2010年 8月14日
新潟 二歳新馬戦
芝 1600メートル (重)
「遂に、この日が来たな」
武井さんは私の鼻を撫でると、満足そうに頷いた。
「毛艶もいいし絶好調だな……正直、お前が同世代に負ける気がしないんや」
誉めすぎだって……。
「もう時間か……行くぞ、ブルーモルフォ」
芝1600……前世の私なら真っ青になるくらい途方もない距離に感じるだろう。
だが、今の私は短いくらいだ。
体調もいいし大丈夫そうだ。
というか、まさか先輩の言ってたキングジョージがイギリスの有名なレースだとは思わなかったな。
日本で調教した馬では勝った馬はいない。
坂がやばい……と。
そのレースに出れるまで私が活躍できるかはわからないが、一生懸命やってみようと思う。
「(……?)」
パドックを歩いてると、後ろから視線を感じた。
後ろの馬は……確か栗毛の……。
ゲートに入ろうとするときに、ちらりとその馬のゼッケンが見えた。
「(オルフェーヴル)」
どことなく不思議な響きのその名前を、ゆっくり反芻する。
「(私をずっと見てるけど、何でかしら)」
集中力を欠くことはレースにおいていいことではない。
「(ちょっとレース終わったら話しかけてみようかな)」
馬の性格というものは十人十色で面白いためか、私はシャイだった前世と違い、進んで会話できるようになった。
バンッッッ
耳をすませているとゲートが開いてレースが始まる。
私の脚質は逃げ先行。
するりと前に行き、ポジションをとる。
「(お?)」
例のオルフェーヴルは私にぴったりついてる。
ふむ、マークかしら。
「(私についてきて、バテないといいけどね?)」
武井さんから合図がきたのでスピードを上げる。
後続の馬たちは追いかけない。
それが賢明だ、今の他馬たちではこのスピードについていくことも、私にスタミナで勝てるわけがないのだ。
ただ、一頭を除いて。
「え……?」
思わず声を出した。
オルフェーヴルは、まだついてる。それどころか、並びかけてる。
「貴方……!?」
「ようやく、こっちを見たな!」
最終直線。
武井さんと、オルフェーヴルの鞍上。
どちらも勢いよく鞭をふるう。
「面白いわ、私を捕まえてみなさい!」
「挑むところだ!」
私が逃げる。
其は青い蝶の舞。
奇跡を継ぐ牝馬の舞台。
ブルーモルフォという名のプリマが舞い踊る。
彼が追う。
其は王の猛追。
次代の"最強"が暴れる。
オルフェーヴルという名の金色の暴君が喉元に噛みつく。
「私は……負けられない!」
期待をかけてくれたから、初めてのレースだからといって負けるわけにはいかない。
「オレは……お前にだけは負けたくねえ!」
一目で惚れた女兼ライバルを逃がすわけにはいかない。
お互い競り合い……そして……。
「………勝った!」
「クッソォ……!」
最初にゴールしたのは、青い蝶だった。
半馬身ほど遅れて暴君がレースを終える。
「楽しかったわ、ありがとう。」
「……次は、負けねえ」
「次も私が勝つわよ」
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