とある高校生のデザグラ体験記   作:@蛇足

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第1ゲーム/ハタトリ 肆

 

 

地図アプリを頼りに、石崎さんと旗のあるエリアを目指す。

蓄積された疲労で身体はボロボロだが、時折会話を挟むことで気が紛れたのか、思った以上に軽やかな足取りで進むことが出来ている。

孤独から脱却すると状況はこうも変わるのか。

隣を歩く石崎さんをチラッと見て、その存在の大きさを実感する。

 

 

 

 

石崎「私はまだ動けるよ。心配してくれてありがとう」

 

 

 

 

息を荒らげながら歩く石崎さん。

女性にとってこの環境下はかなり酷なはず。

男である僕でさえきついのだ。

石崎さんのコンディションには細心の注意を払わないと。

 

 

 

 

石崎「…ゲームに勝ち残る…自分の理想を叶えるため…」

 

 

 

 

そんな石崎さんとの道中の会話の中で、いくつか明らかになった事がある。

ひとつめはこのゲームの目的。

ゲームに生き残り、優勝する…通称デザ神になることで、自分の理想の世界を叶えることができるらしいのだ。

そのためにプレイヤーは皆、己の理想のためジャマトの妨害を掻い潜り、ゲームをクリアしようと奮闘するらしい。

 

こんな荒唐無稽な話を信じて命をかけるなんて。

まさか、本当なのか?

あの時手渡されたカードとペン。

自分がデザ神となったとき叶えられる理想の世界はその時に書いたものになるということなのだが。

 

……。

 

くそ。

あのときちゃんと説明を聞いていたら、もっとまともな願いを書いていたのに。

 

 

 

続いてふたつめ。

このデザイアドライバーとコアID。

単に参加者を示すツールではないというのが石崎さんの言い分だ。

一見何の機能も持たないバックルとパーツだけど。

ただの参加条件を満たすアイテムではない…ということだろうか。

今後ゲームの展開によって真の能力が明かされるのか。

そこら辺は慎重に見極めていくべきだろう。

 

 

 

そして最後みっつめ。

スパイダーフォンの更なる機能。

これは、はじめに触ったときには気づけなかった機能なのだが、スパイダーフォン内の『DGP』というアプリでリアルタイムで自分の進捗が確認できる便利ツールがあった。

今自分は何位なのか。

有利なのか不利なのか。

優勢なのか劣勢なのか。

ライバルたちはどうなっているのか。

自分がどうなっているのか。

このアプリひとつで網羅できるらしい。

 

教えてもらったとおり『DGP』のボタンを開いてみると、そこには『ハタトリゲーム』の参加者として登録されていた。

ずらりと並ぶ計32名のプレイヤーたちの名前。

参加者の名前をタップするとより詳細な情報を閲覧できた。

身長、体重、顔。

年齢やスペック。

何から何まで載ってある。

…運営め。

個人情報をこうも易々と。

ここから出られたら法廷に引き摺り出してやる。

 

 

 

 

石崎「はぁ…はぁ…あと少しだ。その先に旗があるよ」

 

 

 

 

マップを見ながらそう絞り出す石崎さん。

スパイダーフォンを確認した感じ、石崎さんの読みは間違い無いようだ。

土が露出する道から再び緑が生い茂る道へ。

肩まで伸びる草木を掻き分けながら、道なき道を進んでゆく。

反応があった場所まで、もう目と鼻の先。

というところで、予想外のアクシデントに出くわした。

 

 

 

 

石崎「そんな。なんてことなの…」

 

 

 

 

前に現れたのは聳え立つ岩肌。

高さにして9〜10mほど。

くそ。

希望が見えていただけにこの現実はあまりにもきつい。

 

 

 

 

石崎「どうして。あともう少しなのに」

 

 

 

 

マップの反応からして旗はこの崖を上がったところか。

辺りを見回してみたが、木々に阻まれ迂回できる場所はないと言っていい。

大まかな地図の位置情報でしか解らなかった故の穴。

 

どうする。

ここまできてしまったため、他の旗の場所からかなり離れてしまっている。

仮に目指すとしてここまで歩いてきた距離の倍はあるぞ。

たくさん時間も費やしてきたため、あまりにも取りたくない選択だ。

なによりここから目指す精神的余裕と体力がない。

かといって、ここから先に進む手段が見つかる見込みも…。

 

こうしている間にも他のプレイヤーに先を越されるかもしれない。

ここで足踏みをしているよりは動いた方が最善か。

仕方ない。

諦めて別の場所を目指すことに……。

 

 

 

 

石崎「………。こうなったら…」

 

 

 

 

ふと、視線を上げると石崎さんが岩肌へと近づいていた。

そして深く深呼吸すると、飛び出していた石を掴み、足は窪みに掛けて登り始めた。

 

ま、まさか。

この崖を超えていくつもりか⁉︎

 

 

 

 

石崎「止めないで!あとちょっとでクリアなんだから…!」

 

 

 

 

僕が声をかけても石崎さんは振り返らずにそのまましがみついている。

いくらなんでも無謀なことを。

石崎さんの行動から意思の強さを感じ、泣く泣くついて行くことを決意。

非常に気は進まないが、黙って登ることにしよう。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

足をしっかり固定したら次に腕を伸ばす。

ひとつひとつ。

慎重に一歩一歩。

 

 

 

 

石崎「はあ…はぁ…。うんしょ…うんしょっと……」

 

 

 

 

自身の安全を確認しつつ、時折上を見上げて様子を見る。 

とてもゆっくりだが、確実に登り進めていて今のところ心配ないようだ。

フラフラになりながらも、諦めることはしない。

体力が底をつきそうになろうとも、それを上回る確固たる意志の強さ。

最初の印象から勝手に誤解してたが、これが石崎日奈という人間の強さなのだろう。

 

 

ほぼ垂直に聳え立つ壁。

登るにつれて、体に吹き付ける細やかだった風が少しずつ強さを増していく。

時折吹く強い風に体を持っていかれ兼ねない。

加えて踏み外したら即死が待っているという極限状態に晒されているため、気を緩めることなど言語道断。

意識をしっかり保っていなければ、掴んでいる、踏んでいる岩の感覚が遠のきそうだ。

 

 

長い時間かけてあと少しで登り切るところ。

パラパラと身体に降り注ぐ砂利が気になり上にいる石崎さんを見上げると。

 

 

 

 

石崎「ぎゃっ⁉︎⁉︎」

 

 

 

 

彼女の左足が僕の顔目が掛けて落ちてきた。

 

 

 

 

石崎「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

 

 

 

 

心臓が止まるかと思った。

頬すれすれで落ちてきた石崎さんの脚。

運良く躱わすことができ、肩で受け止めた。

踏み外した石崎さんの足を一身に受け止め、体勢を整えるまで踏ん張る。

 

 

 

 

石崎「ごめんなさい!!!大丈夫⁉︎」

 

 

 

 

脚を戻した石崎さん。

様子を伺おうとこちらを振り返ろうとしていた為、僕は構わず進むように声を荒らげた。

自分がどれほど登ってきたのか。

その高さを上から見てしまったら恐怖心が膨れ、集中力が乱れてしまうからだ。

ただでさえ緊張感が張り詰める状態。

これ以上の危険を冒すことは避けるに限る。

 

 

 

 

 

石崎「わかった。でも無理しないで」

 

 

 

 

二つ返事で了承すると残り少しの高さを再び登り始めた。

しっかりと、かつ大胆に。

着実に登り詰め、細心の注意を払うこと約5分。

長かかった崖登りを終え、漸く一息つくことが出来た。

 

 

 

 

石崎「はあ…!着いた…!」

 

 

 

 

足元に大地があることがこれほど安心させられるなんてな。

はあ。よかった。

緊張感が解けたら一気に疲れが溢れてきた。

少し休もう…。

気を失うように僕は四つん這いだった体勢を横に…。

 

 

 

 

石崎「ほっ…と」

 

 

 

 

…ん?

硬い岩の上に寝転がろうと体制を崩したのに、ジャケットの擦れる音がした。

そして次に柔らかい感触を覚える。

目を開けるとそこには僕の顔を覗き込む石崎さんの顔があった。

 

 

 

 

石崎「大丈夫。そのままにして」

 

 

 

 

な、なんでだ?

どうして僕は今、石崎さんに体を預ける体勢に?

 

 

石崎さんとの顔の距離が近い。

大きな瞳。

程よく筋の通った鼻。

ぷっくりと色っぽく膨れている唇。

それら全てを兼ね備える小さな顔。

 

 

疲労の色が現れる表情をしていてどうしてこれだけ素敵に映るんだろう。

重力に従い垂れ下がる髪を耳に掛け、石崎さんは僕の首元をマジマジと見つめる。

そして僕の顎を掴み、ゆっくり動かし始めた。

 

 

外側へ向けたあと、内側へ。

そこで何か気になったのか、石崎さんは前のめりになり僕の首と肩を凝視する。

 

 

やばい。動けない。

ガサゴソと石崎さんの動きに合わせて、顔一面に大きい二つの柔らかい隆起がなぞる。

ジャケットとはまた違う硬い布の感触が鼻から、頬から感じられた。

 

 

 

 

これって…。

 

そうなのか…。

 

これが…。

 

女性の…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石崎「よかった。少し赤くなってるだけで大きな怪我はしてないみたい。ほんとに…ごめんね」

 

 

 

 

安堵した笑みを浮かべる石崎さん。

あれ。いつの間に…。

石崎さんは身体を離して立ち上がる。

座った姿勢のまま体を動かせない。

なんだか時間が飛んだような気分だ。

 

 

 

 

石崎「見えた…あれだよあれ」

 

 

 

 

こんな時になんて僕は下劣な。

石崎さんの声で我に帰り、指差す方を見る。

それは遠く離れた、切り開かれた丘の上。

肉眼でも確認できるほど高々と揺らめく旗がそこにあった。

あれがずっと追い求めていたゲームクリアの為の旗(フラッグ)。

 

 

 

 

石崎「もうすぐだよ。このまま行こう」

 

 

 

 

最後の力を振り絞り、駆け出そうと脚を動かした、そのときだった。

 

 

 

 

 

ツムリ『皆さんごきげんよう!旗取りゲーム楽しんでますか!』

 

 

石崎「びっくりした!え?何?」

 

 

 

 

『上』から唐突にツムリの声が聞こえ、僕らの動きを止めた。

 

 

 

 

ツムリ『ミッション開始から早1時間半。まだまだゲームは始まったばかりですが!なんと、もうすでに7組のペアがクリアしています!』

 

 

 

 

テンション高めのハイトーンボイス。

ツムリの言葉に呼応するようにポケットにあるスパイダーフォンが震える。

開いて通知をタップすると、そこにはゲームクリアしたプレイヤーの名前がズラッと並んでいた。

 

 

 

 

石崎「すごい…。もうこんなに」

 

 

ツムリ『なんと喜ばしい結果。運営としてもこれだけのめり込んでもらえて、非常に気分がいい。ただ…少々こちらの想定を上回るクリア数となってしまったため…特別措置として、急遽追加ルールを発表いたします!』

 

 

 

石崎「ちょっと待ってよ。なにそれ聞いてないんだけど!」

 

 

 

 

 

ここに来ていきなりの追加ルール。

旗は目前だというのにこのサプライズ。

やってくれる。

 

 

 

 

ツムリ『現時点をもってペアを組めていないプレイヤーは…残念ながらその場で脱落となります!そして!ペアを組めているプレイヤーの皆さんには、生き残りを賭けフラッグ近辺へワープ!ちちんぷいぷい!』

 

 

 

 

ツムリのまじないにより、僕たちの身体がホログラムのように消えら移動を………なんてようなことが起こるはなかった。

おそらく既に旗の近くにいるからだろう。

そして、おそらく今のアクションで目の前に広がる茂みに囲まれた旗のある広場のどこかにプレイヤーがいるということ。

 

 

 

 

ツムリ『それではー!最後の旗(フラッグ)ゲットまでー…用意スタート!』

 

 

 

 

 

 

 

 

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