青い蝶   作:白雪(pixivでもやってる)

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筆が乗る筆が乗る……


ひらり13

「モルフォ、ちょっとこっちに来てみぃ」

 

有馬記念を明日に控え、私は調教師さんに呼ばれて馬房を自ら出た。

 

 

「先輩!?」

 

「よぅ、元気だったか?」

 

「はい、先輩も一緒なんて、どうして……」

 

 

不思議に思う私の頭と顔に、何かをつける調教師さん。

 

あっ、と思った。

それは頭絡だった。

 

 

黄色と青が組合わさったおしゃれな……

 

 

「これは、ハーツクライが使ってた頭絡や。そして……」

 

 

「カノヤザクラっちゅう、現役中に亡くなってしもたスプリンターのものでもある」

 

 

独り言を言う調教師さん。

 

現役中にって……

 

「重賞三連覇がかかっててな、牝馬にしてはかなりの斤量を背負うことになった……今思えば、止めればよかったんやろな」

 

「例年より速いスピード決着だったせいかカノヤザクラは脱臼してそのまま……」

 

「ハーツクライは厩舎の先輩やったから、験担ぎとしてメンコと頭絡を譲って貰ってつけてたんや。本当はこれを受け継がせるつもりはなかった。けどな……」

 

「明日の有馬記念……モルフォのラストランになる。カノヤザクラとハーツクライの無念を、持っていって欲しい」

 

 

きっと彼は私にその言葉が届いてるなんて、思わないだろう。

 

 

でも、私は知ってしまった。

 

 

自分のためだけじゃなくて、他のもののために走ることを決めた。

 

 

先輩は、病気で引退せざるを得なかった。

 

カノヤザクラさんは、怪我をしてそのまま儚く散ってしまった。

 

二頭の無念と後悔を、関係者の願いを乗せて、私は勝たなくてはならない。

 

 

たとえ、オルフェーヴルがどんなに強くてもだ。

 

 

______________________________

 

2013年 12月22日

有馬記念

芝 2500メートル (良)

 

 

 

 

 

「……オルフェーヴル」

 

 

「ブルーモルフォか」

 

 

どことなく真剣な面持ちの彼は、私の今までとは違う雰囲気に気づいた。

 

 

「私さ、今まで自分のため、周りの期待に応えるために走ってたけど。」

 

 

「今日は、尊敬する先輩二頭と、私を大切にしてくれた、愛してくれた人たちのために、勝つよ」

 

 

まっすぐオルフェの瞳を見返すと、彼も驚くことに同じ気持ちを持ってることに気づく。

 

 

「空からでも、見えるように…………圧勝させて貰う」

 

「空からでも……そうだね、やれるものならやってみなさい」

 

 

 

 

 

もう言葉はいらない。

 

あとは走りで語るのみ。

 

 

 

 

 

『各馬スタートしました!』

 

 

 

____________________________________

 

 

『おっと、これは………!逃げた!ブルーモルフォ逃げた!ぐんぐん差を広げていく、これは大逃げです!』

 

 

 

私は普通に逃げたことはあっても、大逃げというものをすることはなかった。

 

 

ただ、今回は別。

 

 

最速で、最大着差でゴールする……!

 

 

コンディションは今までのなかで最良、まるでようやく本格化したみたいだ。

 

 

 

やはり、後方にいるのは……オルフェーヴル。

 

虎視眈々と私の背中を狙っている。

 

 

だけど、手遅れにならないように、注意してね?

 

 

もう気づいたら届かないかもしれないから。

 

 

私はぐんぐんペースを上げて進んでいく。

 

確かにステイヤーと比べたら物足りないかもしれないが、私は3200までなら問題なく好走できるスタミナを持ってる。

 

 

そうそうバテるものか。

 

 

私は一番最初に向こう正面に入った。

 

3コーナーを回り、機は熟したと言わんばかりに、少しスピードを下げて脚を溜める。

 

 

 

直線に、入った。

 

 

 

「これが最後の鞭や!!」

 

「行くわよ行くわよ!!!」

 

 

 

一方的に差を広げていく、ソラなど使うものか、馬なりなんて許すものか。

 

 

届くように、みんなに、私の思いが……!

 

 

どんどん後続を突き放したが……瞬間、ゾッとした。

 

 

 

「喰ってやるっ……!!」

 

「ようやくお出ましね!」

 

 

ここまで差を広げた私を捕らえるのは苦だっただろう。

 

その暴力的な末脚で、私を捕らえたのだろう。

 

 

でも……私にはさらに上がある!!

 

 

 

「はああああ!!!」

 

 

 

キングジョージのときと同じ、何かがカチッとはまったような感覚がした瞬間に、大逃げしたのにも関わらず爆発的な脚を発揮する。

 

 

並ぼうとするオルフェーヴル、突き放そうとする私。

 

 

 

『あと200!!!』

 

 

 

「最後の……勝負だぁーーー!!!!」

 

 

まだ脚は残ってたのか、それともただのありきたりな執念か。

 

オルフェーヴルが、お前にだけは負けないと迫る、迫る。

 

 

 

並んだ、抜いた、抜き返した、抜いた、並んだ。

 

 

 

『あと100!!オルフェーヴル先頭……いやブルーモルフォか!?わからない………これは二頭だけの世界、マッチレースです!』

 

 

日を浴びた栗毛の馬体と青鹿毛の馬体が輝く。

 

 

それは一種の神話、伝説の光景。

 

 

お互い抜いたと思ったら抜き返し、並び、競り合う伝説のマッチレース。

 

 

それは二頭の戯れだった、でも死闘でもあった。

 

 

絶対に譲れないものを持った二頭はもう限界だ。

 

気力だけでカラダを動かしてると言っても過言ではない。

 

 

 

「私が勝つ!!!」

 

 

 

「俺が勝つ!!!」

 

 

 

 

 

同時に、ゴール板に雪崩れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

『これは、どっちでしょうか。オルフェーヴルかブルーモルフォか!?僅かにブルーモルフォ体勢有利か?再びオルフェーヴルが差し返したか?』

 

 

 

 

『審議、一着と二着だけ決まりません。審議です』

 

 

 

 

 

『ああっ、今掲示板に出ました!一着は……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一着 ブルーモルフォ

 

   オルフェーヴル(同着)

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんと、なんと同着ー!!有馬記念で同着は初です!これによりオルフェーヴルはG16勝、ブルーモルフォはG110勝です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

え、同着……?

 

つまりどっちも一番ってこと?

 

 

エ、エ、ナニコレ。

 

 

 

 

「……取り敢えずさ、オルフェーヴル。言っておきたいことがあるんだけどね」

 

 

 

「私、こんなに走るのが楽しいとは思わなかった。ありがとう、オルフェーヴル。」

 

 

そう言って微笑むと、オルフェーヴルは真っ赤になっていた。

 

 

かわいいな。

 

 

 

「いや、俺も……アンタに会えて良かった」

 

 

「そっか……よし、折角勝者は二頭なんだから一緒にウイニングランしよっか。」

 

 

 

観客は興奮し、何度も「オルフェ!モルフォ!」と熱烈にコールしている。

 

 

「でも、もしまた走ることができたなら」

 

 

 

 

「そのときは今度こそ、決着をつけようか」

 

 

 

 

 

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