ぼっち・ざ・ろっく!VSダイナミックコード 戦士の休息編 作:GT(EW版)
後藤ひとり改め、ぼっちは死亡した。
自らの意思による切腹は阻止されたが、度重なる未知の事象を前に、心と身体が耐えられなかったのだ。
霧散したぼっちの肉体は形を変えてメンダコとなり、下北のツチノコとなりてヤドカリぼっちへと至る。
慌てる伊地知虹夏に引っ張り出されたことで、ぼっちはようやく人の姿を取り戻した。
何度も死んでは蘇ったその日のことを、ぼっちは生涯忘れないだろう。
生まれて初めて手に入れた、この「ぼっち」というニックネームも。
伊地知虹夏と山田リョウという、念願のバンドメンバーのことも。
そして──人目に耐えられずマンゴー仮面としてバンドマンデビューした結果、見るも無残な演奏を披露したことも、ぼっちは何とも自分らしい惨めな思い出だと心の内に刻んでいた。
「き、昨日も言ったけど、ライブのことはいいから! 急な呼びかけでぶっつけ本番だったんだし、誰だって失敗するって!」
「うん。即席バンドとしては、昨日のライブはまあまあ良かったよ。評価Bって感じ」
「あっはい……い、いえでもギターしか取り柄の無い私があんな演奏をしたらやはりこのギターでハラキリショーをするしか……」
「やめて! 正気に戻ってぼっちちゃん!」
「昔を思い出すとかって必要? チョーウケる」
「そ、そうそう! ぼっちちゃんソロは完璧なんだから、合わせも練習すればいいから!」
「皆さん……っ」
アバババババ ドンドンドン
──昨日の回想である。
昨日──公園で失意の演奏をしていた後藤ひとりのテクニックに惚れ込み、伊地知虹夏は彼女を結束バンドに引き込んだ。
白サギしかいなかった公園にまさか自分の独り舞台を視ていた人間がいるとは思わなかったひとりは、拍手で出迎えてくれた少女を前に(えっ? なにこれ夢? 私のイマジナリーフレンドにこんな可愛い子いたっけ!?)と目の前の光景をしばらく現実として受け入れることができなかったものだ。
その後は「お願い! 貴方の腕を見込んでなんだけど、今日だけでも私のバンドに助っ人してくれないかな!?」と勢い良く拝み倒され、ひとりはバグる思考の中で自分の演奏を褒められたことに「うへへ……私の時代キタカモ……」と舞い上がり、文字通り夢見心地でこの下北沢のライブハウス「STARRY」に案内されたのだった。
道中何度も(……あれ? コレってもしかして現実……?)(現実だどうしよう!? うわあああ待って待って待って無理無理無理っ!!)と正気に戻りかけては再び「Against the Rules」を歌うことで擬似的にトランス状態に陥り、どうにか店の中までたどり着くことができた。
だが、体力的にも精神的にもそこがひとりの限界だった。
──結果、初ライブはこれまでの練習がウソのようにボロ負けした。
ひとりは自分の夢の為、そしてこんな自分をスカウトしてくれた少女──伊地知虹夏の為にもライブを成功させようと震える手で懸命にギターを弾いたが、理想の演奏を行うにはいかんせん経験不足だったのである。
ギターヒーローである後藤ひとりの練習密度は既にトップアーティストの学生時代に及ぶが、それは彼女個人のこと。
バンドマンとして他のメンバーと音を合わせるという点においては経験が圧倒的に不足しており、それ以前にひとりには他人の目を直視することができなかったのだ。ライブ中は聴衆の目に怯えた結果「完熟マンゴー」と描かれたダンボールに引きこもり、自ら視線を塞いだのも敗因だった。
音も呼吸も合わせることができず、一人で突っ走った演奏をしてしまった。せっかく虹夏にギターの腕を見込んでもらったのにこれでは期待を裏切ってしまったと、ひとりはライブが終わった途端ゴミ箱に篭り懺悔した。
「……ごめんなさい、伊地知さん、山田さん……私のせいで失敗して……」
下北のヤドカリと化したひとりは沈んだ顔で二人に頭を下げた。生まれて初めて誰かと演奏することができると舞い上がり、自分は中高生から評判の良いギターヒーローなのだとイキった結果がこのザマだ。おいは恥ずかしか!と、二人に対する罪悪感でひとりには合わせる顔が無かった。
そんな彼女を見て、虹夏とリョウがお互いに顔を見合わせ──頷き合う。
「でも弾けたじゃん、ひとり……ぼっち。ぼっちちゃんは」
最初に、リョウが言った。
何気なく付けられた初めてのニックネームに、後藤ひとり改めぼっちはハッと意識を取り戻す。
「またデリケートなところを……」
「ぼぼぼぼぼっちですっ!」
「うわすっごい嬉しそう……涙出てきた」
意味を考えると割と酷いニックネームだが、初めて付けてもらった「あの~」、「おい」以外の呼び名にぼっちは猛烈に感動した。
彼女のメンタルは消沈する時は勝手に地獄まで落ちていくが、上がる時もわかりやすく一瞬で空高く舞い上がる。
そんな振れ幅に対してとどめを刺すように、リョウが続けた。
「人前で演奏するのに慣れてなくても、ぼっちはちゃんとやり遂げた。納得できなかったかもしれないけど……ぼっちは逃げなかった。プロだってすっぽかすことのあるライブを逃げなかったんだから、ぼっちは立派だよ」
「っ!!」
下手な演奏を見せたことを責められはすれど、褒められるとは思っていなかったぼっちは予想外の言葉にフリーズする。
そんな彼女の前で、虹夏にとってもリョウの態度は予想外だったのかヒソヒソと会話を交わしていた。
「……リョウ、実は喜多ちゃんに怒ってる?」
「別に。逃げた人は責めないけど、逃げなかった人は褒めたい……それだけ」
「うわ……今日のリョウ、凄くイケメン……」
「あと、ノルマを増やしたくない。ぼっちは面白いし、このままメンバーに引き摺り込む……」
「ああ、やっぱりリョウだ。でもひとりちゃん……ぼっちちゃんを引き込むのは賛成かな!」
パシっとぼっちの手を両手で掴み、虹夏が改まった様子で言い放つ。
「私たち結束バンドのメンバーとして……これからもよろしくね!」
「あっ……」
ぼっちの心に、虹の光が架かっていく。
これからも……ここに来て良いのだと。今までずっと願ってやまなかったバンドメンバーへの勧誘を受けたぼっちは、染み渡る喜びの感情に打ち震えた。
そして──
「ありがとう……」
散々な内容ではあったが、それでもぼっちは思う。
誰かと演奏するのは、今までに感じたことのない喜びで──とても楽しくて、こんな惨めな自分も一瞬だけ星座のように輝けたようだったと。
そう言い残し、後藤ひとりは……晴れやかな顔で光となり、天に還っていった。
今ここに、彼女の魂は仏と成ったのだ──。
デンデンデン アバババババ ドンドンドン
灼けた照明と音の渦の中 ひとり叫んでたんだろう?
歪むFUZZ指し示すヒカリの根源 視えた気がしたから
アイツにはもう会うこともないけれど
深く傷つくほど心揺らさなきゃ生命の意味が無いさ
だから 声を失くしても叫び続ける
かざした 指の隙間輝く 太陽はいつでも
掴めるだろう My Life Is Here
願った 未来のまんまで叶うと 思ってはないけど
ぼっち・ざ・ろっく! ~完~
──というのが、昨夜の回想である。
伊地知虹夏はそんな昨夜の出来事を思い出しては苦笑しながらも、今日もぼっちが「STARRY」に来てくれたことを喜んでいた。
「昨日はびっくりしたよー。ぼっちちゃんが急に成仏したと思ったら、ゴミ箱の中で眠っちゃうんだもん。よっぽど疲れたんだね~」
「あっはい……どうも、スミマセンデシター!」
「無事に帰れたみたいで良かったよ。朝帰りかと思った。私は眠いから先にすぐ帰ったけど」
「ぼっちちゃん家遠いみたいだし、遠慮しないで泊まってくれて良かったんだけどねー。目が覚めたらサーッといなくなっちゃった」
「あっハイ、トマルトカ、ワタシ、ムリデス」
「何故カタコト」
ともかくこれで、晴れて後藤ひとりことぼっちは伊地知虹夏のガールズバンド「結束バンド」に正式加入したわけである。
今日は昨夜やり損ねた彼女の歓迎会も兼ねて、結束バンドの今後の活動についてミーティングを行う予定だった。
しかしぼっちとは昨日初めて会ったばかりであり、昨日から察してはいたが彼女の方も喋るのが苦手なようで、虹夏も何を話せば良いのか掴めなかった。
そこで虹夏が用意したのが、平成の平日昼に放送されていた人気トークバラエティー番組で見た、例のサイコロだった。
サイコロを振り、それぞれの面に書いてあるテーマに沿ってトークを行うことで初対面同士の人間でも円滑に会話を進めることができる画期的かつ伝統的なアイデアである。
各テーマの選択肢の中には深夜テンションからネタで入れた「バンジージャンプ」もあるが、出たら出たでその時の反応からぼっちちゃんの人となりも見えてくるだろうと、これはこれでヨシとした。
今か今かとウズウズした様子でサイコロを抱えていたリョウが、意気揚々とそれを放り投げていく。
「何が出るかな♪ 何が出るかな♪ テテテテンテン、テテテテン♪」
「……デンッ、デンッ、デーン」
「追いピアノやめい」
最初に出たのは「学校の話」。虹夏とリョウは同じ下北沢高校に通っていることを話し、ぼっちは実家から片道二時間掛けて秀華高校に通っていることを話した。
何故そんな遠くから……という当然の疑問にぼっちが「高校では誰も過去の自分を知らない所にしたくて……」と語り出したところで不穏な気配を察した虹夏が強引に話を打ち切り、次のダイスロールに移った。
「つ、次は好きな音楽の話~! 私はメロコアとかジャパニーズパンクかな?」
音楽の話題ならば、やはりバンドマン同士通じやすい話題であろう。好きなジャンルで派閥が分かたれる可能性も無きにしも非ずだが、微妙な空気を打破するには丁度良いと、虹夏は自身が先陣を切って場を盛り上げることにした。
続いてリョウが「私はテクノ歌謡とかサウジアラビアのヒットチャート……」と本気なのか冗談なのかわからないことを言いかけた後、訂正して語った。
「……いや、何だかんだ言ってもKYOHSOかな。面白くない答えだけど」
「うんうん、ドメジャーだけど、リョウはコアなファンなんだ~。今はレヴァフェを中心にダイナミックコードにフォーカスしてるんだって」
「ダイナミックコード……ハッ!? 私のターン……?」
ぼっちも公園でアッポリの曲を熱唱していたことから、リョウとは趣味が合うのではないかと虹夏は期待の眼差しを送る。
コミュニケーションが苦手な者にとって、会話が盛り上がるのに最もお手軽なのはやはり共通の趣味である。好きな音楽が同じなら、二人は案外似た者同士良い関係になれるのではないかと思った。
ここらでリョウも、自分以外の友達を作る良い機会かもしれないと虹夏はどこか母親のような目線で二人のやりとりを温かい目で見守った──直後である。
「あっ、アッポリはダンスナンバーとロックをミックスさせたサウンドが海外でも人気絶大ですアメリカの聖歌隊に居たNaLの透き通るような歌声にUKの作り出す情熱的で繊細な歌詞クォーターのビジュアルを持つToiの精密なドラムテクニックが他のバンドに無い音楽性を出していてェその音楽もメンバーもまとめるKuroのベースが……」
「わかった……もういい」
「あっ、ゴフッ、スミマセン……シャベリスギテノドガ……っ」
「飴ちゃんあるよー。ぼっちちゃん、早口で喋りすぎ」
「面白い奴……」
普段話し慣れていない人間が自分の土俵に入った途端、気負いすぎて怪文書のような言葉を羅列してしまう悲しい現象である。
ぼっちにとって幸いだったのは、そんな彼女の喋りに虹夏は優しく対応し、リョウが好印象を抱いたことだろう。
──それから彼女らは結束バンドの今後の活動、具体的には新メンバーとしてぼっちに加えてもう一人新しいヴォーカルを招き入れたいということ、次のブッキングライブのこと、それに出る為に必要なノルマの話、村祭り、アルバイトのことを和気藹々と語り合い、この日は解散となった。
それはぼっちにとっては、まるで友達ができたような幸せな時間だった。
今後のことが楽しみであり……しかしそれらを押し潰すほどに、今後の活動にアルバイトが必要となる事実が憂鬱だった。
可能ならば彼女は、「お仕事は……今日は休みかね?」と聞かれた際には「ハイッ! 一生働かないです!」と答えたいほどに、人前に出る労働に対して拒否感を抱いていた。
特にライブハウスでのバイトなど、彼女にとっては死刑宣告も同然である。故にSTARRYを出て帰路についたぼっちは、(家に帰ったら即行で氷風呂に浸かって風邪をひこう……)と早速翌日からの欠勤を考えたものだ。
しかし……
『プロだってすっぽかすことのあるライブを逃げなかったんだから、ぼっちは立派だよ』
山田リョウが掛けてくれた言葉が、ぼっちの脳裏に蘇る。
「そんなの……ダメだ!」
思わず、ぼっちはペチンッと自らの頬をひっぱたいた。
思ったより力が入りすぎて「ドイタック!」と変な声が漏れてしまったが、おかげでほんの少しだけ、覚悟が決まったような……そんな気がした。
……あの人たちからは逃げたくないと、そう思ったのである。
──正気に戻ったぼっちの耳に、奇しくも虹夏と出会った公園の方から誰かの歌声が聴こえてきたのは、その時だった。
歌詞で文字数を稼ぐダイナミック原作再現
この話を書く為にRoots of Life(墓参りのテーマ)を改めて聴き直しましたが、真面目な話曲はずっと頭に残るぐらいくっそカッコいいです。やっぱKYOHSOはすげえや! だけど墓参りで流したアニメはあまりにもダイナミックすぎる……