ゲームクリアの瞬間を目撃した場を後にし、僕は途方もなく歩いていた。
いつスパイダーフォンから反応が現れるかわからない中で、自然の脅威が体を容赦なく襲う。
かんかん照りの太陽の光が体に降り注ぐ。
ジャケットの中からじんわり汗が滲み出て、蒸れて気持ちが悪い。
喉も渇き、意識が遠のく感覚が少しずつ増えている気がする。
このままじゃジャマトに襲われる前に力尽きてしまうな。
なんて自分の境遇を嘲笑ってみたものの、全く笑えない。
不十分な休息を何度も重ねて歩くこと数十分。
♪♪♪
何度目かのスパイダーフォンの反応が。
よかった。今度は幻聴じゃない。
おぼつかない手で確認すると反応は参加者を示すものだった。
ここから3時の方向。
茂みの中から反応している。
相手もこちらの存在に気づいたのか、アイコンがこちらに向かってぐんぐんと近づき始める。
それに連なり、草木を掻き分ける音が聞こえてきた。
???「あ…よかった。見つけた」
同じデザインの青いジャケットに、腰に巻かれたベルト。
初めてしっかりと認識するゲームの参加者。
どんな人なのだろうか、と深く考えなかったが、まさか女の人だったなんて。
ツムリほどの衝撃とはいかなくとも、綺麗な人。
茶髪の髪をコンパクトにまとめた綺麗なお姉さんだ。
石崎「その格好…ゲームの参加者だよね。初めまして。私、
石崎と名乗った女性はスパイダーフォンをしまうと、こちらに向かって手を伸ばしてきた。
少々面食らったが、僕も慌てて左手を伸ばす。
初めて触れる、女性の手。
こちらを見つめる大きな瞳に吸い込まれぬよう、目を逸らしたが胸の鼓動が治らない。
握手をしただけなのに。
なんなんだこの緊張は。
石崎「見た感じ若いけど…学生さんかな?だとしたら君から見たらおばさんかな私」
そう言って自嘲する石崎さん。
その笑顔の破壊力といったら。
慌てて否定したのだが、なぜか石崎さんはさらに大きく笑い始めた。
すごい。
やばい。
体の疲れが吹き飛ぶ。
好きになったかも…。
石崎「ふふ。そんな否定しなくても大丈夫なのに…ん?」
ポーチにしまってあるスパイダーフォンが振動する。
取り出して開いてみると画面にはペアの成立を知らせる通知が届いていた。
『DA・PAAN & JA-CO PAIR AUTHENTICATE』
おそらく『AUTHENTICATE』という単語が成立を意味する言葉だと思うが、その前に記されているダパーンとジャーコとはいったい何を指すんだ?
石崎「ペア成立か。ゲーム中は一貫してプレイヤーネームで記されるみたいだね」
なるほど。
よく見たら名前の背景がIDコアのデザインになっている。
白い背景の僕に対して、石崎さんは紫色。
つまりこのダパーンというのが僕のプレイヤー名で、石崎さんがジャーコということか。
石崎「ジャーコなんてハイエナ由来の名前嫌だなー。せっかくならもっとかわいい動物がよかった」
そう口を尖らせる石崎さん。
おおその表情も子供っぽくてかわいい。
年上なのに年上っぽくないこの雰囲気が程よいギャップを生み出して魅力をアップさせている。
不幸中の幸いとはこのこと。
こんな綺麗な人とペアになれるなんて。
石崎「なーんて。一番の問題はこのデザグラに勝ち残れるか否か。たった一人しかなれないデザ神になれなきゃ、なんの意味もないからね。そうと決まれば、ここがようやくスタート地点。お互い自分の理想の世界を叶える為、ゆくゆくは蹴落とす相手だけどここは共同戦線をはろう」
雰囲気が切り替わり、凛々しい顔立ちになる。
王道だが、同世代の女子にはない大人っぽさはすごい魅力的だ。
年上のお姉さん。
思わず甘えたくなるほどの包容力と懐の深さを石崎さんから感じる。
うっかり気を抜くと絆されてしまいそうだ。
石崎「ペアが成立したから旗の位置が見れるようになったよ。早くクリアして次のステージいこう!」
石崎さんの言うとおり、地図には旗を示すアイコンが現れていた。
表示されている数は全部で3箇所。
今まで表示されることのなかった旗のアイコン。
おそらくペアが成立することで表示される設定なのだろう。
ついてきて、と石崎さんが地図アプリを頼りに先陣を切って進んでゆく。頼もしい背中についていこうとするが、僕は足を進めなかった。
というよりは進まなかったという方が正しいか。
石崎「あれ?どうしたの?早く行こうよ」
小走りで戻ってくる石崎さんへ僕はスパイダーフォンを見せた。
地図アプリと共に、動かなかった理由を説明すると石崎さんは顔を赤くして俯いた。
石崎「ご、ごめん!全然違う方向へ行くとこだったよ!このまま進んでたら私たち、崖の下へ真っ逆さまだった…」