その日まで宮崎のどかは、いつもとなんら変わらぬ日常を過ごしていた。
彼女にとって目立った人生なんて真っ平御免で、まるで毒にしかならないと感じていた。
そんな彼女にとってアラレの存在というのは、理解不能、意味不明、正体不明の危険人物であった。
決して触れてはダメよ! あの人は、宇宙人なんだから。
しかし皮肉かな、そんな風に意識すればするほど彼女にとってアラレの存在は、爆発的に膨れ上がっていく毎日。
比例して募るフラストレーション。
(まただ…なんで私、あんな人のことなんて考えてるんだろ……)
のどかが、思考の海に落ちていた次の瞬間、突如足を滑らせてしまい階段から落下してしまったのである。
そこへキラキラ輝く風を伴って現れたキリリとした面持ちのアラレを見て彼女は確信した。
(そうか私、恋してたんだ!)と……
こうして勘違いは加速していくのだった。
「いや…ちゃんと現実みよ? 宮崎さん」
見知らぬ森深くにある岩場に背中からメリ込むカタチで急停止したアラレは、溜息混じりに呟いた。
「ハッ! あわわわわ…私ったらすいません‼︎」
慌てた様子でアラレの膝の上からピョコンと飛び退くのどか。
頬が真っ赤に染まっている。
「もう大丈夫? 怪我はない?」
なるべく優しく写るように限界まで目を瞑りつつ、ニッコリと微笑むアラレ。
ドキューーーーンッ
たまらずのどかは、クラリと目眩を感じてヨロめいた。
「っと…もう、無理しちゃダメだよ? 女の子なんだから気をつけなきゃ。ね?」
アラレは間一髪でのどかを抱きとめることに成功した。
「は、はひぃ〜」
顔面から湯気を立ち昇らせたのどかが、曖昧な返事を繰り返す。
(天国ってあったんだ……あぁ、女神様が見えるよ。幸せだなぁ〜)
「よしっと。とりあえずここに座っていてね? にしてもここどこなんだろ……麻帆良にこんな場所あったかしら」
「ここは、知る人ぞ知る秘密の修練場でござるよ」
「だ、誰⁉︎」
そこにいたのは、長瀬楓、クラスメイトの一人だった。
「アラレ殿もこちらには、修業で参ったでござるか?」
「断じて違います! 偶然、たまたま迷い込んだんです!」
語気をやたら強めて否定の言を述べるアラレ。
「そ、そうでござるか。よければ拙者が入口まで案内致そうか?」
「本当ですか⁉︎ 是非お願いします‼︎」
渡りに舟の提案に歓喜の声を発するアラレ。一方、その様子を見ていたのどかはというと……
「……浮気ですか? アラレさん。浮気なんですか?」
真っ黒なオーラを纏ってアラレを見据える宮崎のどかさんがそこにいた。
「へ? ど、どういうことかな? 宮崎さ「のどか」……のどか…さん」
「のどか殿も一緒に着いてくるといいでござるよ。一人にするには、遅過ぎる時間でござるからな」
「あ、うん。そうだね」
「当然です!」
「あははは…それじゃあ行くでござるか」
こうして三人は入口に向かって歩を進めるのだった。
アラレが自室に戻った頃には、外はすっかり暗くなっていた。
当然、家の者は心配したし、こっぴどく叱られもしたが、部活動の一環だと誤魔化してなんとか事無きを得た。
(これでしばらくは、自由に動けそうにないな)
アラレの基本理念は変わらず、原作になるだけ関わらないことに集約されているため、この結果は願ったり叶ったりだった。
(今はゆっくり寝よう。この先の問題は、明日にでも……)
アラレの意識は、そのまま闇へと沈んでいった。
(う…ん〜……あ、あれ? ここは…?)
『目が覚めた? おはよう。ロベルタ』
輝くブロンドヘアーに透き通る様に白い肌、まだあどけなさを称えた少年が、ロベルタを見下ろして言った。
「あ……ハッ、しし、失礼しました! お坊ちゃま!」
慌てて飛び起きるロベルタ。
どうやら膝枕をされていたようだ。
少年はクスクスと微笑みながら、ロベルタの手を取り一言。
『行こ?』
「あ……はい!」
(あぁ…なんて温かいんだ。できることならいつまでもこのまま……)
そして場面は暗転する。
そこは戦場だった。辺りを炎に包まれた見知らぬチャーチの前に佇むロベルタ。その腕に抱かれていたのは………
『うっ…う……うーーーッ』
「うわァァァァァァあッ‼︎」
朝を迎えていた。
「ハァハァ…ハァ……ゆ、夢……?」
すっかり汗ダクになったアラレは、ゆっくりと周囲を見回して自分が今、どこにいるのかを確認して自室のベットの上だと知ると安堵した。
(なんであんな夢を……)
それ以上に謎なのは、夢の内容がなにか矢鱈と真に迫る内容でリアルな感覚がした事だ。
だが今、それ以上に謎なのは……
(なんで隣にエヴァンジェリンさんが寝てるの〜⁉︎)
「う…う〜ん? あ、おはようアラレ。よく寝れた?」
これは夢中夢? 激しくデジャヴだった。
「アッ、ハイ……意外ト……」
そう言うとエヴァンジェリンは、ニコリと微笑みゆっくりと上体を起こす。
黒いネグリジェに純白の肢体を包み込んだ所謂、『けしからん』格好をしている彼女を目の前にして何をどうしていいかわからないアラレ。
「あの〜…エヴァンジェリンさんは「エヴァでいい」……エヴァさんは「エヴァ『が』いい」……エヴァはどうしてここに?」
「ふんっ、貴様と私は生まれながらにして夫婦なのだ。寝を伴にするくらい当然だろ? な? 茶々丸」
「はい、マスター」
「え、初耳ですけどってビックリしたなぁ! もう‼︎」
「ノックをしたのですが返事がなかったので。マスター、お嬢様。朝食の準備が出来ました」
「は? ビデオ片手に何言ってるんですか? てか記録されると色々マズイんですけど⁈」
「すいません。マスターの指示ですので」
ニコニコ顔のエヴァンジェリン。
アラレは、ただただ頭を抱えるしかなかった。
その後、三人で食卓に着くやいなや早速、父と母に疑問をぶつけた。
「ふむ。実はね? 今、エヴァ君の家が大型工事中で住む場所がないとのことなので、それでは是非、我が家に来てくれということになってね」
「しかしそれでは、ダーリン…じゃなかったハカセに申し訳が立たないと思い、茶々丸を住み込みのメイドとして貸し出そうと言うことになったのだ」
「……母さんは、それでいいの?」
「あらあら、私は別に構いませんよ? せんべいさんの判断ですもの。従いますわ」
「さすがみどりさん! マイスイートハニー‼︎」
「ダーリン‼︎」
熱い抱擁を交わす父と母。その様子を見てカタカタと悔しそうに震えるエヴァンジェリン。ひたすらビデオを回すダメイド……そして一人、北極もビックリの絶対零度の視線を飛ばす宮崎のどか……宮崎のどか⁉︎
「何してるんですか? 浮気ですか?」
「どうしろとーーーッ⁉︎」
おい、いい加減にしろ。なんだこれは! 私はこんな話を求めないぞ! 私は認めんからな! 決して決して認めはーーーアッ…チガウンデス。スイマセンデシタ、ノドカサン……