私は、帰国……ではなく、そのまま凱旋門賞へ直行することになった。
凱旋門賞にはオルフェも来るらしい。
実に楽しみである。
そう、思ったが。
「もう食べられない……」
「かなり残してるねぇ……貰っていい?」
「むしろ頼む……」
げっそりするオルフェ。彼はなかなか慣れないみたいだ。
仕方なく残すのももったいないので彼のぶんの飼い葉をもぐもぐする。
太らないかな……。
「ほら、私食べとくから先に帰ってな」
「やだ……置いてくなよ……」
「とねっこか????」
レース中の荒々しさはどこへいったのやら、とねっことリードホースの如く私についていく。
まあオルフェってレース中は強気だけど普段はそうでもないし……。
あんまり他馬と仲良くしてるの見たことないな。
「まったく……アヴェンティーノさんもいるんだから、私にそんなにひっついたら怒られちゃうよ?」
帯同馬がいてくれてよかった。
先輩は帯同馬がいなくてゴネたらしいし。
私?私はいなくても問題なし。
「なんでモルフォは直行なんだよ……」
「直行だからこそ不安だよ。前哨戦挟むほうが羨ましいわ」
それだけ私という馬の能力に期待してくれてるのだろうが……うーむ。
しかも凱旋門賞はあの無敗三冠馬ディープインパクトさえも敗れたという魔境。
武井さんにプレゼントしたいな。
「ブルーモルフォにぴったり張りついてるなあオルフェ」
「うわ来た」
「うわとか言わない。……いや、わからないか」
ニコニコと人好きのする笑みを浮かべたオルフェーヴルの鞍上沼添さん。
武井さんによれば、当初は外国人騎手を起用する予定だったけど沼添さんが頼みこんで続行になった模様。
「ブルーモルフォに自分の騎乗で勝ちたい」と言ったらしい。
……照れるね。
すっかり公式ライバル認定されちゃった感じ?
「オルフェ、鼻の下伸ばして逸走するなよ?」
「誰がするかっての!」
ヒヒーンと鳴くオルフェ。
でも君ならやりかねないから。
例えば余裕すぎて力抜くとか、後ろからきた追込馬に気付かずに差されるとか。
やめてよね!?
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2012年 10月7日
凱旋門賞
芝 2400メートル (重)
私は12番ゲート……か。
そういえば外枠になったことあんまりなかったかも。
てか、オルフェ18番ゲートじゃん!?
大丈夫なのかな?
「オルフェ、調子はどう?」
「この通り、なんとか持ち直した」
「それは良かった」
「アンタこそ天敵の心配をしていいのか?」
ニヤッと笑ったオルフェ。
なーんかカッコつけてるけどさあ……
「そりゃあ、ずっと私にひっついていたライバルの調子くらい気になるでしょ。」
私がからかうと、彼は弁明をして慌て出す。
うーん面白いなあオルフェ……。
「仲良いなあ、でもそろそろゲートに入る時間やで」
「はあい。」
武井さんに止められ、大人しくゲートに入る。
私だってただオルフェをからかって遊んでたわけじゃない。どの馬が一番怖いか観察していたのだ。
パッと見た感じ、一番怖いのは……………10番、ソレミア。
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スタートした。
ふむ、なかなかいいスタート……前半どう力を抜けるか。
最初は長く緩やかな坂。
ここはまだいい。
私はぴったり先頭のマスターストロークについていく。
オルフェはまだ後ろから二番目くらいかな?
インからソレミア、外からアヴェンティーノさん。
キャメロットは……どうだろう。
そして……来た。
ロンシャン名物フォルスストレート!
絶対に我慢しなくてはならない偽りの直線。
普通なら騎手さんが馬を我慢させるけど、私は違う。
オルフェーヴルも我慢してる、うん。
その250メートルが終わったら、とうとう最後の攻防だ。
私はいつものように舞い……いや思ったよりも、パワーいる!!
今は重馬場……想定よりも走りにくいなあ……!!
リズムよく走り、ポジショニングも最適。
なのに自分の力が完全に発揮されてない……。
残り533。
私は先頭、だが……
「来た!!!」
「待たせたな!!!」
外から勢いよく来る栗毛の馬体。
オルフェーヴル。
「あぁ、もう!」
上手く走れない環境なのは当たり前。
でもそれでも勝つのだ。
無理矢理脚を動かすが、オルフェーヴルは並んで……
「って、抜かせるかー!!」
「しぶといな!!」
ギラギラしてるがとても楽しそうだ。
私も楽しんでいたかったが……
ソレミアが、来る。
「日本の馬には、渡さないわよ!」
私がこのレースで最も恐ろしいと感じた馬が来た。
鋭い脚で私たちをまとめて差そうとしてくる。
負ける、負ける……?
わたしが、負ける……?
粘れ、私の脚、粘って、頭を伸ばして少しでも先に……!!
「ここは、加速だろっ!!!」
すぐそばにいた栗毛が、ソレミアの猛攻を凌ごうとする私の前にいた。
『勝ったー!!日本のオルフェーヴルだ!!三冠馬がついに凱旋門賞制覇!!二着はブルーモルフォ、日本馬ワンツーフィニッシュ!!』
…………あぁ、私、ソレミアの猛攻を凌ごうと、粘ったのがいけなかったんだ。
慣れないコース、重い欧州芝、空気、プレッシャー。
私が自覚していなかっただけで、私のスタミナは削れていた。
その状態なのに、粘り勝とうとしたのだ。
ただ、オルフェーヴルは……最後、ソレミアに気付いて、私のように競り勝つのではなく、加速を選んだ。
きっと彼も、相手は私しかいない油断、慢心のようなものがあったが、それは、きっと……
「ブルーモルフォ、」
「オルフェーヴル……。」
輝くような栗毛に、思わず目を細める。
「あの時、というかアンタ、ずっと何かに警戒して待ってただろ。」
「気付かれてた?ソレミア、絶対来るよねって思ってたんだよね」
「多分アンタがいなかったら気付かずに差されてた。アンタが最後まで俺との勝負に集中していなかったからこそ……俺は最後の脚を溜めれた」
「なんだ、敵に塩送っちゃったかあ……」
「でもまだ、まだだ。借りは返してない。」
「私が勝ち越ししてるからね、次は、負けないよ。だって初敗北だもの、私絶対強くなるよ」
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