ふたりぼっち 作:関西在住匿名希望(334)
「……いや、どうすんのこれ」
アレから一週間。
正直に言うがひーちゃんと顔を合わせられない。
弁明にはなるが、これでも話し掛けようとはしたのだ。
だが、彼女は目をちらりと合わせたきり顔を真っ赤にしてぷるぷると震えながら頑なにこちらを向いてくれなかった。
勿論彼女のバンド仲間には突き刺さる視線を向けられたが違う、アレは誤解なのだと説明は出来なかった、ひーちゃんの名誉の為であった。
そもそも彼女の仲間達との付き合いはほぼ無いに等しい……たまに街中でひーちゃん同伴のその子達と遭遇したり、ひーちゃんが話題に出すくらいだろう。
それはさておき、だ。
問題は本人と俺だ。
何とかして俺が答えを見つけて、話さないといけない。
今まで恋愛対象として見ていなかったのはその通りだ、更に言うなれば相手が『俺に恋愛感情なんて持たないだろう』という安直で逃げた様な理由からだ、そんな甘えた理由で彼女の気持ちと向き合わないのは間違っている。
――俺はひーちゃんを恋人に出来るか否か。
いや、出来るかどうかと言う話なら『出来る』が正解だ。
彼女といる時間は静かで心地良く、心が温まるそんな気持ちになる。
それにお互い話さずとも相手が何を考えているか大体読めてしまう。
趣味も似ていたり、ギター仲間だったり、俺とひーちゃんは似ているところが多く恋人にしても上手く行くのは目に見えている。
だがそれとこれとでは話が違う。
俺がどう思っているか、問題はここなのだ。
今までそういう目線で見てこなかった為か答えを出そうにもこの一週間何一つ自分の心に進展が無かった。
それもそのはずだ、俺は恋愛というものをした事が無かった。
高校生の時はアマチュアとは言えライブハウスを借りてライブをしたりもしていたバンドマン……そう言うだけで割とモテて告白もされたが個人的にそんなミーハーな連中に興味なんて無かった、必死でプロを目指していたから恋愛なんてしてる暇も無かった。
何よりそんな上辺しか見てない奴らより余程ひーちゃんと過ごす時間というものの方が楽しかったから、その時間を減らす真似なんてしたくなかった。
「どうしたもんかね……本当に」
ため息を吐き頭を搔く。
いつもなら休日はのんびり過ごせていたり、ひーちゃんと出掛けたりしていたのだがそれが出来ず落ち着かない。
「……いっそ話すか?」
思い浮かべるのは苦楽を共にしてきたバンドメンバー。
あの子の名誉の為に話さない方向にしていたが……こうなると話すしか道は無いのでは無いか。
悩みつつもスマホに登録しているもう一人のギター担当で幼馴染の画面をタップする。
一番察しが良いのはやはり付き合いの一番長いコイツだ。
『フハハ! どうした我が同胞ッ!! もしかして我の声が恋しくな』
……通話終了ボタンを押したのは、いつもの事である。
この後全ての一言一句に濁点が付く勢いで掛けて来たのまで含めて、お約束であった。
「それで、我を呼び出して話なんて珍しいではないか」
結局のところ、呼んだのは幼馴染のコイツ一人だった。
他の連中を信用してない訳ではない、寧ろ誰よりも信用しているし信頼しているが、無闇矢鱈に多くの人間が聞く話でも無いと思っただけだ。
だからこの、電話口で厨二病を発症していた同い年の幼馴染であるツインギターのもう片割れだけ呼び出していた。
なお、他にはベース、ピアノ、ドラムがいてボーカルは基本的に俺とコイツで担当している。
それはさておき、話だ。
呼び出したからには話さないとならない。
察しが良いのもそうだが、ストレートな物言いをしてくれるのが何よりも助かるのだ。
曖昧では意味が無い、というのもおこがましいが俺に一番無遠慮な人間こそ相応しいのは確かだからこその選出となった。
「長々経緯を語るのと端折って重要なとこだけ喋るのどっちが良い?」
「断然後者だ、我々に遠慮や建前等と言う言葉なんぞ要らぬ」
「分かった。ひーちゃ……まあ今更か、ひーちゃんに告白をされたんだが自分の気持がわからない、どうすべきか助言が欲しい」
「はい?」
「何だその鳩が豆鉄砲を食らったような顔は」
「貴様こそ落ち着きすぎているのも大概にしろ」
理不尽であった。
いや言葉の殴り合いではあるが、今そこでそういうのは求めていない。
「これでも一週間悩み抜いた末に相談に来たんだが」
「悩み過ぎだろう!?」
「あの子の名誉の為に一人で考えようとしたんだが……」
「名誉!? 何をしたのだお前は!?」
あと物凄くうるさい。
いつもの事ではあるがせめてもう少し落ち着け。
いや俺も落ち着ける状態じゃないんだが。
「……自分から言うとダサいんだが、その……キス、されてな……」
「……あの後藤ちゃんがか?」
「まあ……そういう事になる」
「……護、お前は『分からない』から答えが欲しい、答えに繋がるアドバイスが欲しい、そう言ったな?」
この際ダサくても格好悪くても構わない。
ひーちゃんの気持ちを尊重する為に、俺が向き合わないとならない事なのだから。
だから何を言われても良い、覚悟は出来ている。
深呼吸をし、真面目モードになった幼馴染を見据える。
「ああ。だから何を言われても良い。素直な意見を言ってほしい」
「はぁ……お前は……確かにお前の気持ちは分かるが、答えを早く出さないといけないと自分で分からない答えを他人に委ねるのか?」
「……少しでも早く答えを導き出さないと、あの子の気持ちを無碍にしていると思ったんだ」
「全く、それが阿呆だと言っているのだ。自分の気持ちは自分にしか答えを導く事は出来ん。それに、後藤ちゃんの気持ちの前にお前の、護自身の気持ちを無碍にしているのではないか?」
「自分の、気持ちを……」
意外な返答に、流石に思わず胸にグサリと刃物が刺さった様な痛みを覚えてしまう。
自分の気持ちを大切に……なんて、そういった視点から考えた事は無かった、早くこの気持ちへの答を見つけてあの子を安心させたい、ただその一心だった。
だからこそ、思い切り突き刺さってしまった。
「恋愛は一方通行では成立しない。それは相手ばかり尊重していても同じだ。自分の気持ちが明確に分からぬなら分かるまで考えれば良い。例えば、そうだな……後藤ちゃんにお前以外の彼氏が出来た場合を想像してみたり、とかな。それはそれとしてこのまま話せないままと言うのも忍びないだろうからその辺はしっかり解決しておくのだぞ」
『恋愛は一方通行では成立しない』という言葉が重くのしかかる。
自分の考えがどれ程身勝手なものだったかと痛感させられてしまったのもそうだが、学生時代興味が無いと一蹴していた女子達と図らずして同じ様な立場になってしまったのが何よりも痛かった。
俺は恋愛というものを何一つ理解出来ていなかったのだ。
だが、不思議とスッキリした気分にもなれた気がした。
それはストレートに包み隠さない答えを貰ったからだろう。
「そう……だな。一人で先走ってばっかだったのかもな、俺。スッキリしたよ。あーあ、情けないな」
「別に情けなくは無い。恋愛なんてそんなものだ、我もそうやって失敗しながら模索して見つけていったのだ。護は今その立ち位置にいるというだけ、案ずるでない」
「そういうもんかねえ……そうだったなら少しは安心出来るけど……しかしどうにかしてまた前までの雰囲気に戻りたいもんだ……今のままは居心地が悪すぎる」
「まあその辺りに関しては我は関与出来ぬのでな。当事者同士……いや、護が何とかするのだな」
『わーってるよ』なんて軽口を叩きその後は別段取り立てて特別な話はせず他愛も無い話に花を咲かせた。
俺の脳内にとある一言を残して。
「ひーちゃんに俺以外の彼氏……」
その日の深夜、自室のベッドにて。
彼女とどうやって仲を修復させるかとか、そういう事も考えなかった訳では無いが今はそれよりも俺の脳内でずっと回り続ける言葉への結論を出したいと思ってしまっていた。
『後藤ちゃんにお前以外の彼氏が出来た場合を想像してみたり、とかな』
ひーちゃんに俺以上の関係にある男がいたらどう思うか、それがヒントになるのではないかと、アレだけ諭してきたのにも関わらずサラッとそういうものを置いていく辺りだから女人気が衰え知らずなんだろうと呆れ半分感心半分。
しかし想像……想像か。
あの子に彼氏がいるとかかなり無理があるが……
『○○くん……えへへ、だ、大好きですよ……』
『あ、あーん……えっ!? い、いや、こ、これはデートの醍醐味と聞いて……』
『ふへへぇ……○○くんの手……あったかい……』
「無いっ!! 有り得ない!! 有り得るはずがない!!」
ガチギレして脳内から消していた。
大切な妹分引っ掛けるとか地獄に落ちても落ち足りないレベルだ。
「……この嫉妬心、焦燥感が恋心とでも言うのか……?」
あと一歩で答えは見つかるのかもしれない、漠然とそう思った。
だが今はまだ、自分が出す答えは見つからないまま。
主人公の幼馴染(21)
主人公とはツインボーカル且つツインギター(メインボーカル・リズムギター。主人公がサブボーカル・リードギター)
永遠の厨二病であり常に白手袋にマントを羽織っているがなまじイケメンすぎて映えるのでタチが悪い
彼女持ち(婚約済)