#82のヘッズハンターが船から地面に落ちていくときに、夜桜と橘を見かけるシーンを削除しました。
理由はどう頑張っても整合性が取れなかったからです。ごめんなさい。
「夜桜紗由莉……ッ!!」
榊浦美優は視界内に現れた夜桜の姿を睨み、顔を酷く歪ませる。
その表情には隠し切れないほどの焦りが滲んでいた。
「やっと見つけた……ッ!!」
一方、夜桜は焦りから解放されたような、それでいて緊張が抜けきらない表情を浮かべていた。
周囲に、榊浦美優を襲う者――――件の第三者の姿がないかをしきりに観察している。
……しかし。
一体どうやって、夜桜は隠れていた榊浦美優を見つけ出したのか。
そもそも榊浦美優はどこに隠れていたのか。
夜桜が榊浦美優を見つけるまでの過程には、一人の人物の犠牲があった。
夜桜は榊浦美優の研究室にて、今回の件に正体不明の第三者の介入があることを確信した。
しかも厄介なことにその第三者は榊浦美優の命を狙っている可能性が高い。
夜桜としては、榊浦美優がどうなったって構わないのだが……。
あの女は浮遊人格統合技術の開発者であり、今回の事件の主犯格でもある。
何百人にも及ぶ無辜の女性を実験体として好き勝手に扱ってきたような、人に限りなく近い怪物の類だ。
誰かに殺されたって悲しんだり同情したりする気はない。
だが、銃で頭を貫かれてそれで終わりだなんて優しい終わり方をさせる気もない。
あの女に最も相応しいのは、司法の場でキッチリ数百人分の人生を狂わせた罪を償わせることだ。それも、榊浦美優にとって最も
……その為にも、奴を生きたまま捕まえなければならないのだが。
夜桜は足を止め、苛立たしげに右拳で壁を殴った。
「クソ……闇雲に探したって、見つかりっこない……!!」
榊浦美優の研究室から近い部屋を幾つか見て回ったが、当然のように榊浦美優の姿はない。
簡単に見つけられるような場所には隠れていないだろう。
「ダメだ……。どの辺りに隠れているのか、最低でも
全ての部屋をしらみつぶしに見て回る時間なんてない。
よしんばそれを実行して運よく榊浦美優のいる場所に辿り着いたとしても、既に第三者によって殺されているだろう。ただでさえこちらは一歩遅れているのだから。
焦りが募り、壁を右指で叩くテンポが速くなる。
その時、自身の走る速度について来れなかった橘が汗だくになりながら追いついてきた。
「はぁ……はぁ……ど、どうだ? いたか?」
「いません。闇雲に探したって意味がなさそうなので、あの女が船のどこにいそうかを考えているところです……」
未来革命機関の拠点は、巨大な軍艦を飛行用にカスタマイズしたものらしい。その過程で秘密の部屋や隠し通路を作るなんて朝飯前だろう。
既存の船の基本的な構造は大体頭に入っているが、異世界の技術が盛り込まれた船を前にしてどれだけ役立つことか……。
「俺にはよく分からないけど、多分、幹部が使うような専用の部屋か何処かに隠れてるんじゃないか……?」
「そうでしょうね……問題はその部屋が何処にあるかなんですけど」
「だ、だよな。すまん、今更なこと言っちゃって」
焦りで少し語気が強い夜桜を前に、橘が気まずそうな面持ちで顔を逸らす。
「……あの」
いくら焦っているとはいえ、何も悪くない人に今の態度は良くなかった。
そう思い直した夜桜は壁を叩く右指の動きを止め、橘の方に振り返った。
「すみません。私も少し焦ってて……」
「いやいやいいんだよ。どっちかって言うと、全く役に立ってない俺の方が悪いんだから」
そう言いながら橘は顔を横に振った。
実際戦力面では期待できないし、拠点内の案内役としても、下級兵士なのでそもそも入ったことのある場所が少なくあまり当てには……。
そこまで考えた所で、ほぼ無意識の内に、夜桜の口から言葉が漏れ出した。
或いはそれは、直感めいた物だったのかもしれない。
「……ちょっと、聞いてもいいですか?」
「どうした?」
「下級兵士は確か、この船の中で入れる部屋が少ないんでしたよね?」
「ああ。俺も訓練してる時に下級兵士の権限で入れる部屋には殆ど入ったつもりだけど……重要そうな施設は一つもなかったな。上級兵士からじゃないと、そういう大事な場所には入れないんだろう」
「…………」
橘のその言葉を聞いて黙りこくり、頭の中で思考を回す夜桜。
考える内容は、『榊浦美優が今何をしたいか』についてだ。
(……あの女はきっと、未来革命機関にはなるべく潰れて欲しくないはずだ)
人間の実験体を大量に確保し、自由に実験できる環境。
倫理観が終わっている研究者にとっては垂涎ものの場所だろう。榊浦美優にとってもそれは同じであったはずだ。
榊浦美優にはこの機関に執着するだけの理由がある。
(しかし今、未来革命機関は存続の危機に瀕している。その分水嶺の行く先を決めるのは……日高君とピュアホワイトの勝敗がどうなるか、その一点のみ)
日高君とピュアホワイト。
どちらもこの戦場で桁違いの強さであり、たった一人でそれ以外の戦力をなぎ倒せるほどの力を持っている。
日高君が勝てば、未来革命機関に残っている兵士は苦も無く全滅させられるだろう。未来革命機関は壊滅する。
逆にピュアホワイトが勝ってしまえば、どれだけ手負いだったとしても私にはどうしようもできない。大損害こそ受けたものの、未来革命機関は必ず復活を遂げるだろう。
つまり……あの二人の勝敗が付くまでは、未来革命機関が本当に潰れるかどうかは分からないのだ。
(だから、榊浦美優は最低でも二人の勝敗が付くまではこの船にいるはず)
そう、勝敗が付くまで船の中にはいる……が。
万が一ピュアホワイトが負けた時の為に、自分だけはすぐにでも脱出できる場所にいるはずだ。
奴は強力な表の身分も持っているし、この場から無事に逃げおおせてしまえば幾らでも再興できると考えているだろう。或いは別の裏組織に身を寄せてもいいなんて考えているかもしれない。
つまり。
榊浦美優はこの船から
監視カメラか何かの映像を遠隔で優雅に眺めながら……。
「橘さん。この船から緊急脱出が出来そうな場所に心当たりはありますか?」
「え? ……いや、この拠点が空に浮いてることも、そもそも軍艦だったのも脱走してから知ったしな。てっきりこの拠点は地上にあると思ってたし。下級兵士が行ける場所には緊急脱出の『き』すらなかったはずだ」
「そうですか……」
下級兵士には緊急脱出なんて必要なし、ってことかな。
そもそも扱いが十把一絡げの雑兵だし……死んでも補充すればいいくらいの考えだったのかもしれない。
「勝敗が付いた瞬間に脱出できる場所。脱出装置の目の前に立っているくらいに考えた方がいい」
夜桜はベタベタと壁に手を触れる。
この壁の向こうには雲一つない青空が広がっているはずだ。厚い鉄の壁に阻まれて全く見えないが。
「緊急脱出装置なんて言うくらいだから、外壁に面していないと意味がないよね。つまり榊浦美優がいるのは外壁に面していて且つ、下級兵士が立ち入ったことのない場所かな……」
……だいぶ絞れはしたけど、結構探す範囲は広い。
甲板近くはピュアホワイトと日高君の人外決戦に巻き込まれる可能性があるから行かないだろう。一番下の階に行くために移動しすぎるのも、捜索する私達と万が一に出会うリスクがあるから嫌うはず。そもそもあの辺りは日高君が兵士を全てなぎ倒したらしいから、味方が誰もいなくて完全に孤立するし。
だから多分、この階か、上下の階の何処かにはいるはず……。
証拠がないから、かなりおぼろげな憶測にすぎないけど。可能性は高いはずだ。
橘が何かを思いついたような夜桜に、少し表情を明るくして問いかける。
「な、何か分かったのか?」
「殆ど証拠がない予測ですが……。なんとなくいるかもしれない場所のアタリは付きました」
「そうか! それは良かった!」
「問題はアタリを付けても探す範囲が広い所なんですよね」
五百メートル級の軍艦の外壁に面している所なんて、幾らでもありすぎる。
おまけにこの階と上下の階、三つの階を調べることが前提条件なんて…………。下級兵士が立ち入れる場所を除いたとしても、探す場所は膨大だ。
「三つの階を一気に、そして迅速に調べる方法……なにか思いつきませんか? 橘さん」
「……人海戦術? って言っても俺たち二人だけだし、俺は一人じゃ何かあったらどうにもできんし……無理だよなあ」
「そうですね。まあもう一人くらいいれば、何とかなったかもしれませんが……」
…………。
………………『もう一人』?
――――――――あっ!
「
「……え?」
夜桜は降り注ぐ瓦礫を目もくれずに回避しつつ、榊浦美優の方を睨む。
少し経った後、天井にぶち開けられた穴から汗だくになった橘が夜桜の横に飛び降りた。高い所から飛び降りたせいで折れた腕が痛んだのか、少しだけ苦悶の表情を浮かべる。
しかしすぐに顔を上げ、夜桜と同じように部屋を見渡し……榊浦美優のすぐ傍にあった丸いポッドに目を付けた。
「あれが、緊急脱出装置…………」
奴のすぐ傍には、SF映画か何かで見るような丸い形の脱出ポッドがあった。ポッドの中央には丸い窓があり、中に白いクッションがギチギチに詰められているのが見える。恐らく船から高速で射出される際に中にいる人物の負担を和らげるクッションなのだろう。
幹部専用の緊急脱出装置の場所がバレたことに驚愕し、焦りを隠し切れない榊浦美優。
引きつった声で夜桜に向かって、叫ぶように問いかける。
「な、何でここが分かったんだ……ッ!? 扉だって完全に擬態されてる、そう簡単に見つけられる場所じゃないのにッ!!」
「私一人だけの力じゃ到底見つけられなかったよ……」
そう言いつつ、夜桜は傍でズタボロになってぶっ倒れるバクダンに目を向けた。
「私の人格に力を借りたんだ」
「人格……そんな馬鹿な! 壁をすり抜けられる人格の力を使っても、私がいる場所をこんな短時間で探し出せるはずがない! 浮遊人格統合技術の開発者の私が、予想できない方法なんてあるわけ……」
「でも実際見つけてるんだし、あったんだよ」
「ぐッ……」
夜桜が思いついた方法。
その余りの非道さに橘は改めて、犠牲になったバクダンという人格に同情の念を送った。
――――――――夜桜式・新人格偵察術の手順は至極簡単。
その方法のコンセプトは簡潔に言い表すと、『強制的なハムスターの車輪』である。
まずバクダンは夜桜から五メートル離れられる。
これはつまり、夜桜を中心として半径五メートルの所に球状の見えない壁が展開されているという事である。
そして壁をすり抜けられる人格は偵察に向いているが、バクダンは運動音痴すぎて偵察なんて全くできない。
なのでバクダンをもっと素早く、強制的に動かす必要があった。
そこで夜桜は、高速でバックステップとフロントステップを繰り返した。
バクダンを見えない壁にガンガンぶち当てながらも繰り返し続けることで、次第にバクダンに遠心力が生まれ、半径五メートルの見えない壁を沿うようにグルグルと回り始める。
そのまま遠心力が弱まらないように走り続けることで、今いる階と上下の階を一気に、そして迅速に確認する回転バクダンが誕生するのである。
この方法を聞いたバクダンは泣きながら嫌だと叫んだ。
『こ、こんなびっくり物理が実際に出来る訳ないだろぉ……! というか、私の身体的負担が全く考慮されてないじゃないかぁ……!!』
しかし夜桜は押し通した。
「胸を揶揄った件、これで忘れてあげるから。やってね」
『い、嫌だ……!!』
「やってね」
『…………はい…………』
財布の紐を握る番人の力は強かった。
そうしてバクダンは数百メートル近く、拷問のような大回転の刑を受けながらも榊浦美優の隠れ場所を発見した。
榊浦美優は下の階のとある部屋に隠れていて、夜桜は床を爆弾で破壊。
奴の隠れている場所に瓦礫の雨と共に参上したのであった。
「――――榊浦美優。一応言っておくけど……下手な抵抗はやめてね」
夜桜は静かな声を発し、爆弾を構えながら榊浦美優に近づく。
この場に於いて一番強いのは間違いなく夜桜であり、榊浦美優に勝てる道理は一切ない。
生唾を飲み込んだ榊浦美優が傍にあった緊急脱出装置の起動レバーに手を掛ける。
だが夜桜は一切焦ることなく、歩む歩調を変えることはない。たとえレバーを降ろして起動させたとしても、ポッドに乗り込む前に仕留める事ができると確信しているからだ。
そんな夜桜の思考を、なまじ出来が良すぎる頭が読み取ったのだろう。
榊浦美優が顔を引きつらせ、起動レバーを握る手を手汗で湿らせながら言う。
「か、勘弁してくれよ……。私は、だって、そんなに悪い事してないだろ……?」
「ふざけないで。数えきれないほどの人間を勝手に実験体にして……何もしてない訳がないでしょ」
「うぅ、うるさいっ!! 私は……人間の数百を好きに使ってもいいくらいの成果は出してるだろッ!!」
感情の吐露。
顔色を青色と赤色に交互に染めながら、榊浦美優の目から正気の光が消え、その本性が浮かび上がってくる。
「私の開発した浮遊人格統合技術がどれだけの恩恵を世界に与えたと思ってるんだ!! 世界的な問題を幾つ解決したと思ってる?! その過程で何千、何万の命が救われてるんだぞッ!!」
「だったら……たかが数百人くらい、私が好きに使ったっていいじゃないかッ!! 私は何も悪いことをしてない!! 結果的にプラスになってるだろ!!」
「お父さんに褒めてもらえるなら、私より頭が悪い、愚図で生きる価値のない人間なんか幾ら殺したって構わないじゃないかッ!!!」
「…………」
榊浦美優の言葉を聞き届けた夜桜の瞼が一層薄くなり、眼光が鋭くなる。
夜桜の後ろにいる橘も、榊浦美優を怪物でも見るような目で睨んでいる。いや、実際に、目の前にいる女は人間の域をはみ出しかけている怪物なのだ。
「だから、やめてよぉ……! お父さんに褒めてもらいたいだけなのに、どうして……」
嘘を言っているようには見えない。本心からそう言っている。
だからこそ、夜桜は内臓が底冷えするような恐ろしい物を目の前の彼女に感じた。
万能の才能を持ち、国認定の人格持ちである夜桜。
生まれ持った物が多すぎる彼女は人から嫉妬されることも多かった。人の悪意にはそれなりに触れ、慣れているつもりだった。
だが榊浦美優の持つ悪意には、他人への嫉妬だとかのおどろおどろしい感情は混じっていなかった。
ただひたすらに
親に子である自分を愛してほしい、認めて欲しい、その為なら他人を害する事を一切厭わない……無垢故に残酷な子供のようだった。
榊浦美優にとって恐らく、自分の血縁以外の人間など小学生が戯れに潰す虫程度の存在でしかないのだ。
ただ一つ違ったのは、その虫を自由研究のようにもてあそぶと親から褒めてもらえること。
だからもてあそび、いじくり、最後には捨てる。
親から褒めてもらえたなら、バラバラになった虫のその後なんて一切合切気に掛ける必要がないのだから。
夜桜は思わず、足を止めてしまう。
「私にはあなたが、どうしてそんな風になったのかは分からない。私はあなたの全てを知っている訳ではないから」
「っ……」
「でもただ一つ言えるのは、私はあなたのことが――――――――」
―――――瞬間。
夜桜の左側にあった壁が突然、
「キェェエエエエエエエエエッ!!!」
全く見覚えのない、剣を振りかぶった男が夜桜に斬りかかってくる。
件の第三者かと思ったが、胸の辺りのポケットに上級兵士が持っているカードキーが入っているのが見えた。
「くッ、上級兵士かッ!!」
ピュアホワイトの戦闘に連れて行かれなかった上級兵士が、榊浦美優を助けるために突入してきたらしい。
榊浦美優が夜桜に対して本気で焦っていたことから、この兵士が突入してきたのは本当に偶然だったのだろう。
夜桜は上級兵士の剣を横に飛んで避ける。
今の完全武装した夜桜にとっては大して強くない相手だ。そう時間もかけずに倒すことができるだろう。
しかし……榊浦美優は夜桜が上級兵士に気を取られざるを得ないその隙を見逃さなかった。
「ふ、ふふぅぁはははは!! その女をそこで押さえてろ!!」
榊浦美優は気色の悪い笑い声をあげながら、手にしていた脱出ポッドの起動レバーを勢いよく下げた。
俊介とピュアホワイトの決着は付いていないが、もう勝敗を見届ける時間はないと判断したのだろう。
プシッと白い煙を吐き、一瞬で開いた脱出ポッドのハッチに飛び乗ろうとする榊浦美優。
「―――――二度も逃がす訳、ねえだろうがよッ!!」
榊浦美優の横っ腹に透明なボールがぶち当たった。
脱出ポッドにもう一歩という所で榊浦美優の体が吹き飛ばされ、地面に転がる。
「ここらで汚名返上しとかねえと、居心地わりいからな……!」
「ぐ、くそ、このゴミ屑がぁ……ッ!!」
榊浦美優を阻止したのは橘だった。
俊介から借りていたマッドパンク製のアームを使い、自身に取り付けていた反重力バリア装置を外す。そしてサッカーボールほどの反重力バリアの弾を作り出し、それを蹴り飛ばすことで榊浦美優の体を吹き飛ばしたのだ。
「――――はァッ!!」
その時、夜桜の声と共に爆裂音が鳴り響く。
上級兵士の腹と顔面に爆弾を押し当て、一瞬で意識を刈り取ったようだ。そうして、上級兵士が地面に倒れるよりも早く榊浦美優に顔を向ける。
「こ、こッ、こっち向くなぁああああッッッ!!!」
榊浦美優が悲鳴のような叫び声と共に懐から取り出した拳銃を夜桜に向けた。
ろくに狙いもつけずにトリガーを引きまくるが、夜桜はその弾を全て回避する。
そして六発撃ったところで拳銃からガチッという弾切れの音が鳴り響いた。
「さっき言いそびれた事をちゃんと言い直してやる!!」
「ひっ……!!」
慌てふためき、その場から立ち上がりながら拳銃のリロードをしようとする榊浦美優。
しかしそれよりも早く、夜桜は足の裏に付けた爆弾を起動させ、爆発の推進力を得て榊浦美優に突っ込んでいく。
「私はあなたの事が分からないッ!! それでも、これだけはハッキリと言えるッッ!!!」
固く握りしめた拳を榊浦美優の顔面に目掛けて打ち出す。
「私はなあっ―――――――――――お前の事が、大ッ嫌いだぁぁあああああああッッ!!!」
爆発の推進力を得た夜桜の右拳が榊浦美優の顔面に突き刺さる。
ミキミキという音と共に、鼻の骨が折れる感触が拳に伝わる。
その感触に臆することなく更に拳を前に突き出し、完全に腕を振り切った。
――――――――ドォォオオンッ!!
榊浦美優の体が後方に吹き飛ばされ、勢いよく壁に衝突した。
鼻の骨が折れて鼻血を流すその姿に意識はあるように見えず、壁に背中をこすりつけるように、ずりずりと地面に力なく倒れる。
肺から飛び出した空気を吸うために無意識に咳き込んでいる事から、息はあるようだ。
「色んな人を実験体にした罪はちゃんと償わせる。でも私を誘拐したり拳銃を撃ったりした件は、今の一発で許してあげる」
血に濡れた右拳を見た夜桜は、静かにそう言った。
――――――――浮遊人格統合技術の開発者の片割れである榊浦美優の夢は、今ここに潰えた。
「いやはや、素晴らしい……。まさか私の作った未来革命機関が、ここまで追い詰められるとは……」
「あらら~。これってもう大体終わってる感じ? それともぉ~……一番面倒くさい所に来ちゃった感じかなぁ?」
部屋の中に男と女の声が響く。
夜桜は声のした方に、弾かれる様に顔を向けた。
一人はエメラルドの瞳に高い身長と目鼻立ちの整った端正な顔を持つ、金髪の男。
元々心が惑わされそうな美しい声をしているのが、何かに感動したようなとろんとした声色をしているせいで、余計に魅力が上がっている。
この男は夜桜には見覚えがあった。
何を隠そうこの男は、未来革命機関のトップのウィザードなのだ。
そして今は、両腕の折れている橘の首筋にナイフの刃を当てて彼女の体を完全に拘束している。
そしてもう一人。
男性物の喪服を思わせるような黒いスーツに、長い髪をヘアゴムでくくってポニーテールにしている。
右手には黒光りする拳銃を持ち、左手には銀色に鈍く光る大きめのアタッシュケースを持っていた。
(なんだこいつら……!? まさかどっちも機関の……いや……)
夜桜は突然現れた二人を相手に、一歩後ずさる。
目の前の二人も互いに味方ではないようで、全員が全員のことを警戒しているのが目に見える。
(ウィザードも、謎の女も、互いが互いを警戒している……これはつまり……)
俊介・夜桜陣営。
未来革命機関。
そして謎の第三者。
全陣営が一つの部屋に集まり、三つ巴を形成していた。
バクダン『ひでぶ』