「一体何がどうなっている?ペシュリアンからの定期報告はまだか?」
「ま、まだ来ていません」
王国で蠢く裏組織八本指、その警備部門の長である闘鬼『ゼロ』は、部下の報告を聞き苛立ちを隠せずにいた。
六碗、自らが選んだ冒険者にすればアダマンタイト級と呼ばれる精鋭たる彼ら。
その実力は、最も格下と言われるサキュロントを除けばゼロにとって自信を持って推薦できる者たちばかりだ。
そんな彼らの定期連絡が、悉く途絶えていた。
(任務失敗?否、そんな筈はあるまい)
1人ならともかく、全員が連絡無しという現実にゼロは首を傾げる。
彼らはそれぞれの部門や各所の警護だったり、それぞれの拠点にいたりする。
例えば奴隷売買部門のコッコドールには、六碗であるサキュロントがつく、と言った具合にだ。
(全員が死亡、もしくは連絡が取れない状態にある。ということは)
ここまでで、ゼロの思考は止まっていた。
それもその筈、ラナーの立案した八本指拠点の殲滅計画は一部の隙も無く、また漏れも無く勧められていた。
故に貴族派閥に情報が漏れる可能性は無く、故にゼロにも当然情報は渡って来ていない。
(敵対派閥、もしくは八本指の別部門による妨害か。この忙しい時に!)
そう考えながら、今の状況を見てゼロは歯噛みする。
王国の裏社会を牛耳る八本指、そんな彼らとて無論一枚岩には程遠く、足の引っ張り合いが常であった。
だが、王国を手に入れるまであと一歩というところでこの騒ぎになるとはゼロも予想していなかっただろう。
(いや、今だからこそなのだろうな。王国は既に詰みの状態、ガゼフ・ストロノーフを殺す算段もつこうとしていると情報が入っている。ここらで八本指の長を決めておきたいという腹づもりなのだろうな)
そうゼロは結論付け、部下に指示を出そうとしたその瞬間だった。
ゼロの潜伏地ーーー廃墟である隠れ家の1つである、が震えた。
「な、なんだ?」
そのあまりの揺れに、ゼロは膝を突く。
自然なものでは無い、まるで『とてつも無く重い衝撃が建物に衝突した」かのようなそれにゼロは攻撃が来たのかと伏せる。
結果的に、それが彼の命を救った。
風が、凪いだ。
「・・・は?」
ゼロに許された発言は、これだけだった。
ゼロの眼前で、報告を終えた配下の首が落ちた。
スローモーションの如く、きっと最後まで自分が死んだことには気付かなかっただろう。
そして、ゼロの視界も暗転した。
(ああーーー)
そしてゼロも理解した、自分も交わしたつもりだっただけで、同じく死を与えられていたことを。
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かつて1人の男がいた。
人が同じ生物に見えぬのだと、苦悩に満ちたその眼をスサノオに向けていた。
その様なことは無い、お前は立派に人であると。
お前が人で無いのなら、私は一体何なのだと。
そう言った、言ってしまった。
数日後、友は崖から身を投げて死んだ。
そのことを、スサノオは今でも覚えている。
「ーーーースサノオ様?」
永遠にも等しい懐古から覚め、スサノオは眼前のラナーを見ている。
ラナーの瞳が、ほんの少し。
常人には気づかぬ程に僅かに濁ったのを、スサノオは見逃さなかった。
恐らくこの場で問い詰めても、彼女はきっと正体を見せまい。
そう、スサノオは確信していた。そして彼女はきっと友と同じ末路にはなるまいと信じている。
そう思いながらスサノオは横に座るクライムという少年を見る。
若干被害に遭う者はいるだろうが、きっと大丈夫なのだろう。
「しっかしよ、本当に1人で全部終わらせちまうなんてな」
そう王城の一室で、まるで自分の家の如く寛ぎながらガガーランは呟く。
強さの秘密は何だ?と聞くガガーランに、ただ一言、鍛錬と経験だと答えた。
「何か褒美をお父様から貰えれば良いのですけれども、、、、」
そう言いながらラナーは下を向く、彼女に与えられた金銭ではとても今回の報酬には釣り合わないと確信しているのだろう。
そもそも、今回の任務事態冒険者としてグレーどころかアウトの代物だったのだ。
不要だ、と端的にスサノオは答えた。
「1つだけ、国の為に尽くせ」
「え?」
その言葉に、この場にいた誰もが首を傾げていた。
ラキュースは、ラナーは十分に国に尽くしていると言いたげだった。
蒼の薔薇の他メンバーも、クライムも同じくである。
だが、ただ真っ直ぐに、スサノオはラナーを捉えていた。
2人の間には、それだけで十分だった。
「ち、誓います。私ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは、王国の、民の為に尽くす王女となりましょう」
かつて、優秀な友がいた。
多くの叡智で沢山の民を助けた宰相が。
騒がしい相棒と共に国を作った男が。
ただ1つ、友は友の呪縛から逃れられなかった。
そんな友が、ラナーの側で笑っている様な。
スサノオは、そんな感じがした。
「十分な報酬だ」
そう言い、スサノオは王国から去る。
その後、王国第一王子バルブロが病死し、第二王子のザナックが王位に就く。
ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは、その類稀なる叡智で兄たるザナックを良く支え、王国の発展と腐敗の膿を取り除くことに成功。
ザナックは王国中興の祖とされ、ラナーの名も歴史に刻まれることとなる。
次回から2章です。