王都 リ・エスティーゼ
そこから少し離れた辺鄙な場所にそれはある。
それは、建物と呼ぶより『箱』と見るに相応しかった。
幾人もの探究者、盗賊が入り口をこじ開けようとした痕跡が入り口にはある。だがその鉄の箱とも呼ぶべきスサノオの拠点の1つには数ひとつついていない。
既に建ててから数百年が経過していたそれが何も変わらず、神格化もされず放って置かれているという事実にスサノオは少しだけ安堵する。
聖王国の拠点は拠点そのものが神格化の様な扱いを受けていた、王国ではそうなって無いだけ一安心である。
中に入る、拠点の中に重要なマジックアイテムや装備は無い、あるのはただ空間と、拠点を整備するためのシステム。
「あら、そう言えばそういう時期でしたね」
そして彼女だけであった、和装に身を包み、どこか芯のある目と風格を備えた彼女はスサノオが作成したNPCだ。
拠点の維持が目的とされるスサノオが作成したNPCの中で有数の戦える存在でもある。
久しいな、と声をかけると『アメノウズメ』は皮肉化に顔を歪めこう言う。
「正直、もう来ないものと思って自由にやらせて貰ってましたよ。」
それで良い、とスサノオも言う。
最早拠点を出て自由に生きたとてスサノオは文句を言える立場でも無いのだ。
それに、そもそもアメノウズメはこういう性分だ、きっと100年後もこういう感じなのだろう。
「はぁ、拠点の中が問題無いことは分かりましたね?じゃあちゃっちゃと帝国に行ってあげて下さい。定期連絡で貴方が起きたと知った時のあの人の顔を見せてあげたいです。あ、ついでに行って欲しいところがあるんですけど、、、」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
王国の首都たるリ・エスティーゼ。
その道に1人の男が歩いている。
少年と青年の境にある様な年齢をしており、眉は太く吊り上がった三白眼、金髪は短く切り揃えられ、顔には鋼の様な強い意志が感じ取れる。
肌は日に焼けており、見た目にはほんの少しだけ不釣り合いな純白の全身鎧を装備している。
クライム、リ・エスティーゼ王国第3王女であるラナーの兵士である。
「暇だ、、、」
そう言いながら、クライムは王国の治安を守る為歩みを進める。
クライムは今日、珍しく非番であった。
本来ならは非番など返上してラナー様の側に侍りたい、そう思うクライムではあるがそうすると自らが敬愛するラナーが悲しそうな顔をするので仕方なく休みをとっているのだった。
剣の稽古をしようにも、それは戦士として時々教えを乞うているガガーランにやり過ぎも駄目だと止められている。
(もどかしい、休むことも大事なことは理解しているが・・・)
クライムは、自分に剣の才能があるとは思っていない。
故に、思わず逸ってしまうのだ。
(この様に、気がそぞろになってしまうのも未熟な証拠だ。信じるべきは自らの考えでは無くガガーラン様だ)
そんなことを考えていた時だった。
(なんだ?喧嘩か?)
クライムは緩んでいた顔を引き締めて駆ける、非番とはいえ王都の治安維持こそが仕事なのだ。
「てめぇ!邪魔しやがって、そこをどけよ!」
眼前に入ったのは、倒れた少年だった。
そして、それを睨む柄の悪い男が3人。
冷静になって考えれば、クライムはそれを被害者と加害者の図として見ただろう。
そして治安維持の為の武力行使に出たはずだ。
だが、クライムはそのいずれにも気付かなかった。
群衆が、柄の悪い男たちが。
この場にいた者全ての視線が、ただ1人に吸い込まれていたからだ。
「ーーーーーーーーーーー」
長身の男が、少年を抱えている。
その氷の様な、無表情な顔が少年を見続ける。
ほんの少しの逡巡の後、光に包まれた少年の傷は瞬く間に完全に消失した。
「神様?」
誰かがそう言った言葉、その言葉に全ての人間が同意と言いたくなっていた。
所作も、その身に纏う風格も、その全てが自分たちとは違う、見た目は蛋白なものを着ている筈なのに、何故か違うと思わされたのだ。
「騒がせた」
男はそれだけを言い残し、雑踏の中に消えて行く。
(あれは、アダマンタイト?と言うことは?)
その胸に光るアダマンタイトのプレートを確認した後、クライムは漸く正気に戻った。
その場の処理をその後に来た衛兵に任せた後、クライムは先程の人物の背中を追う。
男は癒えたとは言え傷だらけだった少年を気遣っていたのだろう、本当に少しずつ、ゆっくり歩みを進めていた。
「ーーーーあの!」
クライムは絞り出す様に声を出す。
先程の神々しいとしか表現の難しい顔がこちらを向いた。
「何か?」
「わ、私は王国で兵士をしております。クライムと申します。貴方様はアダマンタイト級冒険者のスサノオ様ではありませんか?」
「そうですが」
そう言いながらスサノオはクライムを目据える、透き通った目がクライムを貫くたび、背筋がぴんとなる感覚をクライムは抱いていた。
(やはり、王国に来ていたのか!?いや、伝えるべきはそこでは無い)
「本来ならば、私が解決せねばいけないことを解決して下さりありがとうございます!」
「気にしなくて良い」
(やはり、この方は英雄譚に違わぬ正しい心をお持ちだ。もしかしたらあの事にも協力してくれるかも知れない!)
クライムは、というかラナーはある問題を抱えていた。
王国に巣食う裏組織『八本指』である、彼らは貴族に取り入り麻薬を流通させ王国に莫大な被害を与えていた。
ラナーが奴隷制度の廃止などで抵抗していたり、蒼の薔薇がその撲滅に動いているが、勢力拡大を少しだけ防ぐので精一杯という状況である。
「スサノオ様の英雄譚はお聞きしておりました、もしよろしければ後日、お時間を頂け無いでしょうか!お会いして欲しい方がいるのです」
故に、この願いは必然だった。
面倒ごとの予感に、ほんの少しだけスサノオは顔を歪める。
スサノオの腕では、何も知らぬ少年が小さく寝息を立てていた。
この人、感情無い割に倒れてる少年見捨てないとか
難儀な奴やなぁ、、、