ぼっち・ざ・ろっく!VSダイナミックコード 戦士の休息編   作:GT(EW版)

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 喜多郁代加入RTAダイナミックチャート


ン君たちさァ~ ベースとギターの違いもわからないのぉ~?

 歌が聴こえる。

 

 

「砕け散った 心さえ まだ煌めいてるその痛み 証してくハズさ」

 

 

 力強さを感じる、凛とした女の子の声だ。

 伊地知虹夏に誘われて結束バンドの初ライブに赴くことになった昨日のことを思い出しながら、ぼっちは帰路で見かけた同じ公園で、自分ではない誰かが熱唱していることに奇妙な感傷を抱いた。

 

 しかし昨日の自分と明確に違うのは、理性を感じるその歌唱力の高さだ。

 そしてもう一つ、少女が歌いながら弾いている楽器の、アンバランスな音色だった。

 

(ベースを弾いているのかな? ……だけど、この音……)

 

 ギタリストであるぼっちが、違和感を感じた演奏である。少女のそれは高い歌唱力に対して、あまりに拙かった。

 演奏技術が未熟だとかそれ以前に、まるでベースをギターと同じ感覚で弾こうとしているような……何か音の出し方自体をわかっていない感じに聴こえたのだ。

 歌声は思わず立ち止まって聴いてしまうぐらい本当に素晴らしいのに……と、ぼっちは少女の演奏に歯痒さを感じた。

 

 しかしそこで、ぼっちに電流が奔る。

 

 

『昨日はインストだったけど、次からはヴォーカル入れたいんだよね。本当は逃げたギターの子が歌う筈だったんだけど……』

 

 ミーティングで今後の予定を話していた時、伊地知虹夏が嘆いたことだ。結束バンドは今、ヴォーカルを絶賛募集中だった。ぼっちも虹夏から歌うことができるかと聞かれたが、人前で歌うのはあまりにハードルが高かった。彼女と出会うきっかけになったヤケクソワンちゃん熱唱も、あれは精神が擦り切れるギリギリの状態だったからできたことである。正気ではとても無理だった。

 

 どうにも結束バンドは元々のギターヴォーカルに逃げられてしまったことが尾を引いているようで、虹夏がぼっちに声を掛けたのも元はその穴埋めのつもりだったのだと聞いた。

 「昨日は本当に困ったけど、ぼっちちゃんのおかげで助かったよ!」と虹夏は改めて礼を言った。

 そう言った事情を知ってしまうと、ぼっちもリョウから言われた褒め言葉の意味を今更ながら考えてしまうが……当事者の二人はその点は特に気にしていないと、はっきり口にしていた。

 

『昨日はぼっちちゃんが来てくれたおかげでなんとかなったしね。ただ、ギターの子がどこに行っちゃったのかは心配かな? 連絡も取れないし……』

 

 恨み口どころか、安否を心配する虹夏の様子にぼっちは改めて彼女の優しい心を感じたものである。

 下北の大天使だ……と、彼女に尊敬の眼差しを送った。

 そんな二人の様子を見てクスッと笑ったリョウがおもむろに姿勢を整えると、数拍の間を置いて言い放つ。

 

 

『戦士の休息……ってやつかもね』

 

 

『?』

『?』

 

 ……リョウさんってカッコいいけど、時々よくわからないこと言うなぁ。そう思いながらぼっちは困惑の顔を浮かべた。隣で同じ顔をしていた虹夏に親近感を抱きながら、少しだけ仲間との距離が縮んだ気がした時間である。

 

 

 

 

 ──と、そんなやり取りをを思い出したぼっちは、まさに今、この少女に話しかけるべきなのではないかと思い至った。

 これほどの歌唱力の持ち主なら、まさに適任ではないかと。

 

 しかし、ぼっちにとって初対面の人に話しかけるなどあまりにもハードルが高いことだ。何なら顔見知り相手でも困難である。

 部活漫画で見るような楽しそうな勧誘など──それこそ伊地知虹夏のようなことを自分がやってのける自信など、ぼっちにはとても無かった。

 断られたらどうしようと、そう苦悩しながら頭を抱えてああでもないこうでもないと逡巡する。

 

(せめて……せめてどんな人か確認しよう! うん、そうしよう……)

 

 ぼっちがようやく捻り出した答えは、この歌を歌っている者がガールズバンドに入ってくれそうな人物かどうか、外見から見極めることだった。声を掛けるのはそれからでも遅くないだろうという、もっともらしい自己弁護である。

 

 そうして彼女は公園の中に入り──まるで幽霊のようにこっそりと、相手の様子を窺った。うらめしぼっちである。

 

(あっ、かわいい……!)

 

 歌っていたのは活発そうな印象を受けるパッチリとした目つきの……自分と同年代に見える可愛らしい少女だった。

 何と言うか……キターン!とした雰囲気を纏っており、エネルギッシュなルックスが醸し出す魅力はヴォーカルに必要な天性のカリスマ性を持っているように感じた。

 

 

「ほぉ~~~~~~~ん」

 

 

 そんな容姿から繰り出される凛とした──こぶしの効いた歌い方は、自分では到底真似できないと感じた。

 可愛い上に、歌が上手い。これが同じギタリストだったならば、ぼっちのアイデンティティーが音を立てて崩壊していたところである。

 しかし、彼女が弾いているのはベースであり、お世辞にも上手いとは言えない演奏である。その辺りの差別化可能な部分でどうにか自尊心を保ちながら、ぼっちは辛うじてその場からの即時撤退を踏み止まった。

 

「? 誰か見てるの……?」

 

 少女はサビに差し掛かったところでうらめしぼっちの視線に気づき、不審なものを見るような目で歌を止めて振り返る。

 少し驚いた様子で、彼女はぼっちの名を呼んだ。

 

「貴方……二組の後藤さん?」

「あっ、は、はいっ」

「やっぱり! 特徴的な格好だからすぐわかったわ」

「っ、そ、そうですか……でへへ」

 

 顔を見た瞬間自分のことを言い当ててみせた少女に、ぼっちは狼狽えながらも頭の中で彼女に対する好感度をぐぐーんと上げた。

 着ている制服を見れば、少女がぼっちの通っている秀華高校の生徒であることがわかった。

 ぼっちは人の顔を直視できない為、まだクラスメイトの顔すらよく覚えていないが、彼女の方は恐らく別のクラスであるぼっちのことを知っている様子だった。

 (もしかして私って、有名人……?)とデレデレになるぼっちの前で、少女は不思議そうに首を傾げる。

 

 ──実際のところ彼女がぼっちのことを知っていたのは、後藤ひとりが学内で良い意味で有名人だからではない。

 彼女の方がその人脈の太さから他のクラスへのアンテナが特別強く、友人伝いに「二組には学校指定外のジャージを着ている全身ピンクのやべー子がいる」という噂を小耳に挟んでいたからである。

 

 悪目立ちしているという意味ならば有名人と言えなくもないが、周りから見たぼっちは「大人しそうな子だけど、格好がずっとピンクだからちょっと怖いのよね……」というのが本人の預かり知らぬ概ねの評価だった。

 

 

「ねえ! 貴方のそれ、ギターよね!?」

「あっうっ……はい」

 

 尤も、そのような噂を耳にしたところで目の前の少女が穿った偏見を持つことは無かった。

 

 その点で言っても、彼女の性格はぼっちにとって相性が良かったのかもしれない。

 

「私、秀華高一年の喜多! 見てたと思うけど、ギターを練習しててねー……」

「あっ私はぼっ……後藤ひとりです。え……ギター?」

「そう! 私の演奏、酷かったでしょ? 後藤さんもギターを持っているってことは、バンドマンかしら? もし良かったらで良いんだけど、ギターの弾き方を教えてくれないかなぁって」

「あっあの……その……」

 

 困ったように笑いながら、喜多と名乗る少女はぼっちに対して自己紹介からシームレスにギターの教えを乞うてくる。

 そんな彼女の眼差しは、昨日助っ人を頼んできた伊地知虹夏と同じ目をしていた。

 今彼女は本当に困っていて、藁にもすがるような気持ちであることがわかる。……こんな自分で良ければ、どうにか助けてあげられないかなと思うほどに、悲痛な眼差しだった。

 

 だから……

 

 

「そ、それ……ギターじゃなくて、ベースです。多弦ベース……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ」

 

 

 とりあえずぼっちは、彼女が犯している致命的な認識の齟齬を指摘することにした。

 彼女が先ほどまで弾いていたのは多弦ベース。一見ギターと似ているが、れっきとしたベースである。

 ベースをギターのように弾いていたらそれは望む音が出ない筈だと、ぼっちは彼女の演奏に感じていた違和感の正体を理解し、納得した。

 

 すなわち、彼女──喜多は初めから何もかも間違えていたのである。

 どうにもギターとベースの違いを弦の本数で認識していた彼女は、それが原因でうっかり買い間違えてしまったらしい。

 

「……私のこれまでの練習って、一体……」

「あっ、き、喜多さーん!」

 

 ローンもあと30回残っているのに……と目を回しながら、喜多はその場に崩れ落ちた。

 ここで彼女が既に親しい間柄だったのならば、「ン君さァ〜、ベースとギターの違いもわからないのォ~?」と笑い飛ばしてあげることができたのかもしれないが……徒労感に打ちのめされ脱力する彼女を前にしては、ぼっちにその度胸は無かった。

 

 

 

 

 

 

 ナンデ!? ナンデ!?

 

 

 

 

 

 

 

 極度の引っ込み思案であるとは言え、ぼっちは目の前で突然倒れた相手を放っておける性格ではない。

 

 何事かと心配になったぼっちは、彼女に概ねの事情を聞き出し──ほとんど一方的に彼女の方から事情を明かしてくれた形ではあったが、ぼっちは「喜多」という人物のことを知ることができた。

 

 同時に、思い至る。

 結束バンドの先輩である伊地知虹夏と山田リョウが話していた「逃げたギター」とは、まさしく彼女のことであると。

 

 

 喜多の事情である。

 中学時代、喜多はかつて路上ライブをしていた山田リョウの姿に深い衝撃を受けて以来、バンドマンに強い憧れを抱いた。そして「結束バンド」というバンドに移籍したリョウの後を追い掛けて、彼女は高校入学を機に「私もギターを弾けます!」と嘘を吐き、彼女のもとに押しかけたのだと言う。

 彼女が今持っている楽器も、ローンを組んでまで購入したものだ。

 

 

 そして喜多は初ライブの日までにその嘘を真実にする為、懸命に練習してギターの習得に励んだ。

 

 

 しかし、その結果は良い方向には行かなかった。彼女は間に合わなかったのである。

 ネットでギターの弾き方を調べ、その通りに難度も練習を繰り返してみても、彼女の弾くギターは思い通りの音色を引き出すことができなかったのだ。

 

 結局間に合わなかった彼女は先輩たちに謝ることもできないまま逃避してしまい、初ライブからも結束バンドからも逃げてしまった。

 

 

 ──それからのことは、ぼっちの知る通りである。

 

 逃げた彼女の穴を埋める為ギターヴォーカルを捜し回っていた伊地知虹夏と、公園でダイナミック独奏会を開いていたぼっちが巡り会ったというわけだ。

 

 

「……そっか。それじゃあ後藤さんがライブに出てくれたのね。私のせいで、ごめんなさい……」

「あっでもバンドに入れて良かったので、私はその……全然大丈夫です」

 

 ぼっちがたどたどしくも昨日、自身が虹夏に誘われて結束バンドに入ったことを伝えると、喜多は一瞬安心した顔をした後で、ぼっちに対して申し訳なさそうな目で謝罪した。

 しかしその謝罪は、ぼっちからしてみれば全くお門違いな話である。

 

 寧ろ彼女が逃げなければ、ぼっちは昨日この公園で伊地知虹夏に誘われることもなく変わらない日常を過ごしていたわけで……今頃はポッキリと心が折れてギターを弾くだけの死神になっていたかもわからない。

 

 少なくとも、もう二度と学校には通わなかっただろう。色々と限界だった昨日の自分を客観視したぼっちは、最悪のIFを想像してはブンブンと首を振り回し、改めて彼女に向き直った。

 ……とは言っても顔を直視することができないので俯き加減ではあったが、ぼっちは彼女に伝えた。結束バンドと喜多、お互いの事情を知る自分には、そうしなければいけない気がしたのだ。

 

 

「あっあの……二人は喜多さんのこと、心配してました! 逃げたこと、怒っている感じじゃなかったので……ちゃんと、会ってあげた方がいいと思います……スミマセン」

 

 

 言った後で、(初対面のくせに図々しかったかな……?)としょぼくれながらぼっちは自身の意見を彼女に伝えた。

 彼女はそんなぼっちの横顔に目を丸くした後、目を細めて頷いた。

 

「そうね……今更どんな顔して……って思うけど、まずはちゃんと、謝らないといけないわね」

 

 沈む夕日に照らされたその顔に、ぼっちは安堵の息を吐いた。

 明日のアルバイトすら逃げたいと考えていた自分にどうこう言えた話ではないかもしれないとも思ったが、彼女がこのままずっと結束バンドの二人から逃げ続けていくのは、とても悲しいことだと思ったのである。 

 

 彼女は逃げたライブが終わった後でもこうしてギター……だと思い込んでいた多弦ベースを弾き、一人練習を続けていたのだ。

 

 そして今の彼女から窺える物憂げな様子を見れば、喜多という少女が自身の行動を心から後悔し、反省しているのがわかった。

 

 だからこそ、ぼっちは思ったのである。このままだと彼女は、一生このことを引き摺っていくのではないかと。

 

 

「後藤さんは優しいのね。今日は助かったわ。……多弦ベースのことも教えてくれて」

「あ、あのっ!」

 

 彼女の心が少しだけ前を向いたのを感じたところで、ぼっちは自分の要件を思い出し彼女に伝えた。

 

 

バンッ! ドの ボッ! ーカル ギッ! ターをさがしていて……

 

 

 「実は私、バンドのボーカルギターを捜していて……もしよろしければ、結束バンドに復帰していただけませんか? 二人もお許しになると思うので……」と、本当はそう伝えたかったぼっちの用件は、逸る気持ちから独特なイントネーションを刻み、突然のヒューマンビートボックスとなって発信されてしまった。

 

 告げた瞬間、ぼっちは(またやっちゃった……)と自らの失敗を悟り、その場から逃げ出したい思いで顔を背けた。

 

 喜多はそんな彼女の様子をしばらく呆気に取られた様子で見つめた後──何か、憑き物が剥がれ落ちたような顔で柔和に微笑んだ。

 

 

「そうね……先輩たちが許してくれるなら……私もバンドをやりたいな。私、ギターのことは何も知らないど素人だけど……これでも歌うのは、ちょっとだけ自信があるの」

 

 

 だから、後藤さんがギターの先生になってね?と、そう告げた彼女の言葉を聞いて、ぼっちは僭越ながら応えた。

 

 

「あっはい」

 

 

 「こちらこそどうも、よろしくお願いします!」と。ぼっちはその意味を込めて簡潔すぎる返事を返す。

 正直、先輩たちに拒絶されたら自分に説得できる自信は無かったが……後藤ひとりが喜多というヴォーカルの復帰を望んでいるのは偽りの無い本心であった。

 

 

 簡単な話である。ぼっちはギタリストとして、彼女の歌声に──一目惚れしたのだ。

 

 




 後藤ひとりの成仏に合わせてタイトルをダイナミック微修正しました
 日間ランキングに載れてないけど次のライブは負けねぇし~!(謎の敗北宣言)

 戦士の休息編はぼざろアニメ8話あたりまでを予定しています。続けばその次は村祭り(学園祭)編
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