ベースとドラムと時々ピアノ   作:自分をピアニストだと思っている一般人

2 / 2
過去編の回想はダイジェスト気味にやっていきます。

というかそうしないと喜多ちゃんもぼっちちゃんも
全然出てこなくなってしまうのだ……


人は多分見かけによらない

「なあ、結局お前はなんで音楽がキライなんだ?」

 

「お前じゃなくて虹夏! なんでって言われても……」

 

 姉が噓つきだから、とは言っていたがそれがどう具体的に音楽が嫌いなことと結びつくのか、結局分からずじまいだった俺はそんな風に虹夏に聞いたことがあった。

 

「お姉ちゃん……バンドがあるからーっていっつもアニメ一緒に見る約束とか破るんだもん……」

 

「え、それだけ?」

 

「それだけってなにさ! 虹夏にとってはジュウヨウジコーなの!!」

 

「えぇ……」

 

 なんというか、当時の俺は肩透かしをくらった気分だった。そんなくだらない理由で音楽が嫌いだったのかコイツ……となったのは今でも覚えている。

 

「だから虹夏は絶対お姉ちゃんみたいなバンドマンにはならない! 公務員になる!」

 

「……そうか」

 

 でもそれって、結局音楽が嫌いになる理由なのか? と俺は思わず首を傾げていた。たしかに嘘をつかれたことは嫌な事だろうけど……それで音楽全般が嫌いって言われるのは妙に癪に障った。

 

「ぅ……それは……もう違うっていうか……お姉ちゃんはともかく……かなでくんのピアノは嫌いじゃないもん……」

 

「────」

 

 だからこうして不意を衝くように言われた言葉にドキッとしたし、顔を赤くして恥ずかしがったのはいい思い出だった。

 

 当時の……生意気なガキだった頃の俺は、それで気分を良くしたのか、調子に乗ったのか……

 まあ前みたいに天狗になったんだろう、そのまま虹夏に変なことを告げた記憶がある。

 

「だったらお前のお姉ちゃんとやらにそれを言いに行かないか?」

 

「えっ」

 

 ガキだった俺はそういうところだけ、無駄に行動力があったのだ。

 そうして出会ったのが、伊地知(いじち) 星歌(せいか)さん。虹夏の姉だった。

 

 出会い方は多分最悪な部類だ。

 妹の隣にどこの馬の骨かもわからないガキがいて、ソイツが妹と一緒にギターのこととかバンドのこととか、否定するように言って来てるんだから。

 

 ……いや本当に最悪だな、よく嫌われなかったもんだ。

 

 まあそこで、星歌さんは鬱陶しいと虹夏を突っぱねた。思えば否定してくるようなヤツにムカつくのは当然で、彼女が鬱陶しいと思うのは仕方ないことではあった。

 

 けど、俺はそれに納得がいかなかった。友人の想いを鬱陶しいと突っぱねたことが、家族を邪魔なものとして扱うその態度が許せなかったんだと思う。

 

 それで、俺は星歌さんに食ってかかって……やいのやいのと揉めたのだ。

 結局、ガキだった俺は言い負かされて泣いたんだけども。

 

「……お前ピアノが好きなのか?」

 

「っ……だったら、なんですか」

 

「弾いてみろよ、それで私を満足させられるなら……話ぐらいは聞いてやる」

 

 さすがにガキを泣かすのは大人げないと思ったのか、星歌さんはそんな妥協案を出してきた。

 上等だ、なら分からせてやる。そんな意気込みで俺はピアノを弾いた。泣きっ面のままだったのがかっこつかなかったけど。

 

 結果は……ぼちぼちな反応だった。可もなく不可もなくといったところだろうか。

 めちゃくちゃ悔しかったし、それで虹夏に泣きっ面のまま俺は謝っていた。説得できなくてごめん、と。

 

「まあ、お前や虹夏が言いたいこともわかった。……たまには一緒に遊んでやる」

 

「「え……」」

 

「なんだその顔は……私がそんなひとでなしにでも見えたのかよ」

 

 とはいえ、いい方向には向かったのだ。それから、虹夏の中で音楽に対する見方というのが少し変わったのか……リョウや俺と話すときも、時々星歌さんの……姉の話というか、愚痴も混じるようになっていた。

 

 やれ、姉がこのヒロインの良さを分かってくれない。とか、やれ、いちいち細かいところにツッコミいれてくる。とか、やれ、ゲームが下手すぎる。だとか。そういうくだらないけど普通の愚痴だった。

 

 ……それが俺たちの中で当たり前になって、その当たり前がずっと続くと思っていた。

 

 虹夏のお母さんが、事故に遭って亡くなってしまうまでは。

 

 そのことを知ったときは、俺もリョウも気が気でなかった。俺も、リョウも、あの人にはよく可愛がってもらっていたし、だからこそ居なくなったなんて思えなかったのだ。

 

 ……でも、虹夏が学校に来た時、本当に居なくなったんだと理解させられた。

 今思い出しても、あのときの虹夏の無理をして作った笑顔とか、空元気は嫌になる。そんな顔を見たいわけじゃなかった。元気だなんて、無理して笑うその姿は本当に痛々しくて……

 

 虹夏と喧嘩になった。久しぶりの喧嘩だった。

 

 無理をするな、俺はそう言って……それがそのときの虹夏にとっては逆鱗で地雷だった。

 お前に何が分かるんだ、ってそんなことを彼女に言われた。そんなこと分かるわけがない、俺が失ったわけじゃないんだ。ただ、それでも心配だったからそう言ったのにどうして怒るんだ、って怒り返して────

 

 そのときは本当にダメだった。俺も、虹夏もどうしようもないぐらいに止まらなくて……絶交だ! って言われてしまって、それを呑んだことは今でも覚えている。

 

 その喧嘩で、また俺たちはリョウに迷惑をかけた。リョウはなんとか俺たちの仲を戻そうとしてくれたけど俺も虹夏もリョウのその行いを突っぱねるように喧嘩したままで────

 

 ある日、虹夏が学校に来なくなった。

 

 ────罪悪感に苛まれた。俺のせいだ。そう感じたからか……それでも、腹立たしいのは変わらなくて、自分から仲直りしに行こうなんて考えたくなくて。

 

 リョウとも喋ることがめっきり減って……元からピアノ一筋で変わり者な俺は学校で孤立した。

 

 それでもいいと思った、ピアノさえあれば他のことなんてどうでもいい。そう思っていたから。

 なのに、どうしても虹夏のことが引っ掛かって、演奏にも支障が出ていた。満足のいく音が出せなくて、スランプに陥った俺はピアノに手を付けなくなって、そのあとでるはずだった……虹夏やリョウにみせるつもりだったコンクールすら蹴ろうとしていた。今の自分にはピアノができないと、薄々感じていたから。

 

 そうして軽く塞ぎこむようになった頃、虹夏……正確には、星歌さんから連絡がきた。

 来てほしいところがある、と言われた。怒られるのかな、と思った。金輪際関わるな、って言われても仕方ないと思った。虹夏を俺は傷つけたのだから、当然だ。と。そう思っていた。

 

 だが、連れてこられた場所は当時はよくわかりもしないライブハウスだった。

 後になって知った話だが、虹夏が仲直りしたいから俺も呼びたいと頼んだらしい。

 

 でも当時の俺はそんなことを察せるほど敏いわけでもなかったからこそ……なんで虹夏と一緒なんだ。と不機嫌なまま星歌さんに誘われるようにライブハウスに入っていた。

 ……いつもとちょっと変わったリボンを付けていたことに気付いていても言及しないぐらいには、不機嫌だった。

 

 そんな不機嫌なまま、仲直りの謝罪もしないまま……俺たちは、星歌さんのバンドのライブを見た。

 

 ────そのときのライブのことは、俺は一生忘れないだろう。

 

 不思議な感覚だった、熱に浮かされたような……客も演奏をしている人も、全てが一体になったような……そんな感覚。初めて聞いた、ライブハウスでのバンドの演奏はそんな感覚だった。

 

 かっこいい、すごい、きれい、そんな言葉しか思い浮かばなくて。

 

 でも、それ以上に……

 

 ────涙を流しながら、それでも本当に楽しそうに笑っている虹夏の顔が焼き付いて離れなかった。

 

 

 完敗だ、ってそう思った。俺ではきっと……できなかった。逆立ちしても無理だっただろう。

 いつもみたいに、本当に楽しそうに笑う虹夏の笑顔を俺は取り戻せなかったから。

 

「奏くん! ライブって楽しいんだねっ!!」

 

 ……ああ、本当にそうだ。すごく楽しい。夢を全力で追う人の演奏は……どれだけ取り繕っても、心に響く。何かを訴える不思議な力がある。そうだよ、本当にすごいんだよ。音楽は……こんな風に、誰かを笑顔にできるすごいモノなんだ。

 気付いたら、俺も虹夏に釣られるように涙を流していて……

 

「ごめん……虹夏……ごめんっ……ごめんなさいっ……虹夏に……ひどいこと……ッ」

 

「っ……わたしこそ、ごめんねっ……! かなでくんは……わたしのこと、心配してくれてたのに……ひどいこと……いっちゃったから……!」

 

 そうして二人で揃って俺と虹夏はわんわん泣いた。泣いて泣いて、泣き疲れるぐらい泣いて……仲直りした。

 

 ……そうして仲直りしたあと、俺と虹夏は一緒にリョウに謝りにいった。

 迷惑かけて、心配かけてごめん。と。

 

「いいよ、気にしてない。……二人と一緒にいれるだけで、楽しいし」

 

 そんな風にサラッと流されて、許されたけど……多分、この時一番大人だったのはリョウだったんだと思う。

 

 ……思えばこのとき、俺は夢を見つけたのだ。

 ピアニストになって、それで叶えたい夢を、理想を……見つけたのだ。

 

「虹夏、リョウ」

 

「「?」」

 

「お詫びって言ったら変だけど……今度、オレがでるピアノのコンクールにきてくれないか?」

 

 その夢の一歩を踏み出すために、俺は二人を喧嘩する前に決めていたあるコンクールに誘ったのだ。

 

 

 ────

 

 

「おーい、奏~? ぼーっとしないで~?」

 

「……あ、悪い。何の話だっけ」

 

「いや新しく入ってくれるバンドの子の話だよっ!? 何考えてたのさ!?」

 

「……将来と世界平和について?」

 

「高い志だね!? でも今は置いといてねっ!!」

 

 虹夏にそう突っ込まれながら、俺は現状を整理する。

 そう、たしか……リョウを見つけたある少女が、虹夏たちのバンドに入りたいと言っていて……その話をするために集まったんだった。

 

「────それで、私をリョウ先輩のかぞ……じゃない、バンドに入れてほしいんです!!」

 

「……ねえ、奏くん。もしかしてあの……喜多(きた)ちゃんって子だいぶやばい……?」

 

「どうだろうな……リョウに憧れたって時点でだいぶ嫌な予感はするし……見つけ方もかなり怖かったしな……」

 

 推定ヤバい子扱いされている、喜多(きた) 郁代(いくよ)と呼ばれている少女がリョウと話しているのを見ながら俺は虹夏とヒソヒソと小声で話す。

 

「やばいってどんな方法使ったの喜多ちゃん」

 

「高確率で俺の演奏動画にリョウが映ってるから、遭遇できたらリョウにも会えるんじゃないかってエゴサしてたらたまたま俺がストリートピアノで演奏してたのを知ってそのまま場所特定して全速力で会いにきたらしい」

 

「普通に怖いやつじゃんっ!?」

 

 怖いよっ!? と虹夏も思わずそう声に出していた。

 まあ俺もびっくりである。まさか演奏が好きです! とかイケメンだったのでファンになりました! みたいなタイプのリスナーではなく、俺の動画に憧れのリョウが映っていたのを知ってそこから俺の追っかけになったヤツがいるとは普通に思わなかったし。新しすぎて新鮮だった。

 

「新しいとか以前に斬新にもほどがあるでしょっ!?」

 

「あ、カナデさんの演奏もいつも聞いてます! 独特な雰囲気がある演奏で毎日聞かせてもらってます! 高評価も毎動画押してます!」

 

「あ、うん、ありがとう」

 

「それはそれとして普通にファンなんだ……」

 

 虹夏のその小声のツッコミはごもっともであった。まあでも割とある方だとは思う、流し見してただけの動画とか気に入ってその人のチャンネルを登録するとか、動画リピートするとか……ない話じゃないしな。

 俺もバンドとかロックに詳しいわけじゃないしよく知らないけど、guitar heroさんのギターアレンジはよく聞いている。おそらく同年代ぐらいだろうが……あそこまで綺麗な音が出せるのは何時間以上の練習を重ねたのか……一度対談してみたいほどだ。

 

「あー喜多ちゃん……?」

 

「はい、なんでしょうか伊地知先輩!!」

 

「えーっと、入ってくれるのは嬉しいけど……できる楽器とかってある? 

 一応私はドラムで、リョウはベースなんだけど……」

 

「えっ!? あ、ぎ、ギターと歌ならできますっ!!」

 

「ホントにっ!? いやーたすかるよ!! ウチ、ちょうどギターとボーカルを探してたんだよねっ!!」

 

「そ、そうなんですねっ! すごい偶然……!!」

 

「…………」

 

 なんか今の喜多さんの言い回しに引っ掛かりを覚えたが……言及はできなかった。

 まあ、俺虹夏たちのバンドに入ってるわけじゃないし部外者が口出すわけにはいかないからな。

 

「って、あれ……そういえばカナデさんは……? てっきり、カナデさんが歌を担当しているのかと……生配信の弾き語りとかすごく素敵だったので……」

 

「あー……俺は……」

 

「あははー、そこやっぱ勘違いしちゃうよねー……喜多ちゃん、実はね────」

 

 かくかくしかじか、まるまるうまうま、と俺が虹夏たちのバンドに入っていないことや、その理由を喜多さんに教える。

 

「えっ!? カナデさん、バンドとかわからないんですかっ!?」

 

「うん、実はぜんっぜんわかってないんだよねー」

 

「コードとか知らなくてもピアノは弾けるからな」

 

「当の本人がこんな感じだからね」

 

「意外です……キーボードとかもやっているとばかり……」

 

 本当に意外そうにこちらを見てくる。……結構聞くけど、やっぱりピアノ弾けるヤツはキーボードが弾けると一般の人は思っているのだろうか。だとすると心外である。

 

「そんなわけだから、バンド的には部外者みたいな立場なんだよねー、奏って」

 

「そうなんですね……てっきりバンドメンバーなのかとばかり……」

 

「バンドは怖いところが多いからちょっと……だってほら、酒吹きかけてきたりファンを足で踏んづけたりするし……」

 

 バンドとロックこわい。虹夏たちじゃなかったら俺多分、縁切ってたと思う。

 

「偏見!? それ何処情報!?」

 

「何処って、リョウに連れてかれたライブハウスのバンドで……」

 

「リョウっ!?」

 

「……なんのこと?」

 

「すっとぼけんなそこで……」

 

 急にライブ行こうZE☆って新宿まで連れてこられたと思ったら、いきなりよくわからんサイケデリックとかいうジャンルの曲聞かされるわ、酒吹きかけられるわ、顔踏んづけられるわで下手するとトラウマになってたかもしれないんだぞお前!! 

 

「って、話が逸れちゃったね、ごめんね喜多ちゃん! 奏、リョウにはあとでキツイヘッドロックを決めとくから安心してね!」

 

「虹夏こわい」

 

「自業自得だろう」

 

 ぷるぷる、と震えながら俺の後ろに隠れようとするリョウに呆れた眼差しを送る。マジで下手すると一生モノのトラウマになるところだったんだぞこっちは。

 

「でも、喜多ちゃんが入ってくれるならすっごく嬉しい! これでウチのバンド! 本格的に始動できるよ! これからよろしくね!」

 

「こちらこそ、迎え入れてくれてありがとうございます! 伊地知先輩!」

 

 まあ、なんとか虹夏たちのバンドは始動できそうで一安心だ。

 これで俺が勧誘されることも多分なくなるのだろう。ちょっと寂しくはあるけど、嬉しい門出だ、祝福してあげるべきだな。

 

「……そういえば、リョウ先輩と伊地知先輩のバンド名ってなんて言うんですか?」

 

「う"ッ……」

 

 あ、それは────

 

結束(けっそく)バンド」

 

「……へ?」

 

「私たちのバンド名は『結束バンド』」

 

「……す、すごく個性的で素敵な名前ですねっ!!」

 

「めちゃくちゃ喜多ちゃんに気を遣わせてるっ!?!? ぜ、絶対このサムいバンド名改名するからねっ!!!!?」

 

 うん、まあダサいのは俺も否定できないというか……

 でも、なんとなく……この名前のままズルズルと続きそうだな……そう思ってしまった。

 

 

 かくして、『結束バンド』は見事晴れ舞台目指して一歩前進したのであった。

 これから先、バンド活動をしていく上でたくさんの苦労があるだろうけど……それを乗り越えてきっと、大きく羽ばたくはずだ。

 

 

 ────そう思っていたのだが。

 

『かなでぇ~! たすけてぇ~! ギターの喜多ちゃんが音沙汰なくて今日の本番できないかもしれないよぉ~!!』

 

「…………マジで?」

 

 それ以上の前途多難が待ち受けていたようで……俺は携帯越しに思わず、頬を引き攣らせるのだった。




朝比奈 奏

生意気なガキだった時代は誰にだってある。
昔こそたくさん喧嘩したが、今では虹夏やリョウとはマイベストフレンドである。

動画配信サイトでの活動名は「KaNaDe」
なんも思いつかなかったので名前をそのまま使ったらしい。

最近はguitar heroの動画をよく聞いている
(虹夏に勧められて聞き始めた)

容姿がバンドマンっぽいから
バンドやってるのではと勘違いされることが多い。
「このやたらと跳ねてボサボサに見えるのはくせ毛だし、目付きが悪いのも元々なんだよ!」とは本人の談。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。