遅れまくってすいませんでした。今後はもう少し早く更新できるようにしていきます、多分。
その日、ミドガル魔剣士学園は襲撃を受けた。
学園を襲う下手人らは自らをシャドウガーデンであると名乗り、大勢の生徒を人質に立て籠っている。
加えて襲撃者以外の誰もが何故か魔力を練ることが出来ない異常な状況に置かれ、学園内にいた騎士も既に複数名がやられた。
外部からの応援も滞り、ミドガル魔剣士学園は未曾有の危機的状況にある。
その異常事態の最中、シド・カゲノーはシェリー・バーネットと共に学園内を駆け巡っていた。
今回の状況を作り出した原因であるアーティファクト「強欲の瞳」。
その効果は、一定範囲内において記録させた魔力以外を練れなくさせるというもの。
これにより学園側は魔剣士の力の根幹である魔力を封じられ、抵抗することも出来ずにいた。
これを解決するには、強欲の瞳を制御装置で停止させるしかない。
その制御装置を完成させるべく、テロリストの跋扈する危険極まる学舎内を移動していた。
道中邪魔をしてくる敵からシェリーを(本人にバレないように)守りながら、目的地の備品室が見えたところで────
「こんなところにいましたか」
ソプラノの声音が廊下に響く。
声の主は奇妙な格好をしていた。
身体を覆う黒のローブは他の構成員と同様だが、それ以上に目を引くのは頭部の覆面。
否、紙袋だ。
買い物で使うような薄茶色のソレで頭をすっぽりと覆い、視界を確保するための2つの穴が雑に開けられている。
袋から漏れ出た銀の長髪が覗くが、被り物のインパクトには勝らずその存在感を失っていた。
「シェリーの知り合い?」
「い、いえ……」
突然姿を見せた怪人を前に変わらぬ様子のシドと困惑するシェリー。
「あ、あなたは……?」
「私は……いえ。人に名前を尋ねるなら、まず自分から名乗るべきでは?」
「あ、ハイ! シェ、シェリー・バーネットです!」
「知っています」
「えぇ……」
備品室の扉の前に立つ人物は名乗らせるだけ名乗らせ、自分は名乗るそぶりすら見せなかった。
分かったのは、声音から恐らく女性であることだけ。
「君はなんでここに?」
「貴方たちの目的はこの部屋にある物でしょう」
「!?」
自分たちの目的が看破されていることに、またしてもシェリーは驚きを隠さなかった。
「ど、どうしてそのことを!?」
「さぁ、何故でしょう」
クツクツと、どことなく底意地の悪さが垣間見える笑い声を見せると、
「とはいえ、特に邪魔するつもりはありません」
「え?」
怪人は驚くほどあっさりと道を空けた。
「いいの?」
「構いませんよ。私はあの男の部下のつもりはないので」
「あの男……?」
あの男、というのが何者かは知る由もないが、それを詮索する猶予はない。
気になる点は多いが、今優先すべきは備品室にあるアーティファクトの制御装置を作るための材料を集めること。
「じゃあ遠慮なく。行こうか、シェリー」
「あ、はい! えと、貴女は……」
「お気になさらず。名乗る程の者ではないので」
結局最後まで名乗ることなく、紙袋を被った何者かはシドとシェリーと入れ替わるように去っていった。
果たして彼女は敵か、味方か。
それすら曖昧なまま、2人は事件を解決すべく再び動き出した。
「この距離で気づかないとは……まぁ、鈍いのは知っていましたけど」
◇◇◇◇
ミドガル魔剣士学園占拠事件は、一応の解決を迎えた。
とはいえ、直ぐにいつもの日常が帰ってくる筈もない。
校舎は火を放たれたことで一部炎上。それにより建て替えを余儀なくされたため、学生たちには早めの夏休みが与えられることに。
学園側が長期休暇の前倒しに踏み切った理由は、それだけではない。
確かに凄惨な事件は終わったが、事件に巻き込まれた生徒達の心に傷を残した。
死者・負傷者多数。
学園をテロリストの手から護り通さんとした立ち上がった勇敢な魔剣士たち。犠牲者となったのは学園の教師陣だけでなく、その日護衛の任に就いていた騎士団の騎士までいた。
そして何より、学術学園の副学園長を務めていたルスラン・バーネットの死。
間近で殺害現場に立ち会うこととなった生徒達のメンタルケア、失った多くの人材。
未だ事件の爪痕は、深く刻まれたままである。
そして事件解決から数日。
政府公式から、今回の事件の主犯名が公表された。
学園占拠を行なった下手人の名は、シャドウガーデン。
そしてそれを率いた頭目にして主犯、シャドウ。
国際指名手配にかけられた彼らの名は、こうして表舞台に晒されることとなったのであった。
◇◇◇◇
注がれた茶は、すっかり冷め切っていた。
「留学、ですか」
「うん……」
事件から一週間。
義父であるルスランの葬儀を終え、シェリーは学園内では数少ない無事であった保健室に足を運んでいた。
自分の数えるほどしかいない中で、一番最初の友人のもとへ。
別れを告げるために。
「学術都市で、アーティファクトの研究をするんです。だから、暫く王都には戻れません」
「……そうですか」
告げられた言の葉に、カレンはさして感情の色を見せずに返事をした。
冷めたカップを口につける。
殆ど味は感じなかった。うっかり砂糖を入れ忘れていたようだ。
「じゃあ、私そろそろ行きますね。また……」
「シェリー」
去ろうとする少女の背中を呼び止める。
「それは、貴方の義父の……ルスラン・バーネットのため?」
カレンには、少女の瞳に宿るものに覚えがあった。
それは何かを求める者特有の色。その中でも、一際重く暗い色。
地の底のような、仄暗い光。
彼女が成そうとしているのは、恐らく────
「……ううん。私のためだよ」
「それは、……いえ、そうですか」
何かを言いかけ、やめた。
それは彼女の仮初の笑顔を見たからではなく、彼女が何を成そうとしているかに気づいたからでもなく。
その資格が自分にはないことに気づいたから。
「じゃあね、カレンちゃん」
「えぇ」
唯一の友人との別れは、驚くほど呆気なく終わった。
他に言うべきことはあったのかもしれない。
かけるべき言葉があったのかもしれない。
普通はもっと、感動的なものなのかもしれない。
だが、
「Porca miseria」
自分には少女が闇に呑まれないよう祈ることしか出来ない。
だから、或いはこれで良かったのかもしれない。
そうでなければ、いつか自分はあの哀れな少女すら利用しようとしかねないから。
◇◇
自分以外の誰も居なくなった保健室。
温めなおした茶を注ぎ、砂糖をどぽどぽと自分にとっての適量を加える。
波打つ水面は、次第に凪いでいった。
脳裏に浮かぶ、魔人の力。
彼女は全てを見ていた。
事件当日に起こった出来事の、凡そ全てを。
故に知っていた。
犯人がシャドウガーデンでないことも。
真の犯人は今は亡きルスランであることも。
彼が彼等に罪を被せたことも。
燃え盛る副学園長の部屋で、何があったかも。
かつてラウンズにまで上り詰めた男を、まるで赤子のように容易く仕留めた男、シャドー。
痩騎士、否、ルスランは決して弱くなかった。
それどころかアーティファクトの力で病を治し全盛期か、或いはそれを超える力をあの時の彼は得ていたはずだった。
しかし結果はあの様。一方的にルスランを封殺してのけた。
期待をするには十分な価値がある。
引け目が無いわけではない。
だがそれでも、カレンには何より優先すべきことがある。
あの日、自分という人間が始まった日。
自分を救ってくれた、今となっては顔も声も思い出せない誰か。
探してみせる。
その為に、その為だけに組織に属し、悪虐に目を瞑り生き恥を晒してきたのだ。
悪に加担してきた自分には、いつか女神の裁きが下るだろう。
地獄すら生温い、最低の罰が。
自分と同じ目にあった者を贄にし、厚かましくも罪悪感などというものを覚えてしまった自分には、それが似合いな末路だ。
そしてカレン・オルテンシアは────
「シャドウガーデン。彼等なら、……」
────唯一の友すら、裏切ることになるだろう。
◆◆◆◆
おまけっ!!
ミドガル魔剣士学園の昼休み。
アレクシアは、再び学園の購買部に足を運んでいた。
進んであの神父と顔を合わせるつもりはないが、そうでなければ目当てのプレミアムロールケーキは手に入らない。
「いらっしゃいませ」
「今日はあるんでしょうね?」
昼休みになった途端真っ先に向かったためか、購買部には客の姿はなく一番乗り。
アレクシアは今日こそは必ずケーキを手に入れるべく店主に確認をとり、「さっさと出すもん出せ」と催促する。
「勿論だとも。客の要望に応えるのも店主の務め。こちらが当店人気No. 1商品、プレミアムロールケーキになります」
カウンターの裏から取り出されたのは、美しく飾られたまさしくプレミアムなロールケーキ。
前回のように売り切れていないことに一先ず安堵する。
「あるならいいわ。じゃあそれを──」
「────あたためますか?」
「そんなわけないでしょ!?」
おまけ 完
最後まで読んでいただきありがとうございます!
マズイな、カレンどころかシェリーのキャラまで曖昧になってきてる。また視聴し直さなきゃ・・・(使命感)。
感想、評価などしてしていただけると嬉しいです! それでは!