ふたりぼっち   作:関西在住匿名希望(334)

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「うぅ……私のバカ……」

 

 一週間という期間は私に正気を取り戻させるにはあまりにも充分過ぎる長さだった。

 好きな人とはいえ、恋人になってない、相手の返事も聞かず勢いでキスをしてしまった。

 嫌われては……自信過剰かも知れないけど、それは無い……と思いたい、だって翌日には話しかけて来てくれたし……あ、でも目も合わせられなくて無視しちゃったんだっけ……はは……

 

 しかもそれをみんなに見られた上に誤解されて……護さんは悪くないのに……弁明する暇も無かった……

 

「……ねえぼっちちゃん、まだ……その、話す気にはなれない? いや、あのね、私も強引には聞く気は無いけど……力になれる事があったら話してほしいなーって……」

 

「事と場合によっては、処す。事と場合によらなくても多分、処す」

 

「あ、もう二人とも〜! あの件はひとりちゃんが自分から話す気になるまで静観してようって言ったじゃないですかぁ!」

 

 結束バンドのみんなは、とても私に良くしてくれる。

 仲も良く……なれたと思うし、みんなと一緒に成長出来た気がして、私でもほんの欠片程の青春を謳歌出来てると思うと生きていて良かったと思えるし、ギターをやってて良かったと思う。

 

 でもだからこそ中々……誤解されたままの空気から切り出せる気がしない……

 

「で、でもっ! ぼっちちゃんが今まで私達以上に付き合いが長くて仲も良くて大好きなお兄さん相手にあの反応は何かされたとしか思えないし……!」

 

「正直何もしてなくてもいつか殺るべきだとは思ってた」

 

「いや殺意高過ぎないですか……? と、というかですよ!? もしかしたら私達誤解してるかも知れないじゃないですか? ひとりちゃんの口から何も聞いてない以上何があったかは……」

 

「う、う〜ん……確かにそうだけど……」

 

「気持ちは分かりますけど焦り過ぎですよ〜」

 

「私はぼっちの今後に悪影響が出るならこの件が無くても排除対象だったけど」

 

「だから殺意高過ぎですってぇ!」

 

 ……あれ? もしかして今ならいける?

 いやいやでもこれで妙な空気にでもなったら私は立ち直れる気がしないぃ……!!

 で、でもここでいけなかったら多分もうチャンスは無い……

 

 ……そ、そうだ。大好きな護さんと、大好きな結束バンドのみんなが険悪なままなのは嫌だ。

 ゆ、勇気を出そう。うん、そうだ、私ならやれる……

 

「あ、あの……」

 

「ぼっちちゃん! どうしたの?」

 

「……そ、その。あの日……何があったか……聞いてくれると……嬉しいんですけど……」

 

「は、話してくれるの?」

 

「は、はい。えと、ずっとみんな心配してくれて嬉しくて、でもだからこそ言い出せなかった事と言うか……で、でも今なら聞いてくれるかなとか……思ったり……」

 

「ん。ぼっちがそこまで言うなら聞く」

 

「あ、ああああありがとうございます! じゃ、じゃあその――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 話した、話してしまった、私が護さんの事を異性として好きだと言う事から勢いでキスしてそのまま逃走してしまった事まで含めて全部赤裸々に語ってしまった。

 しんとした空間であまりの気まずさに溶けそうになる。

 

「ぼ……ぼっちちゃん……大胆……!!」

 

「ふぇ?」

 

「私が悪かったよぼっちちゃん!! まさかぼっちちゃんがそこまで大胆な行動に出るなんて思わず〜!!」

 

「あばばばばばばばば」

 

 虹夏ちゃんに肩を掴まれたと思ったら思い切りブンブン揺らされた。

 誤解は解けたみたいだけどそんなに揺らされると頭がぐわんぐわんとして溶けそうになるんですけど……

 

「あ〜ダメですよもうっ。でもひとりちゃんがそんなに思い切りのある行動をするなんて……小田さんの事、本当に大好きなんだね 」

 

「ぅぇ……あ、うー……うん……」

 

 そして改めてそう言われるとものすごく恥ずかしくなってしまう……けど否定はしない、これだけは誤魔化しちゃいけない事だって、知ってるから。

 喜多ちゃんの優しそうな笑顔にホッとさせられてしまう。

 

「……ぼっちがそれだけゾッコンなら処刑は一旦撤回」

 

「あ、ありがとう……ございます……?」

 

 リョウさんも誤解は解けたみたいだし……多分……

 と、とにかく伝わって良かった……

 

「でもでもっ、それなら答えは聞いてないんだよね!?」

 

「はひっ!? そ、そう……です……逃げちゃったので……」

 

「じゃあ行こう!」

 

「いいいいいいい今からですか!?」

 

「そりゃもちろん! リョウちゃんと喜多ちゃんもそういう事なら仲直りは早い内にしてもらいたいと思ってるはずだし……ね?」

 

「仲直り……とはまた違うと思いますけどね。というかひとりちゃんは小田さんのどんなところが好きになったの? 良かったら聞かせてほしいかなって……」

 

「あ、それ気になる気になる!」

 

「今後の楽曲制作の参考までに」

 

 ホッと出来る……と思ったのに……

 今から答えを聞きに行けだなんて流石陽キャ……虹夏ちゃんが眩し過ぎる……(陰キャ)には眩し過ぎる……

 

 そして喜多ちゃん、ストレートに聞かないで……言葉に出すの恥ずかしいのに……

 でもやっぱり誤魔化したくはないから……この気持ちにも、みんなへも……

 

「そ……れは……身内以外で……初めて仲良くなれた人で……アドバイスも沢山くれて……コミュ障でぼっち陰キャな私にもずっと寄り添ってくれて……遊びにも誘ってもらえたり……気付いたら、話さなくてもとても居心地が良くなってて……そうしてたら、ま、護さんの顔を見ただけで顔が熱くなったり、ドキドキする様になって……さ、流石に私もそれが恋だっていうのは、何となく分かって……えと、それで、どうしても気持ちが抑えられなくて……つい……」

 

「おお~!! 凄く甘酸っぱい! それに顔赤くしてるぼっちちゃんがかわいい!!」

 

「ぼっちの乙女な表情は恐ろしいくらいのプレミア価値が付く、私が保証する」

 

「……気持ちは分かりますが絶対に売らないでくださいよ? それにしても、小田さん凄く素敵な人なんだね」

 

「ぅ……ん……ギタリストとしても憧れだし……優しくて……カッコよくて……うぇへへ……」

 

 思わずとんでもなく語ってしまった……でも護さんの話となると止まらなかった……優しくてカッコイイのは……事実だし……

 

「こんな話聞かされたらやっぱり今から行くべきだよ! 答えを聞く為にも関係を元に戻す為にも!」

 

「で、でももう夜だし……迷惑なんじゃ……」

 

 虹夏ちゃん……諦めてなかったんだねそれは……

 何とかそれだけは言い逃れを……も、もう少しだけ時間を……ください……

 

「そう言うと思ってここ(STARRY)に呼び出した、これで奴も逃げられまい」

 

「私も逃げられないんですがぁ!?」

 

 あ、詰んだ。

 詰みましたサヨナラ私のメンタル。

 

「はぁ〜……だから二人とも先走り過ぎなんですって……でも仕方ない、こうなったら腹を括りましょうひとりちゃん」

 

「ど、どうしてええええええええええええ……」

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここ、どこ……人……怖い……」

 

 3年前、ギターもまだ始めたての頃。

 いつかは自分のギターを持ちたいなんていう陰キャらしくも無いイキった思考から、学校の帰りに少しギターショップを覗いて見たいという感情が生まれてしまい入ってしまった。

 いや、入ったまでは良い、問題はそこからだった。

 あまりにも夢中になってしまって、お店を出る時には既に真っ暗になってしまっていた。

 そして慌てて帰ろうとしたのが失敗で、道を間違えて迷子に。

 

「ん? どうしたキミ? 大丈夫か?」

 

「ピエッ!!」

 

 そんな時に出会ったのが護さんだった。

 最初こそコミュ障大発動で凄く迷惑を掛けてしまったと改めて思ってしまう。

 それでも、初対面でコミュ障発動した私の話を気長に待ってくれて。

 

「なるほど、取り敢えずあのギターショップまで戻れば道は分かる感じ?」

 

「は……ぃ……」

 

「分かった、取り敢えずそこを目印に向かおうか」

 

 お店に戻るまでに話した事はほぼ無かった。

 でも

 

「ギター、やってるの?」

 

「ぁぅ……ま、まだ始めたて、で……」

 

「楽しい?」

 

「(高速縦首振り)」

 

「そっか、そりゃ良かった」

 

 そう言っていたのは良く覚えている。

 

「ぇ……!?」

 

「これ、ギターストラップ。俺が子ども時代に使ってたお古だけどかなり良いものだからさ。ここで会ったのも何かの縁だと思うし、要らなかったら良いけど……良かったら使ってやってほしいんだ」

 

 そしてそこから更に自宅まで送ってくれて。

 去り際に、ギターストラップまで貰ってしまった。

 どうやって感情を表して良いか分からなくて、とにかく首を縦に振って貰ったのを覚えている。

 そのストラップは……今でも私の相棒だ。

 引きこもって弾いていた時も、ギターヒーローとしての私の時も、結束バンドとしての私の時も、いつだって。

 絶対手放してやるもんか、護さんからの人生で初めて貰ったものなんだ……たとえ私が陰キャで冴えなくても、護さんの事には妥協はしたくない。

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと外の空気吸ってきても……?」

 

「……焚き付けた私が言うのもどうかと思うけど、大丈夫?」

 

「……もう、覚悟はき、決めました……」

 

「そっか」

 

 外は澄んだ空気をしていた。

 吸って吐いて、繰り返して、気持ちを落ち着ける。

 こうなったら最早やるしかない、あそこで逃げてしまった私はもう……いない、多分……

 

 

 もうすぐ午後8時。

 夜空には満点の星と月が私を照らし出していた。




小田護の所属するバンド
5人組の変幻自在バンド(リーダー談)
ドラム担当含む全員がボーカルをやれるポテンシャルを持っている歌唱力最強バンドだが基本は護とその幼馴染によるツインボーカルで組み立てている
護と幼馴染以外には『ノリツッコミの激しい関西出身のベーシスト』『学生時代は全国模試1位常連だった5人組の頭脳担当キーボード』『自称没個性だがデスメタルを歌わせれば天下一品のバンドリーダー且つドラム』が存在している
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