リリベル・リコイル ~錦木千束を暗殺せよ~   作:いけめんなハルト

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※可能な限り設定は原作順守ですが一部改変、また誤りがある可能性があります。
※男性向きのライトノベル的展開が主であり、原作のような百合展開はありません。
※一部オリジナルキャラクターが登場します。


【2話:序章『錦木千束を暗殺せよ』②】

暗殺対象のセーフハウスは、12階建てのマンションにあるリビングとキッチンが併設された大きなワンルームの一室。

大窓にはハート柄のカーテンが掛けられており、早朝の日差しを遮っている。

大型の液晶テレビにはニュース番組が流れ、傍にある長テーブルには様々な映画のDVDと大量の菓子で一杯になっていた。

 

「「…………」」

 

壁に掛けられた姿見の前で、赤いリボンを咥えて立つ――錦木千束の深紅の瞳と目が合う。

想像もしてなかった状況を前にして、思わず引き金(トリガー)に掛けた指が硬直する。

だが、それも数瞬の間だけ――

 

「ちょちょちょちょ――っ!」

 

突き出し、構えた二丁のM93Rが火を噴く。

無数の9×19mmパラベラム弾(9ミリ弾)が放たれるよりもほんの少し早く、錦木千束は咥えたリボンを離し、裸のまま体を翻す。

弾丸は面白いように外れ、錦木千束はソファーの背に掛けられたリコリスの制服と学生鞄を手に、ソファーの裏へと身を隠す。

搔っ攫っていった制服の色は僕の戦闘服と同じ赤色――最強の代名詞であるファーストを意味する色だ。

同時に回収した学生鞄の偽装をしているサッチェルバッグは、リコリスが使用する銃のホルスターとしての役割もあるので、武装を回収されたと思って良いだろう。

 

「ちょっとタンマっ、せめて服着させてよっ!」

 

錦木千束はソファーを挟んで、焦りと羞恥を孕むうわずった声を上げる。

もちろん向こうに付き合う義理はないので、僕は返事の代わりに9ミリの雨をソファーに注いだ。

無数の弾痕がソファーに刻まれると同時に、中の綿が宙を舞い、錦木千束が震えた声を上げる。

――着弾と同時に僅かな金属音が聞こえる。ソファーに鉄板を仕込んでるみたいだ。いざという時の遮蔽物にするために。

それでも牽制にはなるので射撃は続行。

それぞれ二丁の薬室(チャンバー)に1発の弾丸が残ったところで撃ち止め、空になったM93Rの弾倉(マガジン)を床に落とす。

直後、戦闘服から僅かな機械音が上がると同時に左腕の袖上、右腕の袖下から9ミリ弾を装填した弾倉が顔を覗かせる。

僕は腕を交差させるようにしてM93Rにその弾倉を押し込み、コンマ3秒でタクティカルリロードを終え、再び銃口をソファーへと戻す。

――薬室の弾丸まで撃ち尽くせば、下がった遊底を戻す一手間が掛かる。時間にすれば一秒以内で終わるエマージェンシーリロードでも、電波塔事件を解決したファースト・リコリスがそんな隙を見逃すとは思えない。

 

「…………」

 

錦木千束に動きはない。

M93Rの銃口はそのままに、僕はゆっくりとソファーの裏側へと回り込む。

ソファーの死角が無くなる、その直後に白髪が煌めいた。

 

「好き勝手撃ってくれたなこんにゃろーっ!」

 

謎の雄叫びと共に、ファースト・リコリスの制服を纏った錦木千束が瞬時に迫る。

斜めに半身を引き、突き出した右肩よりもずっと手前――大きく膨らんだ胸元に拳銃を添えるように構え、その銃口を僕へと向けている。

同時に、錦木千束の拳銃から発砲音。

 

「――っ!」

 

直前に右腕で眼前を覆い、錦木千束から放たれた数発の弾丸から顔を守る。

枕を殴るような鈍い音と共に右腕を重撃が襲う――が、想像していたよりもずっと軽い感覚に、少しの違和感を覚える。

 

「ほらほらっ! たぁーんとおたべっ‼」

 

右腕で片目が覆われたことにより生まれた、僕の死角へ潜り込む錦木千束が、さらに続けて発砲する。

同時に、僕もおおよその狙いを付けて左手のM93Rで反撃した。

しかし手ごたえはない。一方で右腕、右脇腹、膝に鈍い痛みが走る。――いくら戦闘服の防弾性能が高いといっても、弾丸が持つ運動エネルギー自体を無くすことは出来ない。被弾すればそれだけダメージは確実に蓄積されていく。

それは向こうも理解しているからか、一撃必殺の頭部を狙いつつも、ダメージが蓄積すれば戦闘の継続が困難になる箇所を狙ってくる。

――流石はファースト・リコリス。英雄の評判は伊達じゃないな。

M93Rでの射撃を継続しながら、体を半回転させて右腕の死角に隠れた錦木千束を追う。

社交ダンスのようにクルリと立ち位置が入れ替わると、錦木千束の姿を再び捉えた。

直後、物量にものを言わせて二丁のM93Rで9ミリの雨を彼女に注ぐ。

しかし――

 

「よっ!」

 

再び距離を詰めようと僕へ迫る錦木千束は首を傾げ、時に半身を引いて銃撃を躱す。

弾丸が錦木千束の体をすり抜けていく錯覚すら覚える不思議な光景を前に、僅かな動揺が僕の中で生まれる。

その隙へ差し込むように、錦木千束が拳銃を突き出した。

向こうも拳銃に僕のものと似たストライクフェイスを装着しているようで、銃口周りには無数の棘のような突起物がある。

当たり所によって死。運が良くても骨折は免れない一撃が迫る。

僕は、それを受けた。

 

「えっ――」

 

右手に持つM93Rで。正確には、銃口下のフォアグリップで払うようにして受け流した。

二つの銃の間で小さく火花が上がると同時に、僕は左手のM93Rを錦木千束に向けて突き出す。――意趣返しだ。

錦木千束がしたように。拳銃を射撃武器としてではなく刺突武器として利用したその一撃を、彼女は驚きを現しつつも難なく躱す。

大きく身を引いた錦木千束は拳銃をタクティカルリロードして、それを斜に構える。

直後、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「やるな~っ! 流石はファーストのリリベル……だよね?」

 

「……ああ」

 

一応、確認ね――と錦木千束が苦笑を漏らす。

 

「えっと、他のお仲間さんは?」

 

後方支援(バックアップ)に一人だけ」

 

「……もしかして舐められてる、私?」

 

むっと口をつむぐ錦木千束が、何とも言えない視線を送って来る。

彼女がそう思うのも仕方はない。

 

「舐められてはない。だから同じファーストの僕が来た」

 

銃口はそのままに、一丁づつM93Rのタクティカルリロードを行う。

 

「いやそうじゃなくて、リリベルといったら軍隊行動でしょ」

 

隠密作戦(スパイミッション)を主とするリコリスとは違い、リリベルの主任務は強襲作戦(アサルトミッション)

そのため、リリベルは単独行動の多いリコリスよりも軍隊的な動きを要求され、また基本は集団での行動を徹底する。

同じ秘密組織のエージェントでも、リコリスとリリベルでは専門が違う。制服の性能が著しく異なるのもそういった理由からだ。

では何故、リリベルである僕がリコリスのような単独行動を行っているのか――錦木千束はこれにリリベルが手を抜いていると勘違いしているようだが、理由はある。

 

「そうだけど、僕は味方殺しだから」

 

「え、なに、アンタ仲間殺したのっ!?」

 

「いや、殺してないけど、殺しかねないからって。今日みたいに大体の現場には一人で行かされる」

 

「マジかよ、リリベル最低だな」

 

直後、M93Rの引き金を絞る。

錦木千束は弾丸が発射されるよりも早く、首を傾げてこれを躱す。

直後、彼女の背後にあるスタンドライトが粉砕された。

 

「銃口、視線、服の動きから射撃タイミングを予測して躱してる。……最初は僕が下手なだけだと思ったけど、今ので確信した」

 

「確かに。ファーストの割には下手っぴだよねっ♪」

 

錦木千束は頬を膨らませ、ぷぷぷっ――とわざとらしく笑って見せる。

 

「それはお互い様だよ。近距離戦闘向きのC.A.R.システムをあの練度で使えるのは、普段から敵に近づいてから撃ってる証拠。……つまり、キミも射撃が下手くそなタイプだろ」

 

「ち~が~い~ま~すぅ~っ! 悪いのは私の腕じゃなくて弾ですぅ~っ‼ 一緒にしないでくださーい」

 

錦木千束は唇を尖らせ、大袈裟な動きを交えて否定する。――声も顔も動きも騒がしいリコリスだな。

射撃の腕については嘘か真実かはさておき、カラクリは分からないが意図して銃撃を躱せる能力を持っているのなら、錦木千束に対して銃撃は決め手にならない。それはこの一連の攻防戦で理解した。

――なら次は、少し攻め方(アプローチ)を変えてみよう。

銃撃が効かないのなら、銃撃ではない方法で致命傷を与えればいい。

ナイフアタック、CQC(近接格闘)、グレネード――方法は色々あるけど、

 

「なんにしても、好都合だ」

 

――自慢じゃないけど、射撃だけは自信がないからなぁ。

僕は左手のM93Rの銃口を僅かに下げ、右手のM93Rの銃口を錦木千束に合わせたまま斜めに構える。

その独特な構えを前に、錦木千束は目に見えて興奮を露わにした。

 

「おほぉ~っ! リアル近接拳銃格闘術(ガン=カタ)じゃんっ! もしかして『ルベリオン』知ってんのっ!?」

 

「型の雰囲気を掴むためにその映画のワンシーンを見たことはあるけど、全体を通して見たことはない」

 

「なら一緒に見ようよっ! DVD持ってるから直ぐに見れるよっ!」

 

「暗殺されかけてるっていう自覚がないのかな……?」

 

「ああそうだった。それじゃあ、あとで『ルべリオン』貸してあげるから――病院で見てなよ」

 

錦木千束は、自信満々といった様子の笑みを浮かべながら、手に持つ拳銃を胸元に寄せて――床を蹴る。

それが、二ラウンド目を告げるゴングとなった。

 

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