内に進歩してたんだなぁ」

『世界の科学の進歩じゃない、天才の私が作った爆弾だから特別なんだ! ははは、凄いだろぉ!』

 

 バクダンが一瞬だけ出て来て自慢げに胸を張った後、すぐに姿を消した。さっきの事で夜桜に怯えているが、久しぶりに自慢するチャンスが来て我慢できなかったのだろう。

 

 

 扉のすぐ横にあったスイッチを押し、部屋の電灯を点ける。

 部屋の中はむせ返りそうになるほどの古い紙の匂いが充満していた。

 

 そこそこの広さの部屋。両側の壁は丸ごと本棚になっており、大小さまざまな大きさの本がギチギチに詰められている。

 木製のテーブルの上にも多くの本や紙束の資料が置いてある。乱雑に置かれて纏められていないように見えるが、ここの部屋の主である榊浦美優には分かりやすいように置かれているのだろう。バクダンがいつもこんな感じに設計図を置いている。

 

 そして扉の向かい側に件の貨物用エレベーターがある。当然、中に榊浦美優の姿はない。

 部屋の中にも榊浦美優どころか人の気配はないし、もう逃げた後のようだ。

 

「一応、壊しておこっか……」

 

 エレベーターの昇降ボタンを爆破して破壊する。これでこの階からエレベーターでは移動できない。

 振り返ると、橘が本棚の本をじろじろと見ていた。

 

「へー、高そうな本ばっかだな……全く読めないけど。読める?」

「大体は。分からない専門用語もいくつかありますけど」

「すっげー……」

 

 本の背表紙に書かれたタイトルを読んでいく。

 

「『人の精神について』、『魂と肉体の繋がり』、『脳の構造』、『多重人格論』……」

 

 全部違う言語だけど、一貫して人間のことについての本が集められてる。

 『魂』なんてオカルト染みた本も集めてるのは気になるけど。

 

 そう思いつつ、本棚から目線を外して机の上にある書類の束を見る。

 読むのも嫌になるような量だ。一体どれだけの間この機関で研究していたのか。

 

 机の上に置かれた書類をざっと眺めていて……。

 

「…………ん?」

 

 一瞬だけ妙な感覚がした。

 手を伸ばし、書類の束を軽く漁って探る。目線を高速で動かし、研究結果を斜め読みしていく。

 

「……()()()()……?」

「え?」

 

 夜桜の独り言に橘が振り返った。

 

「ここに何枚か書類があった……そういう配置のはずなのに、ここに()()

「ええ……?」

「……日高君は榊浦美優の研究について何か言ってませんでしたか?」

「いや、そう言われてもな……」

 

 訝しげな顔つきをする橘。入ったこともない部屋の書類の配置を見て『書類がない』とか言われても、即座に信じられるはずがない。相手が天才の夜桜だと分かっているからギリギリ嘘だと決めつけていないだけだ。

 

「まあ、ピュアホワイトが榊浦美優の作った最初のデザインベイビーとか……そんな事は言ってた。でも詳しいことはな……」

「ピュアホワイトを作ったのが、榊浦美優?」

「そうらしい。ていうかピュアホワイトが自分で言ったって……」

 

 榊浦美優が研究成果として、ピュアホワイトを作った……。

 日高君はピュアホワイトを『俺たち』で倒さなければならないと言っていた。つまり日高君だけじゃなく、日高君の中にいる人格も何かしらの因縁を持っているんだ。

 ……そして榊浦の研究所に行った時、日高君は榊浦豊に『少女の写真』を見せられたと言っていた。それと同時に、『人格を受け入れやすい器』として作ったって。

 そしてピュアホワイトの中には最低でもあのイカレ騎士と、日高君の中の人格と関わりのある人格がいる。

 

 つまり。

 ピュアホワイトが日高君の見せられたあの写真の少女ってことか。

 

 そしてこの机の上になくて、でもここにあったはずの、なぜか欠けてる書類は……!

 

 

「一人目のデザインベイビー……『()()()()()()()()()()()()()』!」

 

 

 榊浦美優の奴が一番目のデザインベイビーに関しての情報を残していない訳がない。

 だけどなんでその資料だけここからなくなっている? 榊浦美優にとってここの資料は全て値千金、二度と再現できない何百人を使っての人体実験で得た研究結果だ。出来る事なら全て持ち出したいはずなのに。

 

 それも、その書類が抜き取られたことがバレにくいようにわざわざ他の書類で隠すような配置まで再現してる。

 こんなの、私達に追われてる榊浦美優がわざわざするような事じゃない。

 

 ならこれは、この書類を盗んだことをバレたくない誰かの仕業――――。

 

「――――クソッ!!」

「うわっ!?」

 

 机を叩いてすぐに扉の方に振り返る。

 

「橘さん、今すぐこの部屋を出ます!!」

「ど、どうしたんだよ?」

「私達と未来革命機関じゃない……!! ()()()がいる!!」

「だ……第三者?! どういうこと?!」

 

 

 正体の分からない第三者はきっと書類に書かれてるピュアホワイトに関しての情報が目的!

 そして第三者はその情報を盗んだことがバレたくない……。

 だけど榊浦美優がこの部屋にもう一度来たら、その書類が消えているのがバレて、自分がその情報を欲しがっている事もバレてしまう。

 

 だから、その第三者にとっては、榊浦美優は存在されると不都合……!

 

 そして榊浦美優は日高君が敵対してる榊浦豊の実の娘。

 多分色んな情報を持ってるはずだし、今殺されるのはあまりよくない……! それにあの女は殺されるより、何百人も実験台にした罪を生きて償わせたいのも私の本音!

 

「その第三者は榊浦美優を殺すつもりです!」

「何だって!?」

「すみませんが本気で走ります、付いて来てください!!」

「わ、分かった!!」

 

 二人は一目散に廊下に飛び出し、走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うーんと、あとやらなきゃいけないことは……『榊浦美優を殺す』、か。あー、めんどくさいなぁ~」

 

 黒いスーツを着る、ヘアゴムで黒髪を後ろに纏めている女。

 左手にはジュラルミン製のアタッシュケースを持ち、右手には黒い拳銃を持っている。

 

「帰ってさっさと本の続きを読みたいけど……。ま、仕方ないかぁ……」

 

 揺れる未来革命機関の拠点内で、一切緊張感を感じさせない声色のまま、う~んと両手を上にあげて伸びをする。

 まつ毛が綺麗に生えそろった瞼を眠たげに何度も動かしつつ、ゆらゆらと船内を歩き始める。

 

「榊浦美優は、うーん……こっちかな?」

 

 その女はぶらぶらと、近所の飲み屋街を歩くような適当な足取りで歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 夜桜が天才過ぎて、情報を纏める→推察する→答えを導くって過程が俊介の十分の一くらいのスピードで済んでしまいます。ぶっちゃけ作者的にも楽(文章量が少ない)
 問題は読者様に話の流れを理解してもらえているか不安なことです。こわいよー



~~~~~~~~

 夜桜紗由莉とバクダンを描きました。
 全体的に下手っぴですが、小説が本筋なので勘弁してください。もっと練習しておきます。足と背景は特にいっぱい練習します。

バクダン
 
【挿絵表示】


夜桜紗由莉
 
【挿絵表示】


 夜桜が何をしてるのかはご想像にお任せします。

-報告-
 小説の進捗報告や謎の裏設定、練習絵を投げるだけの雑多X(旧:Twitter)アカウントを作りました。
 https://twitter.com/Dankan4649

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