有馬記念は、正直思い出したくない。
「う、うそ……」
「シャアッ!!」
『なんとびっくり世界のブルーモルフォ敗れる!ゴールドシップ強い!!!』
圧倒的一番人気で出走した有馬記念。
エイシンフラッシュの末脚さえも届かないくらい差があったはずなのに、ゴール板直前で、後輩の芦毛に差された。
大外から豪快にごぼう抜きし、私が気付かないくらい外から差した……武井さんは
「ギャロップダイナ……いやダイユウサクされちゃったなあ」
なんて言ってたけど。
あの後芦毛……ゴールドシップは話しかけてきた。
「先輩俺勝ったぞー!誉めてくれ!」
「おめでとう、君の顔は忘れない」
「エ、何か怒ってる……?!」
絶対に次対戦したときは千切ってやる……。
そう決意した。
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私の古馬二年目のローテは去年と同じくドバイシーマクラシック→キングジョージ→凱旋門賞。
そして、ジャパンカップ→有馬記念。
有馬記念が私のラストランになる。
オルフェーヴルと対戦できるのは、恐らく凱旋門賞と有馬記念の二回だという。
あと、二回……。
そして今年初戦ドバイシーマクラシックはオルフェーヴルをジャパンカップで破った三冠牝馬ジェンティルドンナが参戦する。
前トレセンで見かけたけど、思いの外可愛らしい馬だった。
オルフェは「タックルされた……怖……」って言ってたけど。
とてもそんなことするような子には見えないけどなあ。
ちなみに今は1月。
寒くて馬着を着ている。
隣にいる先輩と同じもので先輩のお下がりだ。
「寒……あ、先輩。私今G16勝です」
「すごいな。この際だから日本競馬史上最強牝馬名乗れるように頑張れ」
「はい……あの、先輩。私、やっぱり引退したら母親にならなくてはいけないのでしょうか」
「……お前ほど成績を残してる牝馬なら、よっぽどのことがない限りそうだろうな。」
種付け、と呼ばれる行為に抵抗はある。
でも、きっとやらなければならないこと。
オーナーさんは競走馬としての成績だけではなく、繁殖成績も期待しているから。
期待に応えるのが、ブルーモルフォでしょう。
「まあ安心しろ、下手な馬はつけないはずだ」
励ますように言った先輩に、嬉しくなる。
「先輩、私、去年のリベンジ……凱旋門賞に、勝ってきます」
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2013年 3月30日
ドバイシーマクラシック
芝 2410メートル (良)
「……おい」
「ん?君は……」
他馬から声をかけられた。
この鹿毛の牡馬は、確か去年のドバイシーマとキングジョージで私に負けて、凱旋門賞にも出ていた。
「セントニコラスアビーだ。今日は勝たせて貰うぞ。連覇などさせん。」
「私も連敗続きは嫌だからね……勝たせて貰うよ」
バチバチとしてると、優雅に後輩がパドックに現れた。
「ごきげんよう、ブルーモルフォ先輩。」
「体調は悪くないみたいね、良かったわ。」
「えぇ、おかげさまで。」
貴婦人という異名に相応しい上品な仕草でゲートに入る彼女。
…………アレでタックルとかしてくるの?詐欺では?
いやなんとなく凄みはあるけども。
武井さんとスタッフさんに押されてゲートに私も入る。
去年と同じゲートだなあ……。
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始まった。
まずは先手、二番手三番手の位置に行く!
前の馬を盾にして風の負担を軽くしながら考える。
ドンナも先行を選んだか……。
自分の後ろについてる見慣れた勝負服。
後輩は私の動向に注目してるみたいね。
あまり展開は変わらない。
いや最初は出遅れた馬が何頭かいたけど。
最初のコーナーで、セントニコラスアビー、シャレータが前へ。
少し、ドンナちゃん行きたそうにしてたな。
ここで隊列はほぼ固定。
膠着してる。
やはり勝負は最後の直線!
「行くわよ!!」
「かかってこい!!」
セントニコラスアビーが抜け出し、私が追いかける。
最内で窺ってたトレイルブレイザーはずるずると下がった。
確かにすごい脚、でも……
「私の敵にはなれない!!」
「くっ……」
私は彼を捉え、突き放した。
いける、いける、いや……
「まだまだですわよ!!」
「まだ終わってなかったのね!!」
驚異的な末脚で私を追いかけるジェンティルドンナに舌を巻く。
まさかこんなに食らいつくなんて。
流石三冠牝馬、あのオルフェーヴルを倒した女傑。
私だって、脚はまだ残ってる。
大丈夫、さらにギア上げて…………っ!?
ドン、と競り合った彼女が身体を私にぶつける。
タックルって、これか!!??
「まずっ……」
少し体勢を崩したせいで"舞う"感覚が掴めなくなった。
そのほんの少しの、焦り。
それが決定的な仇となった。
一着 ジェンティルドンナ
二着 ブルーモルフォ(クビ差)
「……絶対、借りは返すわよ。後輩。」
先輩ことハーツクライ
俺様何様ハーツ様な気性難。
だけどブルーモルフォにだけは甘々。
まず容姿がドタイプ、会ってみて性格も好きになったらしい。
ただ種付けシーズン終わらないと会えないので馬房にブルーモルフォのポスターが貼ってある。