ナザリック地下大墳墓を、スサノオは歩く。
あまりにも美麗で、完璧と言うに違わない建物の美しさ、それらにスサノオは一瞥もくれることは無い。
これまでのことは全て作業だった。
そう言いたげに、スサノオは自らの目的に向かい機械的に邁進し続ける。
しかし、それを止める者たちがいた。
スサノオが潜るべき扉、ナザリック地下大墳墓からの出口たるその扉前に立つは2人の人物。
1人は一般的な執事服を身に纏った白髪の老人だ。
綺麗な形に揃えられている髭も髪と同じく白く、顔立ちは彫りが深く白人のようである。
眼光は猛禽類の如く鋭く、目の前で止まったスサノオの気迫に気圧されずに止まっている。
もう1人はオールバックの黒髪、浅黒い肌を持ちストライプの入った赤色のスーツと丸眼鏡をしている。
一見して人間と大差ない姿をしているが、尖った耳と6本の棘が付いた銀のプレートに包まれた尻尾を持っている。
眼の奥は宝石のような眼球をしており、まるで見定める様にスサノオを見ていた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、ナザリック地下大墳墓第七階層守護者のデミウルゴスと申します」
「ナザリック地下大墳墓にて執事をしております、セバスと申します」
「・・・・スサノオだ」
現れた2人を前に、スサノオは動きを止める。
2人とも、、、正確にはデミウルゴスからのみでセバスからは殆ど無いが感じ取られる僅かな敵意を見逃さなかったのだ。
「もうお帰りになるのですか?アインズ様とは何をお話しになったので?」
「そう変わったことじゃ無い、これからのことと、普通のことだ。」
「具体的には?」
「この世界にアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーは存在しない」
その言葉を聞いて、デミウルゴスとセバスの顔色が僅かに変化したことをスサノオは見逃さなかった。
彼らNPCにとって、自らの創造主というものは絶対だ。
少なくとも、彼らはそう設定されているのだろうとスサノオは推察する。
そんな彼らの主人は、この世界に存在しない。
そんな当たり前の真実を、スサノオは2人に突きつけていた。
「理由は?」
「私の記憶に無いこと、次に情報として私に回っていないことだ」
スサノオのギルド拠点は小さいが、各地に配置されている。
その理由は各地の噂話や情報を受け取り、世界中で情報共有する為だ。
つまりスサノオは起きた時点で自分の目的が果たされていないこと、そしてアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいないということを知っていたのである。
つまり、現在スサノオは拠点の維持と点検目的でのみ世界を巡っているのだ。
これ程彼にとって空虚なことはあり得ない。
「・・・・成る程」
デミウルゴスは、その事を知っていた。
頭脳明晰な彼にとって、小さく点在するスサノオの拠点の存在から現在の彼の立ち位置から考えた彼の生きる意味を既に理解していた。
故に、彼は知りたくなかった情報を得てしまうことになる。
自分の創造主が、この世界に、少なくともスサノオが感知できる場には存在しないということに。
「スサノオ様、私からも少しよろしいでしょうか」
「聞こう」
意気消沈といった表情のデミウルゴスに変わり、セバスから声がかかる。
「私の創造主であるたっち・みー様とスサノオ様は友人であったと聞かされております、あのお方について教えて頂きたいのです」
それは、セバスが初めて見せる少し縋る様な視線だった。
セバスは、既に長い時間の別離を経てたっち・みーとの心の整理を付けていた。
無論諦めた訳では決して無い、少しでも可能性があるのならばそれに殉ずる覚悟は出来ている。
だが、それが本当に微かな希望であるのだと、他でも無いセバス自身がとうに気付いていたのだ。
故にセバスは求めていた、かつての主人の思い出を。
「たっちさんは、強い方だった。私は結局あの人に殆ど勝つことが出来なかった。」
そう言うスサノオの声は、顔は、僅かばかり懐かしそうだった。
「辞めたと聞いた時はショックだった、私は今でもあの人に勝てる気はしないのだろう。セバス、君は本当にたっちさんに似ているよ」
レベルキャップ。
レベルという壁を、スサノオは永劫の時を経て突破していた。
デミウルゴスは見抜けなかったがセバスは、そのスサノオから出される圧倒的な力を既に見抜いている。
そんなスサノオからの、最大級の賛辞、自らの主人に対する賛辞と、これ以上無い言葉にセバスは胸から熱いものが込み上げて来るのを感じていた。
「勿体無い、言葉です」
そう跪きながら言うセバスに会釈し、スサノオは言葉を去る。
これが、彼らへの慰めになるかはわからない。
ただ、モモンガさんに絶対の忠誠を。
NPCとプレーヤー、その別れを彼らに味わって欲しくは無いなとスサノオは感じていた。
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「依頼が受領された?」
エ・ランテルの冒険者組合から齎されたその報せは、ジルクニフを喜ばせるには十分なものだった。
「指名依頼ではありません、そちらは引き続き無視されております。万病に効く薬草が生えているとの依頼を出していたのは覚えていらっしゃいますか?」
フールーダの言葉に、ジルクニフは依頼について思い出していた。
帝国四騎士、帝国でも最強の騎士と謳われる彼らの中にレイナース・ロックブルズという女性騎士がいた。
彼女はモンスターの呪いで顔が半分膿んでいる、それを治す為にジルクニフは様々な手段を模索していた。
トブの大森林にある万病に効く薬の依頼、明らかな眉唾物だとジルクニフは考えていたがそれを受けたのがあのスサノオならジルクニフにとって納得出来る筈だ。
「今、その受け渡しに向かっているそうです」
「私も参加、、、いや、受け渡し場所を皇城にすることは可能か?」
「そう言うと思い、先方には既にお伝えしております。私はどちらにせよ会うつもりでしたので」
フールーダの目に怪しい光が宿ったのを、ジルクニフは見逃さなかった。
スサノオは戦士としてだけで無く魔術師としての素養があることは既に調べがついている。
己を越えるかも知れない魔術師、それを見定めようとしてるのかも知れない。
「じい、己の探究はほどほどにしておけよ。今後の対王国における切り札になるかも知れないんだからな」
ジルクニフは、冒険者してのスサノオという存在を高く評価していた。
眉唾をされた、依頼が公募されてから数年経って未達成の高難易度依頼を難なくこなした実力。
ただ、それはあくまで冒険者としての実力評価だった。
あくまで個人の比較としてのみ、ジルクニフは彼を見ていた。
そのことを、ジルクニフは後悔することになる。
「わかっております、陛下の妨げにはならぬよう注意致しますとも」