ふたりぼっち   作:関西在住匿名希望(334)

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「ま、ままままま護さんっ!」

 

「ん? どうしたひーちゃん。バンドの事でまた何かあったか?」

 

「え、えっと、その、そ、そういう事じゃなくって……えと、その……」

 

「おお、おお、落ち着け落ち着け。別に俺は急かしてないから、てか俺とは別に普通に話してたのに改まって緊張しちゃってるけど、もしかして俺が思ってるより重要な話?」

 

「あ、あぅあぅ……そ、その……」

 

 俺、小田護はギタリストだ。

 正確に言えばバンドマンのギター担当であり、シンガーソングライターでもある。

 そんな俺は今、数年間付き合いのある年下の女の子こと後藤ひとりに空がオレンジ色に染まる、そんな時間に呼び出されていた。

 何の縁か昔からソロでギターを練習していたという彼女は、今年からこれまた何の縁かバンドに加入していた。

 共通点の多い存在として俺は沢山の相談を受け、それをバンドマンの先輩として、引いては年上という純粋な人間的先輩の立ち位置から少しずつアドバイスを送る事も多々あった。

 

 俺自身別に上手い生き方も出来ている自覚も無かったから在り来りな発言しか出来ない事も多かった。

 それでも彼女は一言一言を必死に聞いて、コミュニケーションを取るのが苦手な引っ込み思案で怖がりで自分を卑下する様な性格でも頑張ってバンドのみんなとの絆を結束させていったと言う。

 そうやって感謝されて、実は俺の方も救われていたところはある。

 

 出会った当時は彼女は女子中学生で俺は高校生、俺が組んでたバンドが中々評価されずもう辞めようか、なんて話していたりもしていた。

 そんな折に出会った彼女のギターは上手かった、だがそれ以上に一曲一曲を大切に弾いて、たとえ誰に聴かれなくても、評価されなくても卑下しつつもギターを辞める事は無く必死に続けていて。

 まだ中学生の女の子が頑張ってるのに何やってるんだろうと反省。

 その話を仲間にしたらからかわれたり彼女を紹介する事になったりもしたが……今はそれも良い思い出だ。

 

 今ではその仲間達と俺はバンドとしてメジャーデビューも果たし、まだまだ大きい舞台にはあまり立てていないが少しずつ成長していっている。

 

 彼女も彼女で、人前に出るまでに今年まで掛かったもののこの前の文化祭ではトラブルがありながらも機転を利かせて大成功を納めて、一人前になったものだとバンド仲間と共に感動していたものだ。

 

 閑話休題。

 

 そんな、ちょっとした関係のある年下の女の子が現在めちゃくちゃ緊張した感じで俺を呼び出してきた。

 確かに最初はコミュニケーションを取るのも中々に難しくて、重苦しい無言の時間が続いたりもしたが半年くらいで何とか普通に話せるようになり、気付けば二人で会って話す時間も増えて、初期の時とは逆に以心伝心の居心地良い無言の時間も出来ていた。

 個人的に、かなり仲は良いと思う。

 だからこそ、そんな改まってガチガチになるのが不思議で堪らなかった。

 

 何かをボソッと、自分に語り掛ける様に喋ったかと思えば頭をブンブン振って深呼吸したりして、そこまで追い詰められる様な事なのだろうかとちょっと引いてしまっているが彼女だからこそこういう時以心伝心出来ず何を考えているか分からないから、ちゃんと聞こうと思えた。

 

「……大丈夫?」

 

「あ、う、ぅ……ま、護さんって……昔からそうやって……優しい……ですよね……」

 

「そうか?」

 

「コミュニケーションもまともに取れなかった頃でも、私の話をじっくり待っててくれたし……今も待ってくれるし……真剣に、その、アドバイスもくれるし……ギタリストとしても私の憧れ……だし……」

 

「はは、照れるなオイ」

 

 軽口の様に言っているが、真正面からこんなに褒められた事は初めてで顔が少し熱くなってしまった。

 彼女……ひーちゃんは基本俯きがちで話しているが、俺と話す時は少しだけ顔を上げてくれるのもポイントが高い。

 何せ自覚は無いだろうがひーちゃんは凄く顔が良いしギターに真面目で真摯、そんな子に見つめられながら褒められたら誰でも大なり小なり照れを抱くのは当たり前だろう。

 

 だからと言って恋心……と言われると、それはそれで分からない。

 顔が良いのは確かだし性格も良くて仲も良い、だが俺としてはギタリスト仲間として接してきたのだ。

 

 まあひーちゃん自体がそういう感情とは無縁だろうから取り越し苦労で終わるだろうというのが救いだが。

 

 ふと、ひーちゃんの顔が『しっかりと』上がっているのに気付く。

 ドキッとしてしまった、何せ真っ直ぐに見つめられるのは初めてだ。

 ここまで覚悟を決めた様な顔付きや、顔を上げたり、緊張で上手く喋れなかったりと、そんなに覚悟のいる話だと思うと俺の気持ちも引き締まるものがある。

 どういう相談だとしても俺は年上だから、冷静に意見を言うだけだ。

 それがひーちゃんの今後に繋がるのだから。

 俺はドンと構えていればそれで良い、それ以上に何かをやる必要なんて無い。

 

「……そんな……そんな、護さんの事が……私は……す――好き、なんでしゅっ!! あ、あうぅ……噛んだ……」

 

 と、思っていた。その言葉を聞くまでは。

 流石の俺でも耳を疑った、疑わざるを得ない言葉を聞いてしまったのだから仕方ない。

 

「……え……っと……? その、今の言葉は……え?」

 

「ピェ……な、なんで通じてないの……?」

 

「いや通じてないというか、脳の処理が追い付いてないというか……」

 

「うー……うー……こ、こうなったら……かくなる上は……え、えいっ」

 

「へ? ……ンンッ!?」

 

 そして脳の処理が追い付く前に俺の鼻先にふわりと彼女の毛先が掠め、シャンプーの良い香りがくすぐる。

 そしてその瞬間、俺の唇に柔らかい感触が襲い掛かり、脳を焼くような快感が全身を巡る。

 

 キスだった。

 紛れも無くキスだった。

 背伸びしてギュッと目を瞑りながら俺に抱き着いてキスをする彼女は、どうにもいつもの彼女らしく、そしてそれでいていつもの彼女じゃない様な気がしてならなかった。

 

「…………はっ!? つ、つつつつつつい勢いで……ご、ごごごごごごめんなさーーーーーーい!!!!」

 

 そして我に返った彼女は『ボンッ』と音が出そうなくらい顔を紅潮させたかと思えば、俺の脳内が追い付く前に弾かれる様に猛ダッシュで逃げてしまった。

 

「……え? キス? てか俺告白された? え? ひーちゃんに? え? 俺が? え?」

 

 やっと脳みそが追いついて来た時には既に後の祭りだった。

 追いついたと言っても『告白』『キス』『俺に』『ひーちゃんが』という様なあまりにも断片的なキーワードとしてだが、今の俺にはあまりにも充分過ぎた。

 

「嘘、だろ……?」

 

 現実を理解するには、充分過ぎたのだ。

 顔を真っ赤にしたと思ったら今度は青ざめ、顔面蒼白。

 自分でも分かる程の動揺だった。

 

 そして、それが言葉に、声に、声量に乗るのは最早仕方の無い話だったのかもしれない。

 

「えええええええええええええ!? 嘘だろおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 もうすぐ午後6時、叫び天を見上げた時には少し前までオレンジ色だった空は黒と一番星の光だけがあった。




小田護(21)
プロデビューして2年程のバンドマンのギター担当
学生時代に結成したグループであり、全員親友の様な立ち位置
後藤ひとりとは彼女が中学生の頃に道に迷っていたところを偶然見つけそこから紆余曲折しながら仲良くなった
護としては同じギタリストとしての仲間意識と可愛い妹分としての気持ちが強く、恋愛対象として意識していいのかどうか曖昧な立ち位置で見ていた
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