位置について。
よーい。
ドン。
最後の最後。
限界が近い身体を必死に奮い立たせ、腕と脚をフル回転させる。
正真正銘、ラストスパート。
見て呉れなんて二の次。
歯を食いしばり、顔を顰め、顎を上げて我武者羅に走る。
目の前にある旗を。
取るために。
ただそれだけを考えて突き進む。
と、同時に隣を走る石崎さんの様子も伺い、彼女がついてこれるギリギリのペースで走った。
ツムリ『なんとなんとー!たった今【クローチ&ピコック】ペアが北エリアの旗をゲット!旗は残り2つ!頑張って〜!』
おそらく他のエリアでクリアしたペアの通知だろう。
しかし、開く余裕など全くない。
気にすることなく、引き続き体を動かし続ける。
そして半分ほどの距離を走り抜け、切り開かれた広場に入ったところ。
そのタイミングで10時の方向と14時の方向から2組のペアが同時に飛び出してきた。
石崎「…⁉︎」
ツムリ『これは面白い展開になったー!東エリアの旗の元に3組のペアが同時に躍り出た!【エベン&フェザン】ペア!【バブーン&ラクラダ】ペア!そして【ダパーン&ジャーコ】ペアの三つ巴だ!』
なんとも憎たらしいタイミングで同じ旗を狙うペアが現れた。
どこからか、いつからか。
現れるか分からないライバルの登場にプレッシャーが格段に跳ね上がる。
目に見えて生き残りがかかっている。
これほどまでにわかりやすく緊張感を植え付けられることは、これ以上のものなんて他に……。
???「ジャマ…ジャマジャマ…」
ツムリ『なんとなんと!東エリアで悲劇が襲う!旗を目指して走るプレイヤーを狙い、大量の山賊ジャマトが襲いかかってきたー!』
勘弁してくれ。
こんなのありえないだろ。
背中に刺さる無数の吐き気を催す視線と呻き声。
一瞬だけ視線を後ろに這わせると、水平線いっぱいに山賊ジャマトがこちらに向かって押し寄せている姿があった。
あまりの衝撃的な絵に、思わず僕は目を背け前だけを見る。
そんな僕の様子を見て石崎さんも後ろを見ようとした。
だめ!見ちゃだめだ!
石崎「……!ひゃあ⁉︎⁉︎⁉︎」
命を狙う大量のジャマトの姿を目撃し、石崎さんの声が上ずる。
精神的なショックを覚えるには十分な衝撃。
調子を狂わされた石崎さんの足がもつれると、バランスを崩し盛大に転んでしまった。
ツムリ『ここでトラブル発生!ジャーコの転倒で【ダパーン&ジャーコ】ペアが大きな遅れをとる!クリア争いから脱落した【ダパーン&ジャーコ】ペア!ここで【エベン&フェザン】ペアと【バブーン&ラクラダ】ペアの一騎打ちだああ!!』
回転させている脚に急ブレーキをかけて、急いで石崎さんの元へ駆け寄る。
地面に突っ伏した石崎を抱き上げると、泥だらけになった顔を指で払った。
石崎さんの身体は項垂れ、全く動かない。
とうとう、彼女の体力は限界を迎えてしまった。
石崎『ご…ごめんなさい。わたし…足手まとい…』
もう喋らなくていい!
虚な目で話す石崎さんの言葉を遮るように首を振る。
こちらに向かって迫り来るジャマトの大群。
視線、呻き声に混じり、近づいてくるにつれ地響きまでもが聞こえてくる。
ツムリ『ここで別の地点の旗もゲットが確認された!【シース&メレオ】ペアがミッションコンプリート!これにより東エリアが最後のクリアの席を決める戦いとなった!』
前を見ればライバルが。
後ろを見れば怪物が。
どこにも安全地帯はなく、あるのは命を脅かす危険地帯だけ。
石崎「………はぁぁ…………はぁぁ…………」
ははっ。
流石にここからの形勢逆転は無理か。
三つ巴の展開から脱落し最早クリアすることなどもう不可能だ。
徐々に縮まっていた旗までの距離。
僅かな差だった。
でももう、覆せる可能性は残っていない。
でも。
それでも。
このまま自分たちの命が無くなるのを待ってることなんて怖くて出来ないよ………。
ツムリ『ん…?』
石崎さんを抱き抱える腕を入れ直し、右腕を首元、左腕を両膝下に移す。
そして己の身体に力を込め、石崎さんを抱き上げた。
石崎さん「……………?」
ゴールを目指す場所を見据える。
近づくにつれとても大きく、そして高く揺らめかせている旗。
遠くから見えていた時は気が付かなかったが、ここまで大きいとは。
真下から見ればその高さをより感じられるのではないか。
『いい?先生と約束して?どんなに辛くて大変な時でも、最後まで諦めてしまってはダメよ。考えて考えて。ありとあらゆる方法を探して這い上がるの…』
妙に冷静になった頭の中で、昔聞いたある人の言葉がよぎる。
ああ。
こんな時に…なんで先生の言葉を思い出すんだろう。
走馬灯だろうか。
あの時は確か自分は小学生で。
大雨が降り頻る中言われた言葉だ。
ツムリ『あいつ…なにする気だ』
こんな時に。
いや。
こんな時だからか。
どんなに絶体絶命な状況でも。
ピンチの時も。
諦めることなく足掻いてみろと。
そう言ってるのか?
なら。
僕は諦めない。
血の滲むような努力をした人間が。
当たり前の幸せが手に入らなかった人間が。
報われ、幸せになれるように。
生まれながらに孤独な僕だって幸せを手に取り掴んでやる。
僕はグッと脚に力を入れ、石崎さんの身体を抱えたまま歩き始める。
徐々に。徐々に。
慣れてきたらさらに加速し、駆け足くらいのスピードで動き出す。
迫り来るジャマトの大群はもう背中の気配で感じ取れるくらいの距離にいた。
ツムリ『………。おっと。…その手に旗を掴むのももう目前だ!クリアするのは【エベン&フェザン】ペアか!それとも【バブーン&ラクラダ】か!』
石崎「…………。」
先ほどよりも遅いペース。
こんなことしても結果は変わらないのに。
それでも、気のせいだろうか。
何故か身体が軽く感じられるのだ。
疲労で限界突破した脚は滑らかに動くし、石崎さんを抱える腕も、発泡スチロールを持っているのではと錯覚するほど軽い。
視界は眩しくて定まらないや。
どこから照らしてるのか、白い光がチカチカと発光している。
同時にヘソのあたりが熱い。
いける。
いけるぞ…。
このまま行けば僕たち……。
クリアして………。
ツムリ『両ペアがほぼ同時に旗の根元にたどり着いた!いったいどちらのペアに勝利の女神が微笑むのか……………………え?』
DESIRE DRIVER『 E N T R Y 』