「いつか、貧困の無い国を作りたいんだ!」
そう、キラキラした眼で言った少年がいた。
「面白い、君ならきっとなれるだろう」
「あぁ、今はこんな貧乏暮らしだ、だがいつか俺は国を作る!お前も力を貸してくれよ!」
迷いの無い声、理想の国を作るの曰う男の目にスサノオは心動かされていた。
一体何年昔の話だろう。
こんな世界に来て直ぐの頃だろうか。
夢にまで見た世界だとはしゃいだ時だろうか。
魔法が使えると確信した時だろうか。
人間が多種族に虐げられ、それを助けようとした時だろうか。
仲間が皆老いて死に、自分だけが見た目が何も変わらず、自分が不死だと気付いた時だろうか。
死にたいと、死ねないと思った時だろうか。
最早思い出せない。
スサノオには、触覚が無い。
日々手のひらから溢れるようにスサノオの身体からはあらゆるものが失われて行く。
触覚
味覚
感情
老いているのでは無かった、自ら放棄したのだと、スサノオは考えている。
人間としての精神を持ちながらスサノオは、あまりに長く生きすぎた。
人間の精神は、その恒久的生に耐えられなかったのだ。
そんな彼の心に少しだけ火を灯したのが、この少年だったのだ。
「やって見るが良い、力を貸そう」
「お、本当か!お前こんな大きい魔物を倒せるぐらい強いもんな、心強いぜ!後は仲間を集めないとな〜」
そう言い、太陽の如く笑う少年をスサノオは見つめる。
あまりに眩しい、宝石の如きそれを見ながら、スサノオは笑っていた。
少年はかくて覇道を歩み始めた。
出会いと、別れと、戦いと、苦しみを乗り越え。
アダマンタイト級の冒険者だった、無口で強い友人を傍らに少年は様々な苦難を乗り越えて行く。
後に物語にもなる壮大な冒険譚は、100年もの間人々に愛された。
かくて、少年は国を興した
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かくて、国は滅んだ。
少年が志した貧困無き国、平等な国はあまりに脆い。
貧困を知らなかった少年の孫の贅沢により起きた臣下の反乱により、あまりにも呆気なく国は滅んだ。
それを、スサノオは何もせず見守っている。
彼は、少年の死と共に国を去っていた。
長年の冬眠を経て、目覚めた先がこの未来だった。少年が目指した野望を嘲笑うが如く、少年とその仲間と、何より自分が愛した国が燃えて行く。
その光景を、スサノオは顔を歪めて見ていた。
国は滅ぶ、人は死ぬ、この世にある全ては何れ消える。
自分以外は。
何度も思い知ったそれを、スサノオは再び経験することとなったのだ。
(あの時のお前と、同じ顔で同じようなことを言ってる奴がいたよ)
眼下の地獄を見ながら、スサノオは懐古する。
魔法により作られた雷雲、嵐は亜人種の軍勢を思うまま吹き飛ばしていた。
それは正しく蹂躙だった。
それはまさしく殺戮だった。
彼らの誇り、尊厳は全て吹き飛びその跡には何も残らない。
元より戦争とはこういうものだ、矢に当たることもあれば正々堂々と敗れることもある。
ただ1つ言えることは、この場に集った亜人種は皆愚かだったということだろう。
賢しい他人種は全て逃げ出している。
より賢しい者は支配を、隷属を受け入れている。
誰が逆らおうと言うのだろう、相手はまさしく災害のようなものであると言うのに。
スサノオは見る、眼下にこちらを睨むように叫ぶ1人大柄な獣人を。
一瞥、呼びかけられた大声に対してスサノオがしたのはそれだけだった。
その後、その大柄で、威勢の良い、父を超えんと努力した才ある獣人は雷に呑まれ死んだ。
他の獣人と同じように、他の獣人と似たように。
災害は去る。
この戦場に集った数十万の大軍を全て蹴散らし、砦にいた人間に圧倒的猛威を見せつけて。
全てが終わった後、戦場には獣人の死体がゴミのように転がっていた。