ふたりぼっち   作:関西在住匿名希望(334)

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「らしくないね、護が緊張してるなんて」

 

「そらそうやろ、誰か一人の気持ちに答える為の曲として作るなんてコイツがした事あると思うか?」

 

「……まあ、有り得ないですね」

 

「護、お前はドンと構えておれば良い。その為にここまで返事を待たせたのだろう? 違うか?」

 

「まあ……そりゃそうなんだが……」

 

 ライブ当日、俺は死ぬ程緊張していた。

 今までに感じた事が無いくらいの胃痛と身体の震えで計らずしてこれがひーちゃんの感じてるものなのかと感じたり感じなかったり。

 自分で決めた事とはいえこんなにも情けない事になるのかと笑う事すら困難な自分にドン引いていた。

 

 あの日、ひーちゃんに向けたアンサーソングを作詞してくると豪語した俺はその足で再びメンバー達と合流すると

 

『あの曲の歌詞、今なら絶対に俺の納得するものが書ける』

 

 そう言った。

 メンバー達は全員その意図を察したのか生暖かい目線を送ってきやがったのが何とも言えない敗北感を覚えたが、それもそこまで気にならないくらいその時は何を差し置いても歌詞を書きたかった。

 

 歌詞を書く事に没頭する為に再合流後すぐ帰宅した俺は寝る間も惜しんで、ひーちゃんへの想いを歌詞にしたためた。

 日が昇り、もう一度沈み、日付が変わり完成した頃には睡眠不足と空腹と疲労で脳みそがぐるぐると回っていたが、それとは裏腹に気分はスッキリとしていたのを思い出す。

 

 そうして完成した歌の練習やリハーサルを重ねて今日この日を迎えた。

 そう、そこまでは良かった。

 後はひーちゃんに気持ちを伝えるだけだ、たったそれだけの事だ。

 

 だが、そう思うと『遂にここまで来てしまった』という感情に襲われてしまいバンドのインディーズデビュー日ですら感じなかった程のプレッシャー、重圧、緊張に押し潰されかけてしまっていた。

 自分でこの場をセッティングしておきながら何とも情けない話である。

 

「我等のバンドでやる時は何も考えるな、ソロの時は後藤ちゃんの事だけ考えろ、それでどうにかなる」

 

「…………分かった。俺だって漢だ、やる時はやってやる」

 

 だがここで立ち止まっていてはあの子に良いところを見せられない。

 幸か不幸か、新曲発表枠は毎度トリではある。

 そこまでに無心でライブでギターを弾いて心を落ち着かせれば良い。

 

「それじゃあそろそろ時間だし行こうか」

 

 パンッと頬を叩きふぅ、と息を吐き出して目の前を見据える。

 折角親友達が今回だけ俺の為に用意してくれた舞台だ、無駄になんて出来る訳が無い、元よりするつもりも毛頭無いが。

 

 雑音を耳から追い出し、メンバー達を見て駆け出し幕が上がった。

 

 

 

 

 

「皆の者、今宵も我等に酔いしれろッ!!」

 

 白手袋にマントを羽織った男の人……護さんの幼馴染と聞いてる人がそう言うと共にライブハウスに詰めかけた満員のお客さんから歓声が上がる。

 護さん達のバンド……こうして本当の意味でお客さんとして来るのは初めてだ。

 何回か生で聴かせて貰った事はあるけど……やっぱり人が密集しているところは怖くて中々来る事が出来なかった……憧れの護さんのライブだし観たいとは思ってたんだけど……

 

(と、というか……きょ、今日はどうしたって純粋には聴けないよぉ〜)

 

 あの日、護さんに言われた言葉。

 

『頼む。ひーちゃんの気持ちへの答えを、アンサーソングを、君にだけに向けて作る歌で、答えさせてくれないか?』

 

 この言葉を聞いてから、ドキドキというか胃痛と緊張が収まることが無かった。

 二週間待たされるという事実を聞いたとて、一体私はどんな答えを受け取る事になるのか何も分からない。

 私がもう少し恋愛に明るいなら分かったのかも知れないけれど……

 

 あと何故か、虹夏ちゃんにも喜多ちゃんにもリョウさんにも生暖かい目で見られていたのが謎だった……なんだったんだろうあれは……

 

「それではMCもそろそろに早速一曲目ゆくぞ!!」

 

 色々とぐるぐる回る思考を強制的にシャットアウトさせられる声。

 そして大音量で響き渡るギター、ベース、ドラム、ボーカルの音と声。

 護さんのバンドは多彩なジャンルから披露されると聴いていたけれど、演奏技術も……凄い。

 

 でも、何よりも……

 

(護さん……カッコいいなあ……)

 

 いつも見ている姿もカッコいいけれど、スポットライトの下で堂々とギターを鳴らして歌う姿は、あまりにも眩しくて。

 あんな風に少しでも輝けたら、キラキラと出来たら。

 今までだって思っていたけれど、そう思わずにはいられなくなってしまう。

 

 でも、だからこそ私には遠い存在の様に思えてしまって。

 

(私なんかが護さんとなんて釣り合わないや……)

 

 凄いと思ってしまうからこそ、想像していた何倍も輝いていると分かってしまうからこそ、私には手の届かない存在なのだと痛感させられてしまう。

 勢いでしたキスだって、私なんかがしちゃいけなかったんだ。

 

 ドンドン暗い気持ちが心を支配していくのが分かった。

 そのまま私は、聴こえているのかどうかすら朧気になったバンドの演奏を棒立ちのまま見つめる他無かった。

 

 

 ――どれだけの時間が経っただろうか、ふと意識が戻ってくると丁度演奏が終わるのと同時だった。

 

「みんなありがとう~。さて、バンドとしてはこれで終わりだけど最後にメインイベント! 護の新曲で今日は〆とさせていただきます! ……頑張れよ、護」

 

「おう」

 

 もう最後まで来てしまったのか。

 帰ろうにも護さんの答えが気になってしまう強欲な自分に負けて残ってしまった。

 あとどうしたってこの満員の中人混みを分けて通るのはぼっちの私には無理があり過ぎた……私のバカ……

 

「あー、あー、ごほん。どうも、今回のトリは俺のソロ新曲になってます」

 

 ザワザワと私の周り……お客さん達がざわめき立つ。

 期待に満ち溢れた目だ……私と違って純粋な目だ……

 

「この曲はいつもの新曲とは少し毛色が違っていて、その……とある一人の大切な人に贈る歌になっています」

 

 ざわめき立っていた客席が今度はシンとなる。

 

「誰に贈る歌かって言うのは流石に言えないんですけど、俺の人生を変えてくれた……バンドを続けようと思わせてくれた、そんな俺の大切な人へ向けた曲です」

 

 不意に護さんが私を見た様な気がした。

 真剣な眼差しで、聴いていてほしいと、そう懇願する様に。

 ……そんな真剣な、カッコいい目で見られたら……聴くしか無いじゃないですか……

 

「それじゃあ聴いてください――『ふたりぼっち』」

 

 ――それは、普通に聴けば夢を諦めかけていた男の子が冴えない引っ込み思案の女の子と出会いふたりぼっちの時間を紡いで変わっていく、そんな歌だった。

 ぎこちなくも仲良くなっていく内に、男の子は引っ込み思案でも頑張る女の子の姿に勇気を貰って夢をもう一度追い掛けて。

 

(……護さんの気持ちなんだ、これが)

 

 そして男の子は次第に女の子に『知らない感情』を抱き始める。

 それが何なのか分からない、けれど成長していくに連れてその感情の答えが分かってきて。

 

 答えが明確に分かった時――

 

「『君が好きなんだ。たったふたりぼっち、小さな世界かも知れないけれど。一生一緒の、君とだけの世界を見ていきたいんだ』」

 

「あ……」

 

 それは、声にならない声になって。

 

 

 

 

 

 二人きりの時間が好きだった。

 何者にも邪魔をされず、少しの会話と心と心の意思疎通が出来る静かなあの『世界』が好きだった。

 心地良くて、嫌な事や苦しい事を忘れてただただ純粋に身を委ねて流されていくあの時間が、好きだった。

 だけど自然とそういう関係になって、当たり前にそこにあって、なんの疑問も抱かずにいたからこの気持ちに気付く事が出来なくて。

 

 ようやく気付いたんだ、この気持ちに。

 もう何年も前から持っていたこの気持ちに。

 

 君が好きなんだ。たったふたりぼっち、小さな世界かも知れないけれど。一生一緒の、君とだけの世界を見ていきたいんだ。

 

 

 それは歌詞なのか、自分の気持ちなのか。

 ちゃんと歌えているはずだが、混ざり合って溶け合って、でも最前線に見据えるあの子には――

 

「あ……」

 

 気付いているのかいないのか、驚いた様な顔をしたと思えばその表情のまま涙をぽろぽろと流すその姿に、思わず微笑んでしまって。

 

 ラスサビが終わり、演奏していた手を止める。

 やり切った、緊張していた気持ちは届けたい人の表情を見てスッと軽くなるのを感じられて、これ以上無い成功を感じる事が出来た。

 

「……ありがとう。届いたかな、俺の気持ち」

 

 本来はここで『お客さん』に礼を言わないといけないが、今日だけは『ひーちゃん』にだけ伝えたかった。

 客席も『誰か』までは分からずとも意図は伝わったらしく、温かい拍手を貰った……良いファンに恵まれたんだな、俺。

 

 改めて気付かされた事にも胸が熱くなるのを感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……よっ、聴いていてくれてありがとう……ひーちゃん」

 

「……私なんかが……護さんの隣にいて良いのかって……曲を聴く直前に思ってしまいました」

 

 ライブ後、打ち上げや感想会は後回しで良いとのメンバーのお節介もといご厚意に甘えて飛び出してひーちゃんと二人きりで久々に会っていた。

 夜空の綺麗な公園のベンチ、少し殺風景だが俺達らしいのかも知れない。

 

「スポットライトに照らされる護さんを間近で見て、こんなに輝いてる人の隣に私がいるのは釣り合わないんじゃないかって……告白も後悔して……」

 

「っ……ひーちゃん……」

 

 俺は何も言えない。

 全ての言葉、本音を受け止めるのだと決心した。

 そんな事無いよと今すぐに抱き締めたくなる気持ちを抑える。

 

「でも……曲を聴いて、こんなにも……こんな私の事を大事に見てくれて、えと……好きだって伝えてくれて……何よりも、私の姿が護さんの力になっていたんだと気付けて……嬉しくて……」

 

「……うん。俺はね、ずっと昔からひーちゃんに勇気を貰っていたんだ。その頃からきっと俺はキミに恋をしていたんだろう。でも、恋愛なんてした事無かった俺はこれが恋心だと気付けなかった。でもやっと分かったんだ、二人の時間が心地良かったのも、ずっと二人でいられれば良いと思えたのも、全部ひーちゃんに惚れていたからなんだって」

 

 だからこそ、精一杯の言葉を、本当の言葉を、さらけ出す。

 

「もう一度、つ、伝えます……」

 

「うん」

 

「私……私、護さんの事が好きです。お、男の人……として、大好きです。……誰にも渡したくない……んです……だから……だから、わっ私と……お付き合いしてくださいっ」

 

「ああ。俺もひーちゃんの事が大好きだよ。まだまだヒヨッ子なバンドマンだけど、きっと、いや……絶対、一生を掛けて幸せにするよ。だから……喜んで」

 

 瞬間、ひーちゃんが俺の胸に飛び込んで来る。

 全くこの子は……折角慣れないお洒落をしてきているって言うのにそんなのお構い無しに泣きじゃくっちゃってさ。

 

 でも、そんなところがそこはかとなく愛おしくて。

 

 

 

 たったふたりぼっち、星座になるにはあまりにも小さいけれど。

 

 

 それで良い。

 

 

 だって、俺には『ふたりぼっちの星座』が何よりも幸せな空間なのだから。

 

 

-ふたりぼっち fin-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ デートのワンシーン

 

「ま、護くん……? さすがにこの格好で出掛けるのはす、凄く緊張するんですけれど……」

 

「その清楚な服装、めちゃくちゃ可愛いからもっと見たいなーと思ったんだけど……ダメだったかな?」

 

「ピエッ!! そ、そそそそそんな褒められると……ヒョエッ」

 

「あ、溶けた……うーむ、人前で着せるにはまだ早かったかなぁ……」




『星座になれたら』の「君と集まって星座になれたら」このフレーズに心を鷲掴みにされたまま作った本作
最後まで突っ走りましたが、楽しんでもらえたなら何よりです
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